インドラの箱

夏風涼

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序1

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 ここは闇の中だった。
 あやかし専用監獄、「千年殺し」。
 あまたのあやかしが、この場所に収監され、皆、希望を無くしたように、両肩をひどく下げ、うつむき、再び、空を仰ぎ見ることなどできなように思える。
 
 千年殺しに入れられた、あやかしに待ち受ける運命は皆同じ、死という帰結。
 しかし、彼らの目は今、再び光を見出した。
 
 私が来たからだ。
 私が影縫を助けに来たからだ。
 死よりも希望を見出せる物。王子の帰還だ。
 
 
 私は長い、どこまでも続くと思わせる廊下を龕灯で辺りを照らしながら、進む。
 音を殺さなければならないが、できるだけ早く、私は進む。
 石畳に床は冷たく、足袋ごしでも冷気が足裏から伝わる。
 
 だが、私の身体は熱を持っていた。
 緊張、昂揚、どの言葉を使えば適当だと分からない。私は恋人の影縫を助けるため、鼓動が激しくなり、身体を巡る血液は沸騰し、身体中がまるで一種の麻薬をやっているように、酷く覚醒している。

「お嬢ちゃん、突き当たりに王子はいるよ」
 
 あやかしたちは、微かな声ですら立てることはしなかった。
 ここで異変に気づいた「あやかし狩り」に見つかったら、全て台無しになる。
 
 だから、一人だけ私に影縫の場所を教えてくれた。
 それはとても微弱で、そよ風が耳を通る音よりも小さい。
 けれども、それで十分だ。
 扉のついた鉄格子の中を照らす。

「影縫!!」
 
 私は思わず、声を上げてしまった。
 惨憺な彼の状況を見てしまったからだ。
 濡羽色の美しい両翼は完全に羽をもぎ取られ、痛々しい白い肌を露出している。
 龕灯の光を彼の身体に当てる。
 身体中に残る、深い鞭の跡、突きつけられた刃物の跡。
 至る所に打撲の跡が残り、彼が今まで何をされてきたのかがハッキリと分かる。
 しかし、影縫は私の顔を見た瞬間喜色を帯びた。

「凪紗・・・・・・」
 
 高く通った鼻梁。翼と同じ色の艶のある美しい黒い短髪。
 何より、美しい青碧の瞳は、見ただけで虜にされる美しい造作だ。
 口元に弧を描いた彼の笑顔は私の鼓動をさらに早くさせる。
 けれども恍惚としている場合ではない。

「影縫、逃げるよ」
 
 彼はゆっくりと頷いた。
 鉄格子の中はあやかしが術を使えないよう、結界術が施されている。
 しかし外ならば、鉄格子の外ならば、私は妖術を使うことができる。
 腰に差した、小太刀の柄を掴む。

「我、月の光を操る者、天穹に浮かぶ月よ、我に力を授けたまえ」
 
 妖術、人間は本来、力を持っていない。
 だが、あやかしと人間の争いの中、人間はあやかしを研究し、彼らの力を人にも使えるように開発した。
 それを妖術と言う。
 妖術は基本的に訓練を積んだ人間にしか使えない。
 あやかしを殺すためだけに幼い頃から特別訓練を積んだ、あやかし狩りだけしか使えないことになる。
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