インドラの箱

夏風涼

文字の大きさ
5 / 21

序5

しおりを挟む
「どうしてだ? 何故お前がここにいるっっ!?」
 
 私は全くバレていないとは断言できなかった。だが、隠密に事を進めようとしていたし、まさか決行日まで把握される程、筒抜けだとは思わなかった。

「あなた・・・・・・」
 
 尚登はたらこ唇を太く分厚い舌でなめ回した。

「あなたはあやかしの中に間諜がいるとは考えなかったのですか? 凪紗さん」
「何っ!?」
 
 いる訳がない。
 あやかしは人間とは違って純粋な人達。
 そんな者たちを疑うことなどできようがない。

「信じられない目ですね」
 
 そのやりとりを影縫は目を細めながら、見ることしかできていない。

「ハハハ、その通りです。愚鈍なあやかしに間諜などいない。だとすればあやかしの中に人間が混じっていないとも限らないでしょ?」
 
 しばらくの思考による硬直の後、理解した。
 迂闊だった。変化の術か・・・・・・。
 あやかし狩りの中に、暗部という、ごく一部しかしられていない謎の組織がある。
 捕らえたあやかしに凄惨な実験をしていたとは聞いていたが、まさか人間を送りこんでいるなど知らなかった。そして、その組織の首領が尚登である。

「あなたが、あやかしに捕まり、誰に惹かれ、どう過ごしてきたなど全て手に取るように知っています。そして、あなたが都に戻って、あなたの父上、頭領に隠れてどんな活動をしてきたかも全て知っています。そして・・・・・・」
 
 私は血走った目で尚登を睨みつける。
 そんな私を侮蔑した視線で黄ばんだ歯を見せつけながら、尚登は言葉を続ける。

「あなたを心配して追ってきた、この化け物と会っていたことなど全てお見通しなんですよ」
 
 もう可笑しくてたまらなかったのだろう。
 尚登の哄笑は都全域に広がるようだった。

「もちろん爆弾は撤去させていただきました。ユーロピアンの技術は凄いですね。あやかしを屠るのに使わせてもらいますね。ありがとうございます」
 
 あの強烈な光線もおそらく、ユーロピアンの物だろう。
 あやかし狩りとユーロピアン。最悪の邂逅に私は泥土を噛みしめる。

「では、あなたの残念な頭で事情が飲み込めたところで・・・・・・」
 
 尚登は動けない影縫に視線を移す。

「私はね。あなたの父上との義理もある。許嫁のあなたを殺したくない。だから未遂であることから、この件はなかったことにしたいのですよ」
 
 私は足に力を込めて立ち上がった。
 そして、すぐに動こうとしたところ、即座に後ろ屈強な男達に羽交い締めされる。

「離せ! 離せ!」
 
 もがく私に尚登はある妖刀を掴んで、近づいた。
 
 妖刀、小太刀合口拵え、村雨。
 
 この刀は人間には普通の刃物程度の意味しか持たないが、あやかしにとっては絶大な効果を発揮する。
 斬られたら血は止まることはなく、それこそ妖術でも用いなければ助からない。

「あなたは美しい人です。私はあなたとの婚約出来る日をずっと待ち望んでいました」
 
 私は今、魅力的な恰好からほど遠い姿をしている。
 
 頭巾を被り、小袖と裁付に、脚絆。すべて黒に統一されている。あやかし狩りの伝統的な装束の一つだ。
 しかし、動けない私に尚登は頭巾をぞんざいに掴んで、投げ捨てる。

「美しい、実に美しい・・・・・・」
 
 尚登は垂れ下がった目は蕩けそうな目つきになる。
 私の顔がそんなにも好きなのだろう。
 
 だが、私はそんなことに気を回している場合ではない、私の身に何が起ころうが、どうでもよく、それよりも影縫だった。なんとしてでも影縫を助け出したい。
 そして、こんな状況に強いた尚登を強い憎しみを持って睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

白椿の咲く日~遠い日の約束

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がいた。 稚子と話をしているうちに、真由子は雪江と庭の白椿の木に、何か関係があることに気がつき…… 大人の恋物語です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ヘンタイ好きシリーズ・女子高校生ミコ

hosimure
恋愛
わたしには友達にも親にも言えない秘密があります…。 それは彼氏のこと。 3年前から付き合っている彼氏は実は、ヘンタイなんです!

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...