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私の人生
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息を切らして走る。
なぜ? どうして?
こんな言葉がぐるぐると頭を回る。よろしくねと言ったのは嘘だったの? 私の元に帰ってくるのではなかったの?
なぜ王妃様が亡くなって痛みを分かち合えるはずの私ではなく、彼女を頼るの?
どうしてあなたは今彼女のところにいるの?
私はあなたの何?
息苦しさに立ち止まる。気づけばぽたぽたと、涙が溢れていた。
「う……っ、うぇ」
彼は私のことを好きではないということに今更気づいた。
私はなんて馬鹿だったんだろう。
次の日に学園に行けば、王妃様が亡くなったことと一緒に、ルドルフ様を男爵令嬢が慰めていたことが噂として流れていた。
私に声をかける人なんていない。
皆、遠巻きに私を見ていた。
「ミーア様はどうして何も言わないのかしら」
「可愛そうに……、流石に王子には言えないのでなくて」
「ミーア様は平凡な方ですもの。王子があちらにいくのも仕方ありませんわ」
彼から婚約を解消したいという申し出は無かった。また、私の方から婚約を解消したいと言うことも出来なかった。彼の気持ちが彼女にあると分かっていても好きだった。
ルドルフ様が卒業すると、最後の一年間は平穏だった。嵐の前の静けさのような先の見えない空気が常に漂っていた。
彼女と学園内で会うこともなく、卒業すると、ルドルフ様と私の結婚式への準備が始まった。
卒業から一年後、明日の結婚式の前に父に執務室へ呼ばれた。滅多に入れないそこに足を踏み入れると知らない場所に来たようだった。
「お父様」
「……ミーア。君は」
父は口を閉ざすと、言葉に詰まったように顔を振る。
「彼との結婚を辞めたいと思わないのかい?」
私は目を見開いた。父はきっと彼と彼女のことを知っていたのだ。
父になら結婚を取りやめることはきっと出来る。
思わず目頭が熱くなる。私はきっと、彼女の隠れ蓑として妃になるのだろう。彼は私を盾にして、彼女を守るのだ。亡き王妃様の顔がよぎる。あなたは、立派な王妃になれますよ。そう声をかけて頂いたのだ。かけがえのない王妃様に多くの時間を掛けて教えてもらった。
ルドルフ様が私を好きでないと分かっていても、それでも好きだった。
「いいえ、お父様。明日私はルドルフ様と……、第一王子と結婚しますわ」
「……そうか」
これが親子最後の会話だった。
私たちの結婚式は贅を尽くしたものだった。教会の中で金色で縁取られた書類にサインをして、豪華な馬車で王都を走って、民に笑顔で手を振る。
横に立つルドルフ様の顔を盗み見ても何を思っているか私には分からない。
気づけば、結婚式のあまりの忙しさと慣れないことをした緊張で気づかなかったのだけど、私たちは誓いのキスすらしなかった。
その日の夜、侍女からルドルフ様は来ないことを知らされた。侍女の憐れんだ顔を見れなかった。
一緒に寝ることはないと自分の口から伝えることすらルドルフ様は放棄した。
その三週間後、ルドルフ様と卒業したばかりの彼女は身内のみの小さな結婚式を挙げた。私はその日を王宮の侍女たちの噂話によって知っていた。
どうしても気になり、変装し、一人で勝手に城を抜けて王都の端の小さな教会で行われていたそれを覗き見た。
ルドルフ様と彼女は神の前でキスをし、それはそれは幸せそうに笑い合っていた。
私はルドルフ様にあんな笑顔を一度だって向けててもらったことがない。
私の人生はこの二人の犠牲になるのだと、枯れきったと思っていた涙が溢れて止まらなかった。
彼から、側妃として彼女が王宮に入ったことを書類越しに言われた。
彼がわざとそうしたのかどうなのか彼女との住まいはとても離れていた。
普段歩いていて会うことは無い。
王族主催のパーティーや夜会にはルドルフ様は私をエスコートしてくれたが、話しかけることなんてできず、会話はほとんど無いに等しい。
パーティーでは、必死に笑顔を浮かべ、仲睦まじいとは行かないまでも、冷めていない夫婦を演じた。普段笑わないからか、笑顔を駆使するといつも頬が痛んだ。
王妃として王宮のお金の帳簿、他国の妃や夫人とのやり取りの手紙、お茶会やパーティーの準備など、常にやることがあって、いいように使われているだけだと分かっていても、頼りにされていることが嬉しくて頑張っていた。
なぜ? どうして?
こんな言葉がぐるぐると頭を回る。よろしくねと言ったのは嘘だったの? 私の元に帰ってくるのではなかったの?
なぜ王妃様が亡くなって痛みを分かち合えるはずの私ではなく、彼女を頼るの?
どうしてあなたは今彼女のところにいるの?
私はあなたの何?
息苦しさに立ち止まる。気づけばぽたぽたと、涙が溢れていた。
「う……っ、うぇ」
彼は私のことを好きではないということに今更気づいた。
私はなんて馬鹿だったんだろう。
次の日に学園に行けば、王妃様が亡くなったことと一緒に、ルドルフ様を男爵令嬢が慰めていたことが噂として流れていた。
私に声をかける人なんていない。
皆、遠巻きに私を見ていた。
「ミーア様はどうして何も言わないのかしら」
「可愛そうに……、流石に王子には言えないのでなくて」
「ミーア様は平凡な方ですもの。王子があちらにいくのも仕方ありませんわ」
彼から婚約を解消したいという申し出は無かった。また、私の方から婚約を解消したいと言うことも出来なかった。彼の気持ちが彼女にあると分かっていても好きだった。
ルドルフ様が卒業すると、最後の一年間は平穏だった。嵐の前の静けさのような先の見えない空気が常に漂っていた。
彼女と学園内で会うこともなく、卒業すると、ルドルフ様と私の結婚式への準備が始まった。
卒業から一年後、明日の結婚式の前に父に執務室へ呼ばれた。滅多に入れないそこに足を踏み入れると知らない場所に来たようだった。
「お父様」
「……ミーア。君は」
父は口を閉ざすと、言葉に詰まったように顔を振る。
「彼との結婚を辞めたいと思わないのかい?」
私は目を見開いた。父はきっと彼と彼女のことを知っていたのだ。
父になら結婚を取りやめることはきっと出来る。
思わず目頭が熱くなる。私はきっと、彼女の隠れ蓑として妃になるのだろう。彼は私を盾にして、彼女を守るのだ。亡き王妃様の顔がよぎる。あなたは、立派な王妃になれますよ。そう声をかけて頂いたのだ。かけがえのない王妃様に多くの時間を掛けて教えてもらった。
ルドルフ様が私を好きでないと分かっていても、それでも好きだった。
「いいえ、お父様。明日私はルドルフ様と……、第一王子と結婚しますわ」
「……そうか」
これが親子最後の会話だった。
私たちの結婚式は贅を尽くしたものだった。教会の中で金色で縁取られた書類にサインをして、豪華な馬車で王都を走って、民に笑顔で手を振る。
横に立つルドルフ様の顔を盗み見ても何を思っているか私には分からない。
気づけば、結婚式のあまりの忙しさと慣れないことをした緊張で気づかなかったのだけど、私たちは誓いのキスすらしなかった。
その日の夜、侍女からルドルフ様は来ないことを知らされた。侍女の憐れんだ顔を見れなかった。
一緒に寝ることはないと自分の口から伝えることすらルドルフ様は放棄した。
その三週間後、ルドルフ様と卒業したばかりの彼女は身内のみの小さな結婚式を挙げた。私はその日を王宮の侍女たちの噂話によって知っていた。
どうしても気になり、変装し、一人で勝手に城を抜けて王都の端の小さな教会で行われていたそれを覗き見た。
ルドルフ様と彼女は神の前でキスをし、それはそれは幸せそうに笑い合っていた。
私はルドルフ様にあんな笑顔を一度だって向けててもらったことがない。
私の人生はこの二人の犠牲になるのだと、枯れきったと思っていた涙が溢れて止まらなかった。
彼から、側妃として彼女が王宮に入ったことを書類越しに言われた。
彼がわざとそうしたのかどうなのか彼女との住まいはとても離れていた。
普段歩いていて会うことは無い。
王族主催のパーティーや夜会にはルドルフ様は私をエスコートしてくれたが、話しかけることなんてできず、会話はほとんど無いに等しい。
パーティーでは、必死に笑顔を浮かべ、仲睦まじいとは行かないまでも、冷めていない夫婦を演じた。普段笑わないからか、笑顔を駆使するといつも頬が痛んだ。
王妃として王宮のお金の帳簿、他国の妃や夫人とのやり取りの手紙、お茶会やパーティーの準備など、常にやることがあって、いいように使われているだけだと分かっていても、頼りにされていることが嬉しくて頑張っていた。
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