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私の人生

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 「オリファント嬢は……、は違ったね、お妃様か」
 「……そんな呼ばれ方はしたくないわ」


 妃と言えるほど、彼を支えられているわけではない。妃というならずっと彼女の方が、その役割を果たしている。その身には後継ぎを身籠っているかもしれないのだ。王族の妃として、最も果たさなければならないことを彼女はしている。
 私なんて妃どころか、せいぜい文官か。そう思うと私はなんて必要のない人間なんだろう。

 「じゃあ、ミーア様かな」
 「様なんていらないわ」
 「……そう、分かった。ミーアと呼ばせてもらうよ」
 「ええ……。それでお願いするわ」

 ミーアだなんて、呼ばれたのはいつ以来だろうか。父に呼ばれたのが、最後のような気がした。


 王宮の庭の前を通ると、遠くに彼と彼女が見えた。ずきり、と胸が痛んだ。
 もうこの場所は、ルドルフ様にとって私との思い出の場所では無くて、彼女との思い出なのだわ。

 思わず視線が下がると、ホーガス様が動き、逆隣に並んだ。
 私が視界に入れないようにわざわざ動いて、壁になってくれたようだ。
 その気遣いに止まったはずの涙が出そうだった。

 「ここまで送ってくれてありがとう。助かったわ」
 「いえ、こちらこそいつもありがとう。ミーアの書類は分かりやすいからね、助かっているよ」
 「まあ……、当然のことよ」

 ホーガス様には結局部屋の前まで送ってもらった。会話はあまり無かったが、それが苦しいわけでもなく、心地良かった。

 「……ところで、だれもいないようだけど、侍女や護衛は?」
 「侍女は今日は休みよ。体調を崩してしまったようで……、護衛は夜はいるわ」

 そういえば彼女付きの侍女は3人いた。私には基本1人しかいなかった。侍女はちゃんと仕事をこなしてくれるが、何か私語を話したことはほとんどない。
 私と彼女の差はそんなところにもあるのかと、今更気付く。

 「それは危ないね、侍女を増やしておこう」

 驚いて、ホーガス様の顔を見る。そこには真剣な顔をしたホーガス様がいた。
 その眼に一瞬たじろぐ。
 そういえばホーガス様のお父様は宰相だ。たまにパーティーで話すことがある。ホーガス公爵の仕事を手伝っていると聞くし、侍女をつけるくらい容易いのかもしれない。きっとホーガス様は私よりも王宮について知っているのだろう。

 「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私は少ない方がいいわ。侍女の休みの時代わりの人を付けてもらえないかしら」
 「分かった……。じゃあ手配しておくよ。もしなにかあれば遠慮なく言ってね」
 「ええ、ありがとう。ホーガス様」

 笑顔でお礼を言ったつもりだったのに、なぜかムッとした顔をされた。
 私の笑顔は変だっただろうかと焦って顔に手をやる。

 「せっかく友人になったんだ。名前で呼んでほしいな」
 「友人……」

 友人なんて聞いただけで、随分甘い響きだ。友人と言える人なんていなかった。みんな上辺だけの腹の探り合いをしている関係だ。そんなものだった。

 「そうね。ありがとう、ジルト様」

 笑顔で言うと、ジルト様はにこりと笑って頷いた。
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