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私の人生
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しおりを挟むジルト様が手配してくれた侍女のおかげで、特に部屋の外に出ずに済み、彼と彼女に会っていない。
体調を崩していた侍女も戻ってきたので、平穏な日々に戻った。
また、5日に一度ほど、ジルト様が都で有名なデザートを差し入れに持ってきてくれたりするようになった。
その度にお茶会を開き、たわいのない話をするのが、気づけば楽しみになっていた。
それから2ヶ月ほど経った頃だっただろうか。
その日は、侍女に仕事を頼んで1人で部屋にいた。
なんだか、外が慌ただしい。人の怒鳴り声が遠くから聞こえる。
不安になり、なにが起きているのかを知るために、部屋を出ようとしたところ、扉が勢いよく開く。
顔を掠めた扉に目を見開くと、ルドルフ様が息を切らしてやってきた。
「レティを襲ったのは君か」
「……え?」
彼女に何かあったの? あまりの勢いに思わず一歩後ろに下がる。
髪が跳ね、顔を真っ赤にして私を睨むルドルフ様に動揺する。
「どうなんだと聞いているんだ!」
「……っ!」
突然の大きな声に驚く。人に怒鳴られるなんてことは初めてで、恐怖で身体は震えた。
「なんの話か分かりませんが……、私は何もやっておりません」
「レティを襲った盗賊はお前からの指示だと言った! 金を積まれてやったと!」
「そんなこと……! その盗賊が私の名前を言っていたとしても、誰かが私の名前でやった可能性もあります……! 私は何も知りません!」
ぎらぎらとした瞳で睨む彼に手が震え、両手を握り締める。
ルドルフ様は舌打ちをすると、一枚の書類を取り出した。
「これはなんだ?」
「……」
震える手で受け取ると、それをなんとか読む。そこにはお父様が不正をし、国に申請していた金額を偽装していたことが、書かれていた。
「な……! こんなこと有り得ませんわ!」
「嘘をつけ! この書類はレティの私物から見つかったものだ! お前の父親がやったことだろう!」
「そんな……!」
「お前はこれを隠蔽するためにレティを襲ったんじゃないのか!」
一体どういうことなの。お父様はそんなことをする人ではない。だけど、そう言い切れるほど、お父様を知らない。それでもお父様を信じたかった。
「お父様はこのようなことをする人ではないわ! 私もなにもやっていません!」
パシンッと叩く音が響いた。頬に痛みが走り、勢いのまま壁に背中を打ち付ける。
「うっ……!」
痛い。打たれた頬が熱を持ち、ひりひりと痛んだ。呆然と頬に手を押さえ彼を見る。
怒りに染まった彼の瞳に恐怖で涙が滲む。
「お前は学園でもレティを虐めていたじゃないか! 証拠が無いから、誰がやったか分からなかったが、犯人はお前だろう!? レティが三年の時は虐めは無かったと言っていた! 今回は証拠が出た上に、お前ならそうに決まっている! こいつを牢屋に連れて行け!」
気づけば近くにいた、騎士に腕を掴まれた。力の入らない足を無理やり立たされる。
そんな。どうして。どうしてこうなってしまったの。彼女が虐めてられていたなんて、知らなかった。学園で、私は彼女を虐めている者として噂にでもなっていたのだろうか。私には何も分からなかった。
「ルドルフ様……」
「こんなことなら、父上のお前を妃にしろと言うのを無視すればよかった……!」
嘆くように言うその言葉に愕然ととした。彼は、私との結婚を解消したかったのだ。けれどそれは王によって叶わなかったことだということを、今知った。
彼はその鋭く、けれど澄んだ青い瞳に私なんて全く映してはいなかった。
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