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 「き、キース様……」

 なぜいる!?? 神出鬼没にも程があるでしょ!?
 驚きで目が合ったまま固まっていると、キース様の視線が私の持っていた本に移る。
 慌てて隠すけど、もう遅い。

 「魔王……?」

 思わず顔が下がる。こんな態度ではやましいことがあると言っているようなものだ。

 「…え、っと、これは、そう! 何となく見てたら、魔王って書いてあったから思わず手に取ってしまったのよ! 何となくよ! そう! 何となく!」
 「ふうん?」

 焦って言い訳ばかりが頭を回る。冷静に考えれば、別に言い訳なんてしなくても、興味があったからとでも言えば良かったのだ。

 一歩私に近づき横に並んだ、キース様は『勇者とは何か』と書かれた本を取った。
 そんな本もあるのか。

 「キース」

 声がかかった方に振り向くと、おばあちゃんが立っていた。

 「あんた、探し物は見つかったのかい」

 その言葉にキース様を見る。

 「いいえ、まだ見つかってません」

 その言葉におばあちゃんは先程座っていた椅子へと戻っていった。
 ……キース様は何か探し物をしているのか。

 「アリア嬢」
 「え、は、はい」

 声をかけられて思わず声が上擦った。

 「さっきの素の話し方の方が好きだな」

 そう微笑むとおばあちゃんの方へ行き、店を出て行った。

 「…………」

 ……もしかして、私弱み握られた?

 呆然とキース様を見送ることしか出来なかった。



 ここは、有料の貸本屋だった。あの後とりあえず魔王の本を持っておばあちゃんの本に行くと

 「30だな」
 「え?」
 「この本は30マバラで1週間だよ」

 30マバラって、卵2つくらいの値段じゃないか。とても安い。
 慌てて、1000マバラ札を取り出す。小銭は持っていなかった。ふん、と言いつつおばあちゃんは970マバラを渡してくれた。
 ……これからは小銭を持ち歩こう。
 お釣りを受け取りつつ深く思った。

 こうして私の貸本屋通いは始まった。
 キース様とはそれ以降そこで会ってはいないが、お昼ではだいぶ弄られるようになってしまった。

 「アリア嬢がまさかまおーー「あー!! そういえばキース様先程の授業なんですけども!」
 「そういえばアリア嬢、この間も本借りーー「ええ! キース様のおかげで、そちらは解決しそうですわ!!! 本当に感謝していますわ!」

 エリーはまだしも、殿下の前で魔王の話題は焦る。処刑が近づきそうである。
 キース様は何を考えているのか、私がいないところで、殿下に魔王について話しているようではなかった。私は遊ばれていた。

 そんななかでふと気づけば、クラス別対抗魔法大会が迫っていた。
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