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 キース様はにこにこと笑みを浮かべて、近づいてきた。

 「久しぶりだね、アリア嬢」
 「……ええ、最近は中々合わず、ランチもご一緒できませんでしたものね」

 ふふふ、と微笑むがさっさと王子のところでも別の女子のところにでも行ってほしい。
 キース様に気づいた周りから視線を集め始めている。これでキース様と婚約の噂でも上がったらどうしよう。

 「キース様、殿下に挨拶しに行かなくてよろしいのですか? 私は妹が遅れてまして、待っているのですわ」

 私のセリフにキース様は肩を竦める。

 「いとこなんだから今さら挨拶もなにもないよ。それに、公式な夜会ならまだしも、お茶会だからね。無礼講だよ」


 思わず顔をしかめかけた。どっか行け、という意味くらい分かってるだろうに、私から離れる気はないらしい。
 そもそも、無礼講って殿下が言うことでは? お前が言うのかという感じである。

 「では、私は飲み物でも取りに行こうかと……」
 「僕もついていくよ」

 来なくていいよ! 叫びたくなった。こんなに視線を集めている中、一緒に行動したら変な噂が立ちそうだ。
 思わずエリーがいないか目線で探したが、いない。渋々、キース様と一緒にテーブルに近づく。
 あまり注目を浴びたくないので、端にあるテーブルを物色する。
 サンドウィッチや新鮮な果物をカラフルに盛り付けたものが置いてある。
 ちらりと近くのテーブルを見れば、すでに飲んだり食べたりしている人もいるし、特に殿下が何か話す様子も無い。

 ……もうこれ食べていいよね?

 小皿を手にするといくつかフルーツを、乗せ口にする。
 みずみずしい味が口いっぱいに広がってとても美味しい。

 「んー! すごく美味しい!」

 思わず頬を抑える。さすが王家主催。久しぶりにこんなに美味しいのを食べた。
 ミッシェルの料理に慣れすぎて、最近微妙に美味しくないなって思っていたところだ。

 「アリア嬢は、なにが好きなの?」
 「そうですわね……苺が好きです! 甘酸っぱくて、これらの苺は旬じゃないのに、すごく美味しい! どこが作ったのでしょう!?」
 「そう、ありがとう。それ僕が作ったんだ」

 は?
 すっかりキース様を忘れ、堪能していて素のまま答えた私も私だが、キース様が作ったとはなんだ?

 思わずキース様の顔をガン見する。

 「ちょっと魔法でね、空調を調節して、時期をずらすんだよ。気に入ったようで良かった」
 「え、ええ……。すごく美味しくて驚きましたわ」

 そういえば、キース様は魔導師としてすでに活動しているのだったっけ……。
 ミッシェルの言っていたことを引っ張ってくる。
 魔導師を名乗るにはまず、私たちが通っているイリーン学園を卒業するか、魔導師試験に合格するかの2択である。
 魔導師試験は大変だし、イリーン学園も入学はお金を積んだら入れるが、卒業試験は大変である。

 さくらんぼを口に入れながら考える。

 よく考えてみれば、キース様はなぜすでに魔導師なのに学園に通っているのだろう。たしかに学園でしか学べないことはあるが、みんなの目標は魔法を使えるようになることであり、学園の目的もそうだ。
 
 「アリア嬢、これも私が育てたんだけど、よかったら食べてくれないかな」
 「え? ええ……んー! 美味しい!」

 渡されたサンドウィッチのレタスがシャキシャキしていて、美味しい。
 気づけば考えていたことなどすっかり忘れ、しばらくキース様に言われるがままに食べていた。
 モリモリ食べながら思う。どう魔法を駆使すればこんなに美味しい野菜と果物が出来るのか……。


 ふと気づいて、周りを見渡せば色々な人と目が合う。その中にエリーもいてなぜか苦笑を浮かべていた。
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