朱に交われば蒼くなる

スケキヨ

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第一章:どっちのアオ?

10. 明るいミライ

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 私が素朴な疑問を口にすると、

「昨夜、朱莉あかりに嘘ついて家に連れ込んだから。だから……ごめん」

「嘘、って……」

「『弟がいる』って言ったこと。まぁ実際いたんだけど……ほんとは留守のはずだった」

 その話、ホントだったんだ。さっき、蒼太そうたくんが言ってたこと。

「そんなの、謝る必要ないよ。私だって二人と一緒にお酒飲めて楽しかったし。ちょっと飲み過ぎちゃったけど」

「それは俺も反省してる。もっと早く止めておけばよかった。そうしたら、蒼太に先を越されることもなかったのに」

「先?」

「首のソレ見たとき……ほんとにムカついた」

 蒼士そうしが私の肩を掴んで首筋に顔を埋めた。
 今朝と同じ動作だったけど、今度は噛まれなかった。

 その代わり――思いっきり吸いつかれた。

「ちょ、ちょっと! 蒼士、痛い……」

 私が小さく悲鳴を上げると、蒼士はいったん唇を離した。
 かと思うと、今度は犬のようにペロペロと、さっきまで自分が吸いついていた辺りの肌を舐めはじめたではないか!

「んっ……蒼士、待って。……んぁ、そこはダメだって……」

 いつのまにか蒼士の左手が私の胸を包んでいた。ニットを押し上げて膨れ上がった胸の先っぽを蒼士の爪がカリカリと引っ掻いてくるからーー

「あっ……ん、ぁあ……っふ」

 蒼士の指が触れたところから、ビリビリと電流のような快感が背筋を駆け抜けていく。

「……本当は昨日、あわよくば、こういうコトしようと企んでた。ごめん」

 また謝って、私の体から離れていく蒼士。

「え? ここで終わり?」

 ついつい漏れた心の声。
 蒼士が驚いたように、一瞬、目を丸く見開いた。

「続き……シてもいいのか?」

「え。あ……うーん? そうだねぇ……どうしようかねぇ」

 こういう時、どう答えるのが正解なの?
 恋愛偏差値が低すぎてわからん。
 気持ち的には……というか、身体的には……むしろ続けてほしいくらいだけど……でも、ここでガッツく女ってどうよ!?

 ここは、なけなしの「恥じらい」を総動員して断るべきではないだろうか? 
 蒼士とはずっと対等で良い友達だった。だからここで拒否して嫌われたくない。でも、ここで簡単に許して軽い女だと思われるのも嫌だ。

「う~ん……」

 私が頭を抱えて唸っていると、キッチンの方から、ガッチャーンと盛大な騒音が聞こえてきた。

 はっ! そうだった。この家にはまだ蒼太くんがいるんだった。

「今日は、やめとくか」

 蒼士は苦笑いしながらそう言うと、うーうー呻く私の頭をぽんと撫でた。
 きっと迷う私の気持ちを察してくれたのだろう。
 ほんと気が利く。頭ぽんぽんも自然だわ。

「できれば、これに懲りずに、これからも良い友達でいてほしい。せっかくまた会えたんだから。……いや、友達じゃ足りないか……」

 なになに? 何を言い出すの?
 蒼士の耳の縁が赤い。
 なに、このこそばゆい感じ。
 これは、この流れは、もしかして――。

「兄さーん! ちょっと来て! 助けて~!!」

 おい蒼太! 空気読めや。
 学生時代に戻ったみたいなこそばゆい雰囲気をぶち壊す弟に一瞬本気で殺意を抱く。

「あぁ!? なんだよ!?」

 ほら、蒼士もブチ切れてるよ。

 とは言え、なんだかんだ「良いお兄ちゃん」な蒼士は「……ったく、しょうがねぇなぁ」なんて呟きながらも、のそのそと立ち上がって音のした方へと足を向けている。
 
「朱莉」

 部屋を出ていきかけた蒼士がドアに手を掛けたまま振り向いた。

「蒼太のせいで順番がめちゃくちゃになっちまったけど。なんていうか、その……交際を前提に、友達として付き合って……ください」

 真面目こくった顔で私を見つめながら、蒼士が言った。

「……これでいいか? なんか違うか?」

 照れ隠しからか、斜め上を向いて頭をボリボリと掻く蒼士。

「フフッ。もうすでに友達だけどね。二十年前からね」

 思わずツッコむ私。
 いつもはクールな蒼士の様子がおかしくて、ついつい笑ってしまう。
 あ、嘲笑とかじゃないよ。
 なんか嬉しくて。
 そういうトコロもあったんだー……って、私の知らなかった蒼士の一面を知ることができて……うん、嬉しい。

「……よろしくお願いします。これからも。あらためて」

 私が笑顔で言うと、蒼士も顔を大きく綻ばせた。
 目尻にシワが浮かぶ。優しそうなシワ。私の大好きなシワ。
 あぁ、やっぱり好きだなぁ……と、思いながら。
 これから始まる(はずの)蒼士との新しい関係にガラにもなく胸を弾ませていたのだった。


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