朱に交われば蒼くなる

スケキヨ

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第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる

1. かまぼことか、はんぺんとか、かまぼことか。

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「あ~あ。せっかく朱莉あかりさんと再会できたのに、もうお別れだなんて寂しいな~」

 と、寂しさのカケラも見られない様子で言ってから、ぐびぐびとジョッキを煽る蒼太そうたくん。

「はいはい。ありがと。私も寂しいよー」

 適当に相づちを打ちながら、同じようにグラスを煽る私。
 中身は梅酒のソーダ割。ソーダ多め。先日の失態を反省してのチョイスである。アルコールは控えめに。
 目の前には山のように盛られたエビフライがドーンと鎮座している。
 そう。今日は来月から就職して東京に行ってしまう蒼太くんの送別会なのだ。
 テーブルを挟んだ向かいに蒼太くん、その隣には蒼士そうしが座っていて、まさに目の保養。両手に花とはこのことだね。

 お店はいつもの『うお貴族きぞく』。
 実は蒼士と七年ぶりの再会を果たした後で一緒に飲みに行ったのもこのお店だった。
 どこかで聞いたような店名だって?
 たしかに。
 しかし扱いされるのは心外である。

 全国区での知名度こそ本家の有名焼き鳥チェーンには適わないものの、地元では知る人ぞ知る魚介専門居酒屋である。いや、私が地元を離れている間に「知る人ぞ知る」ではなく、もはや地元では「知らない人はいない」ほどの人気チェーン店に成長を遂げていた。

 自慢じゃないかけど、うちの家族は十年以上通いつめている常連だ。
 まず新鮮なお刺身が美味しいし、鯵のフライとかキスの天ぷらみたいな揚げ物もイケる。

 あと忘れちゃいけないのが練り物!
 かまぼことか、はんぺんとか、かまぼことか。ワサビと醤油を付けて食べると絶品なんだな、これが。

「朱莉さん、次、なに飲む?」

 蒼太くんがドリンクメニューを手渡してくれる。

「うーん、どうしよっかなぁ。やっぱり焼酎かな」

「……あんまり飲みすぎるなよ」

 豊富なアルコールメニューを前にどうしてもウキウキしちゃう私に、蒼士が眉をひそめている。

「大丈夫大丈夫。あ、すいませーん」

 私はちょっと離れたところにいる店員さんに向かって声を張り上げた。
 今日も店内は満員だ。まだ夜の八時前ということもあり、大人だけじゃなくて子供も結構いる。さすが地元民的人気チェーン店。

「焼酎のお湯割り。お湯多めで」

 ほら、ちゃんと心得ているのだよ。との思いを込めて蒼士に向かって胸を張って見せると、蒼士が苦笑いを浮かべた。

「ちょっと蒼太くん。エビフライも美味しいけどさぁ……やっぱり魚貴族といえばコレでしょ、コレ」

 ちょっと酔いが回り始めた私。大好物のアレを箸で摘まむと蒼太くんの眼前に突きつけるように掲げてみせる。

「朱莉さん、かまぼこ好きだね」

 エビフライを齧りながら、蒼太くんが呆れたように言った。

「ここのは特別だよ。見て、この弾力」

 ぷりぷりとした弾力のある歯ごたえ。
 噛めば噛むほど口の中に広がっていく豊かな風味。
 こんなに"さかなかん"の残っているかまぼこ、その辺のスーパーには売ってないよ!

「うーん、美味しい」

 私が上機嫌でかまぼこを頬張っていると、

「朱莉、かまぼこの盛り合わせ、もう一皿頼むか?」

 目尻にシワを浮かべて優しく微笑む蒼士。
 なんて素敵なの。私の好みを理解してくれてるなんて……。

「うん! あ、でも食べ過ぎかなぁ?」

 すでに「本日の刺身十種盛り」と「本日の揚げ物盛り合わせ」と「サーモンサラダ」と「ホッケの塩焼き」と「カレイの煮付け」と「サバの味噌煮」を平らげている。全部美味しかった。さらに締めには「鮭とイクラの親子丼」と「しじみ汁」のセットを頼むつもりでいるのだ。これは外せない。

「気にすんなって。クーポンいっぱい持ってるから」

 さすが蒼士。
 でも、私が気にしてたのは懐の具合じゃなくて、胃袋の具合だ。

「ありがと。でも、今日はこの辺でやめとく」

「そうか? 遠慮すんなよ。俺、海斗かいとさんの仕事ちょっと手伝ってて、報酬がてら、ここのクーポンよく貰うんだよ」

「……海斗さん?」

 ――って誰? 

 蒼士の知り合い? いま、すんごいナチュラルに登場してきたけど。


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