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第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる
4. ユーチューバー鮫島
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*****
「おぉー、堀ノ内さん? 久しぶりー。キレイになったねー」
久々に会った鮫島さんが満面の笑みで嬉しいことを言ってくれる。絶対お世辞なのに、嘘臭さが少ない。さすが客商売。
ちなみに「堀ノ内」というのは私の苗字である。
堀ノ内朱莉。
幸か不幸か、生まれてこの方、一度も変わったことがない。
だから学生時代に出席順で並ぶときなんかは、苗字が「藤沼」である蒼士の後ろになることが多かったんだよね。
――週末。
ユーチューバー鮫島の動画はいつも自宅で撮影しているらしく、私はうちの実家から三駅ほど離れた鮫島さん家の最寄り駅まで来ていた。
懐かしい。
中学や高校の頃はよくこの辺りに遊びに来たもんだ。もちろん東京ほど栄えてはいないけど、一応、駅から直結したショッピングビルがあるし、カラオケやらシネコンやらも近くにあって、うちの地元では「遊びに行く」と言えば、この駅だったのだ。
あの頃はここでも十分都会だと思っていたけど、それ以上の都会を知ってしまうと、いかにも地方都市といった感じで何だか寂れて見える。
でも好きだけどね。
これぐらいがちょうどいいし、何より私には合ってる。やっぱり、身の丈に合う街が一番なのだ。
そんなことを考えながら歩くこと十分。
無事、鮫島さんの自宅に到着した。駅近の便利なマンションである。
オートロックを解除してもらい、さっそくお邪魔させてもらうと――
「デカっ!」
思わず叫んじゃったよ。
鮫島さんちのマンション、すっごい広い。そして、綺麗。真っ白。何だこれ、モデルルームか!?
そして部屋の奥にはオシャレなカウンターと設備の整ったキッチンが備え付けられていた。
なるほど、あの動画はココで撮ってたのか……。納得。この部屋なら撮影にも耐えられるわ。
「そういえば、鮫島さんって結婚してるんですか?」
こんなデカい部屋でひとり暮らしもないだろうと思って聞いてみると、
「ううん、ひとり」
あっけらかんとした答えが返ってきた。
「え、こんな広いマンションにひとりで住んでるんですか!?」
「なになに、気になる? ほら、俺って一応、御曹司だからさぁ、いろんな女の子に狙われちゃって大変なんだよねー」
いえ、私が気になってるのは「『魚貴族』ってそんなに儲かるの?」ってことなんですが……。
それともYouTubeの収入なんだろうか?
どっちにしてもスゴいわ。
あーあ、私ももう少し早く鮫島さんと再会してたら狙ってたかもねー。
でも、今はいいかな。
だって、蒼士がいるから。てへ。
二兎追うものは一兎も得ないのだよ。
欲張っちゃダメ!
そもそもイケメン専務を取りあうなんて、そんな恐ろしい女の争いに参戦できるほど、ルックスにもスタイルにも自信がないしね。残念ながら!
身の程を弁えているのだよ、私は。
そんな身も蓋もないことを考えながら、密かに胸をそらしていたところに――
ポーンという呼び鈴が鳴った。
「あ、蒼ちゃん来たかな?」
そうだった。
蒼士とは今日も「一緒に行こう」って待ち合わせしてたんだけど、彼は昨日も遅くまで仕事だったらしく、寝坊しちゃって、約束の時間には間に合わなかったのだ。
あっ、もしかして、これも仕事みたいなもんか?
「魚貴族」はお客さんだって言ってたし。
蒼士も大変だよね~……って、あれ?
あまりに自然すぎてスルーしそうになったけど……鮫島さん、いま蒼士のこと「蒼ちゃん」って言わなかった!?
蒼ちゃん!?
ちゃん付け??
蒼士、いつからそんなに鮫島さんと仲良くなってたの?
やはり侮れんな……地元コミュニティっやつは。
「すいません、遅れました」
軽く頭を下げながら、蒼ちゃん登場。
ベージュのカジュアルジャケットにカーキ色のチノパン。
うん、休日仕様のファッションも小ざっぱりしてて似合ってるよ。
ちょっと寝癖ついてて、目がしょぼしょぼしてるけど、そんな姿もなんか新鮮。ムフフ。
「……ん? 朱莉、なに笑ってんの?」
不気味に微笑む私に気づいた蒼士が怪訝そうな視線を向けてくる。
「ううん、なんでもなーい。それより、蒼士と鮫島さん、いつからそんなに仲良くなったの?」
自分の不審な行動から話をそらしつつ、気になっていたことを尋ねると、
「三年くらい前からかな? うちの注文システムを蒼ちゃんの会社に作ってもらったんだよねー。そん時に再会して、『あれ、もしかして藤沼くんじゃね?』って。いやぁ、学生時代の人脈ってのもバカにできないよなー。で、俺が『店の宣伝のために動画とかアップしたいんだけど』ってITに強い蒼ちゃんに相談するようになって、そしたら蒼ちゃんが手伝ってくれるようになって……って、そんなこんなで今や蒼ちゃんはうちの強力なサポートメンバーってわけ。な?」
蒼士が口を開くより先に鮫島さんが説明してくれた。まくし立てるように喋り終わると、鮫島さんは蒼士に向かってニカっと笑いかけた。
うん、白い歯がまぶしいね!
蒼士を見ると、うんうん、と首を縦に振っている。
「海斗さん、頼まれたもの百均で買ってきたんですけど……これで合ってます?」
蒼士が手に持ったビニール袋を鮫島さんに渡す。
「どれどれ……おぉ~、オッケーオッケー」
袋の中身を確認した鮫島さんは機嫌が良さそうだ。
「なに買ってきたの?」
蒼士に尋ねてみると、
「ん? クッキーの型」
「クッキー?」
まさかのスイーツ回?
鮫島さん、お菓子も作れるのか。
「それと……これ。もちろん造花だけど」
蒼士が持っていたビニール袋の中から布製の桜の枝を一本取り出して、私の目の前に掲げてみせた。
わぁ。
ちょっと花があるだけで、部屋の中が一気に春っぽくなった気がする。
恐るべし、桜の威力。
まぁ若干安っぽいけど、百円の商品に求めすぎちゃいけないよね。
「蒼ちゃん、レシート出しといてー。後で払うから」
「え、いいですよ。ちょっとだし」
蒼士の何気ない一言に、
「ダメダメ。たとえ百円でも二百円でも、お金のことはちゃんとしとかないと」
鮫島さんがキッパリと答えた。
「この動画は店の宣伝のためにやってることだからねー。一番の目的は『魚貴族』を知ってもらうことだし、広報活動の一環だから、必要な経費を出すのは当たり前」
「おぉ~」
鮫島さんの見た目に似合わぬ堅実さに蒼士とふたり、思わず感嘆の声を上げてしまう。
「よし! じゃあ、今日も始めるか」
「おぉー、堀ノ内さん? 久しぶりー。キレイになったねー」
久々に会った鮫島さんが満面の笑みで嬉しいことを言ってくれる。絶対お世辞なのに、嘘臭さが少ない。さすが客商売。
ちなみに「堀ノ内」というのは私の苗字である。
堀ノ内朱莉。
幸か不幸か、生まれてこの方、一度も変わったことがない。
だから学生時代に出席順で並ぶときなんかは、苗字が「藤沼」である蒼士の後ろになることが多かったんだよね。
――週末。
ユーチューバー鮫島の動画はいつも自宅で撮影しているらしく、私はうちの実家から三駅ほど離れた鮫島さん家の最寄り駅まで来ていた。
懐かしい。
中学や高校の頃はよくこの辺りに遊びに来たもんだ。もちろん東京ほど栄えてはいないけど、一応、駅から直結したショッピングビルがあるし、カラオケやらシネコンやらも近くにあって、うちの地元では「遊びに行く」と言えば、この駅だったのだ。
あの頃はここでも十分都会だと思っていたけど、それ以上の都会を知ってしまうと、いかにも地方都市といった感じで何だか寂れて見える。
でも好きだけどね。
これぐらいがちょうどいいし、何より私には合ってる。やっぱり、身の丈に合う街が一番なのだ。
そんなことを考えながら歩くこと十分。
無事、鮫島さんの自宅に到着した。駅近の便利なマンションである。
オートロックを解除してもらい、さっそくお邪魔させてもらうと――
「デカっ!」
思わず叫んじゃったよ。
鮫島さんちのマンション、すっごい広い。そして、綺麗。真っ白。何だこれ、モデルルームか!?
そして部屋の奥にはオシャレなカウンターと設備の整ったキッチンが備え付けられていた。
なるほど、あの動画はココで撮ってたのか……。納得。この部屋なら撮影にも耐えられるわ。
「そういえば、鮫島さんって結婚してるんですか?」
こんなデカい部屋でひとり暮らしもないだろうと思って聞いてみると、
「ううん、ひとり」
あっけらかんとした答えが返ってきた。
「え、こんな広いマンションにひとりで住んでるんですか!?」
「なになに、気になる? ほら、俺って一応、御曹司だからさぁ、いろんな女の子に狙われちゃって大変なんだよねー」
いえ、私が気になってるのは「『魚貴族』ってそんなに儲かるの?」ってことなんですが……。
それともYouTubeの収入なんだろうか?
どっちにしてもスゴいわ。
あーあ、私ももう少し早く鮫島さんと再会してたら狙ってたかもねー。
でも、今はいいかな。
だって、蒼士がいるから。てへ。
二兎追うものは一兎も得ないのだよ。
欲張っちゃダメ!
そもそもイケメン専務を取りあうなんて、そんな恐ろしい女の争いに参戦できるほど、ルックスにもスタイルにも自信がないしね。残念ながら!
身の程を弁えているのだよ、私は。
そんな身も蓋もないことを考えながら、密かに胸をそらしていたところに――
ポーンという呼び鈴が鳴った。
「あ、蒼ちゃん来たかな?」
そうだった。
蒼士とは今日も「一緒に行こう」って待ち合わせしてたんだけど、彼は昨日も遅くまで仕事だったらしく、寝坊しちゃって、約束の時間には間に合わなかったのだ。
あっ、もしかして、これも仕事みたいなもんか?
「魚貴族」はお客さんだって言ってたし。
蒼士も大変だよね~……って、あれ?
あまりに自然すぎてスルーしそうになったけど……鮫島さん、いま蒼士のこと「蒼ちゃん」って言わなかった!?
蒼ちゃん!?
ちゃん付け??
蒼士、いつからそんなに鮫島さんと仲良くなってたの?
やはり侮れんな……地元コミュニティっやつは。
「すいません、遅れました」
軽く頭を下げながら、蒼ちゃん登場。
ベージュのカジュアルジャケットにカーキ色のチノパン。
うん、休日仕様のファッションも小ざっぱりしてて似合ってるよ。
ちょっと寝癖ついてて、目がしょぼしょぼしてるけど、そんな姿もなんか新鮮。ムフフ。
「……ん? 朱莉、なに笑ってんの?」
不気味に微笑む私に気づいた蒼士が怪訝そうな視線を向けてくる。
「ううん、なんでもなーい。それより、蒼士と鮫島さん、いつからそんなに仲良くなったの?」
自分の不審な行動から話をそらしつつ、気になっていたことを尋ねると、
「三年くらい前からかな? うちの注文システムを蒼ちゃんの会社に作ってもらったんだよねー。そん時に再会して、『あれ、もしかして藤沼くんじゃね?』って。いやぁ、学生時代の人脈ってのもバカにできないよなー。で、俺が『店の宣伝のために動画とかアップしたいんだけど』ってITに強い蒼ちゃんに相談するようになって、そしたら蒼ちゃんが手伝ってくれるようになって……って、そんなこんなで今や蒼ちゃんはうちの強力なサポートメンバーってわけ。な?」
蒼士が口を開くより先に鮫島さんが説明してくれた。まくし立てるように喋り終わると、鮫島さんは蒼士に向かってニカっと笑いかけた。
うん、白い歯がまぶしいね!
蒼士を見ると、うんうん、と首を縦に振っている。
「海斗さん、頼まれたもの百均で買ってきたんですけど……これで合ってます?」
蒼士が手に持ったビニール袋を鮫島さんに渡す。
「どれどれ……おぉ~、オッケーオッケー」
袋の中身を確認した鮫島さんは機嫌が良さそうだ。
「なに買ってきたの?」
蒼士に尋ねてみると、
「ん? クッキーの型」
「クッキー?」
まさかのスイーツ回?
鮫島さん、お菓子も作れるのか。
「それと……これ。もちろん造花だけど」
蒼士が持っていたビニール袋の中から布製の桜の枝を一本取り出して、私の目の前に掲げてみせた。
わぁ。
ちょっと花があるだけで、部屋の中が一気に春っぽくなった気がする。
恐るべし、桜の威力。
まぁ若干安っぽいけど、百円の商品に求めすぎちゃいけないよね。
「蒼ちゃん、レシート出しといてー。後で払うから」
「え、いいですよ。ちょっとだし」
蒼士の何気ない一言に、
「ダメダメ。たとえ百円でも二百円でも、お金のことはちゃんとしとかないと」
鮫島さんがキッパリと答えた。
「この動画は店の宣伝のためにやってることだからねー。一番の目的は『魚貴族』を知ってもらうことだし、広報活動の一環だから、必要な経費を出すのは当たり前」
「おぉ~」
鮫島さんの見た目に似合わぬ堅実さに蒼士とふたり、思わず感嘆の声を上げてしまう。
「よし! じゃあ、今日も始めるか」
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