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第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる
5. はんぺんの花
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鮫島さんは気合いを入れるようにパチンと手を叩くとクーラーボックスから冷凍の魚を取り出した。大きな魚だ。五十センチくらいありそう。
「はい、これはタラね。タラ」
鮫島さんが得意げに私たちの前にタラを掲げてみせた。
「何を作るんですか?」
大好物の魚を前に、私が興奮しながら尋ねると、
「今日はねー、練り物だよ」
「え!!」
なんと……!
スイーツじゃなかったの?
でもでも、練り物好きの私には朗報すぎる。否が応でも期待が高まりますよ、これは!
鮫島さんが料理の下ごしらえをする間に、蒼士がカメラと照明器具をセットしていく。照明は通販で買ったんだって。本格的だな、おい。
「あ、堀ノ内さん。ちょっとこっち来てー」
「はいー?」
鮫島さんに呼ばれて行くと、おなじみ『魚貴族』のハッピとハチマキ姿に着替えていた。
「ねーねー、ちゃんと店名見えてる?」
私の方に頭を向けてハチマキを指差している。
「ちょっとズレてますね。……よし、これでカンペキ」
私は少し背伸びをして、鮫島さんのハチマキを直してあげた。『魚貴族』の文字がちょうど額の真ん中にきて、店の名前がハッキリと確認できる。
「ありがとう。今日はこれから『はんぺん』を手作りするから。堀ノ内さんも食べてってー」
「やったぁ! ありがとうございます!」
私は腰を九十度に折り曲げ最大限の敬意を込めてお礼を言うと、邪魔にならないように部屋の隅にそそくさと身を潜めた。
「じゃあ、カメラ回します」
蒼士の掛け声で鮫島さんが手際よく解凍したタラを捌きはじめる。
ズバッズバッと迷いのない包丁捌きはさすがプロ。あっという間にタラを下ろしてしまうと、その身を細かく刻んでいく。
「……小さく切ったタラの身をフードプロセッサーに入れます。フードプロセッサーなんてないよーって人は、昔ながらのスリコギでゴリゴリやっても出来ますからねー。ちょっと時間かかっちゃいますけど、筋トレと思えばちょうどいいですねー」
軽快に手と口を動かしながら調理を進めていく、ユーチューバー鮫島。
「……ペースト状になったら二つのボウルに取り分けます。で、こっちには食紅を少し入れますよー」
あー、食紅ってどれくらい入れていいかわかんないんだよね。え、あんな少しでいいの?
「じゃあ、この赤いタネと白いタネを茹でていきますね。十分くらいで完成ですよー」
そう言って、鮫島さんがカメラに向かってにっこりと微笑みかけた。
「海斗さん、お疲れさまです」
喋りっぱなしの鮫島さんを気遣って、蒼士がすかさずペットボトルの水を手渡した。
「おぅ、ありがとう。蒼ちゃん」
うんうん、さすが蒼士。今日も気が利くねぇ……って、マネージャーかよ!?
「よし。そろそろ出来たかなー?」
十分後。
鮫島さんがお湯の中かはんぺんをすくい上げると、ふわぁっと白い蒸気が立ち昇った。
「出来ました! 手作りはんぺん。それではさっそく食べてみたいと思います!」
ここで再びカメラ目線で鮫島スマイル。
「はい。いったんカメラ止めます」
蒼士の掛け声で、鮫島さんが大きく息をついて肩を落とした。
「ふぅ。お疲れー。あと食べるとこ撮って終わりだから」
試食シーンを撮るため、和室へと移動する。
和室まであるんかい!
八畳ほどの和室にはまだ新しそうな畳が敷かれていた。壁には掛け軸まで掛かっているが、残念ながらなんと書いてあるかはわからない。
さらに部屋の中央には高級そうな木製のテーブルがでーんと置かれていて……って、そういえば、なんか動画で観たことある気がする。この部屋!
「ほい、これで完成っと」
鮫島さんが機嫌良さそうに皿を運んできた。
テーブルの上に置かれた黒い漆塗りの平皿には二切れのはんぺんが並んでいた。
白いはんぺんと薄ピンク色のはんぺん。
いつのまにか五角形の花型にくり抜かれている。あ、もしかしてクッキーの型って、このためだったのか。
「かわいい。きれい!」
まるで和菓子みたいだ。
とてもはんぺんとは思えない。
「やっぱり画面映えが大事だからね。"映え"が」
ふふんと鼻を鳴らしながら、鮫島さんが桜の造花を添える。さりげなく、はんぺんの背景に映り込むように。
なるほど。たしかにカメラ越しの画面がパッと華やかになった(気がする)。
セッティングが整ったところで、撮影再開。
「はい! こんな感じで並べてみましたー。どうです、春らしいでしょう?」
じゃーん!
……という効果音が聞こえてきそうな感じで、桜はんぺんをカメラの前に差し出す鮫島さん。
「ではでは、日本酒と一緒にいただきたいと思います!」
鮫島さんが桜の花びらみたいな薄ピンク色のはんぺんを一つ摘んでパクリと口の中に入れた。
もぐもぐもぐ。
「……うん、美味い!」
はい来た! 安定の鮫島スマイル。
それから、お猪口でグイッと一杯。
「くわぁーっ! 美味い!」
なんて美味しそうに呑むんだ!
こっちまでヨダレが出てくるではないか。
「……どうです? 意外に簡単なんで皆さんも作ってみてくださいね! あ、自分で作るのが面倒くさいって時は、もちろん魚貴族でも取り扱っておりますので、ぜひ食べに来てくださーい」
さすが鮫島さん。
最後にはちゃっかり『魚貴族』の宣伝までしてるよ。
「はい、カメラ止めます。お疲れさまです」
蒼士がそう告げて、本日の撮影は終了。
お疲れさまでしたー……って、私は見てただけだけどね。
「おぅ、お疲れ。蒼ちゃんも堀ノ内さんも、はんぺん食べてってよ」
「やったぁ! ありがとうございます!」
待ってましたーとばかりにはんぺんに飛びつく私に、蒼士の冷めた視線が突き刺さった。
……が、ここは敢えて気にするまい。
美味しいお酒とおつまみを前にすると、いてもたってもいられなくなるのだ。
これだけは譲れないから、蒼士にも受け入れてもらわないと……!
「はい、これはタラね。タラ」
鮫島さんが得意げに私たちの前にタラを掲げてみせた。
「何を作るんですか?」
大好物の魚を前に、私が興奮しながら尋ねると、
「今日はねー、練り物だよ」
「え!!」
なんと……!
スイーツじゃなかったの?
でもでも、練り物好きの私には朗報すぎる。否が応でも期待が高まりますよ、これは!
鮫島さんが料理の下ごしらえをする間に、蒼士がカメラと照明器具をセットしていく。照明は通販で買ったんだって。本格的だな、おい。
「あ、堀ノ内さん。ちょっとこっち来てー」
「はいー?」
鮫島さんに呼ばれて行くと、おなじみ『魚貴族』のハッピとハチマキ姿に着替えていた。
「ねーねー、ちゃんと店名見えてる?」
私の方に頭を向けてハチマキを指差している。
「ちょっとズレてますね。……よし、これでカンペキ」
私は少し背伸びをして、鮫島さんのハチマキを直してあげた。『魚貴族』の文字がちょうど額の真ん中にきて、店の名前がハッキリと確認できる。
「ありがとう。今日はこれから『はんぺん』を手作りするから。堀ノ内さんも食べてってー」
「やったぁ! ありがとうございます!」
私は腰を九十度に折り曲げ最大限の敬意を込めてお礼を言うと、邪魔にならないように部屋の隅にそそくさと身を潜めた。
「じゃあ、カメラ回します」
蒼士の掛け声で鮫島さんが手際よく解凍したタラを捌きはじめる。
ズバッズバッと迷いのない包丁捌きはさすがプロ。あっという間にタラを下ろしてしまうと、その身を細かく刻んでいく。
「……小さく切ったタラの身をフードプロセッサーに入れます。フードプロセッサーなんてないよーって人は、昔ながらのスリコギでゴリゴリやっても出来ますからねー。ちょっと時間かかっちゃいますけど、筋トレと思えばちょうどいいですねー」
軽快に手と口を動かしながら調理を進めていく、ユーチューバー鮫島。
「……ペースト状になったら二つのボウルに取り分けます。で、こっちには食紅を少し入れますよー」
あー、食紅ってどれくらい入れていいかわかんないんだよね。え、あんな少しでいいの?
「じゃあ、この赤いタネと白いタネを茹でていきますね。十分くらいで完成ですよー」
そう言って、鮫島さんがカメラに向かってにっこりと微笑みかけた。
「海斗さん、お疲れさまです」
喋りっぱなしの鮫島さんを気遣って、蒼士がすかさずペットボトルの水を手渡した。
「おぅ、ありがとう。蒼ちゃん」
うんうん、さすが蒼士。今日も気が利くねぇ……って、マネージャーかよ!?
「よし。そろそろ出来たかなー?」
十分後。
鮫島さんがお湯の中かはんぺんをすくい上げると、ふわぁっと白い蒸気が立ち昇った。
「出来ました! 手作りはんぺん。それではさっそく食べてみたいと思います!」
ここで再びカメラ目線で鮫島スマイル。
「はい。いったんカメラ止めます」
蒼士の掛け声で、鮫島さんが大きく息をついて肩を落とした。
「ふぅ。お疲れー。あと食べるとこ撮って終わりだから」
試食シーンを撮るため、和室へと移動する。
和室まであるんかい!
八畳ほどの和室にはまだ新しそうな畳が敷かれていた。壁には掛け軸まで掛かっているが、残念ながらなんと書いてあるかはわからない。
さらに部屋の中央には高級そうな木製のテーブルがでーんと置かれていて……って、そういえば、なんか動画で観たことある気がする。この部屋!
「ほい、これで完成っと」
鮫島さんが機嫌良さそうに皿を運んできた。
テーブルの上に置かれた黒い漆塗りの平皿には二切れのはんぺんが並んでいた。
白いはんぺんと薄ピンク色のはんぺん。
いつのまにか五角形の花型にくり抜かれている。あ、もしかしてクッキーの型って、このためだったのか。
「かわいい。きれい!」
まるで和菓子みたいだ。
とてもはんぺんとは思えない。
「やっぱり画面映えが大事だからね。"映え"が」
ふふんと鼻を鳴らしながら、鮫島さんが桜の造花を添える。さりげなく、はんぺんの背景に映り込むように。
なるほど。たしかにカメラ越しの画面がパッと華やかになった(気がする)。
セッティングが整ったところで、撮影再開。
「はい! こんな感じで並べてみましたー。どうです、春らしいでしょう?」
じゃーん!
……という効果音が聞こえてきそうな感じで、桜はんぺんをカメラの前に差し出す鮫島さん。
「ではでは、日本酒と一緒にいただきたいと思います!」
鮫島さんが桜の花びらみたいな薄ピンク色のはんぺんを一つ摘んでパクリと口の中に入れた。
もぐもぐもぐ。
「……うん、美味い!」
はい来た! 安定の鮫島スマイル。
それから、お猪口でグイッと一杯。
「くわぁーっ! 美味い!」
なんて美味しそうに呑むんだ!
こっちまでヨダレが出てくるではないか。
「……どうです? 意外に簡単なんで皆さんも作ってみてくださいね! あ、自分で作るのが面倒くさいって時は、もちろん魚貴族でも取り扱っておりますので、ぜひ食べに来てくださーい」
さすが鮫島さん。
最後にはちゃっかり『魚貴族』の宣伝までしてるよ。
「はい、カメラ止めます。お疲れさまです」
蒼士がそう告げて、本日の撮影は終了。
お疲れさまでしたー……って、私は見てただけだけどね。
「おぅ、お疲れ。蒼ちゃんも堀ノ内さんも、はんぺん食べてってよ」
「やったぁ! ありがとうございます!」
待ってましたーとばかりにはんぺんに飛びつく私に、蒼士の冷めた視線が突き刺さった。
……が、ここは敢えて気にするまい。
美味しいお酒とおつまみを前にすると、いてもたってもいられなくなるのだ。
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