朱に交われば蒼くなる

スケキヨ

文字の大きさ
15 / 26
第二章:朱莉、かまぼこで餌付けされる

5. はんぺんの花

しおりを挟む
 鮫島さめじまさんは気合いを入れるようにパチンと手を叩くとクーラーボックスから冷凍の魚を取り出した。大きな魚だ。五十センチくらいありそう。

「はい、これはタラね。タラ」

 鮫島さんが得意げに私たちの前にタラを掲げてみせた。

「何を作るんですか?」

 大好物の魚を前に、私が興奮しながら尋ねると、

「今日はねー、練り物だよ」

「え!!」

 なんと……!
 スイーツじゃなかったの?
 でもでも、練り物好きの私には朗報すぎる。否が応でも期待が高まりますよ、これは!

 鮫島さんが料理の下ごしらえをする間に、蒼士そうしがカメラと照明器具をセットしていく。照明は通販で買ったんだって。本格的だな、おい。

「あ、堀ノ内ほりのうちさん。ちょっとこっち来てー」

「はいー?」

 鮫島さんに呼ばれて行くと、おなじみ『魚貴族うおきぞく』のハッピとハチマキ姿に着替えていた。

「ねーねー、ちゃんと店名見えてる?」

 私の方に頭を向けてハチマキを指差している。

「ちょっとズレてますね。……よし、これでカンペキ」

 私は少し背伸びをして、鮫島さんのハチマキを直してあげた。『魚貴族』の文字がちょうど額の真ん中にきて、店の名前がハッキリと確認できる。

「ありがとう。今日はこれから『はんぺん』を手作りするから。堀ノ内さんも食べてってー」

「やったぁ! ありがとうございます!」

 私は腰を九十度に折り曲げ最大限の敬意を込めてお礼を言うと、邪魔にならないように部屋の隅にそそくさと身を潜めた。

「じゃあ、カメラ回します」

 蒼士の掛け声で鮫島さんが手際よく解凍したタラを捌きはじめる。
 ズバッズバッと迷いのない包丁捌きはさすがプロ。あっという間にタラを下ろしてしまうと、その身を細かく刻んでいく。

「……小さく切ったタラの身をフードプロセッサーに入れます。フードプロセッサーなんてないよーって人は、昔ながらのスリコギでゴリゴリやっても出来ますからねー。ちょっと時間かかっちゃいますけど、筋トレと思えばちょうどいいですねー」

 軽快に手と口を動かしながら調理を進めていく、ユーチューバー鮫島。
 
「……ペースト状になったら二つのボウルに取り分けます。で、こっちには食紅を少し入れますよー」

 あー、食紅ってどれくらい入れていいかわかんないんだよね。え、あんな少しでいいの?

「じゃあ、この赤いタネと白いタネを茹でていきますね。十分くらいで完成ですよー」

 そう言って、鮫島さんがカメラに向かってにっこりと微笑みかけた。

海斗かいとさん、お疲れさまです」

 喋りっぱなしの鮫島さんを気遣って、蒼士がすかさずペットボトルの水を手渡した。

「おぅ、ありがとう。蒼ちゃん」

 うんうん、さすが蒼士。今日も気が利くねぇ……って、マネージャーかよ!?

「よし。そろそろ出来たかなー?」

 十分後。
 鮫島さんがお湯の中かはんぺんをすくい上げると、ふわぁっと白い蒸気が立ち昇った。

「出来ました! 手作りはんぺん。それではさっそく食べてみたいと思います!」

 ここで再びカメラ目線で鮫島スマイル。

「はい。いったんカメラ止めます」

 蒼士の掛け声で、鮫島さんが大きく息をついて肩を落とした。

「ふぅ。お疲れー。あと食べるとこ撮って終わりだから」

 試食シーンを撮るため、和室へと移動する。
 和室まであるんかい!

 八畳ほどの和室にはまだ新しそうな畳が敷かれていた。壁には掛け軸まで掛かっているが、残念ながらなんと書いてあるかはわからない。
 さらに部屋の中央には高級そうな木製のテーブルがでーんと置かれていて……って、そういえば、なんか動画で観たことある気がする。この部屋!

「ほい、これで完成っと」

 鮫島さんが機嫌良さそうに皿を運んできた。
 テーブルの上に置かれた黒い漆塗りの平皿には二切れのはんぺんが並んでいた。
 白いはんぺんと薄ピンク色のはんぺん。
 いつのまにか五角形の花型にくり抜かれている。あ、もしかしてクッキーの型って、このためだったのか。

「かわいい。きれい!」

 まるで和菓子みたいだ。
 とてもはんぺんとは思えない。

「やっぱり画面映えが大事だからね。"え"が」

 ふふんと鼻を鳴らしながら、鮫島さんが桜の造花を添える。さりげなく、はんぺんの背景に映り込むように。
 なるほど。たしかにカメラ越しの画面がパッと華やかになった(気がする)。

 セッティングが整ったところで、撮影再開。

「はい! こんな感じで並べてみましたー。どうです、春らしいでしょう?」

 じゃーん!
 ……という効果音が聞こえてきそうな感じで、桜はんぺんをカメラの前に差し出す鮫島さん。

「ではでは、日本酒と一緒にいただきたいと思います!」

 鮫島さんが桜の花びらみたいな薄ピンク色のはんぺんを一つ摘んでパクリと口の中に入れた。

 もぐもぐもぐ。

「……うん、美味い!」

 はい来た! 安定の鮫島スマイル。
 それから、お猪口でグイッと一杯。

「くわぁーっ! 美味い!」

 なんて美味しそうに呑むんだ!
 こっちまでヨダレが出てくるではないか。

「……どうです? 意外に簡単なんで皆さんも作ってみてくださいね! あ、自分で作るのが面倒くさいって時は、もちろん魚貴族でも取り扱っておりますので、ぜひ食べに来てくださーい」

 さすが鮫島さん。
 最後にはちゃっかり『魚貴族』の宣伝までしてるよ。

「はい、カメラ止めます。お疲れさまです」

 蒼士がそう告げて、本日の撮影は終了。
 お疲れさまでしたー……って、私は見てただけだけどね。

「おぅ、お疲れ。蒼ちゃんも堀ノ内さんも、はんぺん食べてってよ」

「やったぁ! ありがとうございます!」

 待ってましたーとばかりにはんぺんに飛びつく私に、蒼士の冷めた視線が突き刺さった。

 ……が、ここは敢えて気にするまい。

 美味しいお酒とおつまみを前にすると、いてもたってもいられなくなるのだ。
 これだけは譲れないから、蒼士にも受け入れてもらわないと……!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...