サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
24 / 140
第一章.憤る山

5.村の窮状

しおりを挟む
「ささ、そこに座ってくだされ」

「……」

 村長さんに促されるままにリビングのテーブルを挟んで向かい合う形で椅子に座ります……村長さんの家であっても隙間風が酷く、とても寒いですね。

「さ、どうぞ……私は引っ込んでおきますね」

「……(ペコり」

 村長さんの奥さんらしき人がお茶を淹れてくれたので会釈をします……その後すぐに奥に引っ込んだのでお礼が言えませんでした、反省です。

「……あちっ」

「ハハハ、お気を付けを」

 お茶を一口含むと予想以上に熱くて思わず声が出てしまいました……恥ずかしくて死にそうです、もう帰りたいです……お茶自体は薄味でしたが美味しかったです、まだ頑張れます。

「さて、どこから話しましょうか……」

「……」

 こちらを生暖かい目で見たあと村長さんはどこから説明しようかと悩み始めます……この無言の間が個人的に辛いです。

「……まず、ここら辺の村々は二年ほど前に、トンネルが開通するまでは街に出るまで往復一ヶ月は掛かっておりました、これは周りを険しく背の高い山に囲まれているためですね」

「……」

 確かにこの北の大地で山に囲まれた地形では、容易に外界と交流することは極めて困難でしょう。往復に一ヶ月掛かるというのも納得です、一々登山と下山を繰り返さなくては行けませんし、雪山ですからね……。

「基本的に寒く、山に囲まれているために日照時間も短い……これでは作物を育てられるはずもなく、外界と交流も難しいときたらあとは狩猟しか残っておらんのです」

「……」

 それは理解できます。作物は時に通貨の代わりにもなります、それが小麦や米なら尚更です……嗜好品である茶葉すら作れないとなれば頑張って街と交流できても換金できる物がないため意味は薄かったでしょう。

「じゃがいもなども試してはおるのです、しかしながら段差が酷く、耕作面積が小さいために精々村の中で消費する分が精一杯でしてな」

「……」

 寒冷地といえばじゃがいもというくらいには有名ですが、そもそも作る場所が無ければ意味がありませんからね。

「狩猟を生業としても動物たちも餌がないため獲れる数は少なく、切り詰めても苦しい状況が続いておりました」

「……」

 このような場所では仕方がありません、この厳しく寒い気候でまともに植物が育たないのですから山の幸がなくて動物が穫れないのも無理はありません。

「……お客人に話すのもどうかと思うのですが、特に寒い冬はそれはもう苦しくて……なので口減らしに労働力にならない老人や小さな子どもを山に捨てておりました」

「……」

 それ、も理解は……できます……今まで聞いた村の状況では労働力にもならず、貴重な備蓄を消費するだけの存在を養う余裕は……無かったのでしょう。

「今でこそトンネルが開通し、街との交流の他に領主様や帝国政府からの支援が届き始めましたが……それまでは毎年集会で山に捨てる者を話し合いによる多数決で決めておりました」

「……」

 なげ彼らの先祖はここに住もうと思ったのか……関係はありませんが気になりますね。ここまで追い詰められていたのですから、山に捨てることを部外者の私が責めることはできませんが。

「この二年でようやく生活が安定し、山に捨てることもしなくて済んだ……その矢先に魔物災害です、村の者の中には今まで捨ててきた者たちが化けたのだと騒ぐ者もおります」

「……」

 なるほど……それで特定の家に怯えているように見えていたのですか、事実怯えていたのですね……その家々は捨てられた者の住んでいた、あるいはその家族が住んでいる家なのでしょう。

「せっかく村人全員で冬を越せるようになったと言うのに、村人同士で疑心暗鬼にはなりたくないのです……どうか、どうか魔物を討伐して我らを安心させてくだされ……!!」

「…………任せ、て……くだ、さい……魔物は討伐して、みせ……ます……!」

 ここまでの話を聞いてなんとも思わない人は居ないでしょう、それに仕事でもありますからね……彼らを救うことに全力を出しましょう!

「……それ、では……早、速……行ってきま、すね……」

「……もう行かれるのですか?」

「……(コクッ」

 村長さんの質問に頷いて答えます……クレル君から渡された紙に書かれた事は私が聞く前に村長さんが全部話してくれましたし、なによりも村にいてはクレル君が不便ですからね……早めに山に出ましょう。

「そうですか……外までお送りしましょう」

 こちらを申し訳なさそうに見詰める村長さんの見送りを受け取り村を出ます。

「ふぅ~……疲れましたね──」

「──お疲れ様」

「あひゃあ?!」

 あっ……あまりの驚きと想定外のコミュニケーションに脳がシャットダウンして行きます、つまり気絶です……驚くクレル君の表情を最後に視界が閉ざされます……そういえばクレル君が後ろについていたんでしたね……不覚です。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...