サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
32 / 140
第一章.憤る山

13.鬼殺しその3

しおりを挟む
「弱い内に倒しておきたかったのだがな……」

『ドウシテ! 私ダケダッタハズナノニ!』

 左胸が盛り上がり、這い出てくるようにして老いた小鬼の顔が現れ喋るが……こちらに対して言葉を放っているわけではないようだ、百を超える小鬼を統合して意識があやふやになっているのか?

『オ母サン、寒イヨ』

「『我が願いの対価は愛しき椿 望むは昇華 寄り添い 笑いかけ 共に歩む君の瞳に 僕は勇気づけられて!!』」

 リーシャが造り出した長剣を魔法でさらなる強化を施す……鍔にある笑顔の鉄人形に寄り添うように椿の華が咲き誇り、柄からこちらの腕を蔦で絡め取って、刃を緋い葉脈が走る。

『子ドモラマデ犠牲ニスル必要ハナカッタ! ソウダ! 寒イヨ!』

「リーシャは絶対に前に出ず、離れすぎるな!」

「わ、かった……!」

 こちらへと一足飛びで飛び込み、両腕を金砕棒を平たく刃にした様な形状へと変えて殴り付けてくるのを刃を立てて受け流す……金属同士が擦れる耳鳴りと火花が舞い、腕には強烈な衝撃により骨が縁起の悪い音を出す。

「うっ、ぐっ……おぉ……?!」

『寒イ、痒イ、痛イ、寂シイ、ソウダロウ、ソウダロウ』

「……せ、めて……人格、を統合しやがれ……!! 『我が願いの対価は愚鈍なる向日葵 望むは山を砕く衝撃』!!」

 奴の攻撃を無理やりに捌いて魔法で強化された脚で腹を蹴り飛ばす。周囲の木々を巻き込み木屑と粉雪によって視界の大部分は遮られるが、その巨体を隠すことは出来ず、腹に大穴を開けた奴が立ち上がるのが見えてしまう。

『痛イ痛イヨ! 子ドモハ違ウダロ!』

「ちっ……!」

 地面を叩き付けて抉り、破片を飛ばしながら再度の突撃を後ろ飛びで斜面を滑り降りる事で回避する……上から重力に釣られて降ってくる破片は長剣で弾き飛ばしていきながら、リーシャの方を確認するが……大丈夫そうだな、見れば彼女は自身が造り出した鉄人形の一体に抱えられて移動しながら十字鉄器を操り、奴の突撃を阻害してくれていた。

『イヤダイヤダ! 帰リタイ!』

「うっ……ぁ……」

「リーシャ! 共感するな!」

「は、い……!」

 奴の悲哀の叫びを聞いてリーシャが涙を流す……それに焦って声を張り上げて彼女に呼び掛けると、まだ低度だったのも相まって直ぐに我に返る。……急がねばこちらが呑まれる、産まれたばかりでまだ自身の力を掌握し切れていないと言うのが唯一の救いか。

「……今、帰らせてやる」

「三号、は……そのまま、四号か、ら七号は……クレ、ル君……の支援」

 泣き顔の鉄人形が鬼の顔面を殴り付けて意識を逸らしたところで左胸を貫くが……痛みによって絶叫を上げながら一振りで大地を陥没させうる腕を暴れさせる奴の猛攻を笑顔の鉄人形と憤怒の鉄人形と一緒に突き込まれる腕を下から弾き、振り下ろしを刃を立てる事で受け流して、横薙ぎの一撃を躱し、凌いでいく。

『痛イ、痛イ、痛イ、痛イ、痛イ、痛イ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!』

 羞恥の表情を浮かべた鉄人形が鬼の長い首に組み付き、リーシャがそこに十字鉄器を叩き込んで砕き折る……だらんと垂れ下がった奴の首を長剣の袈裟斬りで刎ね飛ばす。

『アァ……?』

 左胸の半ばから貫かれて左右でズレた顔が呆けた表情を晒し、首からはドス黒い血の噴水が周囲の雪のキャンパスを染め上げる。

『……絶対二許サナイ!』

 雪山の斜面を滑り降りながら長剣を振るう……袈裟斬りを裏拳で弾かれ、拳の突き込みを首を反らして躱し、奴が下からの突き上げた左拳を慈愛の表情の鉄人形が腕に組み付く事で反らしながら態勢を崩し、それに合わせて長剣をその左腕の肘裏へと振り下ろす。

「か、たい……!」

「手伝、い……ます!」

 食い込むがそれ以上進まない長剣の上から十字鉄器が釘打ちのように叩き込まれ、奴の左腕を半ばから寸断する。雪山の斜面を滑る事で発生する粉雪と奴のドス黒い血飛沫のコントラストが対比を生み、視覚の遠近感覚が狂う。

『ァァァアアア!!!!』

 怒り狂った奴が右腕で斜面を殴り付けた事によって大地が陥没し、雪が舞い、こいらの足場が崩れ態勢を崩してしまう……そこを見逃してはくれず、跳躍からのかかと落としを放ってくる。

「ちっ! 『我が願いの対価は儚き百合 望むは盾!!』」

 頭上へと百合の盾を展開し防御するが長く持ちそうにない……今も盾の端から花びらが散り崩れていき、奴の蹴りの圧力の強さを窺わせる。

「『我が願いの対価は俯く鉄人形 望むは拘束 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため 戒めの鎖をここに』」

『ッ?!』

 鉄人形の肩に乗り、こちらと並走していたリーシャが魔法によって鎖を造り出し、それを鬼の四肢へと巻き付けて引きずり倒し、残りの十字鉄器を奴の身体へと突き刺し固定する。

「『我が願いの対価は麗しの椿五輪 望むは昇華 遠くから眺めていた君の悲しみ それを晴らすため 僕は修羅となる!! 』」

「『我が願いの対価は傲慢なる鉄人形 望むは鍛錬 降りかかる理不尽 それらを受け入れ 貴方はより鍛えられる』」

 最高品質の供物を消費して、椿の花弁を束ねたような刃を生み出す……それにリーシャの魔法の強化が重なり、金属質な光沢を帯びた緋の刀身が出来上がる。

『帰リタイ! 帰リタイノ!』

「……文句は後で聞く」

 鎖で四肢を巻かれ、身体中を十字鉄器が貫き、鉄人形が抑え込む……そうまでしてやっと動きが鈍った程度だというのはさすが魔物と言ったところ。そんな奴に対して刀身を構える。

『子ドモハ助ケテ……』

「すまない……『我が願いの対価は緋刃 望むは全てを貫く力 哀れな老人 慰める童子 無慈悲な冬 それらを断ち切る一撃をここに──』」

 左胸の老いた小鬼が泣きじゃくる……必死に懇願しながら自身の血から溢れ出る赤子の小鬼を庇い、魔力を膨れ上がらせる。……でもさ、そろそろ楽になってよ……僕も見ていて辛いよ ……その子ども達を護っているようで慰められていたのは君なんだろ? だからさ……もうすぐ冬は終わるから、春になるまで少し眠ろう……。

「『──眠って春を待つデイブレイク・スプリング!!』」

 魔法は言葉である、叶わぬ願望を抱き、大事な物を失って壊れた彼らを慰める奇跡でなくてはならない。『対話魔法』……まだまだ未熟な僕ではありったけの対価を用意しないと出来ないけれど、魔物に起源に直接語りかけるようなそれを、彼に対して放つ。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...