サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
34 / 140
第一章.憤る山

エピローグ

しおりを挟む
「ほお、生きておったか」

「開口一番がそれかジジィ」

 奈良の底アバドンに帰還してすぐ様エントランスで待機していたらしい師匠に嫌味を言われてしまう……隣にはマーリン様も居るがなにかあったか?

「まぁよい、ワシらは先に執務室で待っておるから報告を終わらせて来い」

「あ、あぁ……リーシャ行くぞ」

「は、い……」

 なんだかよくわからんが大事な話でもあるのだろう、言われた通りに報告するべくリーシャへと声をかける。

「イヒヒ、仲良くなれたようじゃな?」

「黙れジジィ」

「ワシに対して辛くない?」

 こちらをおちょくってくる師匠クソジジイを無視して、受注した時とはちがって赤く点滅しているランプのある受付へと赴く。

「クレル・シェパード様とリーシャ・スミス様ですね? ご報告をお願いします」

「あぁ」

 村ではリーシャに大変な負担をかけてしまったからな、ここでの報告は俺が全て請け負う。

「……なるほど、凡そは解りました」

 依頼を受けてから組織を出て、村に辿り着きそこで見聞きしたもの、魔物に遭遇するまでとした後、大体の考察とどうやって倒したかを報告する。

「詳しくはこの形式に則って報告書を書き、後日提出して下さい。期限は一週間後までとなります」

「わかった」

 受付から複数枚の書類を渡される、これならリーシャもできるだろう。漆黒の羊皮紙に粘り気のある白いインク、鷹の羽根ペンのセットであり、無くさないようにと念押しされる。

「では師匠たちの下へ行くか」

「……(コクッ」

▼▼▼▼▼▼▼

 師匠と同じ過ちは犯すまいと姿勢を正して、重厚な楢の木でできた扉……細かく四千年前の大戦を描いたのだろう彫刻が施されたそれを軽く三回ノックする。

「……クレルです、入ってもよろしいでしょうか?」

『……入りな』

 許可が下りたところでゆっくりと扉を開いてリーシャと二人中へと入り、音を立てずに閉める。

「……本当にお前の弟子か? えらく常識的じゃないか」

「そらどういう意味じゃい」

 ……師匠は女性の部屋だろうがノックもせず入るからな、酷い時はそのまま転移してくる。むしろその弟子という事で何度か師匠の知り合いの女性から、俺まで初対面で警戒されれば嫌でも礼儀正しくなるというものだ。

「まぁいい……とりあえず良く帰ってきたな、まずは褒めてやろう」

「……偉そうに」

「事実偉いんじゃ、お前なんぞまだまだひよっこよ……悔しかったらさっさと俺を殺害してみせろや」

 癪だか師匠の言うことは全て事実だ……俺はむっつりとしながら機嫌悪く師匠の横に座る。それを心配そうな表情で見詰めてくるリーシャに大丈夫だと言うように手を振る。

「……どうやら本当に打ち解けたようだね、この子がこんな短時間で慣れるのは珍しい」

「お? どこまでいったんじゃ? え?」

「クソジジイ、その口を閉じろ」

 リーシャが俺に対しては早く慣れてくれたというのは素直に嬉しいが、それによって師匠にからかわれるのはウザイし、なによりもリーシャが顔を赤くしているからやめろ。

「……まさか、本当に?」

「違う、誤解だ」

「隅に置けんのぉ……」

「ぁ、ぅ……」

 リーシャの反応を見て、心底驚いたというように感心した様子でしみじみと呟く師匠に殺意が湧く……それを受けて洞窟での介抱の事を未だに引きずっているのだろうリーシャがますます縮こまる。

「応急処置の時に少し距離が近くなっただけだ……それよりも話ってなんなんだ?」

「ほーん……まぁええわい」

 ……一回本気で師匠クソジジイの寝室にシロアリでも放ってみるか? 俺がほの暗いことを考えていると話が始まる。

「まずは見事あの依頼を達成したと褒めよう、まさか本当に受けるとは思わんかったぞ」

「……待て、どういう事だ?」

「なに、断られるの前提で別の依頼を用意しとったんじゃ」

 どうやらあの依頼のきな臭さに気付けば最初は避けるだろうと踏んでいた……というよりもそういう判断ができるか見ていたらしく、本当に受けた時は『お、死んだか』みたく思われていたらしい……クソジジイめ。

「……それにの、同じ北の領地に赴いた新人魔法使い二人組が狩人に狩られたのでな」

「まさか……」

「なんじゃ、知っとるんか?」

 同じ領地という事は距離もそれほど離れてはいなかったのだろうし、ほぼ確実に魔物を倒した後に村で襲ってきた二人組だろう。

「どうにか、一人は生きて帰ってこれたようだが相棒の死体は持ち帰れなかったみたいでね?」

「……死体を持ち帰れなかったら何かあるのですか?」

 マーリン様が意味深に嘆いてみせるのを怪訝に思う……魔法使いの死体など、魔力残滓が漏れ出る以外になにもなかったはずだか……?

「あ~、言った方がいいのかねぇ?」

「子どもじゃあるまいし、良いんじゃないか? ワシは知らん」

「……本当に適当なジジィだね、アンタは」

 師匠とマーリン様のやり取りに、リーシャと二人顔を見合わせて首を傾げる。

「単純な話だよ、魔法使いの死体は──」

「──そのまま帝国の特殊兵装である、狩人の『猟犬』と機士の『軍馬』の材料となる」

「「──」」

 まさかの回答にリーシャと二人で絶句する……なるほど、それならばガナン人の魔法使いではない奴らに魔物や魔法使いが倒せる訳だ、まったく同じ力を元としているのだから。

「お主らも、もしも任務の途中でどちらかが殺されれば出来るだけ死体は持って帰れ」

「相棒だった武器で殺されたくはないだろう?」

「……わかった」

「……はい」

 ……本当にこの国はどこまで我らガナン人を貶めれば気が済むのだろう。

「まぁ暗い話は置いておいて、そちらの詳しい話も聞こうじゃないか」

「あぁ、それなら──」

 こちらも気分を変えるために師匠の要望を聞き入れ、受付にしたのに時折解説を混じえた報告をする。

「どうやらちゃんとこの子は役に立ったみたいだねぇ」

「それはもう……彼女が居なければ危なかったです、紹介してくれたマーリン様には感謝しております」

「ハッハッハ、お礼なら直接この子に言うんだね」

「ぁ、う……」

 マーリン様の言うことは尤もだが……リーシャは極度の人見知りで恥ずかしがり屋の疑いもあるし、後でそれとなくお礼を言ってなにかプレゼントでもした方が良いだろう。

「……最後は『対話魔法』でねぇ?」

「何か問題があるのか?」

 そんな事を考えていると師匠がなにやら考え込みながら呟くのを聞き、なにか問題があるのかと尋ねる。

「いーや? だがな小僧……魔法は言葉そのものだ、これからも扱いは間違えるなよ?」

「……もちろんだ」

「ハッ! どーだか……対話し過ぎて逆に言いくるめられて呑まれるなよ?」

「……」

 実際に呑まれかけてリーシャを害してしまった身としてはそれを言われると痛い……本当にあの時は申し訳なかった……。

「まぁいいわい、今回の依頼難度は推定レベルIIIは固いだろう……一気に評価が上がるからの、一人前と認められるのも案外早かろう」

「それは嬉しいが……」

 そんなに今回の依頼は師匠たちから見てヤバかったのか……こちらの運がとてつもなく良かっただけみたいだな? 調子に乗らず、これからも堅実に行こう。

「お前たち用の寝泊まりする部屋を用意してある……これからそこで暮らすことになるだろうし、受付で確認して今日はもう休んでいいよ」

「次の依頼までしばらく待機じゃな、それまで好きに過ごすいい」

「……ではこれで」

「……(ペコリ」

 マーリン様からの提案により、今日は一先ず休む事にする……さすがに旅の疲れが出た、このままぐっすり眠りたい気分だ。

「リーシャ、これからもよろしくな」

「こち、ら……こそ……」

 リーシャという最高の相棒とお互い笑顔で握手を交わし、部屋の前で別れるのだった。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...