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第二章.愛おしさに諦めない
14.定期検診
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「(あー、嫌だなぁ……)」
そんな事を考えがら溜息をつくのは、特別対魔機関バルバトス医務室所属の医官であるリコリス少尉である。彼女はその自慢のショートカットに整えられた白髪を弄びながら、先ほど上司である室長にアリシア准尉の定期検診の係に命じられたのを思い出す。
──ペラッ
現実逃避をしながら、なんともなしにアリシアについて書かれたカルテを開いて読むが……その紫根の瞳が文字列を追う事に彼女は溜息を吐く。……そこには彼女が憂鬱になっていた理由……アリシアがレナリア人でありながら、魔力を保持している原因を調べようとして〝事故死〟した先輩達の名前が連なっている。
「〝魔力について調べようとしたり、異性が彼女の身体に触れようとすると〝事故死〟する危険があるため、同性による簡単な身体検査に留まる〟、か……貧乏クジじゃんか~」
内心で『しかも〝事故死〟ってなんだよ……』などと毒づきながら机に突っ伏すリコリス……待遇も良く、基本的に給料の良い帝国軍の中でさらに群を抜いて高給取りであり、エリートとして他の部署からもチヤホヤされる等という理由でバルバトスに所属したのは良いものの、死にたくはないという俗物的な思いから命の危険のない後方勤務を選んだという彼女にとって、まさに今回の辞令は貧乏くじでしかない。
「はぁ……」
──コンコンッ
「ん? ……あ、やべっ」
そんな風には気が抜けてだらけ切っていた彼女の耳に扉をノックする音が聞こえ、それにつられて時計を見れば時刻は既に予定の時間となっていた。……どうやらスズハラ大佐に帰還の知らせと任務の報告を終えてから直接、言われた通りに定期検診にアリシアが来たようだ。
『アリシア・スカーレット准尉です。定期検診に来ました』
「……はーい、入って大丈夫ですよー」
ほんの数秒の間で髪を整え、デキル女の表情を作り笑顔なるリコリス……今年で二十二歳になる彼女の長年の婚活スキルが遺憾無く発揮されている。
「失礼しま──」
「チッ、大きいわね」
「──え?」
「なんでもありませんよ~?」
「はぁ……?」
入室して来たアリシアは既に検査着に着替えており、当然と言うべきかその下には何も……下着すら着けていない為にある一部の膨らみが良く目立ち、それを視認するや否やリコリスは舌打ちをする。……幸いにも、アリシア本人は上手く聞き取れなかったようで安心だが……彼女は、リコリスは持たざる者なのだ。
「とりあえず採血しますから、そこに腰掛けてくださいね~」
「はい」
アリシアを指定の椅子に座らせ、自分は器具の準備をする振りをして後ろを向き、腕を抓ね上げる事でなんとか正気を保とうとするリコリス……そんな事もつゆ知らず、アリシアは素直に椅子に座ったまま準備が終わるのを待つ。
「はい、チクッとしますからね~」
「……っ」
何事も無かったかのように振る舞うリコリスに声を掛けられ、アリシアが採血をされる……その時に多少の痛みには慣れているものの、注射の針を刺されるところだけは何故か見れないのか、目をギュッと瞑って顔を逸らすアリシアを見てリコリスが優しく微笑む。
「……はい、大丈夫ですよ」
「ふぅ……」
「じゃあ口を開けてくださいね~」
言われた通りに素直に口を開け、リコリスがその口に綿棒で口腔粘膜を採取する。その後に舌圧子で舌を抑えられたアリシアが一瞬だけ『おえっ』となるのも気にせず、彼女はアリシアの口の中にライトの光を当てて観察していく。
「目にも異常はありませんね……では前を捲ってください」
「はい」
「……チッ」
「……?」
最初こそ、この死亡者も出している定期検診の係を命じられて気分が落ち込んでいたリコリスだったが……そんな憂鬱な気分もアリシアが検査室に入室した時から吹き飛んでいた。……その下に下着すら着けない為、薄い検査着一枚のみに包まれたアリシアの身体……特にある一部の膨らみは薄布を激しく持ち上げて良く目立ち、持たざる者である彼女の嫉妬の炎に薪を焼べる。
「何もないのよ? ホホッ」
「? ……冷たっ」
検査着の前を捲ったのも関わらず、動きを止めたままのリコリスを不思議そうに見詰めるアリシアに気付き、拙い誤魔化しをしながら聴診器を当てるリコリス……金属特有の冷たさを胸に感じ、身を捩るアリシアに合わせてその一部が揺れ、その形の良さと聴診器から伝わってくる感触の良さに、形も何もない彼女の嫉妬の炎が激しく燃え上がる。
「……本当に色が違うんですね」
「え? あ、はい……」
嫉妬の炎を燃え上がらせながらも仕事はしっかりとするリコリスがアリシアの胸の一部に穴を開けた様な不自然に変色した部分を見て呟く……一度は貫かれ、その後すぐに魔法で塞がれたその部分は酷く痛々しい傷を連想させる外見をしており、その境目は不自然なほど唐突に肌の色が変化している。
「……はい、もういいですよ。後は脈拍だけ測ってから次の検査室に行ってくださいね」
「はい」
恥ずかしそうに捲くっていた検査着の前を下ろし、リコリスに言われるままに脈拍を測ってからアリシアは次の検査室へと歩き出す。
▼▼▼▼▼▼▼
「どうでした?」
「全て問題はありませんでした」
アリシアの身体検査が全て終わった後、リコリス少尉は医務室室長の部屋で報告をしていた……彼女が話す相手は長身の女性であり、薄い紫色の髪を軽く結い上げ、丸眼鏡の奥から覗く金色の瞳がなんとも言えない妖艶さを漂わせ、タイツスカートからスラリと伸びる脚線美と相まって異性の目を惹き付ける。
「そうですか、それはなによりです。……次もよろしくお願いしますね?」
「……次?」
大きく開いた胸元を強調するかのように腕を組みながら振り返り、なんでもない事かの様に彼女が発した言葉の内容に、思わずリコリス少尉が聞き返す。
「そうです。貴女は今日付けでアリシア・スカーレット准尉付きの専門医官です……良かったですね、昇進ですよ」
「(……この若作りのババァめ)」
ニッコリと微笑む彼女に向けてリコリス少尉が内心で罵る……実年齢は不明だが、少なくとも十年以上は医務室室長を務めているため相当な年齢だと思われるが……ともすれば二十代後半でも通じる容姿が、多分に嫉妬混じりではあるがリコリス少尉はあまり好きでは無かった。……なによりも胡散臭い。
「辞退する事は──」
「──これは特別対魔機関バルバトス医務室室長アンジェリカ・クラウソラス大佐の命令ですよ?」
「……」
せめてもの抵抗として辞退を申し出ようとしたリコリス少尉に被せるようにして、アンジェリカ室長は自分の部下を優しく微笑み、蛇のような目で見詰めながら諭す。
「ですがそれでも断ると言うのなら……」
「い、いえ! 喜んで受けさせていただきます!」
胸の谷間から真っ赤な封筒を出し始めたアンジェリカ室長を見て、リコリス少尉は焦ったように命令を受け入れる。……もちろん笑顔で。
「そうですか、それはなによりです」
「……ッ!」
リコリス少尉の返事を聞き、真っ赤な封筒を胸の谷間に戻したアンジェリカ室長が満面の笑みで振り返り、背後の窓を見据える……上司の視線が途切れた瞬間、リコリス少尉は気付かれないように下唇を噛む。
「要件は以上です。下がっても構いませんよ」
「……失礼しました」
最後にその背に向けて下まぶたを指で引き下げてから舌を出し、無駄とも言えるなけなしの抗議をしてから何かを言われる前にリコリス少尉は退出する。
「……無事に面倒臭い案件に対する生贄も見つかりましたね」
そんなリコリス少尉の可愛らしい抗議を窓の反射からバッチリと見ていたアンジェリカ室長は薄ら笑いながら煙草に火をつける。
▼▼▼▼▼▼▼
そんな事を考えがら溜息をつくのは、特別対魔機関バルバトス医務室所属の医官であるリコリス少尉である。彼女はその自慢のショートカットに整えられた白髪を弄びながら、先ほど上司である室長にアリシア准尉の定期検診の係に命じられたのを思い出す。
──ペラッ
現実逃避をしながら、なんともなしにアリシアについて書かれたカルテを開いて読むが……その紫根の瞳が文字列を追う事に彼女は溜息を吐く。……そこには彼女が憂鬱になっていた理由……アリシアがレナリア人でありながら、魔力を保持している原因を調べようとして〝事故死〟した先輩達の名前が連なっている。
「〝魔力について調べようとしたり、異性が彼女の身体に触れようとすると〝事故死〟する危険があるため、同性による簡単な身体検査に留まる〟、か……貧乏クジじゃんか~」
内心で『しかも〝事故死〟ってなんだよ……』などと毒づきながら机に突っ伏すリコリス……待遇も良く、基本的に給料の良い帝国軍の中でさらに群を抜いて高給取りであり、エリートとして他の部署からもチヤホヤされる等という理由でバルバトスに所属したのは良いものの、死にたくはないという俗物的な思いから命の危険のない後方勤務を選んだという彼女にとって、まさに今回の辞令は貧乏くじでしかない。
「はぁ……」
──コンコンッ
「ん? ……あ、やべっ」
そんな風には気が抜けてだらけ切っていた彼女の耳に扉をノックする音が聞こえ、それにつられて時計を見れば時刻は既に予定の時間となっていた。……どうやらスズハラ大佐に帰還の知らせと任務の報告を終えてから直接、言われた通りに定期検診にアリシアが来たようだ。
『アリシア・スカーレット准尉です。定期検診に来ました』
「……はーい、入って大丈夫ですよー」
ほんの数秒の間で髪を整え、デキル女の表情を作り笑顔なるリコリス……今年で二十二歳になる彼女の長年の婚活スキルが遺憾無く発揮されている。
「失礼しま──」
「チッ、大きいわね」
「──え?」
「なんでもありませんよ~?」
「はぁ……?」
入室して来たアリシアは既に検査着に着替えており、当然と言うべきかその下には何も……下着すら着けていない為にある一部の膨らみが良く目立ち、それを視認するや否やリコリスは舌打ちをする。……幸いにも、アリシア本人は上手く聞き取れなかったようで安心だが……彼女は、リコリスは持たざる者なのだ。
「とりあえず採血しますから、そこに腰掛けてくださいね~」
「はい」
アリシアを指定の椅子に座らせ、自分は器具の準備をする振りをして後ろを向き、腕を抓ね上げる事でなんとか正気を保とうとするリコリス……そんな事もつゆ知らず、アリシアは素直に椅子に座ったまま準備が終わるのを待つ。
「はい、チクッとしますからね~」
「……っ」
何事も無かったかのように振る舞うリコリスに声を掛けられ、アリシアが採血をされる……その時に多少の痛みには慣れているものの、注射の針を刺されるところだけは何故か見れないのか、目をギュッと瞑って顔を逸らすアリシアを見てリコリスが優しく微笑む。
「……はい、大丈夫ですよ」
「ふぅ……」
「じゃあ口を開けてくださいね~」
言われた通りに素直に口を開け、リコリスがその口に綿棒で口腔粘膜を採取する。その後に舌圧子で舌を抑えられたアリシアが一瞬だけ『おえっ』となるのも気にせず、彼女はアリシアの口の中にライトの光を当てて観察していく。
「目にも異常はありませんね……では前を捲ってください」
「はい」
「……チッ」
「……?」
最初こそ、この死亡者も出している定期検診の係を命じられて気分が落ち込んでいたリコリスだったが……そんな憂鬱な気分もアリシアが検査室に入室した時から吹き飛んでいた。……その下に下着すら着けない為、薄い検査着一枚のみに包まれたアリシアの身体……特にある一部の膨らみは薄布を激しく持ち上げて良く目立ち、持たざる者である彼女の嫉妬の炎に薪を焼べる。
「何もないのよ? ホホッ」
「? ……冷たっ」
検査着の前を捲ったのも関わらず、動きを止めたままのリコリスを不思議そうに見詰めるアリシアに気付き、拙い誤魔化しをしながら聴診器を当てるリコリス……金属特有の冷たさを胸に感じ、身を捩るアリシアに合わせてその一部が揺れ、その形の良さと聴診器から伝わってくる感触の良さに、形も何もない彼女の嫉妬の炎が激しく燃え上がる。
「……本当に色が違うんですね」
「え? あ、はい……」
嫉妬の炎を燃え上がらせながらも仕事はしっかりとするリコリスがアリシアの胸の一部に穴を開けた様な不自然に変色した部分を見て呟く……一度は貫かれ、その後すぐに魔法で塞がれたその部分は酷く痛々しい傷を連想させる外見をしており、その境目は不自然なほど唐突に肌の色が変化している。
「……はい、もういいですよ。後は脈拍だけ測ってから次の検査室に行ってくださいね」
「はい」
恥ずかしそうに捲くっていた検査着の前を下ろし、リコリスに言われるままに脈拍を測ってからアリシアは次の検査室へと歩き出す。
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「どうでした?」
「全て問題はありませんでした」
アリシアの身体検査が全て終わった後、リコリス少尉は医務室室長の部屋で報告をしていた……彼女が話す相手は長身の女性であり、薄い紫色の髪を軽く結い上げ、丸眼鏡の奥から覗く金色の瞳がなんとも言えない妖艶さを漂わせ、タイツスカートからスラリと伸びる脚線美と相まって異性の目を惹き付ける。
「そうですか、それはなによりです。……次もよろしくお願いしますね?」
「……次?」
大きく開いた胸元を強調するかのように腕を組みながら振り返り、なんでもない事かの様に彼女が発した言葉の内容に、思わずリコリス少尉が聞き返す。
「そうです。貴女は今日付けでアリシア・スカーレット准尉付きの専門医官です……良かったですね、昇進ですよ」
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ニッコリと微笑む彼女に向けてリコリス少尉が内心で罵る……実年齢は不明だが、少なくとも十年以上は医務室室長を務めているため相当な年齢だと思われるが……ともすれば二十代後半でも通じる容姿が、多分に嫉妬混じりではあるがリコリス少尉はあまり好きでは無かった。……なによりも胡散臭い。
「辞退する事は──」
「──これは特別対魔機関バルバトス医務室室長アンジェリカ・クラウソラス大佐の命令ですよ?」
「……」
せめてもの抵抗として辞退を申し出ようとしたリコリス少尉に被せるようにして、アンジェリカ室長は自分の部下を優しく微笑み、蛇のような目で見詰めながら諭す。
「ですがそれでも断ると言うのなら……」
「い、いえ! 喜んで受けさせていただきます!」
胸の谷間から真っ赤な封筒を出し始めたアンジェリカ室長を見て、リコリス少尉は焦ったように命令を受け入れる。……もちろん笑顔で。
「そうですか、それはなによりです」
「……ッ!」
リコリス少尉の返事を聞き、真っ赤な封筒を胸の谷間に戻したアンジェリカ室長が満面の笑みで振り返り、背後の窓を見据える……上司の視線が途切れた瞬間、リコリス少尉は気付かれないように下唇を噛む。
「要件は以上です。下がっても構いませんよ」
「……失礼しました」
最後にその背に向けて下まぶたを指で引き下げてから舌を出し、無駄とも言えるなけなしの抗議をしてから何かを言われる前にリコリス少尉は退出する。
「……無事に面倒臭い案件に対する生贄も見つかりましたね」
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