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第二章.愛おしさに諦めない
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「……やっと来たか」
薄暗い地下室であろう一室に一人の黄色人種の若者が入室したのを確認して、法衣を纏った褐色肌の老人は呆れた声を出す。
「相変わらず年寄りの癖に気が短いね」
「なんじゃと? ……まったく最近の若者は年寄りに対する敬意がない」
「ハハッ! グリシャに電車賃すら渡さないケチジジイが」
「お前の管轄じゃろ、ちゃんと出せや」
着ていた白衣を翻し態とらしく老人を挑発すれば、それに乗った老人が言って返す様を部屋に居たもう一人の人物……黒衣を纏った色白の女性が見て溜め息を吐いて立ち上がる。
「もういつものプロレスはいいから、さっさっとお互いに報告してちょうだい」
「おぉそうじゃった、無礼者の相手よりも大事じゃな」
「はーい、老害よりも優先しまーす」
若者が老人の足を踏みつけ、老人が若者の頬を抓りながら懐から書類を取り出す様を見て女性はさらに溜め息をつく……まるで『いい加減にしろ』と言わんばかりである。
「まず僕からねー、狩人の『羅針盤』を狂わせる事と五度目の『堕天』に成功……もう本格的に進めていいよ」
「それは素晴らしい成果ね『羊飼い』も喜ぶわ」
「ふん……」
若者が発表したそれに対して女性は大仰に頷いて喜びを示し、老人でさえも頬を抓るのを止めて面白くなさそうに……だが成果を認めてはいるのか何も言わない。
「あなたは?」
「ワシはもう既に『魔道具』の試作に成功しとる、後は回数を重ねてエラーを潰すだけじゃ」
「やはり貴方達は二人とも優秀ね!」
老人が成果を報告すれば女性は飛び上がって全身で喜びを露わにし、若者は老人から足をどけてそっぽを向く……その顔は詰まらない物を見たとでも言いたげであった。
「そうさな……その試作品ももう少し時間を貰えれば試験できるだろう。丁度いい場所のピックアップを頼む」
「えぇ任せて頂戴」
「……」
老人と女性が話を進めている横で若者がなにやら漁り出す……部屋に入る時に一緒に持っていた棺のような物を取り出し引き摺ってくる。
「……なんじゃそれは?」
「ん? ……あぁ『堕天』した後の魔法使いをバルバトスから攫ってきた、大事なサンプルだからね」
「……良く潜入して攫うこと迄できたわね?」
「君が派遣した内通者が有能だったからさ」
老人と女性二人と会話しながら棺を開封し、中から生命を冒涜したような末路を辿った男性……らしき人が姿を現す。その様は全身の色を奪われ、瞳孔が開き切り真っ黒な瞳は何処を見ているのか……四肢は黒い粘液に侵され、末端からパズルのピースのように解けている様は人間だとはとても思えない。
「……これちゃんと生きとるんか?」
「んー? 生命活動は維持してるけと頭がぶっ壊れているからねぇ……生きてはいないんじゃない? ……ま、何をもって生きているのかを定義するのかによるけど」
魔法使いだった者の顔の前で指を回し、それに反応すらしない事に苦笑しながら若者は老人の当然とも言える質問に答える。
「ま、生きとるならいいわい」
「そうだね、データを取り終わったらまた溶かして使いなよ」
「そうさせて貰おう」
老人とそんな会話をしながら若者は魔法使いだった男性の目玉を取り出して試験管の中で白い粘液と一緒に混ぜ、その反応を観察する……その合間に老人が綿棒で口内粘膜を採取し、腕を一本切り落としてから二人で厳重に保管してから棺に封を再度施す。
「あなたたち仲が悪いのか良いのかはっきりしたら?」
「誰がこんな乳臭いガキと……」
「誰がこんなカビ臭いジジィと……」
「「あ"ぁ"??」」
テキパキとテンポ良く必要事項のみの会話を交わし、手際よく作業を共同する若者と老人の二人に対して女性がなんとなしに疑問をぶつければ途端にメンチを切り合う。
「はぁ~……これだから最近の若者はなっとらん!」
「なるほど、これがキレる老人……」
「「……………………あ"ぁ"??」」
「私が軽率だったから、もう止めなさい?」
こめかみに青筋を立てた女性が一声かければすぐさま襟を正し、背筋を伸ばして言い合いを止めて仲良く整列する老人と若者……『最初からそうしろや』という言葉を女性が飲み込んで耐えていると若者が『あ、そういえば』という声を出す。
「……なにかあったのかしら?」
「いやね? ウィーゼライヒ領都で興味深い人物を見かけたんだよ!」
「……確か内通者によると派遣された狩人は『巨狼』と言っておったな? 確かに厄介な人物ではあるが今さらじゃろう?」
「そっちじゃないんだって」
若者の興味を惹くであろう人物に一番近い者の名を挙げれば若者本人から否定され、老人と女性は揃って首を傾げる。
「その『巨狼』と組んでいた新人の女の子なんだけどね?」
「……まさかお主にも初恋が訪れるとはなぁ」
「今夜はお祝いね」
「……違ぇよ」
まさか若者が何も実績もない新人に興味を示すとは思えず、老人と女性は二人して『コイツにも春が?!』と勝手に沸き立つ……その様を若者は冷めた目で見ながら続ける。
「その女の子レナリア人の癖に胸と左腕に高純度の魔力を宿してたんだよね」
「……ガナン人とのハーフという可能性は?」
「それも考えたんだけど違うっぽいよ? その子貴族の直系らしいし」
「ほほう……」
貴族がガナン人を妾として囲う事も無くはないが直系となれば話は別……それはすなわち純粋なレナリア人に他ならない。
「しかも他人の魔力で、後で照合してみたらさ……」
「……なんじゃ、勿体ぶらずはよ言えや」
「魔法使いでも無いのに他人の魔力を宿している事も驚きだけれどね?」
他人の魔力を取り込める人間など魔法使いしか居ないのにも関わらず、それを宿して平気でいられるレナリア人などありえないと女性は考える。
「聞いて驚いてよ、その魔力──『羊飼い』のだったんだ」
「……それは誠か?」
「ありえないわ……」
「そうだよねぇ~、たとえ魔力で欠損を治したとしても魔力は土地や魔法使い以外には留まらずに霧散するだけだもんね……それが『羊飼い』のものとなれば尚更ありえない」
彼ら三人にとってそれほど『羊飼い』という単語が出てきた事は異常事態であり、ありえない事だった……故に──
「──今度その少女を見つけたら生け捕りにしなさい」
「だと思った」
「まぁ、そうなるじゃろうな」
三人の中で一番地位が高い女性が下した命令に若者と老人はさも予想できたとばかりに驚かず、話半分に聞き流しながら自身の作業の続きをこなす。
「……まったく、『乱獲』と『大樹』がここ最近活動が活発になっているというのに面倒な」
「でも放っておけないでしょ?」
「当たり前じゃない……それで? その少女の特徴は?」
「えーとね……」
自分の部下達が派遣された先々で潰されていることを思い出し、歯噛みしながら女性は少女の特徴を若者から聞き出す。
「本名はまだわからないけど、通称は『緋色』……美しいオパールのようなピンクの髪が目印だよ」
「『緋色』……ですって?」
「これはこれは……またなんともピンポイントじゃなぁ」
若者の説明を聞き女性は怒りを顕にする……それほど彼女にとって『羊飼い』に『緋色』が関わる事が許せない事のようだ。
「……場合によって殺す事も許可するわ」
「それは公私混同じゃない?」
「……以上よ、後はもう話すことはないから出ていきなさい」
「「……はぁ~」」
女性の取り付く島もない様子に若者と老人は顔を見合わせてからお互いに溜め息をつき、退室する。
「……『羊飼いと緋色』なんて私は許さない」
一人残された部屋で女性の憤怒の篭った呟きが静かに響き渡った。
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薄暗い地下室であろう一室に一人の黄色人種の若者が入室したのを確認して、法衣を纏った褐色肌の老人は呆れた声を出す。
「相変わらず年寄りの癖に気が短いね」
「なんじゃと? ……まったく最近の若者は年寄りに対する敬意がない」
「ハハッ! グリシャに電車賃すら渡さないケチジジイが」
「お前の管轄じゃろ、ちゃんと出せや」
着ていた白衣を翻し態とらしく老人を挑発すれば、それに乗った老人が言って返す様を部屋に居たもう一人の人物……黒衣を纏った色白の女性が見て溜め息を吐いて立ち上がる。
「もういつものプロレスはいいから、さっさっとお互いに報告してちょうだい」
「おぉそうじゃった、無礼者の相手よりも大事じゃな」
「はーい、老害よりも優先しまーす」
若者が老人の足を踏みつけ、老人が若者の頬を抓りながら懐から書類を取り出す様を見て女性はさらに溜め息をつく……まるで『いい加減にしろ』と言わんばかりである。
「まず僕からねー、狩人の『羅針盤』を狂わせる事と五度目の『堕天』に成功……もう本格的に進めていいよ」
「それは素晴らしい成果ね『羊飼い』も喜ぶわ」
「ふん……」
若者が発表したそれに対して女性は大仰に頷いて喜びを示し、老人でさえも頬を抓るのを止めて面白くなさそうに……だが成果を認めてはいるのか何も言わない。
「あなたは?」
「ワシはもう既に『魔道具』の試作に成功しとる、後は回数を重ねてエラーを潰すだけじゃ」
「やはり貴方達は二人とも優秀ね!」
老人が成果を報告すれば女性は飛び上がって全身で喜びを露わにし、若者は老人から足をどけてそっぽを向く……その顔は詰まらない物を見たとでも言いたげであった。
「そうさな……その試作品ももう少し時間を貰えれば試験できるだろう。丁度いい場所のピックアップを頼む」
「えぇ任せて頂戴」
「……」
老人と女性が話を進めている横で若者がなにやら漁り出す……部屋に入る時に一緒に持っていた棺のような物を取り出し引き摺ってくる。
「……なんじゃそれは?」
「ん? ……あぁ『堕天』した後の魔法使いをバルバトスから攫ってきた、大事なサンプルだからね」
「……良く潜入して攫うこと迄できたわね?」
「君が派遣した内通者が有能だったからさ」
老人と女性二人と会話しながら棺を開封し、中から生命を冒涜したような末路を辿った男性……らしき人が姿を現す。その様は全身の色を奪われ、瞳孔が開き切り真っ黒な瞳は何処を見ているのか……四肢は黒い粘液に侵され、末端からパズルのピースのように解けている様は人間だとはとても思えない。
「……これちゃんと生きとるんか?」
「んー? 生命活動は維持してるけと頭がぶっ壊れているからねぇ……生きてはいないんじゃない? ……ま、何をもって生きているのかを定義するのかによるけど」
魔法使いだった者の顔の前で指を回し、それに反応すらしない事に苦笑しながら若者は老人の当然とも言える質問に答える。
「ま、生きとるならいいわい」
「そうだね、データを取り終わったらまた溶かして使いなよ」
「そうさせて貰おう」
老人とそんな会話をしながら若者は魔法使いだった男性の目玉を取り出して試験管の中で白い粘液と一緒に混ぜ、その反応を観察する……その合間に老人が綿棒で口内粘膜を採取し、腕を一本切り落としてから二人で厳重に保管してから棺に封を再度施す。
「あなたたち仲が悪いのか良いのかはっきりしたら?」
「誰がこんな乳臭いガキと……」
「誰がこんなカビ臭いジジィと……」
「「あ"ぁ"??」」
テキパキとテンポ良く必要事項のみの会話を交わし、手際よく作業を共同する若者と老人の二人に対して女性がなんとなしに疑問をぶつければ途端にメンチを切り合う。
「はぁ~……これだから最近の若者はなっとらん!」
「なるほど、これがキレる老人……」
「「……………………あ"ぁ"??」」
「私が軽率だったから、もう止めなさい?」
こめかみに青筋を立てた女性が一声かければすぐさま襟を正し、背筋を伸ばして言い合いを止めて仲良く整列する老人と若者……『最初からそうしろや』という言葉を女性が飲み込んで耐えていると若者が『あ、そういえば』という声を出す。
「……なにかあったのかしら?」
「いやね? ウィーゼライヒ領都で興味深い人物を見かけたんだよ!」
「……確か内通者によると派遣された狩人は『巨狼』と言っておったな? 確かに厄介な人物ではあるが今さらじゃろう?」
「そっちじゃないんだって」
若者の興味を惹くであろう人物に一番近い者の名を挙げれば若者本人から否定され、老人と女性は揃って首を傾げる。
「その『巨狼』と組んでいた新人の女の子なんだけどね?」
「……まさかお主にも初恋が訪れるとはなぁ」
「今夜はお祝いね」
「……違ぇよ」
まさか若者が何も実績もない新人に興味を示すとは思えず、老人と女性は二人して『コイツにも春が?!』と勝手に沸き立つ……その様を若者は冷めた目で見ながら続ける。
「その女の子レナリア人の癖に胸と左腕に高純度の魔力を宿してたんだよね」
「……ガナン人とのハーフという可能性は?」
「それも考えたんだけど違うっぽいよ? その子貴族の直系らしいし」
「ほほう……」
貴族がガナン人を妾として囲う事も無くはないが直系となれば話は別……それはすなわち純粋なレナリア人に他ならない。
「しかも他人の魔力で、後で照合してみたらさ……」
「……なんじゃ、勿体ぶらずはよ言えや」
「魔法使いでも無いのに他人の魔力を宿している事も驚きだけれどね?」
他人の魔力を取り込める人間など魔法使いしか居ないのにも関わらず、それを宿して平気でいられるレナリア人などありえないと女性は考える。
「聞いて驚いてよ、その魔力──『羊飼い』のだったんだ」
「……それは誠か?」
「ありえないわ……」
「そうだよねぇ~、たとえ魔力で欠損を治したとしても魔力は土地や魔法使い以外には留まらずに霧散するだけだもんね……それが『羊飼い』のものとなれば尚更ありえない」
彼ら三人にとってそれほど『羊飼い』という単語が出てきた事は異常事態であり、ありえない事だった……故に──
「──今度その少女を見つけたら生け捕りにしなさい」
「だと思った」
「まぁ、そうなるじゃろうな」
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「……まったく、『乱獲』と『大樹』がここ最近活動が活発になっているというのに面倒な」
「でも放っておけないでしょ?」
「当たり前じゃない……それで? その少女の特徴は?」
「えーとね……」
自分の部下達が派遣された先々で潰されていることを思い出し、歯噛みしながら女性は少女の特徴を若者から聞き出す。
「本名はまだわからないけど、通称は『緋色』……美しいオパールのようなピンクの髪が目印だよ」
「『緋色』……ですって?」
「これはこれは……またなんともピンポイントじゃなぁ」
若者の説明を聞き女性は怒りを顕にする……それほど彼女にとって『羊飼い』に『緋色』が関わる事が許せない事のようだ。
「……場合によって殺す事も許可するわ」
「それは公私混同じゃない?」
「……以上よ、後はもう話すことはないから出ていきなさい」
「「……はぁ~」」
女性の取り付く島もない様子に若者と老人は顔を見合わせてからお互いに溜め息をつき、退室する。
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