サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第三章.寂寥のお絵かき

8.密かな交戦

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「……て事があったんだがお前はどう思う?」

 帝都の路地裏を歩きながらカルマンから先ほどあった事を聞かされる……どうやらミーナ・ガージュに絵を描かせたいカルマンと他の子どもらしい遊びをさせたいレティシャで少しばかり言い合いをした様だ。

「まぁ、お前は間違ってはいない」

「だろう?」

「ただミーナは魔法使いではないし、無粋ではあったな」

「……」

 魔法使いとしてならカルマンが正しいのだろうがミーナは魔法使いではないし、せっかく女の子達だけで遊んでいるところに割って入るのはどうかと告げると不貞腐れたように黙ってしまう……まぁすぐに飲み込めるとは思えないが。

「……さて、出てきたらどうだ?」

「気付いていたか……」

「出てくるのが遅せぇよ、三千ベルン」

 向かいに見える曲がり角から狼を模した仮面を付けた怪しげな男の二人組が現れる……何時ぞやの山間の村でも見た狩人達だろう。人によって擬態する物は違うらしく、どれが猟犬なのかは不明だがこの場でこちらを害する事はできると見た方が良いな。

「人の後をコソコソと尾けてなんの目的だ?」

「……いや? こんな路地裏にピエロが二人も居たんだ、怪しむのは当然だろ?」

「嘘つけ街中からだろうが、詐称ペナルティ五万ベルン」

 確かに変なピエロの二人組が路地裏に居たら怪しむのは当然と言えるが、コイツらは表通りを歩いていた時からこちらの後を尾けていた。相手も最初から誤魔化せるとは思っていなかったのだろう、両手を上げて降参のポーズを取る。

「……そうだよ、羅針盤が君たちを魔法使いだと示していてね?」

「……だったらどうする?」

「そんなん決まってるでしょ?」

 羅針盤か……魔力に反応する様に造られた道具であり、魔法を行使するなどによって短期間の劇的な魔力濃度の変動がない限りそこまで観測距離は無かったはずだが……たまたま近くをすれ違ってしまったのだろう。ここは帝都、どこの誰が狩人なのかさっぱりわからない。

「──狩るさ」

 こちらと話していた男が腰に着けていたベルトから機械仕掛けの双剣を取り出し、後ろに控えていた男がリュックから仰々しいライフルを取り出す……いや、取り出すというよりも変形したと言った方が正しい。あれが猟犬だろう。

「『我が願いの対価は浅ましき鈴蘭二輪 望むは凶音』」

「ガァっ?!」

「チッ! 貴様!」

 脳内を掻き毟る様な不快な音を双剣の男の耳元で響かせれば顔中から体液を吹き出し自身の喉を掻き毟る……それを受けて後方の狩人が発砲しながら猟犬をライフルから長剣へと変形させ斬り掛かるが……こちらも一人ではないぞ?

「『我が願いの対価は五千ベルン 望むは貴様の眼球』」

「あぁぁぁぁぁああ??!!!」

 カルマンが懐から出した硬貨を握り締め溶かせばこちらに駆け寄っていた男の眼球が潰れ、目の前には自身の体液で顔を汚した死体と自身の目を抑え蹲る男の二人という絵面になる。

「……羊飼いのベルは怖いな」

「お前こそなんださっきの魔法は?」

 眼球を潰された狩人にとどめを刺しながらカルマンと会話をする……今回はこちらの格好で相手が油断するほど若かった事と、自分とカルマンの初見殺しが効いたので速攻できて運が良かった。

「ちゃんと相場通りに払った」

「なんの相場だ……」

 カルマンがその拝金主義に相応しく金銭を対価に相手の『価値ある物』を奪ったりする魔法が得意なのはなんとなく理解したが……相場があるのか?

「闇市では健康体の眼球は」

「あー、もういい」

 この話は聞けば後戻り出来なくなりそうだな……まさかカルマン、コイツ人身売買とかしていないだろうな? もしもしていたとしても咎めるつもりはないが、あまりリーシャやレティシャの前では言及しないでくれよ?

「まぁいい、とにかくこれで狩人を殺しちゃった訳だが?」

「……隠蔽しても、長くは保たないな」

 さてどうするか……意外にも倒せたと言っても仲間が戻らなくなれば早晩気付くだろうし、あちらの警戒が促されるな。自分の身を守るためとはいえ今の段階で刺激するのは──

「──待て、コイツら本当に狩人か?」

「……違うのか?」

 狩人にしてはあっさりと倒せたのはよくよく考えればおかしい……彼らはたとえ新人でも魔法使いを殺すべく教育されたエリート達だ、同じ新人である俺たちに簡単に敗北する筈がない。

「俺の五千ベルン……」

「諦めろ……仮面を外すぞ」

「畜生が」

 狩人が相手じゃないのなら使わなければ良かったと嘆くカルマンに呆れながら一応声を掛け、狩人……と思わしき格好をした二人組の仮面を慎重に取り外す。

「これは……」

「……予想外のもんが出たな」

 素顔を晒した彼らはまるで先ほどまで生きて動いていたとは思えない程に腐り果てて虫が這い、一部白骨化すらしていた……まさか死体が動いていたとでも言うのか? 思えば戦闘中も血は出なかったな。

「おい、見たところ猟犬は本物だぞ? 魔力反応がある」

「……誰かが狩人を殺し、その死体を動かしていた?」

「そんな事が可能なのか?」

「……わからない」

 彼らの言動に不自然さなど全く見当たらなかった……だとしたらこれ成した相手は狩人という戦闘のプロを殺し、その死体を生前と同じように動かせるという事。

「いったいどれ程の対価が必要なのか検討も付かんな」

「少なくとも俺らにはまだ無理だな」

「そうだな、リーシャ達にも伝えて警戒を促しておこう」

 俺たちよりも遥かに魔法に長けた者かそれ以外なのかは判らないが、厄介な相手だということはハッキリと理解できる……半人半魔で不安定なミーナと接触されないように警戒しておかねばなるまい。

「はぁ……やっぱり屋内で大人しく絵を描いてた方が良いじゃねぇか」

「言うな」

 残り少ない少女の生命……その時間の内に思い出を残してあげたいという彼女達の想いを尊重してやりたいと僕は思うな。

「それよりも魔法も使ったし、他の狩人が来る前にこの場を離れるぞ」

「へいへい」

「『我が願いの対価は情熱の薔薇 望むは暖かき焔 道半ばで朽ちる無念 弄ばれる悲哀 君のそれを僕は受け止めて 安堵の温もりを与える──火葬』」

 最後に死体を弄ばれたであろう狩人達の死体を周囲の建物に引火しないように魔法の焔によって焼き払う……顔も知らない相手だけど、大事なことだと思った。

「……お優しい事で」

「……行くよ」

 理解できないと言わんばかりのカルマンを連れて表通りへと出る……とりあえずの僕の役割はリーシャ達が憂いなくミーナと遊べるように裏方を熟す事、それに集中しよう。

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