サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
100 / 140
第五章.美しくありたい

9.魔法とは

しおりを挟む
「マーク、森を案内してくれるか?」

「……森?」

 朝食を食べ終え、魔法の講義を受ける準備をしているマークに森の案内を頼めば……案の定とも言うべきか、怪訝な顔をして振り返る。……まぁ確かに魔法を教えてくれるのではないのかと疑念を抱きかねない言い方だったな。

「魔法を教えてくれるんじゃないのか?」

「言い方が悪かったな、魔法を教えるのに必要なんだ」

「……森に案内することが?」

 ますます怪訝な表情を深めるマークにどう説明したものかと悩む。……確かにこの森の調査、本当に妖精の魔女が居るのか等、並行して調べる目的もあるにはあるが……見たところマークはなにも『供物』を持っておらず、名前から『職能』も分からない。

「お前、『供物』を持っていないだろ?」

「……」

「それじゃあ魔法は使えない、だからその代わりを森で探す」

 この森になら幾らでも『供物』の代わりは見つかるだろう……それに何かがあってもリーシャが居れば問題はない。

▼▼▼▼▼▼▼

「そこの目印の前で3回まわってから右だ」

 マークの先導の元森の中を進む……この森は本当に迷いやすい、というよりも迷わせる性質を持つらしく、ただ単に進む方向を変えるだけでも特定の動きをしたりしなければならず、また進みたい方向とは真逆に進む事で進みたい方向へと向かえるという、なんとも頭を使う……。

「着いたぞ、ここだ」

 そうして辿り着いたのは数多の花が咲き誇る盆地である……そこだけ切り取ったかのように木は生えておらず、空からも珍しく日差しが注ぎ、今まで薄暗い森の中を歩いていたせいか酷く眩しい。

「なぁ、本当にこんな花が『対価』になるのか?」

「お前次第だな」

「……」

 マークの疑問に簡単に答えながら、綺麗で、形が良く、生命力の強そうな物を基準として花を摘み取っていく。……この森に手頃な花が咲いていて助かったな。

「良いか? この花は今のお前にとってはただの花だ」

「……それがどうした」

「だがこの花も『生命』だ、生きている」

 『生命』というものは酷く重い……たとえ日常的に蟻を潰していても、花を踏みにじっても、木を切り倒しても……それが『生命』だと認識すれば人は途端に尊重し出す。『価値』を見出す。

「お前はこれから花を『対価』にするんじゃない……『生命』を『対価』にするんだ、これに『価値』を見い出せ、尊重しろ」

 これは花ではない、『生命』の一つとして認識することで『価値』を引き上げる……動植物にはそれが出来る。

「……でも花だぞ、そんなに凄い魔法は使えないだろ?」

「その通りだ」

 マークの言う通りでいくら『生命』だなんだと言っても所詮はつい先ほどそこら辺で摘み取った花でしかない。行使できる魔法の規模など、たかが知れている。

「本当はお前自身が丁寧に育てた花が望ましいが……そんな物はないだろう? あくまで無いよりはマシというやつだ」

「……」

「お前の様に『職能』がなんなのか、まったく判明しない奴であっても『生命』に属するものは等しく『価値』がある」

 リーシャの様な『鍛冶屋』、カルマンの様な『商人』、レティシャの様な『騎士』、それらのどの様な魔法が得意で何に対して一際『価値』を見い出すのか分からない奴であっても……人は『生命』に等しく『価値』を見い出す。

「……お前の『供物』が花なのにも関係があるのか?」

「……そうだな、俺は未だに花や毛皮など……『生命』を『対価』とすることで魔法を行使している」

 他の獣よりも羊毛の方が少しだけ効果が高いから使っているだけで、実際に俺は花や羊毛に一際『価値』を見い出している訳ではない……『羊飼い』がなんなのか、俺自身がよく分かっていない。

「『生命』を『対価』とする事でどんな魔法が行使できる?」

「そうだな……単純な身体能力の強化や怪我や病気の治療、そして汎用性が強みだな」

 魔法を行使する際の『対価』の『価値』を決めるのは、魔法使い自身の認識と人の潜在意識が深く関係する……魔法使い自身が大事に思えば思うほど、またそれ自体に『価値』があり、見い出す人が多ければ多いほどに行使できる魔法の規模は大きくなる。……その点、『生命』は数多の人が尊重するし、この人類社会に於いて『金銭』の『価値』は万人が認めるもの。特にこの二つを『対価』として行使できる魔法は多く、汎用性が高い。

「……もし、魔法が暴走したらどうする?」

「その点はリーシャが居るから何も問題はない」

「……この女が?」

「……(ビクッ」

 マークに胡乱げな視線を向けられたリーシャが肩を震わせる……さらにそれを見てマークがますます怪訝な表情を浮かべるという悪循環が目の前で発生している。……まぁリーシャの事はこの際仕方がない。

「あんまり睨んでやるな」

「……頼りないんだが?」

「これでも彼女は俺の自慢の相棒だ」

 マークを窘める時の〝これでも〟の部分でジッとこちらを見詰めて無言の抗議をしていたリーシャが〝自慢の相棒〟と言った瞬間に即座に目を逸らし、その耳を赤くているのを認めて『本当に彼女は大丈夫だろうか』等と心配になる。

「それに『生命』に属するものは『鉄』に属するものに弱い」

「……つまり?」

「いくらお前が『生命』を暴走させようが、リーシャの『鉄』が刈り取るから問題はない」

 そういう意味では本当にリーシャが相棒で良かったと言えるだろう……この様な不気味な森の中で居るかも分からない魔女を探す等と……仮に魔物が発生してもそれは『生命』に属する者の可能性が高く、リーシャの『鉄』が活躍するだろう。

「とりあえずごちゃごちゃ言う前に始めろ、そして今日から丁寧に愛情を持ってガーデニングでもしろ」

「……魔法って意味が分かんねぇ」

「安心しろ、俺も分からん」

「「……」」

 いやだって本当に分からないんだから仕方がないだろ……リーシャまで白い目で見ないでくれ、傷付く。

「おっほん! ……とりあえず今日からただひたすらに反復練習だ、最初の内は『詠唱』と自分の身体を通して偉大なる大地に『対価』を捧げる感覚を覚えろ」

「詠唱ってあれだろ? 我が願いの~っていう……あれ必要ないだろ、普通に無くても魔法の行使は出来るんだろ?」

 ふむ、まぁ確かに詠唱は長い。戦闘時などには丁寧にする余裕はあまり無く、確かに邪魔臭いと思ってしまうのも無理はない……だがそれでは危険過ぎる。

「……お前は人にものを頼む時、特に目上の人に頼み事をする時に〝無言で催促〟するのか?」

「……しない」

「詠唱とは『祈念』だ、〝偉大なる大地〟に『対価』を支払う代わりに力を戴く願いの言葉だ」

 本当に丁寧にするのならば大地に額を擦り付け、自身の血肉と一緒に『対価』を捧げながら長い祈りの言葉を唱え、最後に感謝する……これが一番魔法を行使する際の効率が良い。分かりやすく言うのであれば〝費用対効果〟が高い。

「緊急時などの仕方のない場合を除いて無詠唱はオススメできない……大地に対する畏敬を忘れた魔法使いは──」

 そして〝偉大なる大地〟は酷くプライドが高い……一々我ら一人一人を見ている訳ではないが、あまりにも不敬な態度を取る我が子が居れば簡単に癇癪を起こす。

「──魔物と化す」

「……」

「あまり、プライドが高い〝偉大なる大地〟を刺激しない方が良い」

 大地の民たる魔法使いが、大地への畏敬の念を忘れてはならない……我々魔法使いが獣にならない為に、常に己を律しなければならない。……簡単に『願望』を叶える力があるが故に。

「分かったら早くしろ、『願い』はなんでも構わん……なんなら魔法で指を切って、その傷を魔法で癒せ」

「……分かったよ」

 とりあえず数日はマークに魔法を教えながら、この不気味な森の調査になりそうだな……。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...