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第五章.美しくありたい
9.魔法とは
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「マーク、森を案内してくれるか?」
「……森?」
朝食を食べ終え、魔法の講義を受ける準備をしているマークに森の案内を頼めば……案の定とも言うべきか、怪訝な顔をして振り返る。……まぁ確かに魔法を教えてくれるのではないのかと疑念を抱きかねない言い方だったな。
「魔法を教えてくれるんじゃないのか?」
「言い方が悪かったな、魔法を教えるのに必要なんだ」
「……森に案内することが?」
ますます怪訝な表情を深めるマークにどう説明したものかと悩む。……確かにこの森の調査、本当に妖精の魔女が居るのか等、並行して調べる目的もあるにはあるが……見たところマークはなにも『供物』を持っておらず、名前から『職能』も分からない。
「お前、『供物』を持っていないだろ?」
「……」
「それじゃあ魔法は使えない、だからその代わりを森で探す」
この森になら幾らでも『供物』の代わりは見つかるだろう……それに何かがあってもリーシャが居れば問題はない。
▼▼▼▼▼▼▼
「そこの目印の前で3回まわってから右だ」
マークの先導の元森の中を進む……この森は本当に迷いやすい、というよりも迷わせる性質を持つらしく、ただ単に進む方向を変えるだけでも特定の動きをしたりしなければならず、また進みたい方向とは真逆に進む事で進みたい方向へと向かえるという、なんとも頭を使う……。
「着いたぞ、ここだ」
そうして辿り着いたのは数多の花が咲き誇る盆地である……そこだけ切り取ったかのように木は生えておらず、空からも珍しく日差しが注ぎ、今まで薄暗い森の中を歩いていたせいか酷く眩しい。
「なぁ、本当にこんな花が『対価』になるのか?」
「お前次第だな」
「……」
マークの疑問に簡単に答えながら、綺麗で、形が良く、生命力の強そうな物を基準として花を摘み取っていく。……この森に手頃な花が咲いていて助かったな。
「良いか? この花は今のお前にとってはただの花だ」
「……それがどうした」
「だがこの花も『生命』だ、生きている」
『生命』というものは酷く重い……たとえ日常的に蟻を潰していても、花を踏みにじっても、木を切り倒しても……それが『生命』だと認識すれば人は途端に尊重し出す。『価値』を見出す。
「お前はこれから花を『対価』にするんじゃない……『生命』を『対価』にするんだ、これに『価値』を見い出せ、尊重しろ」
これは花ではない、『生命』の一つとして認識することで『価値』を引き上げる……動植物にはそれが出来る。
「……でも花だぞ、そんなに凄い魔法は使えないだろ?」
「その通りだ」
マークの言う通りでいくら『生命』だなんだと言っても所詮はつい先ほどそこら辺で摘み取った花でしかない。行使できる魔法の規模など、たかが知れている。
「本当はお前自身が丁寧に育てた花が望ましいが……そんな物はないだろう? あくまで無いよりはマシというやつだ」
「……」
「お前の様に『職能』がなんなのか、まったく判明しない奴であっても『生命』に属するものは等しく『価値』がある」
リーシャの様な『鍛冶屋』、カルマンの様な『商人』、レティシャの様な『騎士』、それらのどの様な魔法が得意で何に対して一際『価値』を見い出すのか分からない奴であっても……人は『生命』に等しく『価値』を見い出す。
「……お前の『供物』が花なのにも関係があるのか?」
「……そうだな、俺は未だに花や毛皮など……『生命』を『対価』とすることで魔法を行使している」
他の獣よりも羊毛の方が少しだけ効果が高いから使っているだけで、実際に俺は花や羊毛に一際『価値』を見い出している訳ではない……『羊飼い』がなんなのか、俺自身がよく分かっていない。
「『生命』を『対価』とする事でどんな魔法が行使できる?」
「そうだな……単純な身体能力の強化や怪我や病気の治療、そして汎用性が強みだな」
魔法を行使する際の『対価』の『価値』を決めるのは、魔法使い自身の認識と人の潜在意識が深く関係する……魔法使い自身が大事に思えば思うほど、またそれ自体に『価値』があり、見い出す人が多ければ多いほどに行使できる魔法の規模は大きくなる。……その点、『生命』は数多の人が尊重するし、この人類社会に於いて『金銭』の『価値』は万人が認めるもの。特にこの二つを『対価』として行使できる魔法は多く、汎用性が高い。
「……もし、魔法が暴走したらどうする?」
「その点はリーシャが居るから何も問題はない」
「……この女が?」
「……(ビクッ」
マークに胡乱げな視線を向けられたリーシャが肩を震わせる……さらにそれを見てマークがますます怪訝な表情を浮かべるという悪循環が目の前で発生している。……まぁリーシャの事はこの際仕方がない。
「あんまり睨んでやるな」
「……頼りないんだが?」
「これでも彼女は俺の自慢の相棒だ」
マークを窘める時の〝これでも〟の部分でジッとこちらを見詰めて無言の抗議をしていたリーシャが〝自慢の相棒〟と言った瞬間に即座に目を逸らし、その耳を赤くているのを認めて『本当に彼女は大丈夫だろうか』等と心配になる。
「それに『生命』に属するものは『鉄』に属するものに弱い」
「……つまり?」
「いくらお前が『生命』を暴走させようが、リーシャの『鉄』が刈り取るから問題はない」
そういう意味では本当にリーシャが相棒で良かったと言えるだろう……この様な不気味な森の中で居るかも分からない魔女を探す等と……仮に魔物が発生してもそれは『生命』に属する者の可能性が高く、リーシャの『鉄』が活躍するだろう。
「とりあえずごちゃごちゃ言う前に始めろ、そして今日から丁寧に愛情を持ってガーデニングでもしろ」
「……魔法って意味が分かんねぇ」
「安心しろ、俺も分からん」
「「……」」
いやだって本当に分からないんだから仕方がないだろ……リーシャまで白い目で見ないでくれ、傷付く。
「おっほん! ……とりあえず今日からただひたすらに反復練習だ、最初の内は『詠唱』と自分の身体を通して偉大なる大地に『対価』を捧げる感覚を覚えろ」
「詠唱ってあれだろ? 我が願いの~っていう……あれ必要ないだろ、普通に無くても魔法の行使は出来るんだろ?」
ふむ、まぁ確かに詠唱は長い。戦闘時などには丁寧にする余裕はあまり無く、確かに邪魔臭いと思ってしまうのも無理はない……だがそれでは危険過ぎる。
「……お前は人にものを頼む時、特に目上の人に頼み事をする時に〝無言で催促〟するのか?」
「……しない」
「詠唱とは『祈念』だ、〝偉大なる大地〟に『対価』を支払う代わりに力を戴く願いの言葉だ」
本当に丁寧にするのならば大地に額を擦り付け、自身の血肉と一緒に『対価』を捧げながら長い祈りの言葉を唱え、最後に感謝する……これが一番魔法を行使する際の効率が良い。分かりやすく言うのであれば〝費用対効果〟が高い。
「緊急時などの仕方のない場合を除いて無詠唱はオススメできない……大地に対する畏敬を忘れた魔法使いは──」
そして〝偉大なる大地〟は酷くプライドが高い……一々我ら一人一人を見ている訳ではないが、あまりにも不敬な態度を取る我が子が居れば簡単に癇癪を起こす。
「──獣と化す」
「……」
「あまり、プライドが高い〝偉大なる大地〟を刺激しない方が良い」
大地の民たる魔法使いが、大地への畏敬の念を忘れてはならない……我々魔法使いが獣にならない為に、常に己を律しなければならない。……簡単に『願望』を叶える力があるが故に。
「分かったら早くしろ、『願い』はなんでも構わん……なんなら魔法で指を切って、その傷を魔法で癒せ」
「……分かったよ」
とりあえず数日はマークに魔法を教えながら、この不気味な森の調査になりそうだな……。
▼▼▼▼▼▼▼
「……森?」
朝食を食べ終え、魔法の講義を受ける準備をしているマークに森の案内を頼めば……案の定とも言うべきか、怪訝な顔をして振り返る。……まぁ確かに魔法を教えてくれるのではないのかと疑念を抱きかねない言い方だったな。
「魔法を教えてくれるんじゃないのか?」
「言い方が悪かったな、魔法を教えるのに必要なんだ」
「……森に案内することが?」
ますます怪訝な表情を深めるマークにどう説明したものかと悩む。……確かにこの森の調査、本当に妖精の魔女が居るのか等、並行して調べる目的もあるにはあるが……見たところマークはなにも『供物』を持っておらず、名前から『職能』も分からない。
「お前、『供物』を持っていないだろ?」
「……」
「それじゃあ魔法は使えない、だからその代わりを森で探す」
この森になら幾らでも『供物』の代わりは見つかるだろう……それに何かがあってもリーシャが居れば問題はない。
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「そこの目印の前で3回まわってから右だ」
マークの先導の元森の中を進む……この森は本当に迷いやすい、というよりも迷わせる性質を持つらしく、ただ単に進む方向を変えるだけでも特定の動きをしたりしなければならず、また進みたい方向とは真逆に進む事で進みたい方向へと向かえるという、なんとも頭を使う……。
「着いたぞ、ここだ」
そうして辿り着いたのは数多の花が咲き誇る盆地である……そこだけ切り取ったかのように木は生えておらず、空からも珍しく日差しが注ぎ、今まで薄暗い森の中を歩いていたせいか酷く眩しい。
「なぁ、本当にこんな花が『対価』になるのか?」
「お前次第だな」
「……」
マークの疑問に簡単に答えながら、綺麗で、形が良く、生命力の強そうな物を基準として花を摘み取っていく。……この森に手頃な花が咲いていて助かったな。
「良いか? この花は今のお前にとってはただの花だ」
「……それがどうした」
「だがこの花も『生命』だ、生きている」
『生命』というものは酷く重い……たとえ日常的に蟻を潰していても、花を踏みにじっても、木を切り倒しても……それが『生命』だと認識すれば人は途端に尊重し出す。『価値』を見出す。
「お前はこれから花を『対価』にするんじゃない……『生命』を『対価』にするんだ、これに『価値』を見い出せ、尊重しろ」
これは花ではない、『生命』の一つとして認識することで『価値』を引き上げる……動植物にはそれが出来る。
「……でも花だぞ、そんなに凄い魔法は使えないだろ?」
「その通りだ」
マークの言う通りでいくら『生命』だなんだと言っても所詮はつい先ほどそこら辺で摘み取った花でしかない。行使できる魔法の規模など、たかが知れている。
「本当はお前自身が丁寧に育てた花が望ましいが……そんな物はないだろう? あくまで無いよりはマシというやつだ」
「……」
「お前の様に『職能』がなんなのか、まったく判明しない奴であっても『生命』に属するものは等しく『価値』がある」
リーシャの様な『鍛冶屋』、カルマンの様な『商人』、レティシャの様な『騎士』、それらのどの様な魔法が得意で何に対して一際『価値』を見い出すのか分からない奴であっても……人は『生命』に等しく『価値』を見い出す。
「……お前の『供物』が花なのにも関係があるのか?」
「……そうだな、俺は未だに花や毛皮など……『生命』を『対価』とすることで魔法を行使している」
他の獣よりも羊毛の方が少しだけ効果が高いから使っているだけで、実際に俺は花や羊毛に一際『価値』を見い出している訳ではない……『羊飼い』がなんなのか、俺自身がよく分かっていない。
「『生命』を『対価』とする事でどんな魔法が行使できる?」
「そうだな……単純な身体能力の強化や怪我や病気の治療、そして汎用性が強みだな」
魔法を行使する際の『対価』の『価値』を決めるのは、魔法使い自身の認識と人の潜在意識が深く関係する……魔法使い自身が大事に思えば思うほど、またそれ自体に『価値』があり、見い出す人が多ければ多いほどに行使できる魔法の規模は大きくなる。……その点、『生命』は数多の人が尊重するし、この人類社会に於いて『金銭』の『価値』は万人が認めるもの。特にこの二つを『対価』として行使できる魔法は多く、汎用性が高い。
「……もし、魔法が暴走したらどうする?」
「その点はリーシャが居るから何も問題はない」
「……この女が?」
「……(ビクッ」
マークに胡乱げな視線を向けられたリーシャが肩を震わせる……さらにそれを見てマークがますます怪訝な表情を浮かべるという悪循環が目の前で発生している。……まぁリーシャの事はこの際仕方がない。
「あんまり睨んでやるな」
「……頼りないんだが?」
「これでも彼女は俺の自慢の相棒だ」
マークを窘める時の〝これでも〟の部分でジッとこちらを見詰めて無言の抗議をしていたリーシャが〝自慢の相棒〟と言った瞬間に即座に目を逸らし、その耳を赤くているのを認めて『本当に彼女は大丈夫だろうか』等と心配になる。
「それに『生命』に属するものは『鉄』に属するものに弱い」
「……つまり?」
「いくらお前が『生命』を暴走させようが、リーシャの『鉄』が刈り取るから問題はない」
そういう意味では本当にリーシャが相棒で良かったと言えるだろう……この様な不気味な森の中で居るかも分からない魔女を探す等と……仮に魔物が発生してもそれは『生命』に属する者の可能性が高く、リーシャの『鉄』が活躍するだろう。
「とりあえずごちゃごちゃ言う前に始めろ、そして今日から丁寧に愛情を持ってガーデニングでもしろ」
「……魔法って意味が分かんねぇ」
「安心しろ、俺も分からん」
「「……」」
いやだって本当に分からないんだから仕方がないだろ……リーシャまで白い目で見ないでくれ、傷付く。
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ふむ、まぁ確かに詠唱は長い。戦闘時などには丁寧にする余裕はあまり無く、確かに邪魔臭いと思ってしまうのも無理はない……だがそれでは危険過ぎる。
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「……しない」
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本当に丁寧にするのならば大地に額を擦り付け、自身の血肉と一緒に『対価』を捧げながら長い祈りの言葉を唱え、最後に感謝する……これが一番魔法を行使する際の効率が良い。分かりやすく言うのであれば〝費用対効果〟が高い。
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そして〝偉大なる大地〟は酷くプライドが高い……一々我ら一人一人を見ている訳ではないが、あまりにも不敬な態度を取る我が子が居れば簡単に癇癪を起こす。
「──獣と化す」
「……」
「あまり、プライドが高い〝偉大なる大地〟を刺激しない方が良い」
大地の民たる魔法使いが、大地への畏敬の念を忘れてはならない……我々魔法使いが獣にならない為に、常に己を律しなければならない。……簡単に『願望』を叶える力があるが故に。
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