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第五章.美しくありたい
17.妖精の魔女その3
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「ゴホッゴホッ……リーシャ、無事か?」
「は、い……な……んと、か……」
なんだ? 何が起きた? 俺たちは魔女の魔法をモロに喰らったはず……生きている事は素直に嬉しいが、さりとて素直に安心も出来ない……生命を奪わないだけで、他に凄まじい影響があるかも知れないから油断は出来ない。
「……なぜ、生きている?」
素早く周囲の把握に努めるが……そうする程になぜ生きているのか不思議になる。周囲の大地は木々によって捲り上がり、根によって支えられているのか一つの壁となって俺たちを押し潰していたようだ……逃げ遅れ、その木々の根や枝に貫かれた小動物達の木乃伊を見る限り、相手の殺意が高い事が窺える。そしてなによりも──
「まだ……私に陽光は降らないの……?」
「……不味いな、先ほどの魔法で〝偉大なる大地〟が認知し始めている」
「……(コクッ」
──濁りきった橙に赤と黒が混じったような色の魔力を纏わせ、うわ言を繰り返す魔女を見れば……本気で事態が不味い段階に入っている事が分かる。これ以上あの女を野放しにしていれば、俺たちだけでは対処できない。
「……逆を言えば、今こそが最大にして唯一の……奴を仕留めるチャンスだ」
「……は、い……次、で決め……ましょ、う」
奴は理性を獲得したばかり……いや、獲得しかけている状態……そのために情緒不安定で、初の魔法行使による魔力の乱れ……そして、突然に向けられた〝偉大なる大地〟からの視線に動揺しまくっている今が、奴の魔力結合が緩んでいる今が最大にして唯一のチャンスだ。
「あ、あぁ!! 『怖い 誰かが私を見ている お願いよ 私を守ってよ 陽光たる彼は なぜ私を照らしてくれないの 寒い 寒いのよ!!』」
「リーシャ、捕まれ! 『我が願いの対価は貪欲な羊毛三束 望むは全てを喰らう穴 枯れる泉 禿げる大地 削られる岩 だって仕方がないだろう 喉が乾き 腹が減った 塩が足りない 逃げないお前が悪いのだ 動けないのなら 疾く死ね』」
魔女の肌を突き破って飛び出す肉の触手のような木々の根を、魔法で産み落とした子羊で迎撃する。……薄汚れ、焦点の合わない瞳の子羊三匹が脈動する木の根を齧り、貪り食う。
「リーシャ、次のIV号供物は──」
「──い、えⅤ号……供物、でい……きま、す……」
覚悟を決めた表情で言うリーシャに驚く……だがまぁ確かに、今の大量の魔力を森中から集めている魔女を倒すならⅤ号の方が確実ではある……が、リーシャの負担が大き過ぎる。……しかしながら、彼女の表情を見れば意見を翻す事は無理だと悟る事ができてしまう。
「……そうか、無理はするなよ! 『我が願いの対価は豪傑の白百合 望むは道を拓く力 私を見くびるな 大地も 石も 岩も 私の前では何も変わらない 全てを貫き 望む場所へと この手で到達してみせる』」
リーシャを左腕に座らせるようにして抱きかかえてその場を跳躍する……先ほどまで居た場所に無数の木々が雪崩込み、それを齧る子羊達を尻目に空中で襲いかかってくる枝などを右手で貫いていく。
「私は何も悪くない! ただ美しくなりたかっただけなのに! 私を選ばなかった彼が悪いんだ!」
「お前……」
この期に及んで言い訳を始める奴に殺意を抱く……あんな戯れ言、無視してしまえば良いのになぜだか許す事が出来ない。……いや、あんなのは許す必要なんてない!
「そうだ! 私は何も──」
「──子ども達を犠牲にしておいて、何を言うか!」
「ッ!!」
あぁ、許せん……此奴を、子ども達を犠牲にする事を是とし、なんら罪悪感も持たない此奴を……ワシは許す事が出来んのだッ!!
「だって私はこんなに綺麗になったんだぞ! それでも彼が振り向いてくれないんだから、仕方がないじゃないか?!」
「そんな訳があるか、この大馬鹿者め!!」
仕方がない、仕方がない……その言葉でいったいどれほどの子ども達が犠牲になったと思う?! どんな理由や事情であれ、子ども達は宝だ! それを犠牲にする事を正当化する言葉なぞない!!
「男に振り向いて貰いたかったら、足元しっかり固めんかい! 周囲の人間をおざなりにしておいて、意中の男を手に入れられると思うなや?!」
「五月蝿い煩い! アンタのに何が分かると言うのだ?! ジジイみたいな事をほざきよってぇ! 『水をくれなかった貴方が悪いの 光も水もない世界で 私は枯れたくなかったの もっと枝葉を伸ばしたかったの 私に振り向いてくれない貴方なんて 大人しく養分になってくれれば良い!!』」
身勝手な女め、子ども達を食い物にした罪はこのワシが……いや俺が、俺とリーシャで精算させてやる。……俺の左腕の中で、魔力を練りながらこちらを心配そうに見上げていたリーシャに『もう大丈夫だ』と頷いて見せる。
「『我が願いの対価は罪人の刃 望むは解放の時を刻む音──』」
誰かの血で黒く薄汚れ、赤錆まみれの何かの刃の破片を取り出して詠唱するリーシャの額に汗が流れ落ちる……息を切らし、違和感のある呼吸音を響かせる彼女を抱える腕にさらに力を込める。
「『──無様に喚き散らす貴女 観客は罵声と石を投げ 官吏は高らかに罪を読み上げる それを見て子ども達は何を思う 怒りか 憐憫か それとも同情か──』」
リーシャの額に右手を当て、子羊達が齧りとった『生命』を流し込みながら相殺を狙うが、やはり間に合わない……彼女の右目から再び赤錆が流れ出す。
「『──いいえどれも違う 貴女の真似をして子ども達は喚き散らす 貴女と同じ理不尽を叫んでは嘆く 貴女の罪の数だけその声は大きくなる 耳を塞ぐ事は許されない──』」
リーシャを離すまいと強く抱き締めれば、抱き締めるほど……彼女から油の切れた歯車のような、人からは到底聞こえない異音が聞こえて収まらない。
「『──ざわめく数多の罵声が 高らかに響く己の罪を自覚させる声が 自身の手で産み出した嘆きの声が 貴女をさらに苛み 狂わせるなら 私はそれを終わらせよう──』」
「あ、あぁ……そんな……こんなのって!!」
左腕の中のリーシャから鈍色の魔力が吹き上がり、一つの刃の形へと収束させる……彼女の魔法には有機物には存在しない美しさと冷酷さが同居し、無慈悲に罪人に慈悲を与える。
「あ、待って──」
「『──斬首』」
せめてもの慈悲として、醜悪な魔女に無慈悲の刃が降ろされる……鉄の顎が魔女の両足を噛みちぎり、突然に現れた鉄枷がその口を食いしばり、魔女の両手と首を一纏めに拘束してしまう。……そして──
「──綺麗」
──鈍色に輝く刃が、その首を落とす。
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「は、い……な……んと、か……」
なんだ? 何が起きた? 俺たちは魔女の魔法をモロに喰らったはず……生きている事は素直に嬉しいが、さりとて素直に安心も出来ない……生命を奪わないだけで、他に凄まじい影響があるかも知れないから油断は出来ない。
「……なぜ、生きている?」
素早く周囲の把握に努めるが……そうする程になぜ生きているのか不思議になる。周囲の大地は木々によって捲り上がり、根によって支えられているのか一つの壁となって俺たちを押し潰していたようだ……逃げ遅れ、その木々の根や枝に貫かれた小動物達の木乃伊を見る限り、相手の殺意が高い事が窺える。そしてなによりも──
「まだ……私に陽光は降らないの……?」
「……不味いな、先ほどの魔法で〝偉大なる大地〟が認知し始めている」
「……(コクッ」
──濁りきった橙に赤と黒が混じったような色の魔力を纏わせ、うわ言を繰り返す魔女を見れば……本気で事態が不味い段階に入っている事が分かる。これ以上あの女を野放しにしていれば、俺たちだけでは対処できない。
「……逆を言えば、今こそが最大にして唯一の……奴を仕留めるチャンスだ」
「……は、い……次、で決め……ましょ、う」
奴は理性を獲得したばかり……いや、獲得しかけている状態……そのために情緒不安定で、初の魔法行使による魔力の乱れ……そして、突然に向けられた〝偉大なる大地〟からの視線に動揺しまくっている今が、奴の魔力結合が緩んでいる今が最大にして唯一のチャンスだ。
「あ、あぁ!! 『怖い 誰かが私を見ている お願いよ 私を守ってよ 陽光たる彼は なぜ私を照らしてくれないの 寒い 寒いのよ!!』」
「リーシャ、捕まれ! 『我が願いの対価は貪欲な羊毛三束 望むは全てを喰らう穴 枯れる泉 禿げる大地 削られる岩 だって仕方がないだろう 喉が乾き 腹が減った 塩が足りない 逃げないお前が悪いのだ 動けないのなら 疾く死ね』」
魔女の肌を突き破って飛び出す肉の触手のような木々の根を、魔法で産み落とした子羊で迎撃する。……薄汚れ、焦点の合わない瞳の子羊三匹が脈動する木の根を齧り、貪り食う。
「リーシャ、次のIV号供物は──」
「──い、えⅤ号……供物、でい……きま、す……」
覚悟を決めた表情で言うリーシャに驚く……だがまぁ確かに、今の大量の魔力を森中から集めている魔女を倒すならⅤ号の方が確実ではある……が、リーシャの負担が大き過ぎる。……しかしながら、彼女の表情を見れば意見を翻す事は無理だと悟る事ができてしまう。
「……そうか、無理はするなよ! 『我が願いの対価は豪傑の白百合 望むは道を拓く力 私を見くびるな 大地も 石も 岩も 私の前では何も変わらない 全てを貫き 望む場所へと この手で到達してみせる』」
リーシャを左腕に座らせるようにして抱きかかえてその場を跳躍する……先ほどまで居た場所に無数の木々が雪崩込み、それを齧る子羊達を尻目に空中で襲いかかってくる枝などを右手で貫いていく。
「私は何も悪くない! ただ美しくなりたかっただけなのに! 私を選ばなかった彼が悪いんだ!」
「お前……」
この期に及んで言い訳を始める奴に殺意を抱く……あんな戯れ言、無視してしまえば良いのになぜだか許す事が出来ない。……いや、あんなのは許す必要なんてない!
「そうだ! 私は何も──」
「──子ども達を犠牲にしておいて、何を言うか!」
「ッ!!」
あぁ、許せん……此奴を、子ども達を犠牲にする事を是とし、なんら罪悪感も持たない此奴を……ワシは許す事が出来んのだッ!!
「だって私はこんなに綺麗になったんだぞ! それでも彼が振り向いてくれないんだから、仕方がないじゃないか?!」
「そんな訳があるか、この大馬鹿者め!!」
仕方がない、仕方がない……その言葉でいったいどれほどの子ども達が犠牲になったと思う?! どんな理由や事情であれ、子ども達は宝だ! それを犠牲にする事を正当化する言葉なぞない!!
「男に振り向いて貰いたかったら、足元しっかり固めんかい! 周囲の人間をおざなりにしておいて、意中の男を手に入れられると思うなや?!」
「五月蝿い煩い! アンタのに何が分かると言うのだ?! ジジイみたいな事をほざきよってぇ! 『水をくれなかった貴方が悪いの 光も水もない世界で 私は枯れたくなかったの もっと枝葉を伸ばしたかったの 私に振り向いてくれない貴方なんて 大人しく養分になってくれれば良い!!』」
身勝手な女め、子ども達を食い物にした罪はこのワシが……いや俺が、俺とリーシャで精算させてやる。……俺の左腕の中で、魔力を練りながらこちらを心配そうに見上げていたリーシャに『もう大丈夫だ』と頷いて見せる。
「『我が願いの対価は罪人の刃 望むは解放の時を刻む音──』」
誰かの血で黒く薄汚れ、赤錆まみれの何かの刃の破片を取り出して詠唱するリーシャの額に汗が流れ落ちる……息を切らし、違和感のある呼吸音を響かせる彼女を抱える腕にさらに力を込める。
「『──無様に喚き散らす貴女 観客は罵声と石を投げ 官吏は高らかに罪を読み上げる それを見て子ども達は何を思う 怒りか 憐憫か それとも同情か──』」
リーシャの額に右手を当て、子羊達が齧りとった『生命』を流し込みながら相殺を狙うが、やはり間に合わない……彼女の右目から再び赤錆が流れ出す。
「『──いいえどれも違う 貴女の真似をして子ども達は喚き散らす 貴女と同じ理不尽を叫んでは嘆く 貴女の罪の数だけその声は大きくなる 耳を塞ぐ事は許されない──』」
リーシャを離すまいと強く抱き締めれば、抱き締めるほど……彼女から油の切れた歯車のような、人からは到底聞こえない異音が聞こえて収まらない。
「『──ざわめく数多の罵声が 高らかに響く己の罪を自覚させる声が 自身の手で産み出した嘆きの声が 貴女をさらに苛み 狂わせるなら 私はそれを終わらせよう──』」
「あ、あぁ……そんな……こんなのって!!」
左腕の中のリーシャから鈍色の魔力が吹き上がり、一つの刃の形へと収束させる……彼女の魔法には有機物には存在しない美しさと冷酷さが同居し、無慈悲に罪人に慈悲を与える。
「あ、待って──」
「『──斬首』」
せめてもの慈悲として、醜悪な魔女に無慈悲の刃が降ろされる……鉄の顎が魔女の両足を噛みちぎり、突然に現れた鉄枷がその口を食いしばり、魔女の両手と首を一纏めに拘束してしまう。……そして──
「──綺麗」
──鈍色に輝く刃が、その首を落とす。
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