サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第五章.美しくありたい

エピローグ

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「リーシャ、本当に大丈夫か?」

「……は、い」

 魔女との不毛な戦いが終わり、リーシャを背負って帰路に付く……あの後、魔女の魔力を取り込む事をリーシャは譲らなかった。確かにあれだけ『鉄』を取り込み過ぎた彼女が『生命』の塊とも言える魔女を取り込む事は別に間違いではない……が、今の疲弊している彼女が取り込む事は果たして正しかったのだろうか、無理にでも俺が取り込むべきだったのではないだろうか。……せめて二人で分割して取り込むべきではなかったか……もう終わった事なのに、そればかりをグルグルと考える。

「……暫く、魔法は使うなよ」

「……は、い」

 あれだけ進化が進んだ魔物だ、その身に取り込んだ魔力は如何程か……少なくとも今もリーシャの身体の中で暴れているのだろう。……背負う彼女の体温が急激に上昇していくのを感じる。

「少、しだ……け、寝ま、す……ね……」

「……あぁ、ゆっくり休め」

 彼女の顔を乗せた肩から近くの耳元へと、浅い呼吸音が聞こえ始めるが……それが次第に荒く、感覚の早いものへと変わる。やはり今回、彼女の負担が大きすぎた……もっと上手く、やらねば……。

「……迷ったな」

 あれだけ激しく争ったせいか、目印を付けたはずの木々も捲り上がったり、消失したりしていて、どこでどう曲がれば進めるのかさっぱり分からない……これだけの規模の魔力残滓、核であった魔女が居なくなったとしても、消えていくのに暫く時間が掛かるだろう。

「さすがに帰り道は分からんか……『我が願いの対価は執念のアネモネ 望むは失せ物探し 探し人の一部をここに 俺から逃げられると思うな お前の痕跡はこの手の中に 必ず見つけ 捕まえる』」

 ……これでマークに煙が届き、こちらの状況に気付いてくれれば迎えに来てくれるだろうか? そもそも彼らの方は果たして無事に乗り切ってくれたのだろうか?

「……素敵な魔法ね?」

「……ミーナか」

 寝入ったはずのリーシャが、いきなり声を発するから少し驚いてしまった……急に出てこられると心臓に悪いから、できれば遠慮して欲しいのだがな。

「そんな言い方はないんじゃない?」

「気分を悪くしたのなら謝ろう」

「別に良いけれど……」

 なぜだろうか、話している相手がミーナだと分かってはいてもその身体、声が、リーシャの物である為に、酷く違和感がある……普段恥ずかしがり屋で吃っているリーシャがハキハキと喋るのは……凄く新鮮ではある。

「ていうか、この娘の身体すごくダルいんだけど……」

「……俺の力不足だ、すまない」

「……ふーん?」

 額に手を当て、眉を顰めながら言うリーシャ──ミーナに、己の力不足を恥じて謝罪する……ダルそうにこちらの肩に顎を乗せ、首元に抱き着く彼女にどう返せば良いのか……分からない。

「まぁ詳しい事は分からないけれど、優しいこの娘の事を大事にしてよね」

「勿論だ」

 人の為に泣け、無理を通すこの自慢の相棒を大事にする事に異論など……ある筈もない。……強いて文句を言うのなら、もう少し自分の身体を大事にして欲しいな。

「……本当に、クレル君って無愛想よね」

「……お前は少し雰囲気が変わったか?」

「吹っ切れたと言って欲しいわ」

 本当に、初めて会った時の情緒不安定具合や、全てを諦めてしまったかのような……悲観的な彼女はどこに行ったのやら。……こっちの方が好ましいがな。

「お陰様で、もう怖い狼さんにも、周囲の目にも、死にも……怯えなくても良いもの」

「そうか」

「それにね? 私には──」

 リーシャの顔でミーナの表情を見て、リーシャの声でミーナの言葉を聞く……それが何だか可笑しく思うと同時に、彼女がちゃんと救われている事をしっかりと認識できた……これならばリーシャも安心だろう。

「──素敵なお友達が四人も居るのよ? もちろんクレル君もお友達だからね?」

「……そうか、それは何よりだ」

 あぁそうだ……俺も、友人が元気そうで安心した。……今のミーナを見て、誰も元引きこもりの死に急いでいた少女とは思わないだろう。

「だからね? 私の大事なお友達には、私の大事なお友達を大事にして欲しいの……頼める?」

「あぁ必ず、必ず大事にすると……約束しよう」

 元より、リーシャを……俺の相棒を蔑ろにするつもりなど毛頭無いのだから、ミーナの心配は杞憂だというものだ。……今回ばかりはリーシャに無理をさせてしまったが……だからこそ、次は無い。

「そう……なら、安心ね……」

「……行くのか?」

「えぇ、そろそろこの娘の身体が可哀想だもの……ゴホッゴホッ!」

 ……そうだな、束の間の友人との語らいは……そろそろお終いだな。でないとリーシャが休めないだろうし、仕方がない。

「……またな」

「……えぇ、またね」

 そのまま自分の肩で静かに寝息を立て始めるミーナ──リーシャの寝顔を見てながら、この事についてどうカルマンやレティシャに話してやろうかと考える……いや、レティシャと一緒に取り込んだみたいだから、彼女の方でも会っていそうだな。

「さて、暫く居候させて貰えるか……」

 木々の合間を縫うように進む煙の形から、マークがこちらに向かって来ている事を悟って独り言ちる……もう既に俺もリーシャも供物の在庫がないし、リーシャに至っては片手の指で足りる数しか残ってないだろう。……供物の回復をしなければ、移動は難しいだろうな……狩人に会ってしまったら一環の終わりだ。

「……それに、大事にすると約束したしな」

 今の状態のリーシャを連れ回す事など、到底できそうにない……どうせアグリーから俺の父親の話も聞かなければならないし、暫くは動けないな。

「ふん、師匠クソジジイが詳しい説明をしないからだ」

 精々自身の行いのせいで目当ての素材が滞る事、悔いるが良い! ……まぁ早く帰る努力はするが。

「ゲホッゴホッ! ……俺も揺り戻し、か」

 リーシャ程ではないが、俺も相当な無茶をしてしまったらしいな。……酷く、水が欲しい・・・・・

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