こちら、付喪神南町奉行所っ!~新入り護り手はお払い箱になりたくない~

美夕乃由美

文字の大きさ
4 / 39
一章 付喪神奉行の護り手

新しい主

しおりを挟む
(あああ……どうしてこんなことに~!)
 翌朝。桜麟は自室で頭を抱えていた。
 あの後、さっそく商談が始まり、あっという間に桜麟は輝久に買われていた。徳次郎が提示したのは千両というぼったくりのような値段だったが、輝久は何のためらいもなく二つ返事で承諾した。斬妖刀は安い武器ではないが、千両は大名が持つような刀の値段だ。
(さすが、付喪神奉行は太っ腹……って、そういう問題でもないし!)
 ぶんぶん、と勢いよく頭を横に振る。千両という金額に見合う活躍ができるかなんて、そんな自信はどこにもない。
(妓楼は嫌だけど、よりによって護り手とか……)
 付喪神奉行は妖魔の脅威から町を守るのが主な役目だ。妖魔に返り討ちにされることもある危険なお勤め。護り手とは、そんな彼らを補佐して、自ら妖魔を倒すことも求められる。妖魔を倒せない桜麟には、全く向いていない役割だった。

「桜麟。何をしているんだい。輝久様がお出になるよ!」

 徳次郎の大きな声。廊下を歩く大きな足音がして、ざっと障子が開かれる。頭を抱えている桜麟を見て、徳次郎が呆れたように嘆息する。

「妓楼は嫌だとごねていたくせに、今度は護り手も嫌と言うのかえ? せっかく行き先が決まったというのに、贅沢な付喪神じゃな!」
「うぅ……す、すみません」

 のろのろと立ち上がりながら桜麟は謝った。全く別の意味で売ろうとしていただろうに、と反論したくなるも、ここでぐだぐだするのは確かに自分の方が我が儘だ。

「ま、せいぜい頑張るんだね。くれぐれも妖魔を倒せないなどと知られるんじゃないよ。追い返されでもしてきたら、今度こそ妓楼に売り払ってやる」
「……善処します」

 がっくりと肩を落としながら、徳次郎の後を歩く。いつもならこんな態度を取っていたら、徳次郎から皮肉の嵐がとんでくるのに、今日はやけに機嫌がいい。きっと千両が効いているのだろう。

「来たな。待ちくたびれたぞ」

 門の前で輝久は待っていた。手招きをされて、桜麟は彼の前に立つ。首に巻いていた紐が解かれて狐の模様が描かれた鈴が取られる。抑え込まれていた霊力が自由になったと思ったのも束の間、すぐに輝久が懐から取り出した鈴が桜麟の首に付けられた。翡翠のように美しい色合いで、鳴らすと耳に心地よい音が響いた。

「これで完全に俺の物だな。徳次郎よ、異存はないな」
「もちろんですとも! 桜麟や、私の教えを守ってしっかり励むのだよ」

 今日までのとげとげしい感じはどこへやら。見たこともないような笑顔が桜麟へ向けられた。輝久に対しては手を揉んで、早くも次の商談を考えているに違いない。

「よし、桜麟。行くぞ」
「はい、輝久様」

 何も起きていないうちから悲観していても仕方がない。少なくとも最悪の事態だけは避けられた。
 桜麟は気持ちを切り替えると、新しい主へしっかりと頷いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...