こちら、付喪神南町奉行所っ!~新入り護り手はお払い箱になりたくない~

美夕乃由美

文字の大きさ
21 / 39
三章 桜麟と輝久と護り手と

漣の主張

しおりを挟む
 お払い箱確定とは思いながらも、不貞腐れているわけにはいかない。
 本来ならば厳しい罰を与えられても文句は言えなかった身だ。桜麟はより積極的に屋敷の仕事をするようになっていた。ひと月という日数も残り少なくなってきたし、自分にできることで恩返しはしていきたい。
 それに、輝久は言ってくれたではないか。護り手として駄目だっただけだ、と。護り手以外の仕事で奉行所に置いてはもらえないか。そんな一縷の望みも抱いていた。
 そんなこんなで瞬く間に数日が過ぎ、今日は漣を連れて買い出しをしていた。

「たくさん買ったね~」

 隣を歩く漣が、籠にいっぱいの葉野菜に満面の笑みを浮かべる。

「ええ。重くないですか?」
「ううん。軽い軽い! お姉ちゃんこそ重かったらもっと乗せていいんだからね!」

 大丈夫ですよ、とこたえながら桜麟は背中の籠の位置を調節する。中には大根や里芋といった、重めの野菜が入っている。台所の付喪神は人型ではないので、買い出しに行ける桜麟はありがたがられていた。

「――お、嬢ちゃんじゃねえか」

 棒手振りから魚を買い求めていると、背後から声を掛けられる。振り返ると予想通りの男がそこにはいた。

「影元様。その節はお世話になりました」

 今日は女をひっかけようとせずにお仕事をしている。珍しいこともあるものだ。

「いいってことよ。そんで輝久の様子はどうなんだ?」
「だいぶ良くなりました。もう床からは起きて、庭で身体を動かしていますよ。お医者様からはまだ早いと止められているのですが」
「ほほう。そいつぁ、よかったな。それで、そっちの坊主はオメエの子分か?」

 漣が怖がるように桜麟の背中に隠れた。その頭を撫でながら桜麟は苦笑する。

「違いますよ。わたしが最初に騒動を起こしたときの、あの付喪神ですよ。漣って名前なんです。そういえば、会ったのは初めてでしたっけ?」
「ん? ああ、そうだな……おい、坊主」

 影元が見下ろすようにして漣へ問いかける。

「本当に何も覚えてねえのか? 本当は知ってるんじゃねえのか? 付喪神の誘拐や盗みの事件の下手人をよう」
「う、ううん……ぼ、ボクは何も知らないよ!」

 桜麟の腰にしがみついた漣はガタガタ震えだして、彼の持つ籠から葉野菜が一つ落ちた。

「駄目ですよ、影元様」

 これはいけない、と庇うようにして桜麟は前に立つ。

「この子は怖い思いをしたのですから。無理に聞き出そうとしてはいけませんよ。これは輝久様からも理解していただいています」
「ふぅん……そうかい。それじゃあ仕方がねえなあ」

 不服そうな顔をしながらも影元は引き下がる。その様子にどこか違和感を覚えたが、すぐにその正体は判明した。

「あれ? 今日は、凛花さんはいないのですね」
「輝久が休んでいるから手分けをして巡回してるんだよ。お前も買い出しなんぞしてる場合じゃねえだろ。今こそ輝久に認められる手柄を上げる機会じゃねえのか?」
「い、いえ……」

 桜麟は曖昧な笑みを浮かべて首を横に振った。

「あんな失敗をしてしまいましたから、わたしはもう何をしてもお払い箱ですよ。せめて下女として居させてもらえないかと、こうしてこまごましたことを引き受けているのです」
「へぇ……それほどの力があるのに、もったいねえ。そうだ、輝久がいらねえなら、オレが引き取ってやるぜ」
「凛花さんがいるのに?」
「あいつもだいぶ霊力が弱まってきたからよう。そろそろ次の護り手を探さないといけねえんだよ。嬢ちゃんなら十分務まりそうだがなあ?」
「あはは、冗談はいけませんよ」

 やっぱりこの人は輝久や左近とは違う。そんな思いを抱きながらも、それは表に出さないようにして桜麟はこたえた。

「凛花さんは十分お強そうではないですか。そんな簡単にお払い箱を考えられると、付喪神も困ってしまいます。なにしろ、わたしがお払い箱になりかけているのですから」
「おっと、そうだった。こいつは失礼したぜ」

 自分で後ろ頭を叩きながら、ぺろり、と舌を出す影元。そのまま手を振って桜麟から離れる。

「ま、気が向いたら言ってくれや。いつでも大歓迎だぜ」

 人混みに紛れて、すぐにその背中が見えなくなる。桜麟は待たせていた棒手振りから何匹か魚を買い求めた。
 これで夕餉の材料は揃った。奉行所へ戻っていると、ポツリと漣が呟いた。

「……あのお兄さん、怖い」
「すみません。先にわたしが注意すべきでしたね」

 漣の記憶がないことは輝久が伝えていたはずだが、その時の状況を怖がっていることまでは知らせていなかった。影元の立場からすれば、さっさと聞き出せばいいのにと思うのも無理はない。
 ところが漣は、「そうじゃない」と首を横に振った。

「あのお兄さん、きっと付喪神を大切にしない人だよ」
「……いけませんよ。決めつけては」

 桜麟も同感ではあったが、輝久のことを考えると簡単に同意するわけにはいかない。静かに注意するも、漣はそれに気が付かない様子で、厳しい口調で続けた。

「お姉ちゃんは絶対にあの人の護り手になっちゃだめだ。嫌なことをさせられる気がする。付喪神を力で従わせるような人だよ」
「……そのようなことは、わたし以外の者には言ってはいけませんよ?」

 もう奉行所も近い。漣を落ち着かせようと、もう一度やんわりと窘める。門前では左近が、立派な裃を纏った者と話し込んでいるのが見えたからだ。
 とにかく、と漣が桜麟を見上げた。

「輝久様がお姉ちゃんを追い出すなら、ボクが土下座して頼んであげるよ! お姉ちゃんがいなくなったら、ボクが妖魔になっちゃうぞ~、って」
「これこれ、輝久様をあまり困らせてはいけません」

 見た目が子供の付喪神だからか、無邪気に心の傷を抉るようなことを考える。さすがにそれは冗談でも使ってはいけない手段だ。

「む~……お姉ちゃんが護り手でいられる、いい手だと思ったんだけどな~」

 漣も怒られたと感じたのだろう。ぶぅ、と頬を膨らませて唇も尖らせる。

「気持ちはありがたく受け取っておきますよ」

 ふふふ、と微笑んで、桜麟は奉行所の門をくぐった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...