さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの

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14話

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フォルトリエ村から戻った数日後、王都には雨が降り続いていた。

冷たい雨粒が石畳を打ち、街の喧騒を静めている。

だが、エーデルワイス邸の中は、むしろ静けさの中に熱を孕んでいた。

「……これで、“彼女が神に選ばれた存在ではない”という確信が持てましたわね」

マリーヌが小さな茶器を整えながら言う。

「ええ。彼女が“神の声を聞いた”のではなく、最初から“聞かせるために用意された存在”だった」

ヴィオラはフォルトリエ村で得た紙片を机に広げた。

《リュシエンヌ=フォルトリエ:養子》  
《記録前に保護者死亡、出生地不明》  
《巡礼神官の報告により聖女候補に選出》

「最も都合の良い“空白”を与えられ、そこに神の名を押し付けられた。……それが彼女の始まりよ」

「ですが、お嬢さま。これは“神殿の偽装”の証拠であって、“リュシエンヌ本人の悪意”を示すものではありませんわ」

マリーヌの言葉に、ヴィオラはふと黙った。

しばらくして、冷えた紅茶に口をつける。

「彼女が何を知っていたか、それが重要。無垢なまま操られたのなら、哀れな道化。  
……でも、もしそれを“利用した”のなら――ただの悪役より、ずっと危険な女よ」

視線が、机の端に置かれた一通の封書に向けられる。送り主は、王妃カミーユ。

《近日、王太子主催の祈祷式が開催予定。  
聖女による新たな“奇跡”の公開が噂されています》

「王妃さまが、動きましたね」

「ええ。“見届ける側”としての立場を崩さないまま、情報だけは確実に渡してくる。……あの方らしいわ」

ヴィオラは立ち上がり、窓の外を見た。雨の中、王城の尖塔がぼんやりと霞んでいる。

「“新たな奇跡”……それが“決定打”になる。  
ならば、私たちはその奇跡が“真実か偽りか”を見極めて、暴く準備をしなければならない」

「どのように?」

「――神に、舞台を用意してもらうのよ。完璧な光に、完璧な影を落とす。  
誰もが信じたくなる瞬間を、あえて壊す」

ヴィオラの声は、低く静かだった。

その数日後――  
王都中に“王太子主催の祈祷式”の知らせが広まった。

聖女リュシエンヌが再び“神の声”を受け、“祝福の光”を民に授けるという儀式。  
場所は、王城中央聖堂。王族と貴族、そして選ばれた民が集う、最大の舞台。

「奇跡の再現……ね。ならばその光の中に、“もうひとつの問い”を差し込んであげるわ」

雨の止んだ夜、ヴィオラは静かに筆を取る。

ギルベール宛の一通。  
セオドア宛の一通。  
王妃宛、そして――王太子ユリウス宛にも。

内容はどれも違いながら、ひとつの目的に収束していた。

《その“奇跡”を、誰が望んだのかを見極めよ。  
 それが“神”の意志か、“人”の欲か――。》

ペン先から落ちたインクが、まるで一滴の血のように紙を汚す。

王都最大の“祝福の儀式”が、静かに迫っていた。
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