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「……どうして! どうしてなのよ!」
王都にある男爵家の自室で、リリアは高級な陶器のティーカップを床に叩きつけた。
ガチャン、という小気味いい音と共に、高価な茶葉が絨毯にシミを作っていく。
「リリア様、落ち着いてください。またお父様に叱られてしまいますわ」
侍女が慌てて片付けようとするが、リリアの怒りは収まらない。
彼女の計算では、今頃自分は「悲劇のヒロイン」としてシリウス王子の隣に座り、王妃への階段を優雅に登っているはずだったのだ。
「落ち着いていられるわけないじゃない! あのターニャを追い出すことには成功したわ。あんなデタラメな罪状を、あの子が全部認めるなんて思わなかったけど……そこまでは完璧だったのよ!」
リリアは唇を噛み締めた。
あの日、パーティー会場でターニャを陥れた時のことを思い出す。
どんなに反論されてもいいように、証拠の捏造も、口裏合わせの準備も完璧にしていた。
だが、ターニャは反論どころか、まるで「待ってました」と言わんばかりの清々しい顔ですべてを認め、光の速さで去っていったのだ。
「なのに、肝心の殿下が……! あの方が、あの日から一度も私に会ってくれないのよ! それどころか、騎士団を総動員してあの泥棒猫を探し回っているなんて!」
「殿下は……その、ターニャ様のことを『誤解して追い出してしまった可哀想な婚約者』だと思い込んでいらっしゃるようで……」
「可哀想なのは私よ! あんな女、性格は最悪だし、いつも殿下の前で嫌そうな顔をしていたじゃない! 私なら、殿下のすべてを肯定して、あのキラキラした笑顔にも三食欠かさず拍手を送れるのに!」
リリアは鏡の前に立ち、自分の顔をチェックした。
愛らしく、守ってあげたくなるような美貌。
男たちの庇護欲をそそるには十分なはずだ。
「……殿下は今、どこにいらっしゃるの?」
「は、はあ。報告によりますと、国境付近の宿場町で、何やら怪しげな格好をして聞き込みをされているとか……」
「怪しげな格好? あの完璧主義の殿下が?」
リリアの目に、鋭い光が宿った。
シリウス王子がそこまで必死になる理由がわからない。
自分という新しい花が隣にあるというのに、なぜ枯れ果てた雑草のようなターニャを追うのか。
「……いいわ。殿下が戻ってこないなら、私から迎えに行ってあげる。そして、殿下の目の前で、あの女の本当の姿を暴いてやるわ」
「リリア様、ご自身で行かれるのですか?」
「ええ。殿下はきっと、あの女の『健気なフリ』に騙されているだけよ。私が現場に行って、『やっぱりあいつは悪女でした』って決定的な証拠を突きつけてあげれば、殿下も目が覚めるはずだわ」
リリアは扇を力一杯広げ、高笑いを上げた。
「見てなさい、ターニャ。あなたがどこに隠れていようと、私の幸せを邪魔するなら容赦しないわよ。……今度こそ、二度と這い上がれないように叩き落としてあげるわ!」
(……というか、あいつが素直に罪を認めたのは、まさか殿下の執着から逃げるためだったんじゃ……?)
一瞬、リリアの脳裏に不吉な予感がよぎったが、彼女はすぐにそれを打ち消した。
この世に、シリウス王子からの愛を拒む女などいるはずがない。
自分こそが、あの輝かしい王子の隣に相応しい唯一の女性なのだから。
「さあ、支度をしなさい! 一番地味で、それでいて私の可憐さが際立つ旅装束を用意して!」
こうして、王都からもう一人の「追跡者」が放たれた。
本人が望んでもいない「愛の包囲網」が、着実にターニャの周囲に形成されつつあった。
王都にある男爵家の自室で、リリアは高級な陶器のティーカップを床に叩きつけた。
ガチャン、という小気味いい音と共に、高価な茶葉が絨毯にシミを作っていく。
「リリア様、落ち着いてください。またお父様に叱られてしまいますわ」
侍女が慌てて片付けようとするが、リリアの怒りは収まらない。
彼女の計算では、今頃自分は「悲劇のヒロイン」としてシリウス王子の隣に座り、王妃への階段を優雅に登っているはずだったのだ。
「落ち着いていられるわけないじゃない! あのターニャを追い出すことには成功したわ。あんなデタラメな罪状を、あの子が全部認めるなんて思わなかったけど……そこまでは完璧だったのよ!」
リリアは唇を噛み締めた。
あの日、パーティー会場でターニャを陥れた時のことを思い出す。
どんなに反論されてもいいように、証拠の捏造も、口裏合わせの準備も完璧にしていた。
だが、ターニャは反論どころか、まるで「待ってました」と言わんばかりの清々しい顔ですべてを認め、光の速さで去っていったのだ。
「なのに、肝心の殿下が……! あの方が、あの日から一度も私に会ってくれないのよ! それどころか、騎士団を総動員してあの泥棒猫を探し回っているなんて!」
「殿下は……その、ターニャ様のことを『誤解して追い出してしまった可哀想な婚約者』だと思い込んでいらっしゃるようで……」
「可哀想なのは私よ! あんな女、性格は最悪だし、いつも殿下の前で嫌そうな顔をしていたじゃない! 私なら、殿下のすべてを肯定して、あのキラキラした笑顔にも三食欠かさず拍手を送れるのに!」
リリアは鏡の前に立ち、自分の顔をチェックした。
愛らしく、守ってあげたくなるような美貌。
男たちの庇護欲をそそるには十分なはずだ。
「……殿下は今、どこにいらっしゃるの?」
「は、はあ。報告によりますと、国境付近の宿場町で、何やら怪しげな格好をして聞き込みをされているとか……」
「怪しげな格好? あの完璧主義の殿下が?」
リリアの目に、鋭い光が宿った。
シリウス王子がそこまで必死になる理由がわからない。
自分という新しい花が隣にあるというのに、なぜ枯れ果てた雑草のようなターニャを追うのか。
「……いいわ。殿下が戻ってこないなら、私から迎えに行ってあげる。そして、殿下の目の前で、あの女の本当の姿を暴いてやるわ」
「リリア様、ご自身で行かれるのですか?」
「ええ。殿下はきっと、あの女の『健気なフリ』に騙されているだけよ。私が現場に行って、『やっぱりあいつは悪女でした』って決定的な証拠を突きつけてあげれば、殿下も目が覚めるはずだわ」
リリアは扇を力一杯広げ、高笑いを上げた。
「見てなさい、ターニャ。あなたがどこに隠れていようと、私の幸せを邪魔するなら容赦しないわよ。……今度こそ、二度と這い上がれないように叩き落としてあげるわ!」
(……というか、あいつが素直に罪を認めたのは、まさか殿下の執着から逃げるためだったんじゃ……?)
一瞬、リリアの脳裏に不吉な予感がよぎったが、彼女はすぐにそれを打ち消した。
この世に、シリウス王子からの愛を拒む女などいるはずがない。
自分こそが、あの輝かしい王子の隣に相応しい唯一の女性なのだから。
「さあ、支度をしなさい! 一番地味で、それでいて私の可憐さが際立つ旅装束を用意して!」
こうして、王都からもう一人の「追跡者」が放たれた。
本人が望んでもいない「愛の包囲網」が、着実にターニャの周囲に形成されつつあった。
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