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「コンシュ様、見て見て~! すっごく可愛い子を拾ったの!」
平和な午後の相談所に、いつもの「災害警報(ミナの声)」が響き渡った。
私はカウンターで伝票整理の手を止め、眉間を揉んだ。
「……ミナ様。ここはペットショップではありません。また捨て猫ですか? それとも怪我したタヌキ?」
「ううん、違うよ! 青い鳥さん! 幸せの青い鳥だよ!」
ミナがバスケットの蓋を開ける。
そこには、確かに美しい青色の羽を持つ鳥が鎮座していた。
鋭い嘴、強靭な脚、そして知性を感じさせる冷徹な瞳。
「……ホー」
鳥が低く鳴いた。
私は瞬時にその鳥の正体を特定し、ペンをへし折った。
「……ミナ様。蓋を閉めてください。静かに、ゆっくりと」
「え? どうして? 名前は『ピーちゃん』にしたんだよ。怪我して庭に落ちてたから、手当てしてあげたの」
「それは『ピーちゃん』ではありません。東方軍事帝国が開発した、長距離伝書用魔獣『シュヴァルツ・ホーク(通称:空飛ぶ暗殺者)』です」
「……え?」
「猛禽類です。しかも、訓練された軍用スパイです。指を食いちぎられますよ」
私が指摘した瞬間、ピーちゃん(仮)が鋭い眼光で私を睨んだ。
殺気が飛んでくる。
間違いない。こいつはプロだ。
「ええっ!? でも、すごく懐いてるよ? ほら、お手紙も持ってるし!」
ミナが無防備に鳥の足元を指差す。
そこには、金属製の小さな筒(シリンダー)が括り付けられていた。
極秘任務中の伝書使だ。
「……その手紙、読みましたか?」
「ううん、変な記号ばっかりで読めなかったから、コンシュ様なら読めるかなって!」
ミナがシリンダーから取り出した紙片を私に渡す。
そこには、意味不明な数字と文字の羅列が書かれていた。
『X-99-Alpha-Target-Royal...』
私は紙片を一瞥し、即座にラシード公爵(いつもの席で執務中)に投げた。
「閣下! 緊急案件(コード・レッド)です!」
「……なんだ、騒がしい」
公爵が紙片を受け取り、目を通す。
次の瞬間、彼の顔色が変わり、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「こ、これは……帝国軍の暗号コード!? なぜここにある!?」
「ミナ様が拾いました。あそこのカゴの中に、帝国のスパイ(鳥)がいます」
「なっ……!?」
公爵が抜刀し、バスケットとの距離を詰める。
鳥が「チッ」と舌打ちした(ように聞こえた)。
「……この暗号、解読できるか?」
公爵の声が緊迫している。
私は頷き、新しいペンを取り出した。
「三割増しの特急料金で承ります」
「払う! 早くしろ!」
私は紙片を広げ、脳内のデータベースと照合した。
この程度の置換暗号、私の頭脳にかかれば幼児のパズルだ。
「……解けました」
「内容は!?」
「『王都の防衛結界に定期的や綻びあり。次回の新月、北門より侵攻工作員を投入予定。……追伸、王都のタルトは美味い』」
「……最後の一文は余計だが、深刻な事態だ」
公爵が呻く。
防衛情報の漏洩。
これが本国に届けば、戦争の引き金になりかねない。
「どうする……この鳥を始末して、情報を遮断するか?」
公爵が剣を構える。
だが、ミナが「ダメェェ!」と鳥を庇った。
「殺しちゃダメ! ピーちゃんは私が助けたの! ご飯もあげたの!」
「ミナ嬢、これは遊びではない! 国の存亡がかかっているんだ!」
「でもぉ……」
ミナが涙目で鳥を抱きしめる。
鳥も、ミナの胸に顔を埋めて「クーン」と甘えた声を出す。
……こいつ、さてはミナの「天然ボケ」に毒されて、野生を失っているのか? それともハニートラップか?
「……閣下。殺すのは得策ではありません」
私は電卓を弾きながら提案した。
「行方不明になれば、帝国は『任務失敗』と判断し、別のルートで情報を探るでしょう。それではイタチごっこです」
「ではどうする」
「『任務完了』と思わせて、間違った情報を持ち帰らせるのです」
私はニヤリと笑った。
いわゆる、逆スパイ工作(偽情報作戦)だ。
「ミナ様、その鳥にお腹いっぱいご飯をあげてください。飛ぶのが億劫になるくらいに」
「うん! 高級サラミがあるよ!」
「そして閣下。私が偽の暗号文を作成します。内容は……そうですね」
私は羊皮紙に向かい、サラサラと書き始めた。
『防衛結界は強化された。北門には最新鋭の自動迎撃ゴーレムが配備済み。侵攻は不可能。……追伸、王都のタルトは売り切れだった』
「……これでいいでしょう」
「待て。そんな嘘、信じるか?」
「信じさせます。ついでに『王家は隣国との同盟を強化し、経済制裁の準備をしている』という噂も混ぜておきましょう。帝国の通貨価値を下落させるのが狙いです」
「……お前、戦場に出ずとも国を動かす気か」
公爵が戦慄している。
私は書き上がった偽情報をシリンダーに入れ、満腹で動けなくなっている鳥の足に結びつけた。
「さあ、ピーちゃん。お帰りなさい」
窓を開けて放つ。
鳥は重そうに羽ばたき、何度か高度を下げながらも、東の空へと消えていった。
「……バイバイ、ピーちゃん! また来てね!」
ミナが手を振る。
私は心の中で(二度と来るな、次は焼き鳥にするぞ)と呟いた。
「……これで、しばらく帝国は動けないはずだ」
ラシード公爵が安堵の息を吐く。
「ええ。侵攻計画は見直しを余儀なくされるでしょう。その隙に、こちらの防衛網を強化してください。……コンサル料は、後ほど請求します」
「……わかっている」
公爵は私を見つめ、複雑そうな顔で笑った。
「敵のスパイさえ利用するとはな。……お前を敵に回さなくて本当によかった」
「当然です。私は勝てる側にしかつきませんから」
私は胸を張った。
これで戦争は回避された。
戦争が起きれば物流が止まり、私の相談所の経営にも悪影響が出る。
平和こそが最大の利益なのだ。
その時。
ミナが不思議そうな顔で、バスケットの底を指差した。
「あれ? 何か落ちてるよ?」
「……?」
見ると、そこには小さな宝石のような石が転がっていた。
真っ赤に輝く、美しい結晶だ。
「……魔石か?」
公爵が拾い上げる。
鑑定スキルを持つ彼が、目を見開いた。
「こ、これは……最高純度の『炎の魔石』!? 帝国皇帝の私有鉱山でしか採れない国宝級の代物だぞ!」
「ええっ!?」
どうやらあの鳥、スパイ活動のついでに(あるいはミナへの餌代として)、とんでもない置き土産をしていったらしい。
「……ミナ様。それ、どうします?」
私が聞くと、ミナは首を傾げた。
「えー、いらない。キラキラしすぎてて目が痛いし。コンシュ様にあげる!」
「いただきます」
私は光の速さで魔石を回収した。
市場価格、金貨五千枚。
国家機密を売るより儲かるかもしれない。
「……おい」
公爵が呆れているが、聞こえない。
私は魔石を金庫にしまい込み、満面の笑みを浮かべた。
「ミナ様。貴女は本当に……トラブルと利益を同時に運んでくる女神ですね」
「えへへ、そうかな?」
「褒めていませんよ」
こうして、スパイ騒動は幕を閉じた。
帝国軍はその後、「王都の防衛力は未知数」として撤退を決定。
私は魔石を元手に、相談所の設備投資(エアコン導入)を行った。
全てが丸く収まった……はずだった。
しかし、この一件が、私の体を蝕む過労の引き金になるとは、この時はまだ予想していなかったのだ。
平和な午後の相談所に、いつもの「災害警報(ミナの声)」が響き渡った。
私はカウンターで伝票整理の手を止め、眉間を揉んだ。
「……ミナ様。ここはペットショップではありません。また捨て猫ですか? それとも怪我したタヌキ?」
「ううん、違うよ! 青い鳥さん! 幸せの青い鳥だよ!」
ミナがバスケットの蓋を開ける。
そこには、確かに美しい青色の羽を持つ鳥が鎮座していた。
鋭い嘴、強靭な脚、そして知性を感じさせる冷徹な瞳。
「……ホー」
鳥が低く鳴いた。
私は瞬時にその鳥の正体を特定し、ペンをへし折った。
「……ミナ様。蓋を閉めてください。静かに、ゆっくりと」
「え? どうして? 名前は『ピーちゃん』にしたんだよ。怪我して庭に落ちてたから、手当てしてあげたの」
「それは『ピーちゃん』ではありません。東方軍事帝国が開発した、長距離伝書用魔獣『シュヴァルツ・ホーク(通称:空飛ぶ暗殺者)』です」
「……え?」
「猛禽類です。しかも、訓練された軍用スパイです。指を食いちぎられますよ」
私が指摘した瞬間、ピーちゃん(仮)が鋭い眼光で私を睨んだ。
殺気が飛んでくる。
間違いない。こいつはプロだ。
「ええっ!? でも、すごく懐いてるよ? ほら、お手紙も持ってるし!」
ミナが無防備に鳥の足元を指差す。
そこには、金属製の小さな筒(シリンダー)が括り付けられていた。
極秘任務中の伝書使だ。
「……その手紙、読みましたか?」
「ううん、変な記号ばっかりで読めなかったから、コンシュ様なら読めるかなって!」
ミナがシリンダーから取り出した紙片を私に渡す。
そこには、意味不明な数字と文字の羅列が書かれていた。
『X-99-Alpha-Target-Royal...』
私は紙片を一瞥し、即座にラシード公爵(いつもの席で執務中)に投げた。
「閣下! 緊急案件(コード・レッド)です!」
「……なんだ、騒がしい」
公爵が紙片を受け取り、目を通す。
次の瞬間、彼の顔色が変わり、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「こ、これは……帝国軍の暗号コード!? なぜここにある!?」
「ミナ様が拾いました。あそこのカゴの中に、帝国のスパイ(鳥)がいます」
「なっ……!?」
公爵が抜刀し、バスケットとの距離を詰める。
鳥が「チッ」と舌打ちした(ように聞こえた)。
「……この暗号、解読できるか?」
公爵の声が緊迫している。
私は頷き、新しいペンを取り出した。
「三割増しの特急料金で承ります」
「払う! 早くしろ!」
私は紙片を広げ、脳内のデータベースと照合した。
この程度の置換暗号、私の頭脳にかかれば幼児のパズルだ。
「……解けました」
「内容は!?」
「『王都の防衛結界に定期的や綻びあり。次回の新月、北門より侵攻工作員を投入予定。……追伸、王都のタルトは美味い』」
「……最後の一文は余計だが、深刻な事態だ」
公爵が呻く。
防衛情報の漏洩。
これが本国に届けば、戦争の引き金になりかねない。
「どうする……この鳥を始末して、情報を遮断するか?」
公爵が剣を構える。
だが、ミナが「ダメェェ!」と鳥を庇った。
「殺しちゃダメ! ピーちゃんは私が助けたの! ご飯もあげたの!」
「ミナ嬢、これは遊びではない! 国の存亡がかかっているんだ!」
「でもぉ……」
ミナが涙目で鳥を抱きしめる。
鳥も、ミナの胸に顔を埋めて「クーン」と甘えた声を出す。
……こいつ、さてはミナの「天然ボケ」に毒されて、野生を失っているのか? それともハニートラップか?
「……閣下。殺すのは得策ではありません」
私は電卓を弾きながら提案した。
「行方不明になれば、帝国は『任務失敗』と判断し、別のルートで情報を探るでしょう。それではイタチごっこです」
「ではどうする」
「『任務完了』と思わせて、間違った情報を持ち帰らせるのです」
私はニヤリと笑った。
いわゆる、逆スパイ工作(偽情報作戦)だ。
「ミナ様、その鳥にお腹いっぱいご飯をあげてください。飛ぶのが億劫になるくらいに」
「うん! 高級サラミがあるよ!」
「そして閣下。私が偽の暗号文を作成します。内容は……そうですね」
私は羊皮紙に向かい、サラサラと書き始めた。
『防衛結界は強化された。北門には最新鋭の自動迎撃ゴーレムが配備済み。侵攻は不可能。……追伸、王都のタルトは売り切れだった』
「……これでいいでしょう」
「待て。そんな嘘、信じるか?」
「信じさせます。ついでに『王家は隣国との同盟を強化し、経済制裁の準備をしている』という噂も混ぜておきましょう。帝国の通貨価値を下落させるのが狙いです」
「……お前、戦場に出ずとも国を動かす気か」
公爵が戦慄している。
私は書き上がった偽情報をシリンダーに入れ、満腹で動けなくなっている鳥の足に結びつけた。
「さあ、ピーちゃん。お帰りなさい」
窓を開けて放つ。
鳥は重そうに羽ばたき、何度か高度を下げながらも、東の空へと消えていった。
「……バイバイ、ピーちゃん! また来てね!」
ミナが手を振る。
私は心の中で(二度と来るな、次は焼き鳥にするぞ)と呟いた。
「……これで、しばらく帝国は動けないはずだ」
ラシード公爵が安堵の息を吐く。
「ええ。侵攻計画は見直しを余儀なくされるでしょう。その隙に、こちらの防衛網を強化してください。……コンサル料は、後ほど請求します」
「……わかっている」
公爵は私を見つめ、複雑そうな顔で笑った。
「敵のスパイさえ利用するとはな。……お前を敵に回さなくて本当によかった」
「当然です。私は勝てる側にしかつきませんから」
私は胸を張った。
これで戦争は回避された。
戦争が起きれば物流が止まり、私の相談所の経営にも悪影響が出る。
平和こそが最大の利益なのだ。
その時。
ミナが不思議そうな顔で、バスケットの底を指差した。
「あれ? 何か落ちてるよ?」
「……?」
見ると、そこには小さな宝石のような石が転がっていた。
真っ赤に輝く、美しい結晶だ。
「……魔石か?」
公爵が拾い上げる。
鑑定スキルを持つ彼が、目を見開いた。
「こ、これは……最高純度の『炎の魔石』!? 帝国皇帝の私有鉱山でしか採れない国宝級の代物だぞ!」
「ええっ!?」
どうやらあの鳥、スパイ活動のついでに(あるいはミナへの餌代として)、とんでもない置き土産をしていったらしい。
「……ミナ様。それ、どうします?」
私が聞くと、ミナは首を傾げた。
「えー、いらない。キラキラしすぎてて目が痛いし。コンシュ様にあげる!」
「いただきます」
私は光の速さで魔石を回収した。
市場価格、金貨五千枚。
国家機密を売るより儲かるかもしれない。
「……おい」
公爵が呆れているが、聞こえない。
私は魔石を金庫にしまい込み、満面の笑みを浮かべた。
「ミナ様。貴女は本当に……トラブルと利益を同時に運んでくる女神ですね」
「えへへ、そうかな?」
「褒めていませんよ」
こうして、スパイ騒動は幕を閉じた。
帝国軍はその後、「王都の防衛力は未知数」として撤退を決定。
私は魔石を元手に、相談所の設備投資(エアコン導入)を行った。
全てが丸く収まった……はずだった。
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