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「ふむ。昨日の夕食代と本日の朝食代で、合計金貨一枚と銀貨七枚。今日の食材費を差し引くと、サイラス様からの純利益は銀貨五枚か」
私はテラスで優雅に会計処理をしていた。
サイラス様との「通い家政婦契約(一方的な勘違い)」は順調だ。
彼は毎日定時(夕食時と朝食時)に来て、高級食材と引き換えに私のご飯を食べる。そして、料金を律儀に支払っていく。
こんなに簡単で高収入な仕事はない。
リフォーム後のボロ屋は、私が名付けた**『ピースキャッスル』**として、今日も平和な南国の朝を迎えていた。
その平和な静寂を切り裂いたのは、一発の悲鳴だった。
「ひぃん……! ここはどこですの……!」
私は立ち上がった。
声の主は、間違いなく私の敷地内、それも私が昨夜掘ったばかりの「初心者用落とし穴(深さ一メートル)」の方向から聞こえてくる。
「ええい! 落とし穴に引っかかるなんて、間抜けな侵入者ね!」
私は愛用のスコップを手に、落とし穴へと向かった。
穴の底を覗き込むと、そこにいたのは、泥だらけになった一人の令嬢だった。
薄いピンク色の高価なドレスは泥と葉っぱで汚れ、頭の大きなリボンは斜めに曲がっている。
そして、その顔は涙と土でぐちゃぐちゃになっていた。
「た、助けてください、ピース様ぁ……!」
「あら。これはこれは」
私はスコップを突き立てたまま、冷たい声で言った。
「元婚約者の新しい恋人、ミナ・コット男爵令嬢ではありませんか。こんな所で何をしていらっしゃるの? まさか、私を呪いに来たとか?」
「ち、違いますぅ! あの、王子様が……王子様がウザくて、もう嫌になって……!」
ミナはそう言って、さらに大声で泣き出した。
王子の悪口に、私の警戒レベルは一気に下がった。
(どうやら、本当に招かれざる客ではないらしい)
「とりあえず、そこから出てきなさい」
私はロープを投げ入れた。
ミナはロープに縋り付いて、泥まみれになりながら這い上がってきた。
泥だらけの彼女をテラスに座らせ、私はフルーツ水を差し出した。
「それで? 王都からわざわざこんな辺境の島まで、何の御用で?」
「うぅ……ありがとうございます……」
ミナは水を飲み干し、ようやく落ち着いた。
そして、信じられない言葉を口にした。
「ピース様……お願いです。私を助けてください」
「助ける?」
「あの、ジェラルド様が……! 私が何を言っても、全て『ピースの嫉妬作戦』だとおっしゃるんです!」
ミナは悲痛な顔で訴えた。
「私が『お城の食事は味が濃すぎます』と言うと、『それはピースが君に嫉妬して、舌を馬鹿にするように仕向けたんだ!』。私が『公務が多すぎて疲れます』と言うと、『それはピースが君を陥れるために、呪いをかけたんだ!』って……!」
「それはひどい言いがかりですね」
私は心底同情した。
なぜなら、その言いがかりは、全て王子が自分で作り出した妄想だからだ。
「最近は、私が『あの、そろそろ別れてくれませんか』と言うと、『ツンデレだな! 素直になれないところが可愛いよ、ピース!』と、私のことを『ピース』と呼ぶようになったんです!」
「……は?」
私は自分の耳を疑った。
「その上、『ミナはピースのことが好きすぎて、僕を困らせて気を引こうとしているんだ』と、私を『ピース二世』みたいに扱うんです! もう耐えられません!」
ミナは再び泣き崩れた。
私は思わず、彼女の肩を叩いた。
「なるほど。つまり、貴女は『王子から逃げたい被害者』ではなく、『王子という名の厄介なストーカーに捕まった第二の被害者』だったのね」
「そうなんですぅ!」
ミナは顔を上げた。
その瞳には、かつての「可憐さ」ではなく、「心からの疲労」が滲んでいた。
「私は王子様のことが好きだったわけじゃなくて……ただ、優しくしてくれたから、ついていっただけで……」
「わかります。疲れますよね、あのナルシスト」
「はい! 毎日毎日、僕の美しい金髪が、とか! 僕の瞳は海の色だ、とか! 自分のことしか話さないんです!」
私とミナは、顔を見合わせ、深く頷き合った。
それは、かつて恋敵だった者同士の、奇妙な共感だった。
「それで、私にどうしろと?」
私は冷静に尋ねた。
「あの、ピース様は、王子様の弱みをたくさん握っているでしょう? あの、ふんどし姿の写真とか……」
「なんでそれを知ってるんですか」
「王子の部屋のゴミ箱に、赤紙(督促状)の燃えカスが落ちていたんです……! あれを見て、ピース様ならなんとかしてくれると思いました!」
ミナの勘は、意外と鋭かった。
「私を助けてください! 王子様から私を完全に解放する、決定的な方法を教えてください!」
ミナは私の手を取り、懇願した。
私は顎に手を当て、思案するフリをした。
(フム。これはビジネスチャンスかもしれない)
(王子の排除は、私の安眠に直結する。ミナ嬢を助けるのは、社会貢献活動だ)
「わかりました」
私は立ち上がった。
「手伝いましょう。ただし、ボランティアではありません。コンサルタント料を頂きます」
「もちろん! いくらでも!」
「金貨五十枚。ただし、即金でお願いします」
「ひっ……!」
ミナが顔色を変えた。
さすがに公爵令嬢が請求する額ではない。
「高すぎますか? では、オプション契約でいきましょう。成功報酬型です」
私は提案した。
「私と貴女が手を組んで、王子を完全に『諦める』状態に追い込む。成功すれば金貨二十枚。失敗すれば、私の夕食の皿洗いと庭の草むしりを一週間。どうです?」
ミナは一瞬考え込んだ。
そして、私のボロ屋(リフォーム済)を見回し、覚悟を決めたように言った。
「……わかりました。契約します! 皿洗いと草むしり、覚悟します!」
「結構。では、契約成立です」
私は握手を求めた。
ミナは私の手を、泥まみれのまま握り返してきた。
「では、ミナ嬢。作戦会議を始めましょう。まずは、あの王子が一番嫌がること。それは『自分のプライドを傷つけられること』と『自分の所有物ではないと知ること』です」
私は笑った。
その笑顔は、かつて王城で「悪役令嬢」と呼ばれていた時よりも、ずっと悪辣なものだった。
その時だった。
「……相変わらず、物騒な契約だな」
テラスの角の影から、サイラスが現れた。
彼は私の家の庭に掘ってある「落とし穴」を回避するため、遠回りして塀の外から様子を伺っていたらしい。
「サイラス様!」
「勝手に人の契約内容を聞かないでください!」
私は抗議した。
サイラスは、泥だらけのミナと、悪辣な笑みを浮かべる私を交互に見た。
「これが、お前たちの言う『女子会』か」
「女子会です。これから三人で、あの王子をどう黙らせるか、作戦会議をするところです」
私はミナをサイラスに紹介した。
「こちらは、ミナ・コット嬢。元王子公認の『真実の愛の相手』でしたが、現在は私の共犯者兼クライアントです」
「……状況が全く理解できん」
サイラスは頭を振った。
「ミナ嬢。お前も大変だったな。……ピース、今夜のメニューは?」
「もちろん、作戦会議に相応しい、スタミナがつく肉料理ですよ」
「そうか。なら、私の領地の新鮮な肉を持ってこよう」
サイラスは立ち去った。
彼の後ろ姿を見送りながら、私はミナに言った。
「ね、いいクライアントでしょう? 夕食代を払ってくれる太客よ」
「は、はい……」
ミナは、目の前で繰り広げられた「肉と金銭による交渉」に、すっかり呆気に取られていた。
「さあ、ミナ嬢。貴女も早くシャワーを浴びて着替えて。これから三日間は、王子の目を欺くためにこの城に滞在していただきます。……もちろん、宿泊費は無料ですよ」
「あ、ありがとうございます……!」
ミナは感謝の声を上げた。
こうして、かつての恋敵と悪役令嬢、そしてその間の邪魔な男(サイラス)が一人加わった、奇妙な『王子撃退同盟』が結成されたのである。
私はテラスで優雅に会計処理をしていた。
サイラス様との「通い家政婦契約(一方的な勘違い)」は順調だ。
彼は毎日定時(夕食時と朝食時)に来て、高級食材と引き換えに私のご飯を食べる。そして、料金を律儀に支払っていく。
こんなに簡単で高収入な仕事はない。
リフォーム後のボロ屋は、私が名付けた**『ピースキャッスル』**として、今日も平和な南国の朝を迎えていた。
その平和な静寂を切り裂いたのは、一発の悲鳴だった。
「ひぃん……! ここはどこですの……!」
私は立ち上がった。
声の主は、間違いなく私の敷地内、それも私が昨夜掘ったばかりの「初心者用落とし穴(深さ一メートル)」の方向から聞こえてくる。
「ええい! 落とし穴に引っかかるなんて、間抜けな侵入者ね!」
私は愛用のスコップを手に、落とし穴へと向かった。
穴の底を覗き込むと、そこにいたのは、泥だらけになった一人の令嬢だった。
薄いピンク色の高価なドレスは泥と葉っぱで汚れ、頭の大きなリボンは斜めに曲がっている。
そして、その顔は涙と土でぐちゃぐちゃになっていた。
「た、助けてください、ピース様ぁ……!」
「あら。これはこれは」
私はスコップを突き立てたまま、冷たい声で言った。
「元婚約者の新しい恋人、ミナ・コット男爵令嬢ではありませんか。こんな所で何をしていらっしゃるの? まさか、私を呪いに来たとか?」
「ち、違いますぅ! あの、王子様が……王子様がウザくて、もう嫌になって……!」
ミナはそう言って、さらに大声で泣き出した。
王子の悪口に、私の警戒レベルは一気に下がった。
(どうやら、本当に招かれざる客ではないらしい)
「とりあえず、そこから出てきなさい」
私はロープを投げ入れた。
ミナはロープに縋り付いて、泥まみれになりながら這い上がってきた。
泥だらけの彼女をテラスに座らせ、私はフルーツ水を差し出した。
「それで? 王都からわざわざこんな辺境の島まで、何の御用で?」
「うぅ……ありがとうございます……」
ミナは水を飲み干し、ようやく落ち着いた。
そして、信じられない言葉を口にした。
「ピース様……お願いです。私を助けてください」
「助ける?」
「あの、ジェラルド様が……! 私が何を言っても、全て『ピースの嫉妬作戦』だとおっしゃるんです!」
ミナは悲痛な顔で訴えた。
「私が『お城の食事は味が濃すぎます』と言うと、『それはピースが君に嫉妬して、舌を馬鹿にするように仕向けたんだ!』。私が『公務が多すぎて疲れます』と言うと、『それはピースが君を陥れるために、呪いをかけたんだ!』って……!」
「それはひどい言いがかりですね」
私は心底同情した。
なぜなら、その言いがかりは、全て王子が自分で作り出した妄想だからだ。
「最近は、私が『あの、そろそろ別れてくれませんか』と言うと、『ツンデレだな! 素直になれないところが可愛いよ、ピース!』と、私のことを『ピース』と呼ぶようになったんです!」
「……は?」
私は自分の耳を疑った。
「その上、『ミナはピースのことが好きすぎて、僕を困らせて気を引こうとしているんだ』と、私を『ピース二世』みたいに扱うんです! もう耐えられません!」
ミナは再び泣き崩れた。
私は思わず、彼女の肩を叩いた。
「なるほど。つまり、貴女は『王子から逃げたい被害者』ではなく、『王子という名の厄介なストーカーに捕まった第二の被害者』だったのね」
「そうなんですぅ!」
ミナは顔を上げた。
その瞳には、かつての「可憐さ」ではなく、「心からの疲労」が滲んでいた。
「私は王子様のことが好きだったわけじゃなくて……ただ、優しくしてくれたから、ついていっただけで……」
「わかります。疲れますよね、あのナルシスト」
「はい! 毎日毎日、僕の美しい金髪が、とか! 僕の瞳は海の色だ、とか! 自分のことしか話さないんです!」
私とミナは、顔を見合わせ、深く頷き合った。
それは、かつて恋敵だった者同士の、奇妙な共感だった。
「それで、私にどうしろと?」
私は冷静に尋ねた。
「あの、ピース様は、王子様の弱みをたくさん握っているでしょう? あの、ふんどし姿の写真とか……」
「なんでそれを知ってるんですか」
「王子の部屋のゴミ箱に、赤紙(督促状)の燃えカスが落ちていたんです……! あれを見て、ピース様ならなんとかしてくれると思いました!」
ミナの勘は、意外と鋭かった。
「私を助けてください! 王子様から私を完全に解放する、決定的な方法を教えてください!」
ミナは私の手を取り、懇願した。
私は顎に手を当て、思案するフリをした。
(フム。これはビジネスチャンスかもしれない)
(王子の排除は、私の安眠に直結する。ミナ嬢を助けるのは、社会貢献活動だ)
「わかりました」
私は立ち上がった。
「手伝いましょう。ただし、ボランティアではありません。コンサルタント料を頂きます」
「もちろん! いくらでも!」
「金貨五十枚。ただし、即金でお願いします」
「ひっ……!」
ミナが顔色を変えた。
さすがに公爵令嬢が請求する額ではない。
「高すぎますか? では、オプション契約でいきましょう。成功報酬型です」
私は提案した。
「私と貴女が手を組んで、王子を完全に『諦める』状態に追い込む。成功すれば金貨二十枚。失敗すれば、私の夕食の皿洗いと庭の草むしりを一週間。どうです?」
ミナは一瞬考え込んだ。
そして、私のボロ屋(リフォーム済)を見回し、覚悟を決めたように言った。
「……わかりました。契約します! 皿洗いと草むしり、覚悟します!」
「結構。では、契約成立です」
私は握手を求めた。
ミナは私の手を、泥まみれのまま握り返してきた。
「では、ミナ嬢。作戦会議を始めましょう。まずは、あの王子が一番嫌がること。それは『自分のプライドを傷つけられること』と『自分の所有物ではないと知ること』です」
私は笑った。
その笑顔は、かつて王城で「悪役令嬢」と呼ばれていた時よりも、ずっと悪辣なものだった。
その時だった。
「……相変わらず、物騒な契約だな」
テラスの角の影から、サイラスが現れた。
彼は私の家の庭に掘ってある「落とし穴」を回避するため、遠回りして塀の外から様子を伺っていたらしい。
「サイラス様!」
「勝手に人の契約内容を聞かないでください!」
私は抗議した。
サイラスは、泥だらけのミナと、悪辣な笑みを浮かべる私を交互に見た。
「これが、お前たちの言う『女子会』か」
「女子会です。これから三人で、あの王子をどう黙らせるか、作戦会議をするところです」
私はミナをサイラスに紹介した。
「こちらは、ミナ・コット嬢。元王子公認の『真実の愛の相手』でしたが、現在は私の共犯者兼クライアントです」
「……状況が全く理解できん」
サイラスは頭を振った。
「ミナ嬢。お前も大変だったな。……ピース、今夜のメニューは?」
「もちろん、作戦会議に相応しい、スタミナがつく肉料理ですよ」
「そうか。なら、私の領地の新鮮な肉を持ってこよう」
サイラスは立ち去った。
彼の後ろ姿を見送りながら、私はミナに言った。
「ね、いいクライアントでしょう? 夕食代を払ってくれる太客よ」
「は、はい……」
ミナは、目の前で繰り広げられた「肉と金銭による交渉」に、すっかり呆気に取られていた。
「さあ、ミナ嬢。貴女も早くシャワーを浴びて着替えて。これから三日間は、王子の目を欺くためにこの城に滞在していただきます。……もちろん、宿泊費は無料ですよ」
「あ、ありがとうございます……!」
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