13 / 28
13
しおりを挟む
「作戦の標的は、ジェラルド王子の最も脆弱な部分。それは、彼の『過剰な自己肯定感』です」
ピースは、リフォームして清潔になったリビングのテーブルに、一枚の羊皮紙を広げた。
紙のトップには、達筆な文字で『オペレーション・ナルシスト・ブレイクダウン(ナルシスト崩壊作戦)』と書かれている。
テーブルの片側には、泥を落とし、ピースの予備の服を借りたミナ・コット嬢が、真剣な顔で座っている。
テーブルの反対側には、いつものように食事(肉料理)を待つサイラスが座っている。彼は一応、報告書(騎士団の文書)を読んでいるフリをしているが、その耳は会話に集中していた。
「ミナ嬢。王子は今、貴女のことをどう見ているか、再確認しましょう」
「えっと……」
ミナは俯いた。
「『ツンデレで素直になれない、僕を愛するピース二世』だと……」
「正解です。厄介なことに、王子は私たちの婚約破棄を『私への嫉妬』だと信じ込んでいます。だから貴女が拒否すればするほど、『ピースが仕込んだ、可愛い反抗』だと解釈するんです」
ピースはペンを手に、図を書き始めた。
「つまり、貴女がいくら『嫌い』と言っても、それは『好きの裏返し』。貴女が逃げれば、『僕を試す愛の逃避行』。全て、王子自身のシナリオに回収されてしまう」
「じゃあ、どうすれば……?」
ミナが青い顔で尋ねた。
サイラスが、報告書を閉じる音を立てた。
「……逃げても無駄だ。あいつは、自分を拒否する人間を『特別な存在』だと勘違いする。真に効果があるのは、『無関心』か『格付け』だ」
「おや。サイラス様、ご意見ありがとうございます。今の発言はコンサルタント料として銀貨一枚追加で請求させていただきます」
「なんでだ」
「貴重な内部情報だからです。続けてください」
サイラスは額を抑え、ため息をついた。
「……あいつは、自分の『美しさ』と『優位性』に絶対の自信を持っている。その美しさが無価値だと知るか、あるいは、自分よりも遥かに格上の男に所有権を主張されると、プライドが崩壊する」
ピースの目がキラリと光った。
「さすが、元王宮騎士団長。的確な分析です。では、作戦は決まりました」
ピースは羊皮紙に、大きく二つのステップを書き加えた。
オペレーション・ナルシスト・ブレイクダウン
Step 1: 価値の転倒(価値観の否定)
「ミナ嬢。貴女の目標は、王子にとって『魅力のない、格下の女』になることです」
「ええっ!? で、でも、どうやって……?」
ミナはドレスの裾を握りしめた。
「簡単です。王子が愛するのは『純粋で可憐で、金銭に無頓着な、芸術を愛する乙女』です。逆をやればいい」
「逆……」
「王子の弱みは、彼の考える『理想の女性像』から外れることよ」
ピースはミナの肩に手を置いた。
「貴女はこれより、私と同じ『拝金主義でシニカルな計算機令嬢』を演じなさい」
「拝金主義……」
「具体的には、手紙で彼に請求書を送りなさい。彼が貴女に贈った全てのプレゼント、ドレス、宝石の代金を市場価格と手数料付きで返金するよう要求するのです」
「それ、ピース様の借金取り立ての応用ではありませんか!」
「成功実績のあるメソッドです。そして、貴女が彼に送る言葉はこうです。『殿下の愛は、私にとって利子の付かない投資でした。これ以上の損失は避けたいため、ポートフォリオから貴方を切り離します』」
ミナは口をあんぐりと開けた。
「そ、そんなドライなこと、私には……」
「やるんです。金の力で心を冷たくするのよ」
Step 2: 絶対的な格付け(上位存在の提示)
「そして、最も重要なステップです。王子に『この女は、もう俺の手の届かない場所にいる』と思わせる必要があります」
ピースはニヤリと笑った。
「そこで貴女は、『殿下よりも、格も地位も、人間的な魅力も遥かに優る、新しいパートナー』を見つけたことを宣言する」
「パ、パートナー……誰を……?」
ミナは辺りを見回した。当然ながら、この島にはサイラスとピースしかいない。
そして、ピースとミナの視線が、報告書を読むのをやめて肉を待ちわびているサイラスに集中した。
サイラスはゆっくりと顔を上げた。
「……なぜ俺を見る」
ピースは満面の笑みで言った。
「サイラス様、出番です。この作戦には、『辺境伯家の威光』と『圧倒的な男の魅力』が必要です」
「待て。俺はただの観客だったはずだが」
「観客? 失礼な。サイラス様は、私の『雇用主(兼、食事代を払う太客)』であり、この作戦の『最重要アイテム』ですよ」
ピースはミナに向き直った。
「ミナ嬢。貴女が新しい恋人として指名するのは……グレイヴ辺境伯サイラス・ディーン様です」
「はあああああああ!?」
ミナとサイラスの声が、テラスに響き渡った。
「無茶です! サイラス様は、王子の尊敬する数少ない武人です! そして、冷酷で有名なお方……!」
「冷酷なのは、借金取り立て屋の私で十分です。王子は、貴女が『自分より上質な男』に奪われたことを知れば、貴女ではなく、自分を奪った男に怯える。そして、『格上』への負けは素直に認める」
ピースはサイラスを指差した。
「サイラス様。貴女はミナ嬢を、『自分の美しさを理解できない下品な女』から救い出し、『価値の分かる成熟した大人の男』として、王子に絶望を与えるのです!」
サイラスはグラスの水を飲み干し、口元を拭った。
「……ふざけるな。俺はそんな茶番に付き合うつもりはない。それに、俺は既にお前という『筆頭家令(候補)』を口説いている最中だ」
「筆頭家令? なんのことです?」
ミナがキョトンとする。
「黙っていてください、サイラス様。仕事です。ミナ嬢への『演出』には、協力していただく必要があります」
ピースはサイラスの顔を覗き込んだ。
「ご安心を。演技でいいんです。貴女がミナ嬢と親しげにしているフリを、王都に流すだけで。……ただし、私の許可なくミナ嬢と二人きりでデートするのは、固く禁じます」
最後の台詞に、サイラスはピクリと眉を動かした。
「なぜだ?」
「貴女は私の、『優秀な夕食代支払い係』を奪おうとしましたから。それに、貴女を私の『家政婦』として確保する方が、私のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)にとって優先順位が高いからです」
「……この守銭奴め」
サイラスはそう悪態をつきながらも、なぜか少しだけ嬉しそうだった。
彼は報告書を完全に畳み、深いため息をついた。
「わかった。その作戦、乗ってやる。だが、成功報酬は『夕食の永久無料権』にしろ」
「ええっ!? そこを銀貨で!」
「却下だ。一食につき、金貨一枚分の肉料理を要求する」
「……鬼! 悪魔! わかりました! 成功報酬は『一ヶ月間、毎晩の食事が無料』で手を打ちましょう!」
「……よかろう」
こうして、サイラスは『王子撃退同盟』の最重要人物として、不本意ながらも参加することとなった。
そして、作戦はすぐさま実行に移される。
その日の午後。
王城へ向けて、二通の恐ろしい手紙が同時に送られた。
一通は、ピースの差出人による『第三回督促状(未公開写真のモノクロコピー付き)』。
そしてもう一通は、ミナ・コット男爵令嬢の署名による、『絶縁状兼、金融取引清算書』だった。
ピースは、リフォームして清潔になったリビングのテーブルに、一枚の羊皮紙を広げた。
紙のトップには、達筆な文字で『オペレーション・ナルシスト・ブレイクダウン(ナルシスト崩壊作戦)』と書かれている。
テーブルの片側には、泥を落とし、ピースの予備の服を借りたミナ・コット嬢が、真剣な顔で座っている。
テーブルの反対側には、いつものように食事(肉料理)を待つサイラスが座っている。彼は一応、報告書(騎士団の文書)を読んでいるフリをしているが、その耳は会話に集中していた。
「ミナ嬢。王子は今、貴女のことをどう見ているか、再確認しましょう」
「えっと……」
ミナは俯いた。
「『ツンデレで素直になれない、僕を愛するピース二世』だと……」
「正解です。厄介なことに、王子は私たちの婚約破棄を『私への嫉妬』だと信じ込んでいます。だから貴女が拒否すればするほど、『ピースが仕込んだ、可愛い反抗』だと解釈するんです」
ピースはペンを手に、図を書き始めた。
「つまり、貴女がいくら『嫌い』と言っても、それは『好きの裏返し』。貴女が逃げれば、『僕を試す愛の逃避行』。全て、王子自身のシナリオに回収されてしまう」
「じゃあ、どうすれば……?」
ミナが青い顔で尋ねた。
サイラスが、報告書を閉じる音を立てた。
「……逃げても無駄だ。あいつは、自分を拒否する人間を『特別な存在』だと勘違いする。真に効果があるのは、『無関心』か『格付け』だ」
「おや。サイラス様、ご意見ありがとうございます。今の発言はコンサルタント料として銀貨一枚追加で請求させていただきます」
「なんでだ」
「貴重な内部情報だからです。続けてください」
サイラスは額を抑え、ため息をついた。
「……あいつは、自分の『美しさ』と『優位性』に絶対の自信を持っている。その美しさが無価値だと知るか、あるいは、自分よりも遥かに格上の男に所有権を主張されると、プライドが崩壊する」
ピースの目がキラリと光った。
「さすが、元王宮騎士団長。的確な分析です。では、作戦は決まりました」
ピースは羊皮紙に、大きく二つのステップを書き加えた。
オペレーション・ナルシスト・ブレイクダウン
Step 1: 価値の転倒(価値観の否定)
「ミナ嬢。貴女の目標は、王子にとって『魅力のない、格下の女』になることです」
「ええっ!? で、でも、どうやって……?」
ミナはドレスの裾を握りしめた。
「簡単です。王子が愛するのは『純粋で可憐で、金銭に無頓着な、芸術を愛する乙女』です。逆をやればいい」
「逆……」
「王子の弱みは、彼の考える『理想の女性像』から外れることよ」
ピースはミナの肩に手を置いた。
「貴女はこれより、私と同じ『拝金主義でシニカルな計算機令嬢』を演じなさい」
「拝金主義……」
「具体的には、手紙で彼に請求書を送りなさい。彼が貴女に贈った全てのプレゼント、ドレス、宝石の代金を市場価格と手数料付きで返金するよう要求するのです」
「それ、ピース様の借金取り立ての応用ではありませんか!」
「成功実績のあるメソッドです。そして、貴女が彼に送る言葉はこうです。『殿下の愛は、私にとって利子の付かない投資でした。これ以上の損失は避けたいため、ポートフォリオから貴方を切り離します』」
ミナは口をあんぐりと開けた。
「そ、そんなドライなこと、私には……」
「やるんです。金の力で心を冷たくするのよ」
Step 2: 絶対的な格付け(上位存在の提示)
「そして、最も重要なステップです。王子に『この女は、もう俺の手の届かない場所にいる』と思わせる必要があります」
ピースはニヤリと笑った。
「そこで貴女は、『殿下よりも、格も地位も、人間的な魅力も遥かに優る、新しいパートナー』を見つけたことを宣言する」
「パ、パートナー……誰を……?」
ミナは辺りを見回した。当然ながら、この島にはサイラスとピースしかいない。
そして、ピースとミナの視線が、報告書を読むのをやめて肉を待ちわびているサイラスに集中した。
サイラスはゆっくりと顔を上げた。
「……なぜ俺を見る」
ピースは満面の笑みで言った。
「サイラス様、出番です。この作戦には、『辺境伯家の威光』と『圧倒的な男の魅力』が必要です」
「待て。俺はただの観客だったはずだが」
「観客? 失礼な。サイラス様は、私の『雇用主(兼、食事代を払う太客)』であり、この作戦の『最重要アイテム』ですよ」
ピースはミナに向き直った。
「ミナ嬢。貴女が新しい恋人として指名するのは……グレイヴ辺境伯サイラス・ディーン様です」
「はあああああああ!?」
ミナとサイラスの声が、テラスに響き渡った。
「無茶です! サイラス様は、王子の尊敬する数少ない武人です! そして、冷酷で有名なお方……!」
「冷酷なのは、借金取り立て屋の私で十分です。王子は、貴女が『自分より上質な男』に奪われたことを知れば、貴女ではなく、自分を奪った男に怯える。そして、『格上』への負けは素直に認める」
ピースはサイラスを指差した。
「サイラス様。貴女はミナ嬢を、『自分の美しさを理解できない下品な女』から救い出し、『価値の分かる成熟した大人の男』として、王子に絶望を与えるのです!」
サイラスはグラスの水を飲み干し、口元を拭った。
「……ふざけるな。俺はそんな茶番に付き合うつもりはない。それに、俺は既にお前という『筆頭家令(候補)』を口説いている最中だ」
「筆頭家令? なんのことです?」
ミナがキョトンとする。
「黙っていてください、サイラス様。仕事です。ミナ嬢への『演出』には、協力していただく必要があります」
ピースはサイラスの顔を覗き込んだ。
「ご安心を。演技でいいんです。貴女がミナ嬢と親しげにしているフリを、王都に流すだけで。……ただし、私の許可なくミナ嬢と二人きりでデートするのは、固く禁じます」
最後の台詞に、サイラスはピクリと眉を動かした。
「なぜだ?」
「貴女は私の、『優秀な夕食代支払い係』を奪おうとしましたから。それに、貴女を私の『家政婦』として確保する方が、私のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)にとって優先順位が高いからです」
「……この守銭奴め」
サイラスはそう悪態をつきながらも、なぜか少しだけ嬉しそうだった。
彼は報告書を完全に畳み、深いため息をついた。
「わかった。その作戦、乗ってやる。だが、成功報酬は『夕食の永久無料権』にしろ」
「ええっ!? そこを銀貨で!」
「却下だ。一食につき、金貨一枚分の肉料理を要求する」
「……鬼! 悪魔! わかりました! 成功報酬は『一ヶ月間、毎晩の食事が無料』で手を打ちましょう!」
「……よかろう」
こうして、サイラスは『王子撃退同盟』の最重要人物として、不本意ながらも参加することとなった。
そして、作戦はすぐさま実行に移される。
その日の午後。
王城へ向けて、二通の恐ろしい手紙が同時に送られた。
一通は、ピースの差出人による『第三回督促状(未公開写真のモノクロコピー付き)』。
そしてもう一通は、ミナ・コット男爵令嬢の署名による、『絶縁状兼、金融取引清算書』だった。
80
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
『婚約破棄はお好きにどうぞ。――真実の愛に酔った王太子の末路と、私は隣国で王妃になります』
鷹 綾
恋愛
「真実の愛に目覚めた」――そう仰るのなら、どうぞご自由に。
公爵令嬢アーデルハイトは、王太子から突然の婚約破棄を迫られる。
理由はただ一つ。若き未亡人伯爵夫人との“運命の恋”。
爵位を継がせ、領地を与え、守ると誓う王太子。
甘い言葉と涙の芝居に酔いしれる二人。
社交界はざわめき、噂は炎のように広がっていく――。
だがアーデルハイトは動じない。
「ロマンスは小説だけで充分ですわ」
婚約破棄は受け入れる。
ただし、契約通りの違約金はきっちりいただく。
そして彼女は、その莫大な違約金を元手に隣国ヴァルディア王と婚約。
感情ではなく理で動き、交易を再編し、国と国を繋ぐ“橋”となる。
一方、真実の愛に酔った王太子は、
世間から「遺産目当て」「操られている」と叩かれ、政治的窮地へ――。
これは、激情に溺れた恋の末路と、
冷静に未来を選び取った公爵令嬢が王妃へと至る物語。
三流ロマンスの終幕後、
最後に立っているのは誰なのか。
ざまぁは静かに、しかし確実に訪れる。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです
ふわふわ
恋愛
王太子ユリウスは、王立学園の卒業舞踏会で突然宣言した。
「カリスタ・ヴァレリオンとの婚約を破棄する!」
隣には涙を流す義妹ルミレア。
彼女は「姉に虐げられてきた可哀想な令嬢」を演じ、王太子はそれを信じてしまう。
だが――王太子は知らなかった。
ヴァレリオン公爵家が
王国銀行の資金、港湾会社の株式、商人組合の信用保証――
王国経済の中枢を支える契約のほとんどを握っていたことを。
婚約破棄と同時に、カリスタは静かに言った。
「では契約を終了いたします」
その瞬間、王国の歯車は止まり始める。
港は停止。
銀行は資金不足。
商人は取引停止。
そしてついに――
王宮大広間で王太子の公開断罪が始まる。
「私は悪くない!」
「騙されたんだ!」
見苦しく喚き暴れる王太子は、衛兵に取り押さえられ、床を引きずられるようにして連行されていく。
王太子、義妹、義父母。
すべてが破滅したとき、カリスタはただ静かに告げる。
「契約は終わりました」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる