悪役令嬢は婚約破棄に「異議なし」です!

パリパリかぷちーの

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「か、硬い……! なんだこれ、岩盤か?」

月明かりの下、穴の底でジェラルドが呻き声を上げた。

彼のスコップが、カキン! と甲高い音を立てて弾かれたのだ。

「どうしたの、ジェラルド。サボってる暇はないわよ」

私が穴の上からランタンで照らすと、彼は泥だらけの顔で見上げてきた。

「違うよピース! 何かあるんだ! すごく硬い、人工物のような……」

「人工物?」

私は眉をひそめた。

まさか、埋蔵金? それとも古代遺跡?

私の「守銭奴センサー」がピクリと反応した。

「サイラス様、お願いします。掘り出してみましょう」

「……夜中に人使いが荒いな」

呼び出されたサイラス(パジャマ姿)が、欠伸をしながら穴に飛び込んだ。

彼は足元の固い地面に手を触れた。

「……ふむ。これは『封印石』だな」

「封印石!?」

ジェラルドが悲鳴を上げて後ずさる。

「や、ヤバいやつじゃないか! 魔王とか、邪神とかが封印されているんじゃ……!」

「どいていろ」

サイラスは詠唱もせずに指先を光らせた。

「砕くぞ」

「ちょ、ちょっと待って! 確認してから……!」

ドォォォォン!!

ジェラルドの制止も虚しく、サイラスの放った魔法が岩盤を粉砕した。

その瞬間。

プシューーーーーーッ!!

猛烈な勢いで、白い蒸気と熱湯が噴き出した。

「あつっ!? 熱いぃぃぃぃ!!」

直撃を受けたジェラルドが、ロケットのように穴から打ち上げられた。

「温泉だ!」

私は叫んだ。

硫黄の香りが充満する。

地下から滾々と湧き出る、熱々の源泉。

「やった! 大当たりよ! これで暖房費ゼロ! 観光資源ゲット!」

「熱っ! 火傷する! 誰か助けてぇぇ!」

空から落ちてきたジェラルドが、出来たての熱湯の池で溺れている。

「ジェラルド、ナイスジョブよ! 貴方は今日から『温泉発見の功労者(兼、湯加減を見る係)』に任命するわ!」

「湯加減係って、ただの熱湯コマーシャルじゃないか!」

こうして、辺境リゾート計画の「核」となる温泉が確保された。

翌朝。

私は全兵士を広場に招集した。

「諸君! 朗報です! 温泉が出ました!」

「うおおおおお!」

兵士たちが歓声を上げる。

寒い辺境において、温かい風呂は何よりの贅沢だ。

「ですが!」

私は人差し指を立てた。

「ただ浸かるだけでは能がありません。この地熱エネルギーを骨の髄まで利用し尽くします!」

私は背後の黒板(自作)に、チョークで図を描き殴った。

「作戦名『プロジェクト・ホット・スプリング』を発動します!」

**【第一段階:全館床暖房化計画】**

「まず、城の地下にパイプを張り巡らせ、温泉の蒸気を通します。これで城内は常夏になります!」

**【第二段階:地熱ビニールハウス農業】**

「次に、城の裏手に巨大なガラス張りの温室を作ります。外は雪景色でも、中はポカポカ。そこで何を作るか……ズバリ、『南国フルーツ』です!」

「な、南国フルーツだと……?」

兵士たちがざわめく。

「そうです。雪国でマンゴーやバナナが採れたら? 希少価値は爆上がり、王都の貴族たちが金貨を握りしめて買いに来ます!」

**【第三段階:筋肉温泉リゾート】**

「そして、貴方たちです。温泉に入り、温野菜を食べ、健康になったその肉体を……観光客に見せつけるのです!」

「見せつける……?」

「はい。『辺境騎士団の朝練見学ツアー』や『マッチョと餅つき大会』を開催します。推し活に飢えた令嬢たちが殺到すること間違いなしです!」

私は指示棒でバンッ! と黒板を叩いた。

「さあ、夢(と金)のために働くのです! 工期は一ヶ月! 急げば今年の冬のボーナスが出ます!」

「ボ、ボーナス……!?」

その単語を聞いた瞬間、兵士たちの目の色が変わった。

「やるぞぉぉぉ! 穴を掘れぇぇ!」
「パイプを持ってこい! マンゴーを植えるんだ!」
「筋トレだ! 大胸筋を仕上げろ!」

猛烈な勢いで作業が始まった。

現場監督は私。

総責任者はサイラス(判子を押すだけ)。

そして、現場の最前線でこき使われるのが……。

「なんで僕がマンゴーの種まきなんですかぁぁ!」

ジェラルドである。

彼は泥にまみれ、肥料を運び、温室の基礎工事に従事させられていた。

「文句を言わない。貴方が掘り当てた温泉で育てるのよ。我が子のようなものでしょ?」

「子供ならもっと可愛がりたいよ! これ虐待だよ!」

「働かざる者食うべからず。今日のノルマが終わらないと、夕食のステーキは抜きよ」

「ステーキ……!」

ジェラルドは食欲という餌に釣られ、涙ながらに鍬(くわ)を振るった。

意外と筋がいい。

王族としての無駄な剣術の動きが、農作業にマッチしているようだ。

一方、ミナも忙しかった。

「ピース様! 城のエントランス、こんな感じでどうですか?」

彼女は殺風景だった黒い城壁に、可愛らしい花のリースや、パステルカラーのタペストリーを飾り付けていた。

「あら、いいじゃない。鉄と花のコントラストが『映え』ね」

「でしょう? あと、兵士さんたちの制服も、少しアレンジしてみました! 筋肉が綺麗に見えるように、袖を捲り上げるスタイルに!」

「有能! ミナ嬢、貴女は天才よ!」

私たちはハイタッチした。

かつて恋敵だった二人が、今や最強のビジネスパートナーとして機能している。

その様子を、執務室の窓からサイラスが見下ろしていた。

「……すごいな」

彼はコーヒーを飲みながら呟いた。

「静かだった城が、まるで祭りの前日のようだ」

彼の表情は穏やかだった。

孤独だった氷の城主は、もういない。

数週間後。

私たちのスパルタ改革の成果は、目に見える形で現れ始めた。

城内はポカポカと暖かく、温室では謎の成長速度(おそらくサイラスの魔力が漏れ出ている)で野菜が育ち、温泉大浴場が完成した。

「ふぅ……」

完成したばかりの一番風呂。

露天風呂に浸かりながら、私は夜空を見上げた。

「極楽……」

「……覗くぞ」

「キャッ!?」

壁の向こう(男湯)から、サイラスの声がした。

「冗談だ。……疲れは取れたか?」

「はい。最高です。これで入場料を金貨一枚に設定しても、客は来ますね」

「まだ金の話か」

サイラスが笑う気配がした。

「ピース。……ありがとう」

「え?」

「この城が、こんなに暖かくなるとは思わなかった。物理的にも、心情的にもな」

しんみりとした言葉。

私は照れ隠しにお湯をバシャッと掛けた。

「お礼は売り上げの中からボーナスでくださいね」

「ああ。身体で払おうか?」

「結構です! のぼせますから!」

幸せな湯けむりの向こうで、ジェラルドの「僕も入りたいよぉぉ! なんで僕は番台係なんだぁぁ!」という叫び声が聞こえたが、風情として聞き流した。

順風満帆に見えた領地改革。

しかし。

働きすぎた私に、体が悲鳴を上げる時が近づいていた。

そして、それがサイラスとの「初めての喧嘩」の火種になることを、私はまだ知らなかった。
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