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「――ない! ない! どこにもないぞ!」
王都の中心にそびえる白亜の王城。
その一角にある王太子執務室から、悲鳴にも似た怒号が響き渡った。
時刻は朝の九時。
通常であれば、優雅なコーヒーの香りと共に、穏やかな執務時間が流れているはずの時間帯だ。
しかし、今日の執務室は戦場だった。
「どうなっているんだ! なぜ書類が床に散乱している! なぜインクが切れている! なぜ今日のスケジュール表が白紙なんだ!」
王太子ヘリオスは、自身のデスクをバンバンと叩きながら叫んでいた。
彼の目の前には、未決済の書類が山のように積まれている。
その高さ、実に五十センチ。
一夜にして湧き出た紙の塔だ。
「も、申し訳ございません殿下! 直ちに確認いたします!」
側近の文官たちが顔面蒼白で走り回る。
「おい! 北部の治水工事の進捗報告書はどこだ! 今日が締め切りだぞ!」
「そ、それが……ファイル棚に見当たらず……」
「そんなはずはない! いつもなら、私が席に着く前にデスクの右上に置いてあるはずだ!」
「い、いつもはカグヤ様が置いておられたので……」
「……っ!」
ヘリオスが言葉を詰まらせる。
「じゃ、じゃあ、隣国からの親書への返信案は!?」
「そ、それもカグヤ様が下書きを……」
「来週の式典の招待客リストは!?」
「カグヤ様が……」
「今日の私のネクタイの色を決めるのは!?」
「カ、カグヤ様が……」
沈黙。
ヘリオスはワナワナと震え出した。
「カグヤ、カグヤ、カグヤ! どいつもこいつもカグヤか! 貴様らは自分一人では何もできないのか!」
「殿下こそ……」
文官の一人がボソリと呟いたが、ヘリオスの怒鳴り声にかき消された。
「ええい、もういい! 私がやる! たかが書類仕事だ、王太子である私にできぬはずがない!」
ヘリオスは荒々しく椅子に座り、一番上の書類を手に取った。
『件名:王都下水道整備計画における第三期予算修正案について』
「ふん、下水道か。予算を承認すればいいのだろう」
彼は羽ペンを手に取り、サインをしようとした。
だが、ペン先が紙に触れる直前で止まる。
書類には、数字が羅列された表がびっしりと並んでいるだけで、どこをどう判断すればいいのか全く分からない。
「……なんだこれは。結論はどこに書いてある?」
「えっと……その表を読み解いて、前年比との整合性をチェックし、不要な経費を削減した上で承認印を押す必要がございます」
文官がおずおずと説明する。
「……計算が必要なのか?」
「はい。複雑な関数の計算になります」
「……」
ヘリオスはそっと書類を戻した。
「次だ」
二枚目の書類を手に取る。
『件名:東方諸国連合との貿易協定における関税撤廃品目の選定に関する緊急要請』
「……長い!」
タイトルだけで読む気をなくし、彼は書類を投げ捨てた。
「なぜ要約がない! いつもなら三行でまとめたメモが付いているだろう!」
「ですから、そのメモを作っていたのがカグヤ様でして……」
「くそっ!」
ヘリオスは頭を抱えた。
彼は今まで、自分が優秀な王太子だと思っていた。
書類を見れば即座に決断し、会議では的確な指示を出し、外交では堂々と振る舞ってきた。
だが、それは全て幻想だった。
彼が見ていたのは、カグヤが徹夜で作り上げた「正解への最短ルート」が記されたカンニングペーパーだったのだ。
難解な書類は彼女が分かりやすく要約し、判断に迷う案件は「A案(推奨):メリット・デメリット」「B案:却下理由」というメモを添えていた。
ヘリオスはただ、彼女が指し示した「A案」を選んで、サインをするだけの装置だったのだ。
「あ、あのぉ……ヘリオス様ぁ?」
重苦しい空気を破るように、甘ったるい声がした。
執務室のドアが開き、ミナが入ってくる。
彼女はフリルのついた可愛らしいドレスを着て、手にはお盆を持っていた。
「皆様、カリカリしてると体に毒ですよぉ? ミナ特製のハーブティーで休憩しませんかぁ?」
「おお、ミナか!」
ヘリオスは救世主を見るような目で彼女を見た。
「気が利くな! ちょうど喉が渇いていたんだ」
「えへへ、でしょう? カグヤ様がいなくなって大変そうですけど、私がお手伝いしますから!」
ミナは笑顔でティーカップをデスクに置いた。
ドンッ。
「あ」
手元が狂ったのか、カップが傾く。
茶色の液体が、デスクの上に広がる。
「わっ、きゃあああ!?」
「うわあああ! 書類が! 重要書類が!」
文官たちが悲鳴を上げて飛びつく。
だが、時すでに遅し。
先ほどの『予算修正案』も『貿易協定』も、全てハーブティーの海に沈んでしまった。
「あわわ……ご、ごめんなさいぃ……」
ミナが涙目になる。
「だ、大丈夫だミナ! 気にするな! 書類などまた書けばいい!」
ヘリオスは引きつった笑顔でフォローしたが、文官たちの目は完全に死んでいた。
(また書けばいい、だと……?)
(あの書類を作るのに、財務局が三ヶ月かけたんだぞ……)
(原本だぞ、あれ……)
室内の士気が、音を立てて崩壊していくのが分かった。
その時。
「失礼します!」
勢いよく扉が開き、騎士団長が入ってきた。
「殿下! 緊急事態です!」
「今度はなんだ! お茶をこぼしたくらいで騒ぐな!」
「違います! 国境警備隊からの報告です! 隣国の軍が演習を名目に国境付近に集結しています!」
「な、なんだと!?」
ヘリオスが立ち上がる。
「どこの国だ!?」
「スターダスト公爵領を持つ、西の軍事大国です! 『我が国の公爵が行方不明になった。貴国が拉致したのではないか』との言いがかりをつけてきており……」
「言いがかりだ! そんな男知らん!」
「しかし、向こうは強硬です! 『直ちに捜索に協力せねば、国境を超える』と!」
「ど、どうすればいい!?」
ヘリオスは狼狽(うろた)えた。
いつもなら、こういう時はカグヤが「ああ、あそこの将軍はワインに弱いので、これを贈れば三日は大人しくなります」とか、「裏ルートで交渉しておきました」と解決していたのだ。
「カグヤは! カグヤを呼べ! あいつなら対処法を知っているはずだ!」
ヘリオスが叫ぶ。
しかし、文官長が静かに、そして冷酷に告げた。
「殿下。カグヤ様は、一昨日、殿下が解雇なさいました」
「……」
「『二度と顔を見せるな』と、殿下が仰いました」
「……」
「『お前がいなくても国は回る』と、殿下が宣言されました」
「う、うるさい! 分かっている!」
ヘリオスは髪をかきむしった。
「くそっ、あの女、こんな時に……! いや、待てよ?」
彼はハッとした顔をした。
「そうだ。これはカグヤの作戦だ。私を困らせて、自分の価値を分からせようとしているに違いない」
「は?」
文官たちが呆れた顔をする。
「そうだ、そうに決まっている! 今頃、実家で私が泣きついてくるのを待っているんだ! 性格の悪い女め!」
ヘリオスはニヤリと笑った。
「だが、そうはいかん。こちらから頭を下げるなど、王太子のプライドが許さん」
「殿下、そんなことを言っている場合では……」
「ええい、黙れ! 命令だ!」
ヘリオスは騎士団長を指差した。
「直ちにカグヤを連行しろ! 『業務放棄の罪で逮捕する』と言えば、慌てて戻ってくるはずだ!」
「は、はあ……逮捕、ですか?」
「そうだ! 手荒でも構わん! ふん、どうせ泣いて謝ってくるに決まっている。そうしたら、少しだけ優しくしてやろう」
勘違いも甚だしいポジティブシンキングを発揮し、ヘリオスは高笑いした。
「さあ行け! カグヤを私の前に引きずり出せ!」
こうして、哀れな騎士団たちは、理不尽な命令を受けて出動することになった。
だが、彼らは知らない。
そのターゲットであるカグヤが、今は森の奥で、隣国の「行方不明の公爵(重要指名手配犯)」の手作りシチューを食べて、幸せそうに昼寝をしていることを。
王宮の崩壊は、まだ序章に過ぎなかった。
王都の中心にそびえる白亜の王城。
その一角にある王太子執務室から、悲鳴にも似た怒号が響き渡った。
時刻は朝の九時。
通常であれば、優雅なコーヒーの香りと共に、穏やかな執務時間が流れているはずの時間帯だ。
しかし、今日の執務室は戦場だった。
「どうなっているんだ! なぜ書類が床に散乱している! なぜインクが切れている! なぜ今日のスケジュール表が白紙なんだ!」
王太子ヘリオスは、自身のデスクをバンバンと叩きながら叫んでいた。
彼の目の前には、未決済の書類が山のように積まれている。
その高さ、実に五十センチ。
一夜にして湧き出た紙の塔だ。
「も、申し訳ございません殿下! 直ちに確認いたします!」
側近の文官たちが顔面蒼白で走り回る。
「おい! 北部の治水工事の進捗報告書はどこだ! 今日が締め切りだぞ!」
「そ、それが……ファイル棚に見当たらず……」
「そんなはずはない! いつもなら、私が席に着く前にデスクの右上に置いてあるはずだ!」
「い、いつもはカグヤ様が置いておられたので……」
「……っ!」
ヘリオスが言葉を詰まらせる。
「じゃ、じゃあ、隣国からの親書への返信案は!?」
「そ、それもカグヤ様が下書きを……」
「来週の式典の招待客リストは!?」
「カグヤ様が……」
「今日の私のネクタイの色を決めるのは!?」
「カ、カグヤ様が……」
沈黙。
ヘリオスはワナワナと震え出した。
「カグヤ、カグヤ、カグヤ! どいつもこいつもカグヤか! 貴様らは自分一人では何もできないのか!」
「殿下こそ……」
文官の一人がボソリと呟いたが、ヘリオスの怒鳴り声にかき消された。
「ええい、もういい! 私がやる! たかが書類仕事だ、王太子である私にできぬはずがない!」
ヘリオスは荒々しく椅子に座り、一番上の書類を手に取った。
『件名:王都下水道整備計画における第三期予算修正案について』
「ふん、下水道か。予算を承認すればいいのだろう」
彼は羽ペンを手に取り、サインをしようとした。
だが、ペン先が紙に触れる直前で止まる。
書類には、数字が羅列された表がびっしりと並んでいるだけで、どこをどう判断すればいいのか全く分からない。
「……なんだこれは。結論はどこに書いてある?」
「えっと……その表を読み解いて、前年比との整合性をチェックし、不要な経費を削減した上で承認印を押す必要がございます」
文官がおずおずと説明する。
「……計算が必要なのか?」
「はい。複雑な関数の計算になります」
「……」
ヘリオスはそっと書類を戻した。
「次だ」
二枚目の書類を手に取る。
『件名:東方諸国連合との貿易協定における関税撤廃品目の選定に関する緊急要請』
「……長い!」
タイトルだけで読む気をなくし、彼は書類を投げ捨てた。
「なぜ要約がない! いつもなら三行でまとめたメモが付いているだろう!」
「ですから、そのメモを作っていたのがカグヤ様でして……」
「くそっ!」
ヘリオスは頭を抱えた。
彼は今まで、自分が優秀な王太子だと思っていた。
書類を見れば即座に決断し、会議では的確な指示を出し、外交では堂々と振る舞ってきた。
だが、それは全て幻想だった。
彼が見ていたのは、カグヤが徹夜で作り上げた「正解への最短ルート」が記されたカンニングペーパーだったのだ。
難解な書類は彼女が分かりやすく要約し、判断に迷う案件は「A案(推奨):メリット・デメリット」「B案:却下理由」というメモを添えていた。
ヘリオスはただ、彼女が指し示した「A案」を選んで、サインをするだけの装置だったのだ。
「あ、あのぉ……ヘリオス様ぁ?」
重苦しい空気を破るように、甘ったるい声がした。
執務室のドアが開き、ミナが入ってくる。
彼女はフリルのついた可愛らしいドレスを着て、手にはお盆を持っていた。
「皆様、カリカリしてると体に毒ですよぉ? ミナ特製のハーブティーで休憩しませんかぁ?」
「おお、ミナか!」
ヘリオスは救世主を見るような目で彼女を見た。
「気が利くな! ちょうど喉が渇いていたんだ」
「えへへ、でしょう? カグヤ様がいなくなって大変そうですけど、私がお手伝いしますから!」
ミナは笑顔でティーカップをデスクに置いた。
ドンッ。
「あ」
手元が狂ったのか、カップが傾く。
茶色の液体が、デスクの上に広がる。
「わっ、きゃあああ!?」
「うわあああ! 書類が! 重要書類が!」
文官たちが悲鳴を上げて飛びつく。
だが、時すでに遅し。
先ほどの『予算修正案』も『貿易協定』も、全てハーブティーの海に沈んでしまった。
「あわわ……ご、ごめんなさいぃ……」
ミナが涙目になる。
「だ、大丈夫だミナ! 気にするな! 書類などまた書けばいい!」
ヘリオスは引きつった笑顔でフォローしたが、文官たちの目は完全に死んでいた。
(また書けばいい、だと……?)
(あの書類を作るのに、財務局が三ヶ月かけたんだぞ……)
(原本だぞ、あれ……)
室内の士気が、音を立てて崩壊していくのが分かった。
その時。
「失礼します!」
勢いよく扉が開き、騎士団長が入ってきた。
「殿下! 緊急事態です!」
「今度はなんだ! お茶をこぼしたくらいで騒ぐな!」
「違います! 国境警備隊からの報告です! 隣国の軍が演習を名目に国境付近に集結しています!」
「な、なんだと!?」
ヘリオスが立ち上がる。
「どこの国だ!?」
「スターダスト公爵領を持つ、西の軍事大国です! 『我が国の公爵が行方不明になった。貴国が拉致したのではないか』との言いがかりをつけてきており……」
「言いがかりだ! そんな男知らん!」
「しかし、向こうは強硬です! 『直ちに捜索に協力せねば、国境を超える』と!」
「ど、どうすればいい!?」
ヘリオスは狼狽(うろた)えた。
いつもなら、こういう時はカグヤが「ああ、あそこの将軍はワインに弱いので、これを贈れば三日は大人しくなります」とか、「裏ルートで交渉しておきました」と解決していたのだ。
「カグヤは! カグヤを呼べ! あいつなら対処法を知っているはずだ!」
ヘリオスが叫ぶ。
しかし、文官長が静かに、そして冷酷に告げた。
「殿下。カグヤ様は、一昨日、殿下が解雇なさいました」
「……」
「『二度と顔を見せるな』と、殿下が仰いました」
「……」
「『お前がいなくても国は回る』と、殿下が宣言されました」
「う、うるさい! 分かっている!」
ヘリオスは髪をかきむしった。
「くそっ、あの女、こんな時に……! いや、待てよ?」
彼はハッとした顔をした。
「そうだ。これはカグヤの作戦だ。私を困らせて、自分の価値を分からせようとしているに違いない」
「は?」
文官たちが呆れた顔をする。
「そうだ、そうに決まっている! 今頃、実家で私が泣きついてくるのを待っているんだ! 性格の悪い女め!」
ヘリオスはニヤリと笑った。
「だが、そうはいかん。こちらから頭を下げるなど、王太子のプライドが許さん」
「殿下、そんなことを言っている場合では……」
「ええい、黙れ! 命令だ!」
ヘリオスは騎士団長を指差した。
「直ちにカグヤを連行しろ! 『業務放棄の罪で逮捕する』と言えば、慌てて戻ってくるはずだ!」
「は、はあ……逮捕、ですか?」
「そうだ! 手荒でも構わん! ふん、どうせ泣いて謝ってくるに決まっている。そうしたら、少しだけ優しくしてやろう」
勘違いも甚だしいポジティブシンキングを発揮し、ヘリオスは高笑いした。
「さあ行け! カグヤを私の前に引きずり出せ!」
こうして、哀れな騎士団たちは、理不尽な命令を受けて出動することになった。
だが、彼らは知らない。
そのターゲットであるカグヤが、今は森の奥で、隣国の「行方不明の公爵(重要指名手配犯)」の手作りシチューを食べて、幸せそうに昼寝をしていることを。
王宮の崩壊は、まだ序章に過ぎなかった。
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