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翌朝の王宮は、昨夜の雨を吸い込んだ緑が鮮やかに濡れ、空気さえも透き通っているようでした。
私は、これ以上ないほど晴れやかな心地で執務室の扉を叩きました。
手には、昨夜吟味し尽くした「次期婚約者候補リスト」を携えて。
「失礼いたしますわ、アリステア様。約束のものを持ってまいりました」
顔を上げたアリステア様の目の下には、うっすらと隈が浮いています。
(まあ……! 私との別れを想って、一晩中涙に暮れていらしたのね)
私の胸は、哀切と優越感の入り混じった、複雑で心地よい疼きに震えました。
なんて罪な女かしら、私。
「……エリヤーヌ。本当に、それを持ってきたのか」
「ええ。これこそが、私の愛の形ですもの」
私は彼の手元に、丁寧にリボンで綴じた書類を置きました。
「厳選いたしましたわ。まずは伯爵家のリリアーヌ様。彼女はとても控えめで、一日の大半を読書と刺繍に費やす、静かな影のような方です。私の輝きに疲れた貴方の心を、そっと癒やしてくださるはずよ」
アリステア様は、リストを親の仇か何かのように見つめています。
「それから、こちらのミレーヌ様。彼女は声がとても小さくて、貴方が沈黙していても全く気にしませんわ。むしろ、貴方の無口さを『思慮深い』と喜んで受け入れるでしょう」
「……待て。私は、そんな静かな生活を望んでなどいない」
アリステア様が、掠れた声で私を遮りました。
彼は立ち上がり、机を回り込んで私の目の前に立ちました。
「エリヤーヌ、よく聞いてくれ。私は……君以外の女と話すことすら、時間の無駄だと思っている」
「まあ、アリステア様。そんなに無理をして、私への忠誠心を見せなくてもいいのですわ」
私はそっと、彼の頬に手を伸ばしかけて、思いとどまりました。
今ここで慈悲を与えすぎれば、彼が新しい一歩を踏み出す邪魔になってしまいます。
「貴方のその言葉は、私という『完璧すぎる婚約者』に対する最後の意地でしょう? でも、もういいのです。貴方はもっと、自分を甘やかしていいのですよ」
「意地ではない! 本心だ! 私は君が――」
「わかっております。私のことが、大好きなのですね」
私は完璧な、聖母のような微笑みを浮かべました。
光の粒が、窓から差し込む斜光に乗って、私たちの間でキラキラと踊っています。
「私の美しさ、私の気品、私の知性。それら全てを愛しているからこそ、貴方は自分が不釣り合いだと苦しんできた。……その苦しみから、私がお救いしてあげると言っているのです」
「苦しんでなどいない! 私はただ、君が眩しくて、どう声をかけていいか分からなかっただけだ!」
「ええ、それがまさに『光に焼かれている』状態ですわ」
私は深く頷きました。
話せば話すほど、私の正しさが証明されていくようです。
「アリステア様、今日から一週間。このリストの方々と、手紙のやり取りから始めてみてくださいな。きっと、空気が美味しいと感じるはずですわ」
「エリヤーヌ……! 君は、どうしてそんなに……!」
アリステア様が私の肩を強く掴みました。
その瞳には、今にも零れ落ちそうなほどの激しい感情が渦巻いています。
「……ああ、なんて情熱的な拒絶。私を失う恐怖が、貴方をこれほどまでに饒舌にさせるのね」
私は満足げに目を細めました。
「でも、大丈夫ですわ。私は貴方が幸せになるその日まで、このリストのフォローを欠かしませんから」
私は優雅に身を翻し、執務室を後にしました。
背後で「違うんだ、エリヤーヌ!」という絶叫に近い声が聞こえましたが、それはきっと、私の素晴らしさを讃える賛辞なのだと解釈しました。
廊下に出ると、待機していたセドリック様が顔を覆って天を仰いでいました。
「……お疲れ様です、エリヤーヌ様。殿下の心臓は、あと何回持つでしょうか」
「セドリック様も、彼を支えて差し上げてね。彼は今、あまりの慈悲にパニックを起こしているだけですわ」
私は光の粒を振りまきながら、軽やかな足取りで馬車へと向かいました。
自分がこれほどまでに素晴らしい女性であることに、改めて感動しながら。
私は、これ以上ないほど晴れやかな心地で執務室の扉を叩きました。
手には、昨夜吟味し尽くした「次期婚約者候補リスト」を携えて。
「失礼いたしますわ、アリステア様。約束のものを持ってまいりました」
顔を上げたアリステア様の目の下には、うっすらと隈が浮いています。
(まあ……! 私との別れを想って、一晩中涙に暮れていらしたのね)
私の胸は、哀切と優越感の入り混じった、複雑で心地よい疼きに震えました。
なんて罪な女かしら、私。
「……エリヤーヌ。本当に、それを持ってきたのか」
「ええ。これこそが、私の愛の形ですもの」
私は彼の手元に、丁寧にリボンで綴じた書類を置きました。
「厳選いたしましたわ。まずは伯爵家のリリアーヌ様。彼女はとても控えめで、一日の大半を読書と刺繍に費やす、静かな影のような方です。私の輝きに疲れた貴方の心を、そっと癒やしてくださるはずよ」
アリステア様は、リストを親の仇か何かのように見つめています。
「それから、こちらのミレーヌ様。彼女は声がとても小さくて、貴方が沈黙していても全く気にしませんわ。むしろ、貴方の無口さを『思慮深い』と喜んで受け入れるでしょう」
「……待て。私は、そんな静かな生活を望んでなどいない」
アリステア様が、掠れた声で私を遮りました。
彼は立ち上がり、机を回り込んで私の目の前に立ちました。
「エリヤーヌ、よく聞いてくれ。私は……君以外の女と話すことすら、時間の無駄だと思っている」
「まあ、アリステア様。そんなに無理をして、私への忠誠心を見せなくてもいいのですわ」
私はそっと、彼の頬に手を伸ばしかけて、思いとどまりました。
今ここで慈悲を与えすぎれば、彼が新しい一歩を踏み出す邪魔になってしまいます。
「貴方のその言葉は、私という『完璧すぎる婚約者』に対する最後の意地でしょう? でも、もういいのです。貴方はもっと、自分を甘やかしていいのですよ」
「意地ではない! 本心だ! 私は君が――」
「わかっております。私のことが、大好きなのですね」
私は完璧な、聖母のような微笑みを浮かべました。
光の粒が、窓から差し込む斜光に乗って、私たちの間でキラキラと踊っています。
「私の美しさ、私の気品、私の知性。それら全てを愛しているからこそ、貴方は自分が不釣り合いだと苦しんできた。……その苦しみから、私がお救いしてあげると言っているのです」
「苦しんでなどいない! 私はただ、君が眩しくて、どう声をかけていいか分からなかっただけだ!」
「ええ、それがまさに『光に焼かれている』状態ですわ」
私は深く頷きました。
話せば話すほど、私の正しさが証明されていくようです。
「アリステア様、今日から一週間。このリストの方々と、手紙のやり取りから始めてみてくださいな。きっと、空気が美味しいと感じるはずですわ」
「エリヤーヌ……! 君は、どうしてそんなに……!」
アリステア様が私の肩を強く掴みました。
その瞳には、今にも零れ落ちそうなほどの激しい感情が渦巻いています。
「……ああ、なんて情熱的な拒絶。私を失う恐怖が、貴方をこれほどまでに饒舌にさせるのね」
私は満足げに目を細めました。
「でも、大丈夫ですわ。私は貴方が幸せになるその日まで、このリストのフォローを欠かしませんから」
私は優雅に身を翻し、執務室を後にしました。
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「……お疲れ様です、エリヤーヌ様。殿下の心臓は、あと何回持つでしょうか」
「セドリック様も、彼を支えて差し上げてね。彼は今、あまりの慈悲にパニックを起こしているだけですわ」
私は光の粒を振りまきながら、軽やかな足取りで馬車へと向かいました。
自分がこれほどまでに素晴らしい女性であることに、改めて感動しながら。
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