私からの婚約破棄は、王子様を狂わせるようです。

パリパリかぷちーの

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「自立合宿」の初日の朝、別邸の食堂には、眩いばかりの陽光が降り注いでいました。


窓から差し込む光が銀の食器に反射し、空中に無数の光の粒を躍らせています。


私は、アリステア様から一番離れた席に座り、優雅にナプキンを広げました。


「さあ、アリステア様。まずは『私がいなくても美味しく朝食をいただく』練習ですわ。私を視界に入れず、目の前のオムレツの味だけに集中なさってください」


「……そんなことができるわけがないだろう。君がそこにいるのに」


アリステア様は食事に手をつけず、ただじっと私を見つめていました。


その瞳は、睡眠不足のせいか、あるいは激しい葛藤のせいか、どこか虚ろで、けれど底知れない熱を孕んでいます。


「まあ。まだそんなことをおっしゃるなんて。殿下、貴方は今、私の美しさを『精神の安定剤』にされているのですわ。それは不健全な依存です」


私はあえて、彼に冷ややかな視線を向けました。


光の粒が、私の瞳の表面を滑り、拒絶の輝きを放ちます。


(ああ、なんて心が痛むのかしら。彼をこれほどまでに突き放す私は、まさに愛の殉教者だわ)


「私はこれから、一人で森へ散歩に出かけます。貴方はここでお留守番をして、私のいない時間の『静寂』を愛する努力をしてくださいな」


私は席を立ち、テラスへと向かおうとしました。


しかし、その腕を、鉄の枷(かせ)のような強い力で掴まれました。


「……どこへ行く。行かせないと言ったはずだ、エリヤーヌ」


「殿下? 腕が痛うございますわ。それに、その形相……。まるで私を閉じ込めておきたい独裁者のようですわよ?」


私は冗談めかして笑いましたが、アリステア様の表情は微動だにしません。


光の粒が、彼の激しい呼応に合わせるように、チリチリと音を立てて弾けます。


「独裁者で構わない。……君が私の意図をすべて『慈悲』に変換してしまうのなら、言葉はもう無意味だ」


「まあ、殿下。何を……」


アリステア様は私を抱き上げるようにして、無理やり客間の奥へと連れて行きました。


それは、かつて私が彼をエスコートしていた時のような優雅な仕草ではなく、獲物を巣へ持ち帰る獣のような、剥き出しの執着でした。


「ここで、私と一緒に過ごすんだ。私が『自立』などしていないことを、君が認めざるを得なくなるまで」


「殿下……! これでは合宿になりませんわ! 貴方は今、依存のピークに達していらっしゃるのね!」


パタン、と重厚な扉が閉められ、鍵がかけられる音が響きました。


窓から差し込む光の粒が、閉じられた空間の中で、逃げ場を失ったかのように激しく乱舞しています。


(なんてことかしら。殿下は、私への執着をこじらせすぎて、ついに私を『保護』という名の檻に閉じ込めてしまわれたのね)


私は、部屋の隅に立ち尽くすアリステア様を見つめました。


彼は震える手で鍵を握りしめ、まるで捨てられた子供のような、けれど絶対に離さないという決意に満ちた瞳で私を見ています。


「……行かせない。君が私を自由にするというのなら、私はその自由をすべて、君を閉じ込めるために使い果たす」


「まあ……! なんて、なんて哀切で情熱的な『自立への拒絶』。貴方はそこまでして、私の傍で子供のように甘えていたいのですか?」


私は溜息をつきました。


透明な空気の中で、私たちの関係は、もはや後戻りできない場所へと滑り落ちていったのです。


けれど、私はどこまでも前向きでした。


これほどまでに激しく私を求める彼を、いつか真の大人へと導いてあげること。


それこそが、この「閉じ込められた部屋」で私に与えられた、最後の聖なる任務なのだと確信していたのです。
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