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35話
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「この先に古い別荘があるそうです。所有者名簿を確認したところ、カーライル公爵家がかつて購入したものが含まれています」
オスカーが手持ちの資料を見ながら王子に報告する。
湖畔をぐるりと回りながらの捜索は長引いていたが、ようやくそれらしき建物を突き止めたようだ。
「ティアラがそこに……」
王子は馬を降り、衛兵たちに建物を取り囲むよう指示する。
だが、できるだけ穏便に済ませたい以上、ドアを破るような真似はできない。ノックをし、返事がなければ、控えめに建物の中を確かめるしかない。
「殿下、一応、声をかけてみましょう」
オスカーの言葉にうなずき、王子は扉の前へ立つ。
小さな木造の古い別荘で、周囲には手入れの行き届いていない庭が広がっている。
軽く扉を叩くが、しんと静まり返っていて、人の気配は薄い。
「ティアラ、いるなら出てきてくれ。俺は王子のエドワードだ」
呼びかける声が木々に反響する。
すると、建物の奥から微かな物音が聞こえ、やがて扉の隙間から誰かの顔が覗いた。
「……ティアラ様は、今はお会いできません」
それはメイド姿の少女だ。王子が森で見かけた人物と同じかもしれない。
彼女は緊張に震えつつ、王子を警戒するように睨んでいる。
「俺はティアラに会いに来たんだ。害を加えるつもりはない。話をしたいだけだ」
王子が必死に説得しようとするが、メイドはドアを閉めようとする。
その瞬間、奥から小さく声が響いた。
「いいわ、開けてちょうだい」
その声に、メイドは躊躇しながらも扉を開き、王子を中へ通す。
そこには、薄暗い部屋の中でテーブルに向かい、本を読んでいたティアラの姿があった。
「ティアラ……」
王子はまるで時が止まったかのように感じる。
失踪して以来、ようやく対面した姿は、少しやつれているようにも見えるが、どこか毅然としている。
ティアラは目を伏せながら静かに言葉を発する。
「殿下、私を探してここまで来られたのですか。……どうして」
王子は胸の奥に溢れる思いをこらえきれず、駆け寄りそうになるが、ぐっと堪えて言葉を絞り出す。
「どうしてじゃない。俺は、君に伝えなければいけないことがあるんだ。君が悪役令嬢だなんて嘘だと、学園中が知った。マリアも取り巻きたちも、君の名誉を回復するために必死に動いている」
ティアラはうっすらと驚いた表情を見せる。
「……そう、なのですね。でも、だからといって私が学園に戻る理由にはならないでしょう。殿下だって、マリアと特別な関係になるのではと噂されているのに」
王子は即座に首を振る。
「違う。噂など関係ない。君自身がどう思っているか、それを聞きに来た。俺も、これ以上君を無視するわけにはいかないんだ」
二人の視線が交差し、静寂が部屋を包む。
外ではオスカーと衛兵たちが警戒態勢で待機しているが、この空間だけは時間が緩やかに流れているようだった。
「ティアラ、話をさせてくれ。いや、君の気持ちを、俺に聞かせてほしい」
その問いに、ティアラは少し戸惑いつつも、微かに頬を染めて何かを決意する。
こうして、森の湖畔での再会は、ついに実現したのだ。
オスカーが手持ちの資料を見ながら王子に報告する。
湖畔をぐるりと回りながらの捜索は長引いていたが、ようやくそれらしき建物を突き止めたようだ。
「ティアラがそこに……」
王子は馬を降り、衛兵たちに建物を取り囲むよう指示する。
だが、できるだけ穏便に済ませたい以上、ドアを破るような真似はできない。ノックをし、返事がなければ、控えめに建物の中を確かめるしかない。
「殿下、一応、声をかけてみましょう」
オスカーの言葉にうなずき、王子は扉の前へ立つ。
小さな木造の古い別荘で、周囲には手入れの行き届いていない庭が広がっている。
軽く扉を叩くが、しんと静まり返っていて、人の気配は薄い。
「ティアラ、いるなら出てきてくれ。俺は王子のエドワードだ」
呼びかける声が木々に反響する。
すると、建物の奥から微かな物音が聞こえ、やがて扉の隙間から誰かの顔が覗いた。
「……ティアラ様は、今はお会いできません」
それはメイド姿の少女だ。王子が森で見かけた人物と同じかもしれない。
彼女は緊張に震えつつ、王子を警戒するように睨んでいる。
「俺はティアラに会いに来たんだ。害を加えるつもりはない。話をしたいだけだ」
王子が必死に説得しようとするが、メイドはドアを閉めようとする。
その瞬間、奥から小さく声が響いた。
「いいわ、開けてちょうだい」
その声に、メイドは躊躇しながらも扉を開き、王子を中へ通す。
そこには、薄暗い部屋の中でテーブルに向かい、本を読んでいたティアラの姿があった。
「ティアラ……」
王子はまるで時が止まったかのように感じる。
失踪して以来、ようやく対面した姿は、少しやつれているようにも見えるが、どこか毅然としている。
ティアラは目を伏せながら静かに言葉を発する。
「殿下、私を探してここまで来られたのですか。……どうして」
王子は胸の奥に溢れる思いをこらえきれず、駆け寄りそうになるが、ぐっと堪えて言葉を絞り出す。
「どうしてじゃない。俺は、君に伝えなければいけないことがあるんだ。君が悪役令嬢だなんて嘘だと、学園中が知った。マリアも取り巻きたちも、君の名誉を回復するために必死に動いている」
ティアラはうっすらと驚いた表情を見せる。
「……そう、なのですね。でも、だからといって私が学園に戻る理由にはならないでしょう。殿下だって、マリアと特別な関係になるのではと噂されているのに」
王子は即座に首を振る。
「違う。噂など関係ない。君自身がどう思っているか、それを聞きに来た。俺も、これ以上君を無視するわけにはいかないんだ」
二人の視線が交差し、静寂が部屋を包む。
外ではオスカーと衛兵たちが警戒態勢で待機しているが、この空間だけは時間が緩やかに流れているようだった。
「ティアラ、話をさせてくれ。いや、君の気持ちを、俺に聞かせてほしい」
その問いに、ティアラは少し戸惑いつつも、微かに頬を染めて何かを決意する。
こうして、森の湖畔での再会は、ついに実現したのだ。
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