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47話
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王都リュミエールの北端、
今では神官すら立ち入ることのない“古の神殿跡地”。
石造りの回廊は苔むし、
祈りの香を焚く祭壇も、かつての輝きを失って久しい。
それでも、この場所には忘れ去られぬ力があった。
レオノーラとカリオスは、静かにその遺跡を訪れていた。
案内もなく、儀礼もなく――
ただ自らの意志で、この地に足を運んだ。
「……ここが、“最初の神殿”」
カリオスが手にした記録簿をめくる。
「今の神殿とは違う。ここでは、“言霊”は奇跡を起こすためのものではなかった。
“契約”でも“罰”でもなく、“祈り”だったんだ」
レオノーラは、苔の間に沈んだ石碑に手を触れる。
文字は風化している。
だが、確かにその形跡は――“語られた記憶”を宿していた。
「言葉は、断罪の刃ではなく……誰かを守るために使うものだった」
その言葉が、遺跡の空気にしみ込んでいく。
言霊魔法――
古くは、契約を結ぶ者同士が“意思”を明文化し、
その言葉が力を持って未来を守る“祈念の術式”だった。
後世、それが“神託”や“誓約”へと姿を変え、
さらに制度のなかで“断罪のための言葉”として運用されていった。
だが――ここでは、そうではなかった。
「守るために語る。
信じるために伝える。
……本来の“言葉”って、きっとそういうものでしたのね」
レオノーラの手が、古びた祈祷文の断片をなぞる。
“この言葉が届きますように”
“あなたの心が、わたしの声を受け取りますように”
それは奇跡の誘いでも、神託の強制でもない。
ただ、心から誰かに向けた、穏やかな祈りの言葉。
「君が裁かれたあの広場で、
誰かがこの言葉を口にしていたら、結果は違ったかもしれないね」
カリオスの言葉に、レオノーラは小さく微笑んだ。
「ええ。でも、もし誰かがこの“祈り”を知っていたら、
わたくしは“悪役令嬢”にはなれなかったでしょうね」
「……そうだね。それは少し、惜しい」
二人の間に柔らかな笑いが生まれる。
過去を悔やむのではなく、
意味を重ねて未来へ運ぶための――笑いだった。
レオノーラは立ち上がり、祭壇跡に一輪の香草を置いた。
それは、温室で育てたばかりの新しい香り。
「この場所に、“語り直された記憶”が咲きますように」
彼女の祈りは、誰にも強いなかった。
けれど確かに、風に乗って空へと届いた。
かつて“断罪”の礎とされた神殿に、
いま再び、“誓い”の意味が戻り始めていた。
それは、奇跡を求めぬ者たちが紡ぎ直す――
本当の“言葉の物語”の始まりだった。
今では神官すら立ち入ることのない“古の神殿跡地”。
石造りの回廊は苔むし、
祈りの香を焚く祭壇も、かつての輝きを失って久しい。
それでも、この場所には忘れ去られぬ力があった。
レオノーラとカリオスは、静かにその遺跡を訪れていた。
案内もなく、儀礼もなく――
ただ自らの意志で、この地に足を運んだ。
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カリオスが手にした記録簿をめくる。
「今の神殿とは違う。ここでは、“言霊”は奇跡を起こすためのものではなかった。
“契約”でも“罰”でもなく、“祈り”だったんだ」
レオノーラは、苔の間に沈んだ石碑に手を触れる。
文字は風化している。
だが、確かにその形跡は――“語られた記憶”を宿していた。
「言葉は、断罪の刃ではなく……誰かを守るために使うものだった」
その言葉が、遺跡の空気にしみ込んでいく。
言霊魔法――
古くは、契約を結ぶ者同士が“意思”を明文化し、
その言葉が力を持って未来を守る“祈念の術式”だった。
後世、それが“神託”や“誓約”へと姿を変え、
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だが――ここでは、そうではなかった。
「守るために語る。
信じるために伝える。
……本来の“言葉”って、きっとそういうものでしたのね」
レオノーラの手が、古びた祈祷文の断片をなぞる。
“この言葉が届きますように”
“あなたの心が、わたしの声を受け取りますように”
それは奇跡の誘いでも、神託の強制でもない。
ただ、心から誰かに向けた、穏やかな祈りの言葉。
「君が裁かれたあの広場で、
誰かがこの言葉を口にしていたら、結果は違ったかもしれないね」
カリオスの言葉に、レオノーラは小さく微笑んだ。
「ええ。でも、もし誰かがこの“祈り”を知っていたら、
わたくしは“悪役令嬢”にはなれなかったでしょうね」
「……そうだね。それは少し、惜しい」
二人の間に柔らかな笑いが生まれる。
過去を悔やむのではなく、
意味を重ねて未来へ運ぶための――笑いだった。
レオノーラは立ち上がり、祭壇跡に一輪の香草を置いた。
それは、温室で育てたばかりの新しい香り。
「この場所に、“語り直された記憶”が咲きますように」
彼女の祈りは、誰にも強いなかった。
けれど確かに、風に乗って空へと届いた。
かつて“断罪”の礎とされた神殿に、
いま再び、“誓い”の意味が戻り始めていた。
それは、奇跡を求めぬ者たちが紡ぎ直す――
本当の“言葉の物語”の始まりだった。
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