「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの

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49話

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王都の南、風香の荘園。  
香草の花が満ちる温室のなかで、レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、一冊の記録帳を閉じた。

誰に見せるでもない私的な書き留め。  
そこには制度の終焉も、断罪の記録も、奇跡の真相もない。  
ただ、彼女の“選ばなかった言葉たち”が綴られていた。

「……本当に、誰の筋書きにも従わずにここまで来てしまいましたわね」

自嘲とも感慨ともつかぬその声が、温室にふわりと溶ける。

「従っていた方が、楽だったでしょうに」  
「赦される物語を演じていれば、もっと“好かれて”いたのでしょうに」

けれど――

「それでも、笑ってしまうのですわ」

レオノーラは小さく肩を震わせて、静かに笑った。

それは勝利の笑みではない。  
讃えられることも、正義を成したという誇りでもない。  
もっと小さく、もっと曖昧で、  
けれど確かに“彼女だけの人生”を得た者の笑みだった。

「誰にも属さず、誰かの台詞でもなく。  
 わたくしの言葉で語り、沈黙で応え、そしてここに立っている」

誰かの悲劇に共感することも、  
誰かの救済を引き受けることも選ばずに――

ただ、“わたくしという物語”を歩むという、  
小さく、だが確かな反抗。

“聖女”の涙も、“王太子”の正義も、  
“民衆”の怒声も、“記録”の力も、  
いずれも彼女を導くものではなかった。

言葉一つ。  
沈黙一つ。

その選択が運命を変えた。

「もしも、あの時……反論していれば? 泣いていれば?  
 もしかしたら、もっと早く“赦された”のかもしれませんわね」

けれど――

「赦されなくて、よかった」

その呟きは、最終章にたどり着いた者の“反抗の余白”だった。

彼女は誰にも勝たなかった。  
誰にも支配されなかった。  
誰にも負けなかった。

そのすべてが、“属さない生”の証明だった。

温室の窓を開けると、風が香草の匂いを運んできた。  
どこかで咲いたばかりの花。  
どこかで笑った誰かの記憶。  
そして――語られなかった無数の沈黙。

レオノーラは目を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。

「わたくしの物語は、どこにも属さず、どこにも続かない。  
 けれど、香りと共にあれば、それで十分」

そうして、彼女は再び歩き出す。  
終わりのない日常へ。  
誰にも書かれていない“白紙の明日”へ。

その背には、もう“悪役令嬢”の影はなかった。

ただ一人の、誰の筋書きにも収まらぬ女性が、  
その微笑みの奥に、小さな反抗を宿したまま――  
風に乗って、笑っていた。
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