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スポットライトの中、アレクセイは錆びた剣の柄に手をかけた。
「見よ! 我が王家に伝わる聖剣(と彼が思い込んでいる拾った剣)の輝きを!」
彼は勇ましく叫び、一気に抜刀しようとした。
「はぁっ!」
……抜けない。
「ぬぐぐ……!」
鞘の中で錆びついて固着しているらしい。
アレクセイは顔を真っ赤にして、柄をガチガチと揺らした。
「ま、待て! 今、本気を出すところだ! ふんぬ!」
「アレクセイ様、頑張ってぇ! あ、私も手伝いますぅ!」
ニーナが後ろからアレクセイの腰に抱きつき、一緒に引っ張る。
「せーのっ、よいしょ! よいしょ!」
まるで『大きなカブ』のような光景だ。
会場からは、「ぷっ」「くくく……」と堪えきれない笑い声が漏れ始めた。
私は冷静にその様子を観察し、クラウス様に耳打ちした。
「クラウス様。あの剣が抜けた場合、勢いで刀身が折れて飛んでくる確率が40%です。防御壁(シールド)の展開を推奨します」
「了解した。……しかし、これほど緊張感のない決闘も初めてだ」
クラウス様が呆れながら指先を振ると、私たちの前に薄い魔力の膜が張られた。
その直後。
バキィッ!!
盛大な音と共に、剣が根元から折れた。
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
勢い余って、二人は後ろに転がり、泥と埃を撒き散らしながら重なり合って倒れた。
折れた刀身(錆びた鉄くず)が、悲しくカランカランと床を転がる。
シーン……。
会場が静まり返る中、私は無表情で拍手を送った。
「お見事です。自爆という高等テクニックですね」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
アレクセイはニーナを押しのけて立ち上がった。
顔には床の汚れがつき、髪には食べ残しの骨が絡まっている。
「ち、違う! これは手加減だ! 本気を出せば、素手でも貴様らを倒せるのだ!」
彼はボクシングの構え(脇がガラ空き)を取った。
「さあ来い、眼鏡男! その顔面をボコボコにしてやる!」
クラウス様は深く、深く溜息をついた。
そして、冷ややかな声で衛兵たちに告げた。
「……衛兵。何をしている? この不審者を即刻排除しろ」
「は、はいっ!」
今まで呆然としていた衛兵たちが、ようやく我に返って槍を構えた。
「ま、待て! 不審者だと!? 私はアレクセイだぞ! 隣国の第一王子だ!」
アレクセイがわめき散らす。
「ユミリア! お前ならわかるだろう! 私のこの、高貴なオーラが見えないのか!」
彼は私に救いを求めてきた。
私は扇で鼻を覆い、ゴミを見るような目で彼を見下ろした。
「……いえ。存じ上げません」
「は?」
「私の知っているアレクセイ殿下は、性格は破綻していましたが、少なくとも毎日お風呂には入っていました。貴方のような、堆肥の匂いがする方は記憶にございません」
「なっ……匂いだと!? これは男の勲章だ!」
「いいえ。公衆衛生上の脅威です」
私はきっぱりと断言した。
「皆様、騙されてはいけません。これは王子の名を騙る、ただの不法侵入者です。おそらく、王子のファンすぎて頭がおかしくなってしまったのでしょう」
「そ、そうだ! きっとそうだ!」
周囲の貴族たちが同調し始める。
「本物の王子があんなに汚いわけがない!」
「偽物だ! つまみ出せ!」
「不敬罪で処刑しろ!」
「ち、違う! 私は本物だ! ニーナ、証言してくれ!」
アレクセイが縋るようにニーナを見る。
しかし、ニーナは落ちていたローストチキンを拾い食いするのに夢中だった。
「もぐもぐ……ん? アレクセイ様、このお肉美味しいですよぉ!」
「食べてる場合か!」
衛兵たちがジリジリと包囲網を狭める。
「観念しろ! おとなしく捕まれ!」
「くそっ、離せ! 私は未来の国王だぞ! 私に触れると祟られるぞ!」
アレクセイが暴れるが、鍛え上げられた帝国の衛兵には敵わない。
あっという間に取り押さえられ、床に組み伏せられた。
「ぐえっ!」
「確保しました、閣下!」
「うむ。地下牢へ連行しろ。罪状は……そうだな、『テロ未遂』と『悪臭防止法違反』だ」
クラウス様が冷徹に告げる。
「テ、テロだと!? 私はただ、愛を取り戻しに来ただけだ!」
「貴方の存在そのものが、我が国の治安に対するテロです」
クラウス様の一刀両断に、会場から拍手が沸き起こった。
「待ってぇ! アレクセイ様をいじめないでぇ!」
ようやく事態を把握したニーナが、食べかけのチキンを持って駆け寄ってくる。
「酷いですぅ! 私たち、招待されたんじゃないんですかぁ?」
「招待などしておりません」
私が答えると、ニーナは瞳を潤ませ、上目遣いで私を見た。
「ユミリア様ぁ……酷い。私たち、お友達でしょ?」
その言葉に、私の眉がピクリと動いた。
お友達?
私のドレスにワインをかけ、書類を燃やし、私の婚約者を奪った貴女が?
「……お友達、ですか」
私はゆっくりとニーナに歩み寄った。
ヒールの音が、死刑執行の足音のように響く。
「ええ、そうですね。せっかくですから、私たちの『友情の思い出』を、ここで披露させていただきましょうか」
私はニッコリと笑った。
その笑顔を見て、ニーナの本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしたようだが、もう遅かった。
逃げ場のない公開処刑(暴露大会)が、今まさに幕を開けようとしていた。
「見よ! 我が王家に伝わる聖剣(と彼が思い込んでいる拾った剣)の輝きを!」
彼は勇ましく叫び、一気に抜刀しようとした。
「はぁっ!」
……抜けない。
「ぬぐぐ……!」
鞘の中で錆びついて固着しているらしい。
アレクセイは顔を真っ赤にして、柄をガチガチと揺らした。
「ま、待て! 今、本気を出すところだ! ふんぬ!」
「アレクセイ様、頑張ってぇ! あ、私も手伝いますぅ!」
ニーナが後ろからアレクセイの腰に抱きつき、一緒に引っ張る。
「せーのっ、よいしょ! よいしょ!」
まるで『大きなカブ』のような光景だ。
会場からは、「ぷっ」「くくく……」と堪えきれない笑い声が漏れ始めた。
私は冷静にその様子を観察し、クラウス様に耳打ちした。
「クラウス様。あの剣が抜けた場合、勢いで刀身が折れて飛んでくる確率が40%です。防御壁(シールド)の展開を推奨します」
「了解した。……しかし、これほど緊張感のない決闘も初めてだ」
クラウス様が呆れながら指先を振ると、私たちの前に薄い魔力の膜が張られた。
その直後。
バキィッ!!
盛大な音と共に、剣が根元から折れた。
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
勢い余って、二人は後ろに転がり、泥と埃を撒き散らしながら重なり合って倒れた。
折れた刀身(錆びた鉄くず)が、悲しくカランカランと床を転がる。
シーン……。
会場が静まり返る中、私は無表情で拍手を送った。
「お見事です。自爆という高等テクニックですね」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
アレクセイはニーナを押しのけて立ち上がった。
顔には床の汚れがつき、髪には食べ残しの骨が絡まっている。
「ち、違う! これは手加減だ! 本気を出せば、素手でも貴様らを倒せるのだ!」
彼はボクシングの構え(脇がガラ空き)を取った。
「さあ来い、眼鏡男! その顔面をボコボコにしてやる!」
クラウス様は深く、深く溜息をついた。
そして、冷ややかな声で衛兵たちに告げた。
「……衛兵。何をしている? この不審者を即刻排除しろ」
「は、はいっ!」
今まで呆然としていた衛兵たちが、ようやく我に返って槍を構えた。
「ま、待て! 不審者だと!? 私はアレクセイだぞ! 隣国の第一王子だ!」
アレクセイがわめき散らす。
「ユミリア! お前ならわかるだろう! 私のこの、高貴なオーラが見えないのか!」
彼は私に救いを求めてきた。
私は扇で鼻を覆い、ゴミを見るような目で彼を見下ろした。
「……いえ。存じ上げません」
「は?」
「私の知っているアレクセイ殿下は、性格は破綻していましたが、少なくとも毎日お風呂には入っていました。貴方のような、堆肥の匂いがする方は記憶にございません」
「なっ……匂いだと!? これは男の勲章だ!」
「いいえ。公衆衛生上の脅威です」
私はきっぱりと断言した。
「皆様、騙されてはいけません。これは王子の名を騙る、ただの不法侵入者です。おそらく、王子のファンすぎて頭がおかしくなってしまったのでしょう」
「そ、そうだ! きっとそうだ!」
周囲の貴族たちが同調し始める。
「本物の王子があんなに汚いわけがない!」
「偽物だ! つまみ出せ!」
「不敬罪で処刑しろ!」
「ち、違う! 私は本物だ! ニーナ、証言してくれ!」
アレクセイが縋るようにニーナを見る。
しかし、ニーナは落ちていたローストチキンを拾い食いするのに夢中だった。
「もぐもぐ……ん? アレクセイ様、このお肉美味しいですよぉ!」
「食べてる場合か!」
衛兵たちがジリジリと包囲網を狭める。
「観念しろ! おとなしく捕まれ!」
「くそっ、離せ! 私は未来の国王だぞ! 私に触れると祟られるぞ!」
アレクセイが暴れるが、鍛え上げられた帝国の衛兵には敵わない。
あっという間に取り押さえられ、床に組み伏せられた。
「ぐえっ!」
「確保しました、閣下!」
「うむ。地下牢へ連行しろ。罪状は……そうだな、『テロ未遂』と『悪臭防止法違反』だ」
クラウス様が冷徹に告げる。
「テ、テロだと!? 私はただ、愛を取り戻しに来ただけだ!」
「貴方の存在そのものが、我が国の治安に対するテロです」
クラウス様の一刀両断に、会場から拍手が沸き起こった。
「待ってぇ! アレクセイ様をいじめないでぇ!」
ようやく事態を把握したニーナが、食べかけのチキンを持って駆け寄ってくる。
「酷いですぅ! 私たち、招待されたんじゃないんですかぁ?」
「招待などしておりません」
私が答えると、ニーナは瞳を潤ませ、上目遣いで私を見た。
「ユミリア様ぁ……酷い。私たち、お友達でしょ?」
その言葉に、私の眉がピクリと動いた。
お友達?
私のドレスにワインをかけ、書類を燃やし、私の婚約者を奪った貴女が?
「……お友達、ですか」
私はゆっくりとニーナに歩み寄った。
ヒールの音が、死刑執行の足音のように響く。
「ええ、そうですね。せっかくですから、私たちの『友情の思い出』を、ここで披露させていただきましょうか」
私はニッコリと笑った。
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