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「お友達……。ええ、なんて響きの良い言葉でしょう」
私はニーナの前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
私の顔には、聖女のような慈愛に満ちた(と自分では思っている)笑みが張り付いているはずだ。
「私も、貴女との日々を片時も忘れたことはありませんわ。走馬灯のように蘇ります」
「ほんとですかぁ? よかったぁ! ユミリア様ならわかってくれるって信じてました!」
ニーナが安堵の表情を浮かべ、私の手を取ろうとする。
私はそれをスッと避けた。
「では、皆様にも私たちの『友情のエピソード』を聞いていただきましょうか」
私は立ち上がり、会場全体に響く声で語り始めた。
「エピソード1。『鮮血のドレス事件』」
「へ?」
「あれは去年の夜会でしたね。貴女は『ユミリア様の白いドレスは地味だから、私が色をつけてあげます!』と叫びながら、赤ワインのボトルを持って突っ込んできましたね」
会場がざわめく。
「わ、ワインボトルを持って突撃?」
「もはやテロじゃないか……」
ニーナが慌てて言い訳をする。
「ち、違いますぅ! 私、ドジっ子だから転んじゃって……偶然、ユミリア様の方に飛んでいっちゃったんです!」
「ええ、偶然ですね。まさか、『五回連続』で転んで、全て私のドレスに命中させるなんて。オリンピック級のコントロールですわ」
「うぐっ……」
「しかも貴女、最後にこう言いましたよね。『ちっ、まだ白い部分が残ってる』と」
「い、言ってません! 空耳ですぅ!」
「エピソード2。『真夏の焚き火大会』」
私は畳み掛ける。
「私が三日徹夜して作成した『国家予算案』。貴女はそれを暖炉に放り込みましたね」
「そ、それは! お部屋が寒そうだったから、暖めてあげようと思って!」
「季節は真夏。室温は30度を超えていました」
「……あ、あれ? そうでしたっけ?」
「さらに貴女は、燃え盛る書類で焼き芋を焼いていましたね。『紙で焼くと香ばしくなるんですぅ』と笑顔で食べていた姿、忘れません」
会場の貴族たちが、ドン引きして一歩下がる。
「狂気だ……」
「重要な公文書を焼き芋の燃料に……?」
「エピソード3。『階段滑空実験』」
私の声が、一段と低くなる。
「王城の大階段にて。貴女は私の背中を強く押しました。『ユミリア様なら飛べると思います!』と」
「そ、それは応援です! ユミリア様の可能性を信じてたんです!」
「おかげで私は全治二週間の捻挫を負いました。あの時、私が受け身を取らなければ首の骨が折れていた確率、85%です」
私はニーナを見下ろした。
「これでもまだ、『お友達』と言えますか? 私の辞書では、これを『暗殺未遂犯』と定義しますが」
「ひっ……!」
ニーナは青ざめ、後ずさりした。
彼女の最大の武器である「無知で可愛い私」という仮面が、事実(ログ)の羅列によって剥がされていく。
「ち、違うんですぅ……。悪気はなかったんですぅ……。私、ただ、みんなを笑顔にしたくて……」
彼女は必死に涙を溜め、周囲の殿方たちに助けを求めた。
「誰かぁ……信じてぇ……。私、んーんー、何もわかんない子なんですぅ……」
しかし、返ってきたのは冷ややかな視線だけだった。
「わかんないで済むなら、警察はいらないんだよ」
誰かがボソッと言った正論が、会場の総意だった。
「ユミリア! 貴様、よくもニーナを!」
ここで、床に組み伏せられていたアレクセイが叫んだ。
「ニーナは純粋なんだ! 悪意などない! すべてはお前の被害妄想だ!」
「被害妄想? では殿下、これはどう説明なさいますか?」
私は懐から一枚の紙を取り出した。
「これはニーナが城に残していった『日記』です。ご丁寧に鍵もかけずに机の上に置いてありました」
「日記……?」
私はパラパラとめくり、適当なページを読み上げた。
『〇月×日。今日もユミリアのババアに嫌がらせ成功☆ 靴の中にカエルを入れておいた。驚く顔がウケる~www 王子チョロすぎwww 私って天才!』
シーン……。
アレクセイが石化した。
「……チョロすぎ?」
「あ、他にもありますよ。『王子、マジで顔だけ。話がつまんない。でも金持ってるから耐える。結婚したら即、毒殺して私が女王様になる予定☆』」
「……毒殺?」
アレクセイの顔色が、泥の色よりも蒼白になっていく。
「う、嘘だ……。ニーナ、これは嘘だよな? 君の字じゃないよな?」
アレクセイが震える声で尋ねる。
ニーナは視線を泳がせ、そして――。
「……あーあ。バレちゃった」
彼女の顔から、あの甘ったるい表情が消え失せた。
代わりに現れたのは、ふてぶてしい舌打ちをする、ただの性悪女の顔だった。
「ちっ。あーあ、つまんない。せっかく玉の輿に乗って楽できると思ったのに」
彼女は鼻をほじりながら(マナー最悪)、吐き捨てた。
「そうよ、全部私がやったの。だってあんた、真面目すぎてムカつくんだもん。王子もバカすぎてイライラするし」
「ニ、ニーナ……?」
アレクセイの世界が崩壊する音が聞こえた。
「『真実の愛』? 笑わせないでよ。あんたの財布が目当てだったに決まってるでしょ。金のない王子なんて、ただの動く粗大ゴミよ」
ニーナの罵倒が炸裂する。
私は扇で口元を隠し、クラウス様に囁いた。
「録音、完了しましたか?」
「ああ。バッチリだ。これで彼女も『被害者』ヅラはできないな」
クラウス様が魔導録音機を懐にしまう。
会場は完全に、ドン引きのさらに向こう側、軽蔑の嵐に包まれていた。
「……さて」
私は冷徹に告げた。
「友情ごっこは終わりです。ニーナさん、貴女には『公文書毀棄』『傷害』『王族侮辱』そして『詐欺未遂』の罪でお引き取り願いましょう」
「へっ、捕まえられるもんなら捕まえてみな!」
ニーナはドレス(カーテン)の裾をまくり上げ、窓に向かって走り出した。
意外と俊敏だ。
「逃がすな!」
衛兵たちが動こうとしたその時。
「待て」
意外な人物が、彼女の前に立ち塞がった。
それは、絶望の淵から這い上がってきたゾンビ――もとい、アレクセイ王子だった。
「……逃がさんぞ、ニーナ」
彼の目には、かつてないほどの暗い炎が宿っていた。
私はニーナの前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
私の顔には、聖女のような慈愛に満ちた(と自分では思っている)笑みが張り付いているはずだ。
「私も、貴女との日々を片時も忘れたことはありませんわ。走馬灯のように蘇ります」
「ほんとですかぁ? よかったぁ! ユミリア様ならわかってくれるって信じてました!」
ニーナが安堵の表情を浮かべ、私の手を取ろうとする。
私はそれをスッと避けた。
「では、皆様にも私たちの『友情のエピソード』を聞いていただきましょうか」
私は立ち上がり、会場全体に響く声で語り始めた。
「エピソード1。『鮮血のドレス事件』」
「へ?」
「あれは去年の夜会でしたね。貴女は『ユミリア様の白いドレスは地味だから、私が色をつけてあげます!』と叫びながら、赤ワインのボトルを持って突っ込んできましたね」
会場がざわめく。
「わ、ワインボトルを持って突撃?」
「もはやテロじゃないか……」
ニーナが慌てて言い訳をする。
「ち、違いますぅ! 私、ドジっ子だから転んじゃって……偶然、ユミリア様の方に飛んでいっちゃったんです!」
「ええ、偶然ですね。まさか、『五回連続』で転んで、全て私のドレスに命中させるなんて。オリンピック級のコントロールですわ」
「うぐっ……」
「しかも貴女、最後にこう言いましたよね。『ちっ、まだ白い部分が残ってる』と」
「い、言ってません! 空耳ですぅ!」
「エピソード2。『真夏の焚き火大会』」
私は畳み掛ける。
「私が三日徹夜して作成した『国家予算案』。貴女はそれを暖炉に放り込みましたね」
「そ、それは! お部屋が寒そうだったから、暖めてあげようと思って!」
「季節は真夏。室温は30度を超えていました」
「……あ、あれ? そうでしたっけ?」
「さらに貴女は、燃え盛る書類で焼き芋を焼いていましたね。『紙で焼くと香ばしくなるんですぅ』と笑顔で食べていた姿、忘れません」
会場の貴族たちが、ドン引きして一歩下がる。
「狂気だ……」
「重要な公文書を焼き芋の燃料に……?」
「エピソード3。『階段滑空実験』」
私の声が、一段と低くなる。
「王城の大階段にて。貴女は私の背中を強く押しました。『ユミリア様なら飛べると思います!』と」
「そ、それは応援です! ユミリア様の可能性を信じてたんです!」
「おかげで私は全治二週間の捻挫を負いました。あの時、私が受け身を取らなければ首の骨が折れていた確率、85%です」
私はニーナを見下ろした。
「これでもまだ、『お友達』と言えますか? 私の辞書では、これを『暗殺未遂犯』と定義しますが」
「ひっ……!」
ニーナは青ざめ、後ずさりした。
彼女の最大の武器である「無知で可愛い私」という仮面が、事実(ログ)の羅列によって剥がされていく。
「ち、違うんですぅ……。悪気はなかったんですぅ……。私、ただ、みんなを笑顔にしたくて……」
彼女は必死に涙を溜め、周囲の殿方たちに助けを求めた。
「誰かぁ……信じてぇ……。私、んーんー、何もわかんない子なんですぅ……」
しかし、返ってきたのは冷ややかな視線だけだった。
「わかんないで済むなら、警察はいらないんだよ」
誰かがボソッと言った正論が、会場の総意だった。
「ユミリア! 貴様、よくもニーナを!」
ここで、床に組み伏せられていたアレクセイが叫んだ。
「ニーナは純粋なんだ! 悪意などない! すべてはお前の被害妄想だ!」
「被害妄想? では殿下、これはどう説明なさいますか?」
私は懐から一枚の紙を取り出した。
「これはニーナが城に残していった『日記』です。ご丁寧に鍵もかけずに机の上に置いてありました」
「日記……?」
私はパラパラとめくり、適当なページを読み上げた。
『〇月×日。今日もユミリアのババアに嫌がらせ成功☆ 靴の中にカエルを入れておいた。驚く顔がウケる~www 王子チョロすぎwww 私って天才!』
シーン……。
アレクセイが石化した。
「……チョロすぎ?」
「あ、他にもありますよ。『王子、マジで顔だけ。話がつまんない。でも金持ってるから耐える。結婚したら即、毒殺して私が女王様になる予定☆』」
「……毒殺?」
アレクセイの顔色が、泥の色よりも蒼白になっていく。
「う、嘘だ……。ニーナ、これは嘘だよな? 君の字じゃないよな?」
アレクセイが震える声で尋ねる。
ニーナは視線を泳がせ、そして――。
「……あーあ。バレちゃった」
彼女の顔から、あの甘ったるい表情が消え失せた。
代わりに現れたのは、ふてぶてしい舌打ちをする、ただの性悪女の顔だった。
「ちっ。あーあ、つまんない。せっかく玉の輿に乗って楽できると思ったのに」
彼女は鼻をほじりながら(マナー最悪)、吐き捨てた。
「そうよ、全部私がやったの。だってあんた、真面目すぎてムカつくんだもん。王子もバカすぎてイライラするし」
「ニ、ニーナ……?」
アレクセイの世界が崩壊する音が聞こえた。
「『真実の愛』? 笑わせないでよ。あんたの財布が目当てだったに決まってるでしょ。金のない王子なんて、ただの動く粗大ゴミよ」
ニーナの罵倒が炸裂する。
私は扇で口元を隠し、クラウス様に囁いた。
「録音、完了しましたか?」
「ああ。バッチリだ。これで彼女も『被害者』ヅラはできないな」
クラウス様が魔導録音機を懐にしまう。
会場は完全に、ドン引きのさらに向こう側、軽蔑の嵐に包まれていた。
「……さて」
私は冷徹に告げた。
「友情ごっこは終わりです。ニーナさん、貴女には『公文書毀棄』『傷害』『王族侮辱』そして『詐欺未遂』の罪でお引き取り願いましょう」
「へっ、捕まえられるもんなら捕まえてみな!」
ニーナはドレス(カーテン)の裾をまくり上げ、窓に向かって走り出した。
意外と俊敏だ。
「逃がすな!」
衛兵たちが動こうとしたその時。
「待て」
意外な人物が、彼女の前に立ち塞がった。
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20話です。小説家になろう様でも公開中です。