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「シエル様! 背筋を伸ばして、もっと毅然とした態度で私を見てください! いいえ、見ないでください、やっぱり見てください! 視線の暴力が強すぎて私の心臓が爆発しそうですわ!」
公爵家の秘密の特訓場にて、私の絶叫が木霊した。
「……リューン様。指示が矛盾しすぎていて、どうすればいいのか分からないよ。……あと、その手に持っている『シエル様の尊いポイント100選』という分厚い資料は何だい?」
シエル様が、困り果てたような、しかしどこか楽しげな表情で尋ねてくる。
「これは私の魂の記録ですわ! いいですか殿下、来週の収穫祭、アイリス皇女はあなたを『物』として扱おうとするでしょう。……それを撥ね退けるには、殿下ご自身の『鋼の意思』が必要なのです!」
私は資料を叩きつけ、一歩踏み出した。
「アイリス様は、殿下の『静寂』を『沈黙』だと勘違いしています。……殿下が何も言わないのは、思慮深いから。……でも、今回は叫んでいただかねばなりません! 『私はお前のコレクションではない!』と!」
「……叫ぶのかい? 僕が?」
「はい! シエル様が初めて見せる、冷徹かつ情熱的な拒絶……! ああ、想像しただけで、新しい祭壇を三つは作れるほど尊いわ……!」
私が悶絶している横で、マリアンヌ様がストップウォッチを片手に頷いた。
「リューン様の仰る通りですわ、殿下。アイリス様のような方は、自分に従わないものにこそ価値を感じ、同時に恐怖を覚えるのです。……殿下が自らの足で立ち、彼女を拒むこと。それが勝利への唯一の道ですわ」
「……マリアンヌ様まで。……二人とも、本当に僕のために必死になってくれているんだね」
シエル様が、少しだけ真剣な目つきになった。
その銀色の瞳に宿った、微かな決意の光。
「……わかった。やってみるよ。……僕は、彫刻として生きるために、リューン様と温室で土をいじっていたわけじゃないからね」
「殿下……! ああ、今のセリフ、録音石(マジックレコーダー)に保存しておきたかった……!」
特訓は、深夜まで及んだ。
歩き方、視線の配り方、そして「拒絶」の言葉の重み。
私はファンとしての視点を最大限に活用し、シエル様が最も「格好良く、かつ冷酷に見える角度」を徹底的に叩き込んだ。
「殿下、今の斜め四十五度からの見下ろし! 最高ですわ! その氷のような瞳に射抜かれたら、大抵の女はひれ伏すか、私のように尊死(とうとし)するかの二択ですわ!」
「……リューン様。後者は僕が困るから、やめておいてね」
そんな私たちの特訓を、物陰から苦々しく見つめる影があった。
アリスティア様だ。
「フン。無駄なことを。アイリス皇女は、帝国最強の魔導師でもあるのだぞ。……あんな小娘たちの小細工など、力ずくで捻り潰されるのがオチだ」
アリスティア様は、自分の弟が自分以上に輝き始めていることが、どうしても許せないらしい。
「……見ていろ、リューン。お前が最後に泣いて私に縋り付く姿を、私が最前列で見てやるからな」
アリスティア様の不吉な予言は、半分だけ当たっていた。
アイリス皇女は、ただの「傲慢な権力者」ではなかったのだ。
収穫祭の前夜。公爵家に一通の手紙が届いた。
それは、アイリス皇女からの「最後通牒」だった。
『明日の収穫祭、シエルが私を選ばなければ、この国に経済制裁を発動する用意があるわ。……さあ、小娘。あなたの「推し活」とやらが、国を滅ぼす覚悟はあるかしら?』
「……経済制裁? 私の推しを守る代償が、国の滅亡ですって?」
私は手紙を握りつぶし、低く、深く笑った。
「アニス、マリアンヌ様。……予定を変更するわ。……明日はシエル様の魅力を伝えるだけじゃない。……アイリス皇女、あの女の『プライド』という名の化けの皮を、全方位から剥ぎ取ってやるわ!」
「お嬢様……。その顔、完全に悪役令嬢に戻っていますよ?」
「構わないわ! 推しを脅かす悪党には、本物の『悪』が何たるかを教えて差し上げますわ!」
リューン・ド・ラ・メール、人生最大の賭け。
収穫祭という名の最終決戦の幕が、静かに上がろうとしていた。
公爵家の秘密の特訓場にて、私の絶叫が木霊した。
「……リューン様。指示が矛盾しすぎていて、どうすればいいのか分からないよ。……あと、その手に持っている『シエル様の尊いポイント100選』という分厚い資料は何だい?」
シエル様が、困り果てたような、しかしどこか楽しげな表情で尋ねてくる。
「これは私の魂の記録ですわ! いいですか殿下、来週の収穫祭、アイリス皇女はあなたを『物』として扱おうとするでしょう。……それを撥ね退けるには、殿下ご自身の『鋼の意思』が必要なのです!」
私は資料を叩きつけ、一歩踏み出した。
「アイリス様は、殿下の『静寂』を『沈黙』だと勘違いしています。……殿下が何も言わないのは、思慮深いから。……でも、今回は叫んでいただかねばなりません! 『私はお前のコレクションではない!』と!」
「……叫ぶのかい? 僕が?」
「はい! シエル様が初めて見せる、冷徹かつ情熱的な拒絶……! ああ、想像しただけで、新しい祭壇を三つは作れるほど尊いわ……!」
私が悶絶している横で、マリアンヌ様がストップウォッチを片手に頷いた。
「リューン様の仰る通りですわ、殿下。アイリス様のような方は、自分に従わないものにこそ価値を感じ、同時に恐怖を覚えるのです。……殿下が自らの足で立ち、彼女を拒むこと。それが勝利への唯一の道ですわ」
「……マリアンヌ様まで。……二人とも、本当に僕のために必死になってくれているんだね」
シエル様が、少しだけ真剣な目つきになった。
その銀色の瞳に宿った、微かな決意の光。
「……わかった。やってみるよ。……僕は、彫刻として生きるために、リューン様と温室で土をいじっていたわけじゃないからね」
「殿下……! ああ、今のセリフ、録音石(マジックレコーダー)に保存しておきたかった……!」
特訓は、深夜まで及んだ。
歩き方、視線の配り方、そして「拒絶」の言葉の重み。
私はファンとしての視点を最大限に活用し、シエル様が最も「格好良く、かつ冷酷に見える角度」を徹底的に叩き込んだ。
「殿下、今の斜め四十五度からの見下ろし! 最高ですわ! その氷のような瞳に射抜かれたら、大抵の女はひれ伏すか、私のように尊死(とうとし)するかの二択ですわ!」
「……リューン様。後者は僕が困るから、やめておいてね」
そんな私たちの特訓を、物陰から苦々しく見つめる影があった。
アリスティア様だ。
「フン。無駄なことを。アイリス皇女は、帝国最強の魔導師でもあるのだぞ。……あんな小娘たちの小細工など、力ずくで捻り潰されるのがオチだ」
アリスティア様は、自分の弟が自分以上に輝き始めていることが、どうしても許せないらしい。
「……見ていろ、リューン。お前が最後に泣いて私に縋り付く姿を、私が最前列で見てやるからな」
アリスティア様の不吉な予言は、半分だけ当たっていた。
アイリス皇女は、ただの「傲慢な権力者」ではなかったのだ。
収穫祭の前夜。公爵家に一通の手紙が届いた。
それは、アイリス皇女からの「最後通牒」だった。
『明日の収穫祭、シエルが私を選ばなければ、この国に経済制裁を発動する用意があるわ。……さあ、小娘。あなたの「推し活」とやらが、国を滅ぼす覚悟はあるかしら?』
「……経済制裁? 私の推しを守る代償が、国の滅亡ですって?」
私は手紙を握りつぶし、低く、深く笑った。
「アニス、マリアンヌ様。……予定を変更するわ。……明日はシエル様の魅力を伝えるだけじゃない。……アイリス皇女、あの女の『プライド』という名の化けの皮を、全方位から剥ぎ取ってやるわ!」
「お嬢様……。その顔、完全に悪役令嬢に戻っていますよ?」
「構わないわ! 推しを脅かす悪党には、本物の『悪』が何たるかを教えて差し上げますわ!」
リューン・ド・ラ・メール、人生最大の賭け。
収穫祭という名の最終決戦の幕が、静かに上がろうとしていた。
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