婚約破棄!おバカな王子と縁が切れました!

パリパリかぷちーの

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(ちょっと、クラウス!? あんた、味方じゃなかったの!?)


私はハンカチで顔を覆ったまま、内心で絶叫した。
壁際に控えていたはずのクラウスが、悠然とした足取りで私の隣に並ぶ。
その冷徹な瞳は、私の「涙に濡れた(設定の)顔」をじっと見据えていた。


「殿下。ミカ様は先ほど『修道院に入る覚悟』と仰いました。……しかし、これほど信心深く、また繊細な魂をお持ちの令嬢を、いきなり厳しい修道院の生活に放り込むのは、あまりに過酷ではないでしょうか」


「……む。確かにそうだな。我が国の至宝とも言われた公爵令嬢が、婚約破棄の翌日に修道院送りとなれば、民衆の反発も避けられん」


ウィルフレッド王子が、もっともらしく顎を撫でる。
よし、王子の「保身」に火がついた。これで修道院行きは回避できるはずだ。


ところが、クラウスの言葉はそこで終わらなかった。


「そこで提案がございます。ミカ様が心の傷を癒やし、真に『静養』に専念できるよう、王家直属の騎士である私が、彼女の『特別保護監視役』を務めるというのはいかがでしょう」


「……保護監視役?」


王子の眉がピクリと跳ねた。
私も、思わずハンカチを握りしめる力が強くなる。


「左様です。ミカ様は今、精神的に非常に不安定な状態にあります。自室に引き籠もると仰っていますが、そのままでは食事も満足に摂らず、衰弱してしまう恐れがある。……騎士団一、規律に厳しい私が彼女の生活習慣を管理し、健全な生活を取り戻させます」


(ちょ……ちょっと待ちなさいよ! それって、私の『干物生活』を全力で阻止するって宣言じゃない!)


私はパニックになり、震える声で割り込んだ。


「そ、そんな! クラウス様のようなお忙しい方に、ご迷惑をおかけするわけには……! 私は一人、静かに、誰にも邪魔されず、お菓子も食べずに……あ、いえ、静かに眠りたいのです……」


「いいえ、ミカ様。貴女の健康を守ることも、騎士の務めです」


クラウスが、私の耳元でだけ聞こえるほどの極小の声で囁いた。


「……お前の『干物部屋』を王家にバラされたくなければ、ここで黙って頷け。これはお前を公的に守るための『隠れ蓑』だ」


(隠れ蓑って……あんたという巨大な障害物がセットじゃない!)


けれど、ここで拒絶すれば「実は元気いっぱいでダラダラしたいだけです」と自白するようなものだ。
私は唇を噛み締め、再び涙(の演技)を溢れさせた。


「……クラウス様の……お言葉に従います……。殿下、どうか……どうか私を、厳しくお見守りください……」


「おお、ミカ! お前のその従順な姿、痛々しくて見ていられん。分かった、クラウス。貴様にミカの管理を任せる。彼女が再び笑顔(公爵令嬢としての完璧な姿)を取り戻すまで、徹底的に鍛え直してやれ」


「御意」


クラウスが深く一礼する。
それまで黙って様子を伺っていたルルが、少し不満そうに口を開いた。


「あらぁ、素敵な騎士様に監視してもらえるなんて、ミカ様は幸せ者ですわね。……でも、殿下。私と殿下の正式な婚約お披露目のパーティーでは、ミカ様も元気な姿を見せてくださるのですよね?」


(このビジネス聖女……まだ追い打ちをかける気!?)


私はルルの言葉に、わざとらしく「うっ……」と胸を押さえてよろめいてみせた。


「……パーティー……。殿下の幸せな姿を、この目で……。ああっ、耐えられませんわ……!」


「ミカ様!」


クラウスが、素早い動きで私の腰を支えた。
……というか、ほとんど抱き抱えるような形になった。
会場の貴族たちから「おお……」「まるで悲恋の物語のようだ」という溜息が漏れる。


「殿下、ミカ様は限界のようです。本日の面談はここまでとし、私が責任を持って彼女を屋敷まで送り届けます」


「うむ、任せた。ミカ、ゆっくり休むがいい。……まあ、お前がそこまで俺を想っていたとは、正直驚いたぞ」


王子が鼻を高くして、満足げに手を振った。
私はクラウスに支えられながら、力なく部屋を後にした。


廊下に出た瞬間、周囲に誰もいないことを確認して、私はクラウスの腕の中から飛び出した。


「……あんた! 何が『生活習慣を管理』よ! 何が『徹底的に鍛え直す』よ! 私の自由を返してちょうだい!」


「声が大きいぞ、ミカ。……それに、あれは演技だったんだろう? 『歩く絶望』がそんなに元気に怒鳴るものか」


クラウスは平然と兜を直し、私を見下ろした。


「いいか。王子の罪悪感を煽りつつ、お前が『公的に引き籠もる』権利を得るには、あれが最善だった。私が監視役についている限り、他の貴族や王家のお節介な連中がお前の部屋に踏み込むことはできないからな」


「……え? あ、そっか。……つまり、あなたが扉の前に立っていれば、誰も入ってこれないってこと?」


「そうだ。お前が中で煎餅を食べていようが、三日間風呂に入っていなかろうが、私が『彼女は今、祈りを捧げている』と言えば、それが真実になる」


私は目からウロコが落ちる思いだった。
この鉄仮面騎士、意外と策士ではないか。


「……クラウス様。意外と話がわかる男ですわね。……でも、一つだけ確認です。本当に、私を鍛え直したりしませんわよね?」


「……それは、お前の態度次第だ。……さあ、馬車へ戻るぞ。お前の大好きな『寝床』へな」


クラウスは再び私をエスコートし、歩き出した。
婚約破棄、からの公式な「監視付きニート生活」。
私の人生は、どうやらとんでもない方向へ加速し始めたようだった。
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