婚約破棄されたので、心置きなく殿下×騎士を推します!

パリパリかぷちーの

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「此度の活躍、誠に大儀であった! 公爵令嬢アイビーよ!」

王城の謁見の間。

玉座に座る国王陛下が、朗々とした声で私を称えた。

左右には高官たちがずらりと並び、エリック殿下、ルーカス様、そしてキース閣下も控えている。

私は包帯だらけの姿(※主に筋肉痛と擦り傷)で、恭しく平伏していた。

「隣国の使節団による王太子誘拐計画……それを未然に防ぎ、主犯格を捕縛したその手腕。まさに国の英雄である!」

「へへーっ、勿体なきお言葉!」

私は頭を下げながら、心の中で首を傾げていた。

(英雄? 私が? ……いやいや、買い被りすぎでしょ)

私はただ、推しのBL的危機(貞操的な意味で)を回避するために暴れただけだ。

国とか外交とか、そんな高尚なことはこれっぽっちも考えていない。

「つきましては、其の方に褒美を取らせようと思う。何か望みのものはないか?」

王様の言葉に、周囲の注目が集まる。

普通ならここで「宝石」や「領地」、あるいは「名誉ある称号」を願うところだろう。

だが、私はアイビー・ローズブレイド。

転んでもタダでは起きない腐女子である。

私は顔を上げ、キリッとした表情で宣言した。

「恐れながら陛下! 私が守りたかったのは、国の威信などではありません!」

「……ほう? では何だ?」

「私が守りたかったのは……エリック殿下の『貞操』です!」

「……て、貞操?」

王様が目を丸くする。

会場がざわめく。

私は構わずに続けた。

「敵の狙いは、殿下の体を玩具にし、その高潔なプライドをズタズタにすることでした! そのような卑劣な行為(鬼畜プレイ)、断じて許すわけにはいきません!」

私は拳を握りしめた。

「殿下の初めて(※意味深)は、もっと愛のある、信頼できるパートナーに捧げられるべきなのです! 例えばそう、長年連れ添った忠実な騎士とか!」

チラリとルーカス様を見る。

ルーカス様がサッと顔を背けた。耳が赤い。

「……つまり、私は『カップリングの解釈違い』と戦ったのです! 褒美をいただけるなら、殿下とルーカス様の『その後』を独占取材する権利をください!」

シーン……。

謁見の間が、凍りついたような静寂に包まれた。

王様はポカンと口を開け、高官たちは「何を言っているんだこの娘は」という顔でヒソヒソと話し合っている。

「……あー、コホン」

沈黙を破ったのは、キース閣下だった。

彼は一歩前に出ると、私の首根っこを猫のように掴んで引き下げた。

「……陛下、申し訳ございません。今回の戦闘で頭を強く打ったようで、少々錯乱しております」

「そ、そうか。……気の毒にな」

「私の部下として、責任を持って『再教育』しておきますので」

「うむ。頼んだぞ、宰相」

(えっ、ちょっ、錯乱してませんけど!?)

私が抗議しようとすると、閣下の冷ややかな手が口元を塞いだ。

「黙れ。……これ以上喋ると、不敬罪で地下牢行きだぞ」

耳元で囁かれるドスの利いた声。

私は大人しく口を噤んだ。




その後、私は宰相執務室のソファに放り出された。

「……お前という奴は」

キース閣下は深い溜息をつき、頭を抱えた。

「せっかくの晴れ舞台で、何を口走っている。王家の前でBL談義をするな」

「だって、事実じゃないですか。アベル補佐官の歪んだ性癖から殿下を守ったんですよ? もっと評価されるべきです」

私はふんぞり返った。

「それに、今回の件でエリック殿下とルーカス様の絆はより深まりました。見てください、あの二人の距離感!」

私は窓の外を指差した。

中庭では、エリック殿下とルーカス様が並んで歩いている。

殿下が何かを話し、ルーカス様が優しく微笑んで頷く。

その距離は、以前よりも確実に縮まっていた。

「……まあ、結果的にはな」

閣下も窓の外を見て、少しだけ表情を緩めた。

「エリックも、少しは成長したようだ。自分の弱さを認め、ルーカスを真に信頼するようになった」

「ええ。これぞ『雨降って地固まる』ならぬ『危機を経て愛深まる』ですね」

「……お前の解釈はともかく、国としては助かった。礼を言う」

閣下が私に向き直る。

その瞳は、いつになく真剣で、そして……優しかった。

「アイビー」

「はい?」

「お前がいなければ、エリックは廃人になっていたかもしれない。私も……冷静さを失っていたかもしれない」

閣下が一歩近づいてくる。

私はソファに座ったまま、見上げる形になる。

「私の『お気に入り』が、お前でよかった」

「……っ」

その言葉に、胸がトクリと跳ねた。

お気に入り。

あの戦闘中、閣下はそう叫んで私を助けてくれた。

(それって、どういう意味なの……?)

部下として?

オモチャとして?

それとも……?

「……閣下」

私は勇気を出して尋ねた。

「その『お気に入り』っていうのは、具体的にどういう枠ですか? ペット枠? それとも便利な道具枠?」

閣下は少し驚いたような顔をして、それからフッと笑った。

眼鏡を外し、私の目線に合わせるように屈み込む。

「……鈍感な女だ」

長い指が、私の頬に触れる。

「ペットに嫉妬などしない。道具に独占欲など抱かない」

「え……?」

「私は、お前が他の男(ジュリアンとか)と話していると腹が立つ。お前がエリックに求婚されて焦った。……お前が傷つくのを見て、世界を凍らせてやりたいほど怒り狂った」

閣下の顔が近づく。

吐息がかかる距離。

「これでもまだ、分からないか?」

「……っ」

真っ赤になる私を見て、閣下は満足げに目を細めた。

「まあいい。……時間はたっぷりある」

彼は私の額に、軽くキスを落とした。

「!!??」

「……褒美だ。取材許可証より、こっちの方がいいだろう?」

閣下は悪戯っぽく笑い、立ち上がった。

「さあ、仕事に戻るぞ。英雄だろうと怪我人だろうと、書類の山は待ってくれないからな」

「あ……あう……」

私は茹で上がったタコのように赤面したまま、言葉を失っていた。

額に残る熱。

閣下の匂い。

そして、今の言葉の意味。

(これって……これって……!)

ついに認めるしかなかった。

私は、この意地悪で冷徹で、でも誰よりも頼りになる「氷の宰相」に、完全に堕ちてしまったのだと。

「……ず、ずるいです、閣下」

私は蚊の鳴くような声で呟き、震える手で羽ペンを握った。

私の「推し活」ライフに、まさかの「リア充」フラグが立ってしまった瞬間だった。
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