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「……ん……」
意識が浮上する。
頭がズキズキと痛むが、どうやら死んではいないらしい。
目を開けると、そこは極寒の世界だった。
王太子の寝室だったはずの部屋は、壁も床も真っ白に凍りつき、ダイヤモンドダストのような氷の粒が舞っている。
「……化け物め……」
苦しげな声が聞こえた。
見ると、部屋の中央でカイン皇子とアベル補佐官が膝をついていた。
二人の体は氷の枷で拘束され、ガタガタと震えている。
その前に立っているのは、眼鏡を外したままのキース閣下だ。
手には氷の剣。
全身から放たれる冷気は、まさに「氷の宰相」の名にふさわしい威圧感だった。
「終わりだ。……貴様らの国の皇帝には、後ほど正式に抗議文(と請求書)を送らせてもらう」
閣下が剣を振り上げる。
勝負あり。
私はホッと胸を撫で下ろしそうになった。
だが。
(……待って。アベル補佐官の目が、まだ死んでない)
私の観察眼が、アベルの瞳に宿る暗い光を捉えた。
彼は背中に隠した手で、何かを握りしめている。
それは、禍々しい紫色に光る魔石だった。
「……ふふ。ただで捕まるものですか」
アベルが囁く。
「道連れだ。……エリック王太子だけでも、あの世へ連れて行く!」
「!?」
アベルが魔石を放り投げた。
標的はキース閣下ではない。
ベッドの上で身を寄せ合っている、エリック殿下とルーカス様だ!
「しまっ……!」
キース閣下が反応するが、距離がある。
氷の壁を作ろうとするが、魔石の速度の方が速い。
爆発性の魔石だ。あんな至近距離で炸裂すれば、二人とも無事では済まない。
(ダメぇぇぇぇぇッ!!)
私の体が、思考より先に動いていた。
「私の推しカプに、何をするんじゃぁぁぁぁ!!」
私は雄叫びを上げ、ふらつく足でベッドの前へと滑り込んだ。
「アイビー!?」
閣下の叫び声。
私はドレスのスカートを両手で掴み、バッと大きく広げた。
「食らえ! 私の『鉄壁』を!」
ドォォォォォン!!
魔石が炸裂する。
爆炎と衝撃波が私を襲う。
しかし。
キンッ! という硬質な音が響き、爆風は私のスカートによって完全に遮断された。
「……は?」
アベルが口をあけて呆然としている。
煙が晴れると、そこには無傷の私(と背後の二人)が立っていた。
「ふふふ……驚いたかしら」
私はニヤリと笑い、スカートの裏地を見せつけた。
そこには、高密度の鋼板と、耐魔法コーティングされた特殊繊維が何層にも縫い付けられていたのだ。
「名付けて『対・物理&魔法防御スカート』! 尾行中に流れ弾に当たっても死なないよう、夜なべして改造した私の力作よ!」
「な……なんだそのふざけた防具は……!」
「ふざけてないわ! 腐女子にとって、推しを守るためなら重装備も辞さないのよ! この重さ二十キロのスカートを穿いてダンスもこなした私の脚力を舐めないで!」
私はさらに、スカートの裾から仕込み武器を取り出した。
扇子型の鉄塊、通称『鉄扇・改』だ。
「そしてこれが、邪魔する泥棒猫へのお仕置きよ!」
「ひっ!?」
私は鉄扇を振りかぶり、アベルに向かって投げつけた。
「推しの幸せを邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄へ落ちろぉぉぉッ!」
ヒュンッ!
鉄扇は美しい弧を描き、アベルの額に直撃した。
ゴチンッ!!
「ぐえっ」
アベルは白目を剥いて倒れた。
隣でカイン皇子も「ひえっ」と引きつった顔をしている。
静寂が戻る。
私は肩で息をしながら、ポーズを決めた。
「……勝った」
そう確信した瞬間、足の力が抜けた。
二十キロのスカートと、先ほどのダメージが一気に押し寄せてくる。
「あ……」
視界がぐらりと揺れ、床へ倒れ込みそうになる。
だが、硬い床にぶつかることはなかった。
ふわり。
誰かの腕が、私を受け止めていた。
「……まったく」
呆れを含んだ、でも安堵に震える声。
「お前という奴は……本当に、予測がつかないな」
見上げると、キース閣下が私を抱きしめていた。
眼鏡のない瞳が、至近距離で私を見つめている。
「か、閣下……」
「無茶をするなと言っただろう。……だが」
閣下は私の頭に手を置き、くしゃりと撫でた。
「……よくやった」
「へへ……」
私は力なく笑った。
「守りましたよ、閣下。……私の推しと、閣下の弟君を」
「ああ。礼を言う」
閣下はそう言うと、私を横抱き(お姫様抱っこ)に抱え上げた。
「ちょ、閣下!? このスカート重いですよ!?」
「構わん。……お前一人くらい、支えきれなくてどうする」
閣下は平然と言い放ち、駆け寄ってきた近衛騎士たちに指示を出した。
「賊を拘束しろ。エリックとルーカスは無事か?」
「は、はい! アイビー嬢のおかげで無傷です!」
ルーカス様が敬礼する。
その隣で、エリック殿下が涙目で私を見ていた。
「アイビー……君は、命がけで僕たちを……」
「勘違いしないでくださいね殿下。私はただ、私の『作品(妄想)』の完結を見届けるまでは、主要キャストに退場してほしくなかっただけですから」
私は強がって言った。
「それに、今回の件で貸し一つです。……後で『お風呂エピソード』の続き、詳しく聞かせてもらいますからね」
「あはは……君には敵わないな」
殿下が笑い、ルーカス様も苦笑する。
部屋の氷が溶け始め、朝日が窓から差し込んでくる。
長い夜が終わった。
私はキース閣下の胸に顔を埋め、その鼓動を聞きながら、心地よい眠気に身を委ねた。
(……いい匂い。閣下の匂い、落ち着くなぁ……)
推し活も大事だけど、この温もりも悪くない。
そう思いながら、私は二度目の気絶(睡眠)へと落ちていったのだった。
意識が浮上する。
頭がズキズキと痛むが、どうやら死んではいないらしい。
目を開けると、そこは極寒の世界だった。
王太子の寝室だったはずの部屋は、壁も床も真っ白に凍りつき、ダイヤモンドダストのような氷の粒が舞っている。
「……化け物め……」
苦しげな声が聞こえた。
見ると、部屋の中央でカイン皇子とアベル補佐官が膝をついていた。
二人の体は氷の枷で拘束され、ガタガタと震えている。
その前に立っているのは、眼鏡を外したままのキース閣下だ。
手には氷の剣。
全身から放たれる冷気は、まさに「氷の宰相」の名にふさわしい威圧感だった。
「終わりだ。……貴様らの国の皇帝には、後ほど正式に抗議文(と請求書)を送らせてもらう」
閣下が剣を振り上げる。
勝負あり。
私はホッと胸を撫で下ろしそうになった。
だが。
(……待って。アベル補佐官の目が、まだ死んでない)
私の観察眼が、アベルの瞳に宿る暗い光を捉えた。
彼は背中に隠した手で、何かを握りしめている。
それは、禍々しい紫色に光る魔石だった。
「……ふふ。ただで捕まるものですか」
アベルが囁く。
「道連れだ。……エリック王太子だけでも、あの世へ連れて行く!」
「!?」
アベルが魔石を放り投げた。
標的はキース閣下ではない。
ベッドの上で身を寄せ合っている、エリック殿下とルーカス様だ!
「しまっ……!」
キース閣下が反応するが、距離がある。
氷の壁を作ろうとするが、魔石の速度の方が速い。
爆発性の魔石だ。あんな至近距離で炸裂すれば、二人とも無事では済まない。
(ダメぇぇぇぇぇッ!!)
私の体が、思考より先に動いていた。
「私の推しカプに、何をするんじゃぁぁぁぁ!!」
私は雄叫びを上げ、ふらつく足でベッドの前へと滑り込んだ。
「アイビー!?」
閣下の叫び声。
私はドレスのスカートを両手で掴み、バッと大きく広げた。
「食らえ! 私の『鉄壁』を!」
ドォォォォォン!!
魔石が炸裂する。
爆炎と衝撃波が私を襲う。
しかし。
キンッ! という硬質な音が響き、爆風は私のスカートによって完全に遮断された。
「……は?」
アベルが口をあけて呆然としている。
煙が晴れると、そこには無傷の私(と背後の二人)が立っていた。
「ふふふ……驚いたかしら」
私はニヤリと笑い、スカートの裏地を見せつけた。
そこには、高密度の鋼板と、耐魔法コーティングされた特殊繊維が何層にも縫い付けられていたのだ。
「名付けて『対・物理&魔法防御スカート』! 尾行中に流れ弾に当たっても死なないよう、夜なべして改造した私の力作よ!」
「な……なんだそのふざけた防具は……!」
「ふざけてないわ! 腐女子にとって、推しを守るためなら重装備も辞さないのよ! この重さ二十キロのスカートを穿いてダンスもこなした私の脚力を舐めないで!」
私はさらに、スカートの裾から仕込み武器を取り出した。
扇子型の鉄塊、通称『鉄扇・改』だ。
「そしてこれが、邪魔する泥棒猫へのお仕置きよ!」
「ひっ!?」
私は鉄扇を振りかぶり、アベルに向かって投げつけた。
「推しの幸せを邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄へ落ちろぉぉぉッ!」
ヒュンッ!
鉄扇は美しい弧を描き、アベルの額に直撃した。
ゴチンッ!!
「ぐえっ」
アベルは白目を剥いて倒れた。
隣でカイン皇子も「ひえっ」と引きつった顔をしている。
静寂が戻る。
私は肩で息をしながら、ポーズを決めた。
「……勝った」
そう確信した瞬間、足の力が抜けた。
二十キロのスカートと、先ほどのダメージが一気に押し寄せてくる。
「あ……」
視界がぐらりと揺れ、床へ倒れ込みそうになる。
だが、硬い床にぶつかることはなかった。
ふわり。
誰かの腕が、私を受け止めていた。
「……まったく」
呆れを含んだ、でも安堵に震える声。
「お前という奴は……本当に、予測がつかないな」
見上げると、キース閣下が私を抱きしめていた。
眼鏡のない瞳が、至近距離で私を見つめている。
「か、閣下……」
「無茶をするなと言っただろう。……だが」
閣下は私の頭に手を置き、くしゃりと撫でた。
「……よくやった」
「へへ……」
私は力なく笑った。
「守りましたよ、閣下。……私の推しと、閣下の弟君を」
「ああ。礼を言う」
閣下はそう言うと、私を横抱き(お姫様抱っこ)に抱え上げた。
「ちょ、閣下!? このスカート重いですよ!?」
「構わん。……お前一人くらい、支えきれなくてどうする」
閣下は平然と言い放ち、駆け寄ってきた近衛騎士たちに指示を出した。
「賊を拘束しろ。エリックとルーカスは無事か?」
「は、はい! アイビー嬢のおかげで無傷です!」
ルーカス様が敬礼する。
その隣で、エリック殿下が涙目で私を見ていた。
「アイビー……君は、命がけで僕たちを……」
「勘違いしないでくださいね殿下。私はただ、私の『作品(妄想)』の完結を見届けるまでは、主要キャストに退場してほしくなかっただけですから」
私は強がって言った。
「それに、今回の件で貸し一つです。……後で『お風呂エピソード』の続き、詳しく聞かせてもらいますからね」
「あはは……君には敵わないな」
殿下が笑い、ルーカス様も苦笑する。
部屋の氷が溶け始め、朝日が窓から差し込んでくる。
長い夜が終わった。
私はキース閣下の胸に顔を埋め、その鼓動を聞きながら、心地よい眠気に身を委ねた。
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そう思いながら、私は二度目の気絶(睡眠)へと落ちていったのだった。
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