悪役令嬢の婚約破棄計画~嫌われたくて罵倒していく〜

パリパリかぷちーの

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「静粛に!!」

熱狂の渦に包まれていた会場を、雷鳴のような一喝が切り裂きました。

ざわめきがピタリと止まります。

バルコニーで立ち往生していた私は、その声の主に救いを求めました。

大広間の入り口に立っていたのは、威厳ある髭を蓄えた初老の男性――この国の国王陛下でした。

「へ、陛下……!」

私は身を乗り出しました。

助かった!

さすがに国王陛下なら、この異常事態を収拾してくれるはずです。

次期国王である息子が、公衆の面前で「首輪をつけてくれ」と叫び、婚約者が逃げ回っているのです。

王家の恥以外の何物でもありません。

「陛下! ご覧になりましたか! フレデリック殿下のご乱心を!」

私はバルコニーから指差しました。

「あの方は、婚約者である私に首輪をつけさせようとしました! ドMです! 変態です! 王族としてあるまじき醜態です!」

さあ、怒ってください!

『なんて嘆かわしい! 婚約は破棄だ!』と宣言してください!

陛下は、厳しい顔つきで、跪いているフレデリック殿下へと歩み寄りました。

そして、殿下の手にある『誓いの首輪』を手に取り、まじまじと見つめました。

「フレデリックよ。これは何だ」

「父上……。これは、僕のアミカブルへの愛と、服従の証です」

「服従……だと?」

陛下の眉がピクリと動きました。

来るぞ、雷が!

私は期待に胸を躍らせました。

しかし。

「……見事だ」

「は?」

陛下は、深く、重く頷きました。

「『王とは、国民の僕(しもべ)である』。古来より伝わる帝王学の真髄を、これほど分かりやすい形で表現するとは……!」

「なんでそうなるんですのーーっ!?」

私は手すりから落ちそうになりました。

陛下は感極まった様子で続けます。

「首輪とは、己の自由を捨て、国という飼い主(国民)に尽くすという決意の表れ! それを最愛の女性に託すことで、『私は私欲を捨て、公に生きる』と宣言したのだな!」

「違います! ただ単に踏まれたいだけですあいつは!」

「黙りなさい、アミカブル!」

陛下が私を見上げました。

「そなたの功績も大きい! あのような惰弱だった息子が、自ら首輪を欲しがるほどに『責任感(という名の性癖)』に目覚めるとは! そなたの教育、誠にスパルタであったな!」

「教育じゃありません! 調教になってしまっています!」

陛下は私の抗議を無視し、会場全体に向けて宣言しました。

「皆の者! 余は今日、確信した! この二人こそが、我が国の未来を担うにふさわしいと!」

「異議なしーっ!!」

国民(信者)たちが拳を突き上げます。

「待って! 待ってください陛下! 私は悪役令嬢になりたいんです! 田舎で寝て暮らしたいんです! こんな変態王子と結婚したら、私の人生は過労死確定です!」

私は必死に訴えました。

「どうか、婚約破棄を! 私をクビにしてください!」

陛下はニヤリと笑いました。

「クビ? ああ、そうだな。今の『婚約者』という立場は、確かにそなたには狭すぎる」

おっ?

「その類稀なる手腕、そして国民からの圧倒的支持。もはや一公爵令嬢の枠には収まりきらん」

陛下が高らかに告げました。

「よって、フレデリックとアミカブルの『婚約』は、これをもって破棄とする!」

「やったあああああああ!!」

私はバルコニーの上で万歳三唱しました。

ついに! ついにやりました!

長かった戦いの日々。

勘違いの連続でしたが、最後の最後で、私の願いが届いたのです!

「さようなら、王城! さようなら、ドM王子! 私は明日から自由の身……」

「――その代わり」

陛下の言葉は、まだ続いていました。

「来週、二人の『結婚式』を執り行う!!」

「……へ?」

私の動きが止まりました。

「さらに! 余は本日をもって退位し、フレデリックに王位を譲る! つまりアミカブルよ、そなたは来週から『王妃』だ!」

「…………」

思考が、追いつきません。

婚約破棄=結婚&即位?

バグです。論理がバグっています。

「は、早すぎますわ! 心の準備とか、ドレスの準備とか……」

「心配無用! 財務大臣!」

「はっ! アミカブル様が稼ぎ出した莫大な予算で、国を挙げて一週間ぶっ続けの祝祭を行います!」

「楽団長!」

「はっ! アミカブル様お好みの『絶望の協奏曲』を、一万人の合唱団で歌わせます!」

「メイド長!」

「はっ! 新居となる王の間は、手術室レベルに滅菌済みです!」

外堀が、音速で埋められていきます。

「フレデリックよ、良いな?」

「はい、父上! アミカと共に国を背負い、そしてアミカに背負い投げされる人生を歩みます!」

「うむ! これにて一件落着!」

ワアアアアアッ!!

祝福の歓声が、物理的な衝撃波となって私を襲いました。

「……嘘、でしょう……?」

私はよろめきました。

逃げ場なし。

退路なし。

希望なし。

私が必死に積み上げてきた「悪役ムーブ」は、すべて「王妃への階段」の資材として使われてしまったのです。

「あ、あ、あ……」

私の視界がぐにゃりと歪みました。

膝から力が抜け、私はスローモーションのように崩れ落ちました。

「アミカブル様!?」

「お姉様!?」

誰かの叫び声が聞こえます。

薄れゆく意識の中で、私は最後の力を振り絞って呟きました。

「……解せぬ……」

私の意識は、そこでプツリと途切れました。

気絶する直前に見たのは、バルコニーの下から私を見上げ、「アミカ……感極まって失神するほど僕との結婚が嬉しいんだね……!」と涙を流しているフレデリックの、最高に幸せそうな(そして最高にムカつく)笑顔でした。
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