悪役令嬢は、王子とヒロインのカップリングが尊すぎて退場したい!

パリパリかぷちーの

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「――シュガー・メルティ公爵令嬢。そなたを再び、アレクセイの婚約者候補筆頭に戻すことを検討しておる」

王宮の謁見の間。

玉座に座るこの国の最高権力者、国王陛下の重々しい声が響き渡りました。

「……はい?」

私は松葉杖(先日の怪我のため)を突いたまま、素っ頓狂な声を上げてしまいました。

「へ、陛下……今、なんと仰いましたか? 私の耳が腐っていなければ、『婚約者に戻す』と聞こえたのですが」

「うむ。その通りだ」

陛下は鷹揚に頷きました。

私の隣には、困惑した表情のアレクセイ殿下。
そして一歩下がった場所には、護衛として控えるキース様(顔が無表情すぎて怖い)がいます。

「先日の山賊討伐の一件、報告を受けたぞ。身を挺してアレクセイとマリアを守り、賊を一網打尽にしたそうだな」

「は、はい。まあ、鉄扇が手元にあったのでつい……」

「うむ。その武勇、そして王族を守ろうとする高潔な精神……。まさに次期王妃にふさわしい資質である」

陛下は感心したように髭を撫でました。

「正直、そなたがこれほど肝の据わった女だとは知らなかった。マリアという娘も可愛らしいが、やはり国の母となるには、そなたのような『強さ』が必要ではないかと考え直したのだ」

「……」

私の顔から血の気が引きました。

(ま、マズイ……! 非常にマズイわ!)

王妃になる? 私が? 殿下の隣に?

それは即ち、マリアさんがその座から追い出されるということ。
そして何より、私が一生懸命育ててきた『アレクセイ×マリア』という至高のカップリングが、公式の手によって解散させられるということです!

(ありえない! 解釈違いもいいところよ! 私が王妃になってどうするの!? 毎日殿下の公務を見張って『今日はマリアさんと目が合いましたね、グフフ』とか記録する変態王妃が爆誕するだけよ!?)

私はガタガタと震え出しました。

「ど、どうしたシュガー。感動で震えているのか?」

陛下が勘違い発言をします。

「違います! 恐怖です!」

私は松葉杖を投げ捨て(足は痛いですが気合で立ちました)、声を張り上げました。

「陛下! 謹んで、全力で、魂の底から辞退申し上げます!!」

「な、なに?」

「私は王妃の器ではありません! 私の願いは、殿下の隣に立つことではないのです!」

「なんと……。では、そなたの望みは何だというのだ?」

陛下が怪訝な顔をします。

私は大きく息を吸い込み、謁見の間に響き渡る声で宣言しました。

「私は……『壁』になりたいのです!!」

シーン……。

広い空間に、沈黙が落ちてきました。

「……か、壁?」

陛下が耳を疑うように聞き返します。

「はい! 王宮の廊下の壁、あるいは天井のシミ、庭園の敷石……何でも構いません! とにかく、殿下とマリアさんが幸せに過ごす空間の一部(モブ)になりたいのです!」

私は熱弁を振るいました。

「二人が手を取り合って歩く姿を、空気のように見守る……それこそが私の至上の喜び! 私が主役(ヒロイン)になるなんて、天変地異が起きてもありえません!」

「……シュガー、落ち着け。陛下が困惑されている」

殿下が小声で制止しようとしますが、私は止まりません。

「陛下! マリアさんこそが王妃にふさわしいのです! 彼女の純真さは国民を癒し、その笑顔は国の宝となります! あんなに尊い生き物を野に放つなんて、国家的損失ですわ!」

「と、尊い生き物……?」

「対して私はどうですか!? 元婚約者をストーカーし、隙あらば二人のイチャイチャをスケッチし、賊を物理で殴るような暴力女ですよ!? こんなのが王妃になったら、隣国から『野蛮な国だ』と笑われます!」

私は自分の悪評をこれでもかと列挙しました。

「だからお願いします! 婚約の話は撤回してください! 私は一生、独身で『推し活』に捧げる所存です!」

私は床に頭を擦り付けんばかりに平伏しました。

しばらくの沈黙の後。

「……ぶっ」

誰かが吹き出す音が聞こえました。

キース様です。
彼は後ろを向いて、肩を震わせて笑いを堪えています。

(あとで覚えてなさいよ、あの男……!)

陛下はポカンとしていましたが、やがて呆れたようにため息をつきました。

「……なるほど。そなたが『変人』であるという噂は本当だったようだな」

「はい! 正真正銘の変人です!」

「……しかし、そこまで謙遜するとは。あるいは、アレクセイへの愛が深すぎて、身を引こうとしているのか……」

「違いますってば!」

「まあよい。今日のところは即決を避けるとしよう」

陛下は苦笑いを浮かべました。

「だがシュガーよ。マリアという娘にそれほどの資質があるか、まだ余には判断できん。……来月の建国記念舞踏会。そこで彼女の振る舞いを見て、最終的な判断を下すとする」

「……建国記念舞踏会?」

「うむ。そこでマリアが王太子の婚約者としてふさわしい振る舞いを見せれば、二人の仲を認めよう。だが、もし失敗すれば……」

陛下の目が鋭く光りました。

「その時は、嫌でもそなたに王妃になってもらうぞ」

「ひえっ……」

条件付きの保留。
つまり、次の舞踏会がマリアさんにとっての最終試験(ラストダンジョン)になるということです。

「下がってよい」

「は、はい……失礼いたしました……」

私はキース様に松葉杖を拾ってもらい、ヨロヨロと退室しました。

          ◇

廊下に出た瞬間、私は壁に寄りかかりました。

「終わった……」

「お疲れ。壁になりたい発言、傑作だったぞ」

キース様がニヤニヤしながら私の背中をさすってくれます。

「笑い事じゃありませんわ! もしマリアさんが失敗したら、私が強制的に王妃ルート……バッドエンド一直線です!」

「お前、『王妃になる=バッドエンド』って認識なのか……」

殿下も疲れた顔で出てきました。

「すまないシュガー。父上があんなことを言い出すとは」

「殿下! 謝っている場合ではありません! 来月の舞踏会までに、マリアさんを完璧なレディに仕上げないと!」

私は拳を握りしめました。

「マナー、ダンス、教養……すべてを叩き込みます! 私の『推しプロデュース』能力の全てを賭けて!」

「お、おう。頼もしいな」

「スパルタでいきますわよ! マリアさんを呼んでください! 今日から合宿です!」

私の目には炎が宿っていました。

自分の自由を守るため、そして推しカプのハッピーエンドを守るため。
私は「悪役令嬢」から「鬼コーチ」へとジョブチェンジする覚悟を決めました。

しかし。

この私の「熱意」が、マリアさんにあらぬ誤解を与えてしまうことになるとは。

「……シュガー様は、やっぱり殿下のことがお好きなんじゃないかしら……」

後日、特訓中にマリアさんが漏らした一言が、物語をややこしい方向へと拗れさせていくのです。
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