『ざまぁ』される未来しか見えない!全力回避ですわ。

パリパリかぷちーの

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「……はぁ。やっと、サイラス特製の栄養バランス完璧なお弁当にありつけますわ」


お昼休み。私は学園の喧騒を離れ、中庭の大きな木陰にあるベンチに陣取った。


目の前には、三段重ねの豪華な重箱。蓋を開ければ、そこには彩り豊かな宝石箱のような料理が並んでいる。


(見て、この美しさ。これこそ公爵令嬢に相応しいランチ。……ふふっ、これなら午前中の数学地獄で擦り切れた精神も回復するわ!)


私は優雅にフォークを手に取り、まずは一口、ふんわりと焼き上げられたオムレツを口に運ぼうとした。


「わあああ……! ローリー様のお弁当、今日もお星様みたいにキラキラしていますね!」


背後から、期待に満ちた弾んだ声が聞こえた。


案の定、そこには両手を頬に当て、目を輝かせるミア様の姿があった。


(……出たわね、ランチタイムのハイエナ……じゃなかった、可憐な小鳥さん)


私は反射的に重箱を抱え込みそうになるのをこらえ、ゆっくりと振り返った。


「あら、ミア様。ごきげんよう。……ふふっ、また奇遇ですわね。あなたのお弁当も、とても素朴で……その、健康的そうですわ」


ミア様が手に持っているのは、茶色いパンに何かが挟まった、実にワイルドなサンドイッチだ。


「これ、学園の購買で最後の一つだった『激辛デビルサンド』なんです! でも私、実は辛いの苦手で……。ローリー様のお弁当、とっても美味しそう……」


ミア様が、じーっと私のオムレツを見つめている。その瞳は、まさに「一口ください」と全身で訴えていた。


(ダメよ! ここで安易に食べ物を与えてはいけないわ!)


私の脳内に、警告音が鳴り響く。


(もし、万が一。これを食べて彼女がお腹を壊したりしたら? 『ローリー様が毒を盛った!』と騒がれて、セドリック様が颯爽と現れ、私はそのまま地下牢行きよ!)


そう、悪役令嬢にとって、ヒロインへの食事の提供は最もリスクの高い行為なのだ。


「……ミア様。このオムレツは、その……とても、癖が強い味付けなのですわ。男爵令嬢のデリケートなお腹には、刺激が強すぎるかもしれませんわよ?」


「ええっ、そうなんですか? でも、ローリー様が食べていらっしゃるなら、私も食べてみたいです! ローリー様と同じ味を共有できるなんて、まるで姉妹みたいじゃないですか!」


ミア様が、ぐいっと顔を近づけてくる。距離が近い。そして熱意がすごい。


「……ふふっ。姉妹だなんて、光栄ですわ。……ですが、これは本当に危ないのですわよ?」


私は、究極の選択を迫られていた。


断れば「冷酷な令嬢」として噂が広まる。与えれば「毒殺未遂」の冤罪リスクが跳ね上がる。


……ならば、道は一つ。


「……わかりましたわ、ミア様。そこまで仰るなら、私が先に『毒見』をして差し上げますわ!」


「毒見……ですか?」


「ええ! あなたの安全を確認するのが、友人としての私の務め。……さあ、見ていてくださいな!」


私は、ミア様が狙っていたオムレツを、パクりと口に入れた。


「……んん、安全ですわ! では、次はこのエビのテリーヌも……ぱくっ。うん、これも問題ありませんわね! あ、このローストビーフも怪しいわ……むぐっ」


私は、猛烈な勢いで重箱の中身を自分の口へと放り込んでいった。


(これならどう!? 私が全部食べれば、彼女に毒が回る心配も、冤罪をかけられる心配もないわ! 私はただの、ちょっと食いしん坊な聖女として処理されるはずよ!)


「……あ、あの、ローリー様? どんどんおかずが消えていくのですが……」


ミア様が、呆然として私の咀嚼を見つめている。


そこへ、いつの間にか現れたセドリック様が、呆れたような声を上げた。


「……ローリー。君は、自分の婚約者が目の前にいるというのに、リスのように頬を膨らませて何を必死に食っているんだ?」


(げっ……! セドリック様!)


私は口いっぱいにローストビーフを含んだまま、固まった。


「……ふ、ふふっ。でん……か……。これは、その……ミア様の……健康を……守るための……ぎしき……」


「飲み込んでから喋れ。行儀が悪いぞ」


セドリック様は、私の隣に座ると、空になった重箱の一段目を見て鼻で笑った。


「ミアに一口やるのがそんなに惜しいのか? アステリア公爵家の令嬢ともあろう者が、食い意地でヒロインを圧倒するとはな。見苦しいぞ」


「食い意地じゃありませんわ! これは慈愛! 最大限の防衛的慈愛ですわ!」


私はようやく飲み込み、声を荒らげそうになるのを必死で「おほほ」に変換した。


「……ふふっ。殿下ったら、冗談がお上手ですこと。私はただ、彼女が辛いサンドイッチで喉を痛めないか心配で、代わりにおかずを減らしてあげただけですわ」


「……論理が破綻しているな。まあいい。ほら、ミア。君にはこれをやろう。私が余らせたスープだ。これなら毒の心配もないだろう?」


セドリック様が、自分の水筒から温かいスープをミア様のコップに注いであげた。


「わあ! ありがとうございます、セドリック様! 殿下、やっぱりお優しい!」


ミア様が、パァァッと顔を輝かせる。


(……あ。これよ。これこそが、本来あるべき『王子とヒロイン』の交流シーン!)


私は、自分が必死にかきこんだローストビーフの味を噛み締めながら、少しだけ寂しいような、けれど目的を達成したような複雑な気分になった。


「……ふふ。お似合いですわね、お二人とも。私は、その……お腹がいっぱいになりましたので、これで失礼いたしますわ」


私は空になった重箱を片付け、立ち上がろうとした。


だが、その瞬間、セドリック様が私の手首を掴んだ。


「……どこへ行く、ローリー。君、まだ三段目が残っているだろう。……そこには、君の好物のマカロンが入っているはずだ」


「……っ! なぜそれを知って……」


「サイラスから聞いた。君が不機嫌な時は、これを食べさせれば大人しくなると。……ほら、座れ。私が見ている前で、それを全部食べてみせろ」


セドリック様の瞳が、また「観察者」のそれに変わった。


「……な、なぜそんなことを……」


「君が『慈愛』と称して、必死に欲望を抑え込んでいる顔を見るのが、今の私の唯一の娯楽だからな」


(……この、性悪王子……っ!)


私は、セドリック様の冷ややかな視線と、ミア様の羨望の眼差しを同時に浴びながら、デザートのマカロンをヤケ食いする羽目になった。


「……ふふ……。美味しい……ですわ……。幸せすぎて、涙が出そうですわ……(悔しくて!)」


私の「ランチタイム大作戦」は、結果として、王子のドS心を加速させるだけの結果に終わった。


生存戦略は、いつの間にか「王子の玩具」としての地位を確立しつつあった。
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