『ざまぁ』される未来しか見えない!全力回避ですわ。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
19 / 28

19

しおりを挟む
「……ちょっと待ちなさい。今、なんとおっしゃいましたの?」


学園祭の出し物を決める学級会。私は、クラス委員長が黒板に書き記した配役表を見て、耳を疑った。


そこには、輝かしい金色の文字(に見える幻覚)で、私の名前が刻まれていた。


配役:『復讐の悪毒王妃エカテリーナ』……演:ローリー・フォン・アステリア。


「あ、あの、ローリー様! これには深い理由がございまして! 決して他意はございませんの!」


委員長が、ガタガタと椅子を鳴らしながら弁明を始めた。


「この劇のメインは、清らかな乙女が邪悪な王妃を改心させる物語なんです。その、王妃には圧倒的な気品と、周囲を黙らせる威圧感が必要で……。そうなると、もうローリー様しかいらっしゃらないと、クラス全員が一致団結して……!」


(一致団結して私を悪役に仕立て上げたわけね!?)


私は扇子を握りしめ、内側で荒れ狂う「おーっほっほ! 誰に向かってそんな役を振っていますの!」という猛獣を、必死に「ふふっ」という鎖で繋ぎ止めた。


「……あら。気品と威圧感、ですのね。ふふっ、皆様の期待を裏切るわけには参りませんわ。……謹んで、お引き受けいたしますわ」


「おおお……! 聖女だ! ローリー様はやはり聖女だ!」


クラス中に安堵の溜息と、不穏な称賛が広がる。


(バカね、皆様! 私がこの役をやることで、逆に『悪役令嬢としての完成度』を世に知らしめることになるのよ! ……あ、でも待って。これ、下手に演じすぎて『やっぱりあいつは本性が邪悪だ』って思われたら、即・国外追放ルートじゃないの!?)


私は自席で、冷や汗を流しながら自分の首の生存を確認した。


そこへ、いつものようにミア様が目を輝かせて駆け寄ってきた。


「ローリー様! すごいです! 私、王妃様にいじめられる聖女の役なんです! ローリー様にいじめられるなんて、ご褒美……じゃなかった、光栄です!」


「ミア様。その台本、少し破り捨ててよろしいかしら? ふふっ」


「いいですよ! ローリー様が破った紙吹雪なら、私、綺麗に集めて宝箱に入れます!」


(ダメだわ。このヒロイン、私のことが好きすぎて、劇としての緊張感がゼロだわ……)


練習が始まると、さらなる悲劇が私を襲った。


「……さあ、跪きなさい、薄汚れた小娘! あなたが流す涙の数だけ、私は優雅に紅茶をいただきますわ!」


私は、台本通りの台詞を口にした。


最大限、今の「聖女モード」を維持したまま、優しく、慈愛に満ちたトーンで。


「……カット! ダメです、ローリー様! それじゃ『慈悲深い女王様が、迷子の子供を保護している』ようにしか見えません!」


演出担当の男子生徒が、頭を抱えて叫んだ。


「もっとこう! ゾクゾクするような、冷酷な、踏みつけられる側が『ありがとうございます!』と言いたくなるような、本物の悪女を見せてください!」


(無理を言わないでちょうだい! 私は今、その『本物の悪女』から脱却するために必死なのよ!)


私は困り果て、ふと観客席を見た。そこには、何をするでもなく練習を眺めているセドリック様がいた。


「……ふん。ローリー、君、そんなに自分の本性が怖いのか?」


セドリック様は、退屈そうに欠伸をしながら歩み寄ってきた。


「本性なんて……。私はいつだって、清らかな一輪のユリですわ。おほ……ふふっ」


「ユリの根には毒があるというがな。……いいか、ローリー。これは劇だ。ここで君が中途半端な演技をすれば、それこそ観客への侮辱だぞ。……ほら、私をあの男爵令嬢だと思って、全力で罵ってみろ」


セドリック様が、私の目の前で挑発的に顎を上げた。


(……この王子。さっきからニヤニヤして……。私の苦労も知らないで、高みの見物なんて……!)


私の脳内で、何かが「ブチン」と音を立てて切れた。


「……あら。そこまで仰るなら、見せて差し上げますわ。……『本物』の威厳というものを」


私は、一瞬で微笑みを消した。


背筋を伸ばし、顎を引き、冷徹な氷のような瞳で、セドリック様を射抜いた。


「……何を見ていらっしゃいますの? その薄汚い瞳を私に向けないでくださる? ……不快だわ。今すぐその首を撥ねて、庭の肥料にして差し上げてもよろしくてよ?」


「お、おおおおお……ッ!!」


練習場に、戦慄が走った。演出担当は腰を抜かし、ミア様は「尊い……!」と呟いて卒倒しかけている。


セドリック様だけが、見たこともないような楽しげな笑みを浮かべていた。


「……ははは! 素晴らしい! それだ、ローリー! その、全人類を見下すような傲慢な輝き! やはり君は、そう来なくてはな!」


(あ……やってしまったわ……!)


私はハッと我に返り、慌てて「聖女の微笑み」を貼り付け直した。


「……あ、あら。今の、演技ですわよ? ふふっ、皆様、驚かせてしまってごめんなさいね?」


「……演技……ですよね? あまりにもナチュラルすぎて、一瞬、前世からの業(カルマ)かと思いましたよ……」


委員長がガタガタ震えながらメモを取っている。


結局、私は本番でも「ハマり役すぎる悪役」として舞台に立つことになった。


学園祭当日。


私の演技があまりにも苛烈で美しすぎたため、改心するラストシーンで観客席から「改心しなくていい!」「もっと踏んでくれ!」という謎の怒号が飛び交うという大混乱が起きた。


舞台裏で、私は真っ白な灰になっていた。


「……終わったわ。私の聖女ブランディングが、一瞬で更地になったわ……」


「最高だったぞ、ローリー。君のあの『豚に真珠、私にひれ伏せ』というアドリブ、今度から私への挨拶に使ってもいい」


セドリック様が、爆笑しながら私の肩を叩いた。


「使いませんわよ! ……もう、これじゃまた『悪役令嬢ローリー』に逆戻りじゃないの……」


「いいじゃないか。私だけは、その化けの皮の裏側を知っている。……それだけで、十分特別な婚約者だとは思わないか?」


セドリック様の、ふとした優しい声に、私の心臓がまた勝手なリズムを刻み始めた。


生存戦略。それは、聖女を演じることだったはずだが。


どうやら私は、世界で一番タチの悪い観客に、心の中を見透かされ続けているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪された公爵令嬢でしたが、今さら後悔してももう遅いです ~第二の人生は最愛の隣で~

nacat
恋愛
婚約者の裏切りと濡れ衣で断罪された公爵令嬢レティシア。 前世の無念を抱えたまま命を落とした彼女は、なぜか二年前に時間を巻き戻していた。 もう誰かに従う人生なんてごめんだ。今度こそ、自分の幸せをこの手で掴む。 ――そして、かつて冷たかった彼が、今は異常なほどに私を求めてきて……? 痛快なざまぁの果てに、甘く狂おしい溺愛が待ち受ける転生ロマンス。

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた

桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、 婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が 部屋に閉じこもってしまう話からです。 自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。 ※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな
恋愛
 サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。  好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。  それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆ ※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。 そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑) 本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢を演じて婚約破棄して貰い、私は幸せになりました。

シグマ
恋愛
伯爵家の長女であるソフィ・フェルンストレームは成人年齢である十五歳になり、父親の尽力で第二王子であるジャイアヌス・グスタフと婚約を結ぶことになった。 それはこの世界の誰もが羨む話でありソフィも誇らしく思っていたのだが、ある日を境にそうは思えなくなってしまう。 これはそんなソフィが婚約破棄から幸せになるまでの物語。 ※感想欄はネタバレを解放していますので注意して下さい。 ※R-15は保険として付けています。

悪役とは誰が決めるのか。

SHIN
恋愛
ある小さな国の物語。 ちょっとした偶然で出会った平民の少女と公爵子息の恋物語。 二人には悪役令嬢と呼ばれる壁が立ちふさがります。 って、ちょっと待ってよ。 悪役令嬢だなんて呼ばないでよ。確かに公爵子息とは婚約関係だけど、全く興味は無いのよね。むしろ熨斗付けてあげるわよ。 それより私は、昔思い出した前世の記憶を使って色々商売がしたいの。 そもそも悪役って何なのか説明してくださらない? ※婚約破棄物です。

処理中です...