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2/6:自我
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石造りの白い廃教会内にて、床に一滴一滴落ちている血を辿っていくと椅子に縛り付けられた融合体ことフィジオは目を覚ます。身動きが取れないことに気づき椅子を動かそうとしたが、近くにいた白いローブの人間に椅子を掴まれて動きを止められる。
「……やっちまったな。俺の人間部分が出ちまったせいで……」
そして、数分の静寂の中待っていると奥から丁寧な足を立ててサソリと複数の男と女生一人が入ってくる。男たちはサソリが路地裏で銀色の魔族の細胞を打ち込んだ者たちだった。チャランポランだった者たちはサソリが魔力の制御法を享受し今に至る。女性は頭から布袋をかぶされて腕を縛って動けないようにしている。
「……何度も言うが、俺はここの教祖なんてやらんし、俺から魔族の記憶を呼び起こそうとしても無駄だぜ。この体の混ざり合う前の二人の意識は完全に眠っているからな。」
「わかっていますとも。だから無理にとは言いませんよ……」
サソリは指を鳴らして男たちに女性を殺すように指示を出す。男たちはその身を魔族に変身させて拘束している女性へ迫り首筋に爪を食い込ませていく。
「い、いや、痛い、やめて!」
フィジオはそれを見てもサソリに疑念の目を向けるだけだった。
「……俺が誰でも助けると思うか?そこらへんは割り切っているつもりだ。」
「”つもり”でしょう?」
食い込んだ爪はやがて喉の皮膚を破り始め、女性の声はだんだんと甲高くなっていく。それを目に映すフィジオは瞼をピクリと動かしわずかに動揺する。
「ふふッ…やはりどこまでいっても”人間”ですね。明らかに動揺していますよ?」
「汚ぇ野郎だ。性根が腐りきってやがる。」
「別にあなたが協力したくないのでしたらそれで構いませんよ。私はどうもしません。彼女がどうなるかわかりませんけどね。」
フィジオは怒りが湧いてくるのを理性と冷静さで押さえつける。短く鼻から息を吸って6秒間止める。そして口からゆっくりと時間をかけて吸った息を吐きだす。やがて獣のような怒りが消え、表情の痙攣も止まる。
「おや、これでもダメですか…どうすれば、あなたは我々の元へ戻ってきてくれるんですか。」
「お前が去ることが条件だな。それで幾分か魔族はマシになる。」
「それは、あなたの中の人間の部分が言っているのですか?それとも……」
フィジオは縛られている腕に思い切り力を込めて引きちぎる。それを見てサソリは落ち着いた様子で指を鳴らしフィジオの中の麻痺毒を誘発させる。フィジオは麻痺毒に体をやられて顔面から倒れる。
「てめぇ…どこまで……」
「どこまでもですよ。気持ち悪くしないとあなたは立ち上がるでしょう?……さて、もう一度問います。あなたはどうすれば我々の元へ戻ってきてくれますか?」
何度も間違えられる。人間に。何度も脅される。魔族に。フィジオはその間で苦悩をしているというのに誰も理解してくれない。何度も何度も混乱している。回復状態にある間だからと言っているのに、誰も何も理解してくれない。唯一ストレスなく接することができるのはジュンとチハヤの二人だけだ。麻痺毒に侵されているはずの体を無理くり動かすフィジオは芽生え始めたフィジオ自身の自我で判断し、そして、口を開く。
「人間が、魔族がって……さっきからうるさいんだよ……俺は、ぼ、ボクは、オレはぁ…オレが守りたいと思ったものを守る。だから、これからお前を殺そうとするのは、人間でも魔族でもない……融合体としての殺意だ。」
霊石を握り魔装をする。銀色に煌めく鉄塊はサソリや被害者を襲っている魔族たちへ飛び、フィジオと女性だけの空間を作る。
「魔装戦士……魔装完了……」
白銀の焔はフィジオが守る者たち以外を一切受け入れずに燃やし尽くす。石造りの床も柱もその熱に耐えられず溶解し、形を崩す。フィジオは女性の手を引き、教会を出て踵も返さずに歩き出す。サソリはそれを追って尻尾を伸ばすがフィジオへ届く前に毒針も尻尾も溶けて燃えてなくなる。しかし、その攻撃を受けてもなお、サソリの表情は恍惚としておりまさに希望を見ているようだった。
「……これが、銀色の魔族の王、そして、その魔力……なんと素晴らしい……とても気持ちいいぃ……」
教会が遠ざかっていく中、フィジオは女性の首元へ手をかざし傷を完治させる。そして、魔装を解除して無言で目を合わせて顎を突き出してどこか遠くへ行けと合図する。女性は小声で感謝を伝えながら林から出て行った。
「で、虫男。お前はどこまでついてくる気だ。」
「もちろん、あんたが戻るまでですよ。」
距離こそ離れているが、尾行していたサソリへ言葉を投げる。サソリは溶けた尻尾を投げ捨てながら新しい尻尾を生やす。
「何度でも言おう……」
フィジオはサソリに向かって言い放つ。
「オレはオレが守ると決めた者だけを守る!」
サソリはその言葉を聞き尻尾を突き出しながら襲い掛かってくる。構えるフィジオの背後から誰かがサソリへ攻撃を仕掛ける。紫の槍…星々だった。
「自我を持ち始めているようだね。それはうれしいことだ。」
「…もともと自我はあった。さっきの出来事で自我が確立しただけだ。」
星々は短く納得した返事をするとそのままフィジオの手を引きサソリの前から逃亡した。サソリは恍惚とした表情をしたままフィジオの魔力を感じながらも追わずに地に膝をつき祈るような姿勢をした。
「王よ。我が王よ……すぐにでもお迎えに……」
心奪われたサソリはそのまま立ち上がり踵を返して、教会の焼け跡から気を失っている魔族たちを起こして準備を整えるために姿をくらました。
2/6:自我
「……やっちまったな。俺の人間部分が出ちまったせいで……」
そして、数分の静寂の中待っていると奥から丁寧な足を立ててサソリと複数の男と女生一人が入ってくる。男たちはサソリが路地裏で銀色の魔族の細胞を打ち込んだ者たちだった。チャランポランだった者たちはサソリが魔力の制御法を享受し今に至る。女性は頭から布袋をかぶされて腕を縛って動けないようにしている。
「……何度も言うが、俺はここの教祖なんてやらんし、俺から魔族の記憶を呼び起こそうとしても無駄だぜ。この体の混ざり合う前の二人の意識は完全に眠っているからな。」
「わかっていますとも。だから無理にとは言いませんよ……」
サソリは指を鳴らして男たちに女性を殺すように指示を出す。男たちはその身を魔族に変身させて拘束している女性へ迫り首筋に爪を食い込ませていく。
「い、いや、痛い、やめて!」
フィジオはそれを見てもサソリに疑念の目を向けるだけだった。
「……俺が誰でも助けると思うか?そこらへんは割り切っているつもりだ。」
「”つもり”でしょう?」
食い込んだ爪はやがて喉の皮膚を破り始め、女性の声はだんだんと甲高くなっていく。それを目に映すフィジオは瞼をピクリと動かしわずかに動揺する。
「ふふッ…やはりどこまでいっても”人間”ですね。明らかに動揺していますよ?」
「汚ぇ野郎だ。性根が腐りきってやがる。」
「別にあなたが協力したくないのでしたらそれで構いませんよ。私はどうもしません。彼女がどうなるかわかりませんけどね。」
フィジオは怒りが湧いてくるのを理性と冷静さで押さえつける。短く鼻から息を吸って6秒間止める。そして口からゆっくりと時間をかけて吸った息を吐きだす。やがて獣のような怒りが消え、表情の痙攣も止まる。
「おや、これでもダメですか…どうすれば、あなたは我々の元へ戻ってきてくれるんですか。」
「お前が去ることが条件だな。それで幾分か魔族はマシになる。」
「それは、あなたの中の人間の部分が言っているのですか?それとも……」
フィジオは縛られている腕に思い切り力を込めて引きちぎる。それを見てサソリは落ち着いた様子で指を鳴らしフィジオの中の麻痺毒を誘発させる。フィジオは麻痺毒に体をやられて顔面から倒れる。
「てめぇ…どこまで……」
「どこまでもですよ。気持ち悪くしないとあなたは立ち上がるでしょう?……さて、もう一度問います。あなたはどうすれば我々の元へ戻ってきてくれますか?」
何度も間違えられる。人間に。何度も脅される。魔族に。フィジオはその間で苦悩をしているというのに誰も理解してくれない。何度も何度も混乱している。回復状態にある間だからと言っているのに、誰も何も理解してくれない。唯一ストレスなく接することができるのはジュンとチハヤの二人だけだ。麻痺毒に侵されているはずの体を無理くり動かすフィジオは芽生え始めたフィジオ自身の自我で判断し、そして、口を開く。
「人間が、魔族がって……さっきからうるさいんだよ……俺は、ぼ、ボクは、オレはぁ…オレが守りたいと思ったものを守る。だから、これからお前を殺そうとするのは、人間でも魔族でもない……融合体としての殺意だ。」
霊石を握り魔装をする。銀色に煌めく鉄塊はサソリや被害者を襲っている魔族たちへ飛び、フィジオと女性だけの空間を作る。
「魔装戦士……魔装完了……」
白銀の焔はフィジオが守る者たち以外を一切受け入れずに燃やし尽くす。石造りの床も柱もその熱に耐えられず溶解し、形を崩す。フィジオは女性の手を引き、教会を出て踵も返さずに歩き出す。サソリはそれを追って尻尾を伸ばすがフィジオへ届く前に毒針も尻尾も溶けて燃えてなくなる。しかし、その攻撃を受けてもなお、サソリの表情は恍惚としておりまさに希望を見ているようだった。
「……これが、銀色の魔族の王、そして、その魔力……なんと素晴らしい……とても気持ちいいぃ……」
教会が遠ざかっていく中、フィジオは女性の首元へ手をかざし傷を完治させる。そして、魔装を解除して無言で目を合わせて顎を突き出してどこか遠くへ行けと合図する。女性は小声で感謝を伝えながら林から出て行った。
「で、虫男。お前はどこまでついてくる気だ。」
「もちろん、あんたが戻るまでですよ。」
距離こそ離れているが、尾行していたサソリへ言葉を投げる。サソリは溶けた尻尾を投げ捨てながら新しい尻尾を生やす。
「何度でも言おう……」
フィジオはサソリに向かって言い放つ。
「オレはオレが守ると決めた者だけを守る!」
サソリはその言葉を聞き尻尾を突き出しながら襲い掛かってくる。構えるフィジオの背後から誰かがサソリへ攻撃を仕掛ける。紫の槍…星々だった。
「自我を持ち始めているようだね。それはうれしいことだ。」
「…もともと自我はあった。さっきの出来事で自我が確立しただけだ。」
星々は短く納得した返事をするとそのままフィジオの手を引きサソリの前から逃亡した。サソリは恍惚とした表情をしたままフィジオの魔力を感じながらも追わずに地に膝をつき祈るような姿勢をした。
「王よ。我が王よ……すぐにでもお迎えに……」
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