魔装戦士

河鹿 虫圭

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2/8:変身

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すでに回復した体をストレッチしながら俺は帰路につき、さっき助けてもらった男性の方を見たりして歩いている。

「なんだったんだろう。」

助けてくれた男性には申し訳ないが、全く助けられたような感じがしない。クラスメイトを助けて俺から遠ざけたように見える。なぜ、助けてくれなかったのかは分からないが遠ざけてくれたのはありがたいと思った。あのまま暴力を振るわれていたら怒りが爆発して何をするか分からなかった。しかし、最近体の調子が良い。異常なくらいに良い。怪我も病気もすぐに治る。なんなら病気はしない。この調子ならいじめもいつかなくなるだろう。そう思うとなんだかうれしくなってしまい、俺は帰路歩き家が見えてくるとその足は早くなり一瞬で家の前に着いた。

「ただいま~」

玄関を見ると見知らぬ靴が置いてあり、奥で母親と誰かが話す声が聞こえてくる。誰が来ているのだろうと気になりリビングへ向かい顔をのぞかせる。

「あら、糸。おかえりなさい。」

「ただいま…お客さん?」

「えぇ、銀色の使徒の方らしいわ。」

母の対面に座っている人はどこか見覚えのある服を着た男性が笑顔で会釈してくる。俺は会釈を返して部屋に向かった。

「息子さんも帰ってきたようですので、私はこれで。」

去り際に聞こえた男性の声でいつかのことが頭をよぎる。手を掴まれ、何かを注入されたあの時……そうだ。この声、あの時の男の声だ。階段を上がっていた俺はすぐに引き返すが、男はすでに玄関をくぐって家から出て行ったあとだった。俺はそのまま母に近寄って何もされていないか体を触る。

「ちょ、ちょっとなにぃ~?」

「いや、さっきの人に何もされていないかなって……」

「別に何もされてないわよ。ほら、宿題やっちゃいなさい。ご飯の準備するから。」

傷はすぐ消えて元通りになってしまうから刺されたかどうか分からない。と言うか、俺になんともないなら母にもなんともないのか…?

とか、思っていたらその晩にことは起こった。

深夜、うめき声で目が覚める。一階には母の寝室がある。俺は音を立てないようににゆっくりと一階へ降りてうめき声の方へ歩みを進めていく。うめき声がだんだんと近くなっていくとその声が母から発せられているものだと分かりすぐに母の元へと駆け寄る。

「あ”あぁ”あ”……」

「母さん!」

暗がりの中、妙にゴツゴツとした母の手を握りながら母の意識の有無を確認する。母は次第に俺の名前をつぶやきながら手を伸ばしてくる。月明りに母が照らされると思わず息を飲んだ。キラキラと光る手に、人間離れした体。目の前に浮かんできたのは、母の顔ではなく、狼のような蛙のような顔をした銀色の魔族がいた。

「ひぃ……!」

とっさに俺は母を突き放して腰を抜かす。母はそのまま立ち上がり俺の名前をつぶやきながら迫ってくる。

「落ち着いて、母さん。苦しくないか?」

「糸、いと、イと、い、いいいい」

母は壊れた機器のように俺の名前をつぶやきながら迫ってくる母から俺は後ずさりながら距離を置く。やがて人の言葉も発せなくなった母は俺に襲い掛かって来る。部屋を家中をかき乱しながら逃げ回る。

「ア“ア“ア“ア“ア“……!」

いよいよ爪を構えながらこちらへ向かってくる。母だったものは俺を獲物とみているのか、目を血走らせて向かってくる。思わず玄関へ向かって家から出ようとドアノブへ手をかけるとドアが開く。

「な…」

月影に見えたのはあの時の男だった。母だったものはまだ家の中で俺のことを探している様子だった。そんなことは気にせず俺は男へ掴みかかった。

「お前!母さんに何をした!」

「おや、あなたは一週間ほど経っても変身しないようですね……面白い。」

「何も面白くねぇよ!どうしてくれんだ!」

「どうもこうも、あなたも魔族になればいいんですよ。」

「は?」

そういうと、男は俺の頭を鷲掴みにして首筋に何かを注入した。

「あ?あぁ?おまえ、また……」

俺の意識はそこで途切れた。

─────────────

一週間後、ユスリは口枷や手錠をつけた集団を連れて廃坑へ到着した。あまりの多さに他の信者たちは驚いた様子で目を大きく開けていた。廃坑の奥へとつくとサソリが嬉々とした様子で出てくる。

「ユスリさん。お見事です。ここまで信者を増やすとは驚きました。」

「いえ、これも教祖代理がくれた”コレ”のおかげです。」

ユスリはそのままサソリが連れてきた信者たちを吟味して目を見張るものがあったのか一本鎖を手に取り引っ張り出す。ユスリは鎖の先を見て感心したような様子で説明をする。

「さすがです。教祖代理。この者は”コレ”の変貌に耐えて一週間持ったものです。」

「相性が良かったようですねぇ。」

魔力の流れを見てサソリは鎖と口枷などの拘束を解く。そして、写真を一枚取り出して見せる。

「あなた、この者をここへ連れてきなさい。いいですね。」

拘束を解かれた糸は写真を見てやせ細った顔をサソリへ向ける。

「こいつをここに連れてきたら、返してくれるんですか?」

はっきりと喋った糸に対してサソリはさらに驚く。

「ほう、意識まではっきりとしているというのは珍しい。ここまで適合率が高い人間は初めて見ました。」

「質問に答えてください。」

「えぇ、いいでしょう。善処します。」

糸はそのまま無言で踵を返して廃坑を出て行った。その様子を見てサソリはユスリへ再評価をする。

「素晴らしい人材の提供ありがとうございます。これからも頑張ってくださいね。」

「ありがたきお言葉。」

ユスリが出ていくとサソリは残った者たちへ毒針を刺して麻痺させて信者たちへ奥の部屋に連れて行かせた。

「手駒には使えるでしょう。さて、様子を見に行きましょう。」

2/8:変身
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