魔装戦士

河鹿 虫圭

文字の大きさ
61 / 98

2/12:混合

しおりを挟む
水の鎧は心を読む性質を持つ。相対した人の心を読み、動きを読む。晴山優吾はこの能力と相性が悪く、相手の心とそして、感情も読んでしまい相手の過去を垣間見てうまく動けなくなる。そして、そんな水の性質と相性が大変よろしいのは風の鎧である。未来を見る性質が水の性質をいい感じに妨害して相手の心と未来を読んで確実に相手へカウンターを叩き入れたり、逆にこちらから攻撃を仕掛けて未来を変えることも可能である。
雨が分散和音を刻むようにフィジオは二十日の攻撃を一手ずつ躱していく。二十日はその動きに苛立ちどうにかして攻撃を当てようと、風の刃を打ち込む。

「早く、倒れろ!」

「お前こそ、諦めろ。オレはテコでも動かん。」

目で追えない速度の攻防に四夜華は目を凝らして隙を伺う。そんな様子に班員たちは、呆気にとられる。

「結局、バケモンにはバケモンをぶつけりゃいいんだなって……」

「一方は半分人間だけどね。」

「すごいです……」

圧巻しているが、三人は三人で四夜華の動きを見ながら息を整えている。数分続いた風の嘶きは突然止まり、ボロボロになったブロック塀がそこら中に散乱していた。真ん中には馬乗りになったフィジオがいた。四夜華は手を振り下ろして鉄の糸で拘束しようとするが、フィジオはそれを振り向きもせずに止める。

「……どういうつもりだ。」

「オレの中には相手の心に敏感な奴がいてな……そいつはまだ寝ているんだが、お前のここ最近の過去を見てそいつがオレを止めたような気がするんだ。」

「何を言っている?」

「さぁ、何を言ってんだろうな……ただ、でも、お前の過去を見てオレの弱い部分が止めたのは真実で確実だ……こういう時、オレはどうすればいいかわからんが……」

フィジオは瞳を潤ませて目を閉じて再び目を開ける。今まで人でも魔族でもなかったフィジオの顔はうっすらと優吾の顔になっているように見えた。フィジオはそんな表情のまま、語りかける。

「ただ、俺はいつでもお前の味方になれる。だから、今は、俺たちのところに来て心を休ませろ。」

「……俺のことなんか知らないくせに……なんでそんなことが言える……!?」


「俺(の中にいる優吾)はお前みたいなやつを救えなかったからな……今度は手遅れにならないように俺は今、お前に手を伸ばす。」

馬乗りのままフィジオは手を伸ばし、和解の印を結ぼうとする。二十日はその手を見て戸惑う。この手を取れば、確実に自分の命は助かるだろう。だが、母はどうだろうか。ほぼ理性のないバケモノのようになっているが、母親だ。二十日は揺れ動く。手を取り、銀色の虫を裏切るか、手を振り払い、目の前の人間モドキとその仲間と協力して謀反を起こすか……。
迷った末、二十日は協力しようと手を伸ばそうとすると二人の間に第三者の声が聞こえた。

「行けませんね。裏切ろうとするなんて。」

視線を向けるとそこには銀色の使徒現幹部のユスリがいた。四夜華も声を聴くまでは反応もできておらず慌てて捕縛しようと糸を伸ばしたが、ユスリはその糸を蚊のように躱して二十日の肩へ手を置き、タブレット端末を見せる。そこには、理性を失ってうなっている母とサソリがいた。サソリは笑顔で手を振って母に尻尾を突き刺し、二十日の母から一時的に魔族細胞を中和して人間に戻す。

「母さん……!」

二十日の母は訳も分からずだが、画面に映った自分の息子を見て画面に近づく。

「糸…ココどこなの?あなた何に巻き込まれているの?」

「母さんごめんよ。俺、学校でいじめられてて……でも言えなくて……」

「わかってたわよそんなこと。帰ったらお説教だからね。」

「うんうんわかったよ。今すぐに……」

帰るから。と言った瞬間、母の首が飛び画面が鮮血で真っ赤に染まる。二十日は理解が追いつかず、数分そのままの表情で固まった。そして、画面の奥からサソリが顔を出すと笑顔で口を開いた。

「今すぐに、なんでしょうか?帰るなんて言ったら駄目ですよぉ?あなたは我々にとって必要な存在なのですから。」

「な、嘘だろ……」

「私はね、動画作成なんて全くやったことなんてできないので……」

サソリは二十日の母の首をもって二十日に見せつける。

「これは本物ですよ。」

「あ?あぁ?ああああ?!」

二十日は現実を受け入れられないのか、画面を見ながら涙を流すことしかできなくなりそのうち、表情が絶望へ染まっていく。そして、画面に映ったサソリは自分に標的が向かないように責任転嫁をする。

「これは君が悪いんだよ。君がそこにいる人間モドキに心を動かされて裏切ろうとした君のせいだ。母親もきっと天国で君を恨んでいるだろうね。これ以上間違えないようにこんな血なまぐさいことはこれっきりにしてくれ。」

「どうすれば……どうすれば……」

「言っただろう?目の前の青年を連れてきたらいいよ。なんてたって私は教祖だからね。死体を生き返らせることなんて造作もないよ。」

「本当に、本当に生き返らせてくれるんだよな?今度こそ、裏切らないから……」

「あぁ、もちろん。その言葉を聞けただけでも生き返らせてあげようと思ったよ。それじゃ頼んだよ。」

赤い画面が黒くなると消えた画面内に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった自分の顔が映った。それよりも、その顔は完全に魔族になっていた。

2/12:混合
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...