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2/32:終戦
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悲しい。雛鳥は淡々とただ、そう感じていた。記憶に新しいのは自分に地を速く走る足をくれた新しいお母さんがくれた菓子パンの味だ。甘く、柔らかく、おいしいパンの味。しかし、生まれてわずか数カ月、地を速く走れる足をもらって数日。雛鳥は地へ落ちてそして、死んだ。生き物特有の無感情で後悔や懺悔などはそこにはない。
─────────────
雨が上がり、星空が見え始める。天へ掲げた拳には煙が上がっており、小さくたなびく煙の先にはカシオペア座が見えていた。そして、背後からは盛り上がった会場の声が聞こえてくる。
「……落雷さん。勝ったみたいだな。」
優吾は魔装を解除してスタッフルームへと向かう。会場へ入ると上がりきったボルテージが限界を超えてアナウンスもスタッフも観客の制御を手放さざる終えなかった。会場のお祭り騒ぎ具合に優吾は通信機を耳に装着して彩虹寺へ発信するが、いくら待っても通信に応答しない。とりあえず会場に入ってみるかと優吾は会場の両開きのドアを思い切り開くと鼓膜の奥を揺らす声が耳を襲ってくる。耳に響いて数秒してから優吾は慌てて耳をふさぐが人間の血肉はもはや防音の意味がない。優吾は貫通した観客の声を潜り抜けて彩虹寺を探し会場中を歩き回る。歩き回って数分やっと彩虹寺を見つけるが、声は絶対に届かないと直感した優吾はそのままかき分けて彩虹寺の肩へ触れる。彩虹寺はそんな優吾の接触に驚いて振り向くと安堵しながら顔を優吾の耳へ近づけた。
「倒したのか?!」
「ばっちりな!それで、なんで百道さんを取り押さえないんだ?!」
「この盛り上がりよう見れば分かるだろ!?誰もあそこへ行けないんだ!?」
「んじゃ、俺が行く!!」
優吾が叫ぶと彩虹寺は目を見開き首を横に振るが、優吾はそれを見ずにスタッフとしてノックアウトされた百道をリングから降ろすためにだんだんと中心へと向かって降りていき倒れている百道の体へ手を伸ばす。それに気づいた他のスタッフも優吾へ手を貸して百道をリングから降ろした。そこでやっと会場のボルテージは下がり始め、アナウンスやスタッフの指示が通りだした。指示が通りだしたことで優吾は他のメンバーへ通信をして百道を一緒に抱えて裏へと連れて行った。海辺が持っていた検査キットで百道の腕から血を採取してキットにかける。それを見ていた百道のトレーナーは海辺へ殴り掛かる勢いで凄まじい剣幕でまくし立てる。
「誰に許可を得てこんな仕打ちをしているんだ!何が目的だ!何を注入したんだ!」
「……我々は魔法術対策機関です。百道 茜さんに特殊ドーピングの容疑がかけられています。それを確認するために血か尿が必要だったので、採取させてもらいました。」
海辺は冷静に機関の手帳を見せてトレーナーを無理やりに納得させる。不服そうな顔をしているトレーナーと数分待っていると検査キットに陽性の反応が見られる。それを見た海辺はトレーナーへ陽性の結果を見せて百道へ手錠をかける。
「赤い線が一本濃ゆくここに出ているのでこれは陽性の証です。と言うことで、22時ジャスト百道 茜を特殊ドーピングで逮捕します。みんな連れて行こう。」
百道を連れて行こうとした機関の面々をトレーナーは必死に止める。夢か現かの狭間のトレーナーは涙目になりがら懇願するように膝をつき止める。
「ま、待ってくれ、話が追いつかない。彼は今日までドーピングなどという非人道的な行為はしない。彼は真のスポーツマンだ……私が保証する!十数年連れ添ったパートナーだ!だから、彼を連れて行かないでくれ……ここ数年で一番満足した寝顔なんだ……」
「……はぁ……あなたにこの話の発端を聞かせる義務がこちらにはある。ついてきてください。詳しい話は本部でします。」
二班と覇々滝は一班に残るように指示して会場を去った。そのうしろ姿を見ていた優吾は悲しそうな顔をして見送った。
「なんで君がそんな顔を?」
「だってよ~……悲しいだろ?振り向いてくれたライバルにドーピングという答えを出しちゃって負けて……今までの努力も無駄になるような気がしてさ……」
「そんなことはなさそうだぞ……」
指を差す方向には起き上がった百道がトレーナーの手を握って何かを語り掛けているのを見る。その表情は優しく、とても穏やかな顔をしている。途中微笑みその顔を見たトレーナーは安心したようにただそれでもがっかりしたように肩を落として進んでいった。それを見た優吾は少し安心したような表情になり踵を返した。
「俺らも行こう。手伝えることは手伝おうか。」
「あぁ。」
一班はそのまま会場スタッフの手伝いをしながら汗を流し終わった.落雷を発見して無事に百道は連行できたことを報告する。
「そうか…それなら今日からはライバルがいないのか……いつ頃に釈放される?」
「釈放はないかもしれません。ただ、人間には戻します。」
「……そうか、残念だが、そうだな……次戦うときは人間同士でやり合いたいね。」
落雷はそのままスタッフのほうへ向かっていき片付けの手伝いをしに行った。優吾たちも落雷の後を追って会場の片付けの手伝いをし始めた。そんな優吾の背中を見る冷たい視線。雪白 夢希はそこにいる誰にも聞こえない声でつぶやく。
「気に入らない。」
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雨が上がり、星空が見え始める。天へ掲げた拳には煙が上がっており、小さくたなびく煙の先にはカシオペア座が見えていた。そして、背後からは盛り上がった会場の声が聞こえてくる。
「……落雷さん。勝ったみたいだな。」
優吾は魔装を解除してスタッフルームへと向かう。会場へ入ると上がりきったボルテージが限界を超えてアナウンスもスタッフも観客の制御を手放さざる終えなかった。会場のお祭り騒ぎ具合に優吾は通信機を耳に装着して彩虹寺へ発信するが、いくら待っても通信に応答しない。とりあえず会場に入ってみるかと優吾は会場の両開きのドアを思い切り開くと鼓膜の奥を揺らす声が耳を襲ってくる。耳に響いて数秒してから優吾は慌てて耳をふさぐが人間の血肉はもはや防音の意味がない。優吾は貫通した観客の声を潜り抜けて彩虹寺を探し会場中を歩き回る。歩き回って数分やっと彩虹寺を見つけるが、声は絶対に届かないと直感した優吾はそのままかき分けて彩虹寺の肩へ触れる。彩虹寺はそんな優吾の接触に驚いて振り向くと安堵しながら顔を優吾の耳へ近づけた。
「倒したのか?!」
「ばっちりな!それで、なんで百道さんを取り押さえないんだ?!」
「この盛り上がりよう見れば分かるだろ!?誰もあそこへ行けないんだ!?」
「んじゃ、俺が行く!!」
優吾が叫ぶと彩虹寺は目を見開き首を横に振るが、優吾はそれを見ずにスタッフとしてノックアウトされた百道をリングから降ろすためにだんだんと中心へと向かって降りていき倒れている百道の体へ手を伸ばす。それに気づいた他のスタッフも優吾へ手を貸して百道をリングから降ろした。そこでやっと会場のボルテージは下がり始め、アナウンスやスタッフの指示が通りだした。指示が通りだしたことで優吾は他のメンバーへ通信をして百道を一緒に抱えて裏へと連れて行った。海辺が持っていた検査キットで百道の腕から血を採取してキットにかける。それを見ていた百道のトレーナーは海辺へ殴り掛かる勢いで凄まじい剣幕でまくし立てる。
「誰に許可を得てこんな仕打ちをしているんだ!何が目的だ!何を注入したんだ!」
「……我々は魔法術対策機関です。百道 茜さんに特殊ドーピングの容疑がかけられています。それを確認するために血か尿が必要だったので、採取させてもらいました。」
海辺は冷静に機関の手帳を見せてトレーナーを無理やりに納得させる。不服そうな顔をしているトレーナーと数分待っていると検査キットに陽性の反応が見られる。それを見た海辺はトレーナーへ陽性の結果を見せて百道へ手錠をかける。
「赤い線が一本濃ゆくここに出ているのでこれは陽性の証です。と言うことで、22時ジャスト百道 茜を特殊ドーピングで逮捕します。みんな連れて行こう。」
百道を連れて行こうとした機関の面々をトレーナーは必死に止める。夢か現かの狭間のトレーナーは涙目になりがら懇願するように膝をつき止める。
「ま、待ってくれ、話が追いつかない。彼は今日までドーピングなどという非人道的な行為はしない。彼は真のスポーツマンだ……私が保証する!十数年連れ添ったパートナーだ!だから、彼を連れて行かないでくれ……ここ数年で一番満足した寝顔なんだ……」
「……はぁ……あなたにこの話の発端を聞かせる義務がこちらにはある。ついてきてください。詳しい話は本部でします。」
二班と覇々滝は一班に残るように指示して会場を去った。そのうしろ姿を見ていた優吾は悲しそうな顔をして見送った。
「なんで君がそんな顔を?」
「だってよ~……悲しいだろ?振り向いてくれたライバルにドーピングという答えを出しちゃって負けて……今までの努力も無駄になるような気がしてさ……」
「そんなことはなさそうだぞ……」
指を差す方向には起き上がった百道がトレーナーの手を握って何かを語り掛けているのを見る。その表情は優しく、とても穏やかな顔をしている。途中微笑みその顔を見たトレーナーは安心したようにただそれでもがっかりしたように肩を落として進んでいった。それを見た優吾は少し安心したような表情になり踵を返した。
「俺らも行こう。手伝えることは手伝おうか。」
「あぁ。」
一班はそのまま会場スタッフの手伝いをしながら汗を流し終わった.落雷を発見して無事に百道は連行できたことを報告する。
「そうか…それなら今日からはライバルがいないのか……いつ頃に釈放される?」
「釈放はないかもしれません。ただ、人間には戻します。」
「……そうか、残念だが、そうだな……次戦うときは人間同士でやり合いたいね。」
落雷はそのままスタッフのほうへ向かっていき片付けの手伝いをしに行った。優吾たちも落雷の後を追って会場の片付けの手伝いをし始めた。そんな優吾の背中を見る冷たい視線。雪白 夢希はそこにいる誰にも聞こえない声でつぶやく。
「気に入らない。」
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