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来客
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「…随分と懐かしい夢を見たものね。」
まだアルバートと仲の良かった幼少期の夢から覚め、現実に引き戻されたアイリーンは深くため息をつく。
ずっと隣にいるから、そんな約束は何処へやら。
今となってはアルバートはクラリスという男爵令嬢に夢中になり、社交界では婚約破棄目前とまで噂される始末だ。
「アルバートとなら何とかやって行ける、そんな可愛い戯言を言っていた時期もあったわね。」
現実はそう上手くはいかなかった。先代の王、アルバートの父親が流行病で亡くなり、女王クリスティーヌが即位してから国は大きく変わった。
元々腐りきっていた一部貴族達による密輸や脱税、即位したばかりの女王クリスティーヌでは、この抑止力としての役目を充分に果たせなかった。さらに国を襲った流行病と合わせて国債は一気に膨れ上がり、国全体の経済が困窮、自分達の生活を維持したいがために貴族達が脱税諸々に手を染める。最悪の悪循環が完成した。
国全体が苦しくなっていくにつれて、皆が期待を寄せたのは王位継承権1位のアルバートだった。
「アルバート様とアイリーン様なら…!」
「この貧困もアルバート様が成人なさるまで耐え忍べば、何とかして下さるはずだ!」
国民や貴族達から寄せられる期待に、「ありがとう」「任せてくれ」と応えていたアルバート。アルバートに寄せられた期待は私たち2人に向けられるものだから、と重圧に押し潰されないように、彼だけに背負わせないようにしていた。
しかし彼に寄せられたのは純粋な期待だけではなかったようで。私の知らない場所で振り積もった何かによってアルバートの笑顔は段々と曇って行き、しまいには
「お前にはわからないだろ!!!放って置いてくれ!!」
と拒絶された。そう叫んだ彼の顔には出会った頃の輝かしい笑顔の面影なんて微塵も残っていなかった。
そして気づいた頃には彼の隣にはクラリスと、今の自分を肯定するかのように盲目的に彼女に尽くすアルバートの姿があった。
「わからない…そうね。わからないわ。劣等感なんて。感じた事ないもの。…皮肉ね、完璧と言われた私が唯一わからないものがあの時彼を理解する上で一番必要なものだったなんて。」
今となってはどうすることも出来ない。
もうどうでもいい。婚約破棄されるであろうその時を待って、ただ流れに身を任せてしまおう。
この時は本気でそう思っていた。
「お嬢様、お客様がおいでです。」
「こんな夜更けに?全く…。そんな非常識なお方はどなた?」
「こんばんは、アイリーン。久しぶりだね。」
「貴方は…。」
あの新月の夜、私の元へ彼が訪れるまでは。
まだアルバートと仲の良かった幼少期の夢から覚め、現実に引き戻されたアイリーンは深くため息をつく。
ずっと隣にいるから、そんな約束は何処へやら。
今となってはアルバートはクラリスという男爵令嬢に夢中になり、社交界では婚約破棄目前とまで噂される始末だ。
「アルバートとなら何とかやって行ける、そんな可愛い戯言を言っていた時期もあったわね。」
現実はそう上手くはいかなかった。先代の王、アルバートの父親が流行病で亡くなり、女王クリスティーヌが即位してから国は大きく変わった。
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国全体が苦しくなっていくにつれて、皆が期待を寄せたのは王位継承権1位のアルバートだった。
「アルバート様とアイリーン様なら…!」
「この貧困もアルバート様が成人なさるまで耐え忍べば、何とかして下さるはずだ!」
国民や貴族達から寄せられる期待に、「ありがとう」「任せてくれ」と応えていたアルバート。アルバートに寄せられた期待は私たち2人に向けられるものだから、と重圧に押し潰されないように、彼だけに背負わせないようにしていた。
しかし彼に寄せられたのは純粋な期待だけではなかったようで。私の知らない場所で振り積もった何かによってアルバートの笑顔は段々と曇って行き、しまいには
「お前にはわからないだろ!!!放って置いてくれ!!」
と拒絶された。そう叫んだ彼の顔には出会った頃の輝かしい笑顔の面影なんて微塵も残っていなかった。
そして気づいた頃には彼の隣にはクラリスと、今の自分を肯定するかのように盲目的に彼女に尽くすアルバートの姿があった。
「わからない…そうね。わからないわ。劣等感なんて。感じた事ないもの。…皮肉ね、完璧と言われた私が唯一わからないものがあの時彼を理解する上で一番必要なものだったなんて。」
今となってはどうすることも出来ない。
もうどうでもいい。婚約破棄されるであろうその時を待って、ただ流れに身を任せてしまおう。
この時は本気でそう思っていた。
「お嬢様、お客様がおいでです。」
「こんな夜更けに?全く…。そんな非常識なお方はどなた?」
「こんばんは、アイリーン。久しぶりだね。」
「貴方は…。」
あの新月の夜、私の元へ彼が訪れるまでは。
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