エインテ デュール

はついち

文字の大きさ
2 / 6

ソレとアレと彼

しおりを挟む


ギャァギャァと、カラスの鳴き声がし始め枯葉を踏みしめる音がよく響いた。

「もう、帰らない?」
「はぁ?ここまできてそれはないだろ?」

進むたびに枝の割れる音が響く
メトロ、ヤト、リリアン、ミーヤの四人は村の近くにある雑木林の中を進んでいた。
夜は、魔物が出る。そう村の人達は言って日が暮れると外には出してくれない。でも今日は客人が来るとかで、村の外れにある宿屋に大人は集まっていた。
それを聞いたメトロは、これはチャンスだとばかりに、大人がいては出来ない夜の肝試しを計画したのが始まりだった。

メトロは村のリーダー的な存在で皆をよく引っ張って行き、ヤトは物知りで好奇心が強くメトロの企みによく乗っていた。
リリアンは、みんなが大好きで中思いだが引っ込み思案な所があるためみんなの後ろをついて行くのをミーヤは、そんなリリアンの手をよく引いて元気で明るくみんなのまとめ役をしている。
とても仲良しな4人組だ。



風が吹き木々が音を立てる。その音は余計に恐怖心を煽るように響く。

 
「メトロ!」
「なんだようるせぇな、ヤト!」
「どうしよう、ミーヤが、居なくなった…」
「はぁ!?勝手に帰りやがったのか!?」

さっきまで隣にいたミーヤが居なくなっていた。リリアンは、ふと歩いてきた道を振り返ってみると

「ね、あれ」
「あ?なんだよリリアン!」
「あそこに黒い影あるの」

指を指す方向には木に寄りかかって座るように見える影があった。

「ミーヤ!なにしてるの、びっくりするじゃんか」
「なにコソコソやって脅かしたつもりかよ!」

二人は影に向かって走り出す、

「まって…!」

足の遅いリリアンは、先に走り出した二人の背中を追いかけるようにしてミーヤの元に駆け寄った。

先に着いた二人が石のように固まっている。息を切らせながらミーヤの元につき、どうしたの?と聞くが二人は固まって呼吸すら出来てないようだった。
間からのぞくとミーヤがいた。正確には下半身が、綺麗に、無くなって、死んでる、ミーヤが。
冷たい風がチリチリと肌をかすめる。時が止まったように流れる時間は叫び声と共に動き出した。

「な、なんだよ、コレ」
「ミーヤ、なんで、いや、そんな事より、逃げないと…!」
「おい待てよ!」

村に帰ろうとヤトが走り出そうとした時、何かが目の前を通った。一瞬でヤトの上半身を食いちぎりながら。
どちゃ、と力なくヤトの下半身が倒れるのをただ、見つめる事しかできなかった。

「は……ひ………」

メトロの喉からは悲鳴になりきれなかったものが口から出て行く。体は釘が打ち付けてあるみたいにその場から動けなくなってしまっていた。

周りからは異様な視線が感じられる。それは無数で一歩でも動こうものなら五体満足では居られないと訴えかけてるようだった。
リリアンが静寂という圧力に耐えきれなくなり、後ろに少し下がった時枯れ枝を踏んでしまったらしくバキリと枝が鳴り、風船の様に膨らんだ緊張が一気に割れた。

「ああああ!!!」
言葉という言葉でない言葉を叫びながらメトロは走り出してしまった。
同時にメトロを追うように黒い影が追う。
リリアンは反射的に彼らを追いかける。助けなきゃ、大切な友達を、助けなきゃ、見たくない、あんな姿なんて…そう思いながら
脳裏に浮かぶのは先ほどの友人達
黒い影はメトロに迫っていく
どんどん、どんどん
メトロが縋り付くように泣きながら叫んでいる。嗚咽と悲鳴に近い言葉で目の前のソレを追い払おうと。
それでも、ソレは迫っていく、大きな口を開けて
どんどん   どんどん

息を切らしながらリリアンは、ソレからメトロを隠すように立ち
ソレと目を合わせる

助けたい、助けなきゃ、

ーーなんで?

疑問がうまれた
生まれてしまった

ーー助けられるわけがない、だって…ワタシは、正義の味方でも、優れた運動神経もない
こわい
こわい、こわい
どうすることもできない
死にたくない、死ぬのは、嫌
助ける?どうやって?死にたくない?どうして?死は恐怖これは、恐怖、メトロを死なせたくない?なんで?四肢がバラバラになるのは見たくない?逃げる?逃げれない?だってソレはもう目の前に、目の前で、足が震えて、声も出なくて、背中を強く押された気がして、え、メトロの走る姿が見えて?私は、ワタシは……?

そう考えているうちにソレがリリアンの腕の肉が引き裂いていく、悲鳴が頭に響く
どくん、どくん
ーー行かないで、こわい、
置いていかないで
死にたく、ない、
死は無でこわくて


パキ……

パキ

真白な頭で叫ぶ
ーーこわい、こわい
死にたく、ないよ
死にたくない……
まだ、まだ生きていたい…!

パキ、ンーー

ソレを腕から剥がそうとぐっと、手に力を込めるとハサミで紙を切ったような感触が伝わった
同時にずる、ずるとソレが倒れていく
何が起こったのかわからない
それでも今は鉛のような体を動かしてでも逃げれなきゃ
ズルズルと重い体を引きずって
ぼんやりとしている視界の隅にメトロがうつり、良かった、と胸を下す

ずる、ずる

彼女は思う
ワタシを囮にして逃げたメトロだが、だって、それはきっと正しい選択なのだ
生き物として本能として生きようとする必死の行動だったのだ、と

ずる、ずる

彼に近づいていく
彼と目が合った
その顔は、とても、再開を喜んで
いない
顔から血の気がひいて、青ざめていた。
恐怖と恐怖と怖さと困惑
そんな感情の顔をして
ガクガク、と体が震えている
彼の目は私の顔と両脇を見るかのように三角にぐるぐるしている

「はやく、逃げよう」

手を差し出そうとするけれど重い
重くて上がらない

ぐるぐるさせていたメトロはガチガチ、と歯を鳴らしながら声を絞り出すように言う

「な、は、なんだよ、なんだよそれ

なんだよその手!!!!」

「て……?」

ゆっくりと首を向ける

手が重いのは、さっき爪を立てられたせいだと
そう、勝手に思っていた

「………え」

リリアンの両腕にはそれは、それはとても大きな機械のような手が付いていた
なにこれ、なにこれ…
少し動かすだけでガチャ、ガチャと鉄が擦れるような音がする
知恵の輪を解くように乱暴に動かすがピッタリと腕にくっついていて外れそうにない

不安が押し寄せる
ーー私は一体、なんで、こんな事に?
どうして?
不安で、不安で、藁にも縋る思いでメトロを見る

「メトロ、」

「やめろ、来るな!なんなんだよ、なんなんだよお前!!殺しに来たのか!?お前をあいつに突き出したから!」

「違う、違うの、私はただ」

弱々しく頭を横に振る
ただ、会いたかった、生きている事を喜びあいたかった

「なんなんだ!なんなんだよ…」

メトロは髪をかき上げながらあとずさる。

無意味な言葉の投げ合いしか出来なかった。

「はやくここから出よう……?帰ろうよ…帰ろうメトロ……」

帰りたい、ただそれだけ
メトロに近づく
夢かもしれない
ここから出たらすべて霧のいたずらだったって
そう思いたい

「くるな!!!来るなよ!!

お前はリリアンじゃない!!!人なんかじゃないな!バケモノめ!!」

しっかりとリリアンを見ながら、しかし、彼女を見る目はとても険しかった。

ーーばけもの?違う、違うよ

そう、言いたかった
否定したかった。

ーーワタシは、ばけもので、ばけものじゃなくて、それでも、違くて、違うの
ドクドクと心臓が早くなる
口を開くも言葉が出てこなかった
 
その時、2人を飲み込むように影ができる

「ヒッ……」

メトロが小さく悲鳴をあげる
見ているのはリリアンではなく、その後ろだった。
後ろには傷ついたさっきのソレが、向かってくる

守らないと
誰を?
彼を?
自分を?

多分
全部、守りたい

気がつくとソレを掴んでいた
ギリギリと離さないように
強く、強く
消えて、消えて
強く思う
ーーお願い、これ以上ワタシをバケモノにしないで

グッと力を入れるとそれはバラバラと崩れていった


荒くなった呼吸を落ち着かせようとゆっくり深呼吸をする

「やっぱり、バケモノじゃねぇか……」

後ろから声が聞こえる
振り返るのがとても怖くて
走り去る音だけを背中で聞いていた

彼女はその場にへたりと膝をつきまだ、震える唇をギュッと噛み締めた
風で木々が揺れ、ざぁざぁと、音を立てている
その音に混じってうめき声が聞こえてきた
それは、ソレの残骸から聞こえてきたような
リリアンは顔を向けると、散り散りになったそれはまるで磁石を追う砂鉄のように一つの場所に集まり始めた

彼女は、何もせずにソレをただ見続けている事しか出来なかった。逃げようという気力さえ今の彼女には出来なかった
黒い塊がソレに近付く頃

ガサッと落ち葉を踏む音が聞こえた。
メトロが、戻ってきてくれた?そう思い、こわばった姿勢でゆっくりと足音の方に首を向ける
そこに居たのは
メトロではなく
黒いソレでもなく
そこにいたのは、知らない人だった
だが、魅入ってしまった。
薄紫色の髪が月の光に当てられキラキラと輝いていている。それは、そう、神様のような

その人はスタスタと黒い塊に近付き躊躇いなく背負っていた剣を抜きソレを真っ二つに切る
切られたソレは黒い粒子となって空気と同化していった

その人が振り返り目が合う

「お前が此処まで弱られたの?」

幼くも大人でもないその中間の声でその人は言う
直球なその言葉にリリアンは俯くことしか出来なかった。

彼は肩をそらせて真っ直ぐ立つと

「ありがと、おかげで俺の仕事が楽になったよ」

と晴れやかに言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...